人を動かすには「見た目」にも徹底してこだわろう

鈴木貴子,エステー社長,コミュニケーションの習慣
(写真=The 21 online/鈴木貴子(エステー社長))

日用品とは別の業界でキャリアを積んだのち、2013年に父が創業したエステーの社長に就任した鈴木貴子氏。就任1年目から経営改革に取り組み、売上げ至上主義から利益志向体質への転換を成し遂げた。鈴木氏はなぜ、短期間で社員を動かし、組織を変えることができたのか。それを可能にしたコミュニケーションの習慣に迫った。

笑顔、姿勢、白のスーツで親近感を生み出す

叔父である現会長(鈴木喬氏)からエステーを託されて4年。鈴木貴子氏は、高収益体制の基盤作り、利益志向経営への転換などの経営改革を推し進めながら、増収増益を達成してきた。創業者の娘とはいえ、異業界でキャリアを積んできた鈴木氏は、本人も認めるとおり、「外から来た人間」。そこで、社長就任までの3カ月間で最初に取り組んだのが、「この人についていきたいと思わせるビジュアル改造だった」と明かす。

「仕事ができる人はどんな人かと考えてみると、人を動かすことのできる人だと思います。言い換えれば、良い意味で『人たらし』であることが大事だと思うのです。そのためには話す内容などももちろん大事ですが、『見た目』も重要。そこで、どのようなビジュアルの人が信頼されるのかを考えました」

参考にしたのは、海外のCEOや大統領などのパブリックスピーチだ。

「スティーブ・ジョブズやヒラリー・クリントンなど、いろいろな方のパブリックスピーチをYouTubeで山のように見ました。そこで気づいたのは、見る人に安心感を与える要素として、姿勢やジェスチャー、声の大きさやトーンがとても重要だということです」

中でもとくに重要だと考えたのが「姿勢」。今からは想像しにくいが、「社長になる前は姿勢が悪く、声もこもり気味だった」とは本人の弁。

「そこで、パーソナルトレーナーについてジムで体幹を鍛えたり、ピラティスに取り組んだりしました。姿勢が良くなれば、声の張りや目力も自然と生まれます。あとは、オーディエンスの一人ひとりに目線を合わせるように心がけるだけで、安心感を与える話し方ができるようになりました」

鈴木氏のビジュアルのこだわりはこれだけではない。公の場で見る鈴木氏は、いつも白いスーツ姿だ。実はこれにも理由があるという。

「日用品メーカーの社長として注意すべきことをイメージコンサルタントの方にお聞きしたら、『一にも二にも清潔感』とアドバイスをいただきました。清潔感を出すには白だと思ったのです。

また、白にはもう1つ利点があります。ビジネスシーンでは、全身が白の人はほとんどいないので、たとえば業界の会合に参加すると、かなり目立つのです。しかも、私はできるだけ前列の真ん中に座るので、イヤでも目について、『あ、鈴木社長が来てるな』と気づいてもらえます。これも『人たらし』の1つの手法なんです(笑)」

自分のキャラクターに合ったブランドを確立することがポイントだと鈴木氏は話す。

「私の場合は、白と姿勢、そして『笑顔』だと思っています。これによって、赤ちゃんや犬にも警戒されない、誰からも親しまれる社長になれるように心がけています」

価値観が浸透するまで何度でも言い続ける

組織を動かすためのコミュニケーションにも、鈴木氏ならではの習慣がある。とくに心がけているのが「繰り返し話す」ということだ。

「社長就任後に最も力を入れたのは、組織の方針や価値観を社内に浸透させること。それらを端的なキーワードに落とし込み、何度も繰り返し言い続けることを心がけています。

たとえば価値観に関しては、私が社長に就任してから行動規範を制定しました。これは創業当初から脈々と培われてきた価値観を明文化したものです。主な内容を紹介すると、『仕事の優先順位を決めて、新しい挑戦・創出』『挑戦する人を応援し、結果が出れば賞賛する』などです。ここで出てくるキーワードを、毎月1回の朝礼や、半期に1度の全体会議でのスピーチに必ず取り入れるようにしています」

繰り返し伝えることは重要だが、それだけで社員の習慣まで変えるのは難しいとも指摘する。

「行動規範を本気で浸透させるには、それを『評価』と連動させることが重要です。評価も行動規範を基準にするという姿勢を見せなければ、人の意識はなかなか変わりません。たとえば社長賞では、行動規範をいかに実践したかを最大の評価基準にしています」

社長就任後、急速に組織を変えていったイメージがある鈴木氏だが、実際には価値観の浸透を待ってから、じわじわと組織変革に着手していったという。

「いくら組織の形を変えても、価値観が共有されていなければ、形だけになってしまうからです。

たとえば私たちは今、さらなる成長を目指して、『ONEエステー』という新たな方針を掲げています。その一環として、これまでバラバラに動いていた国内営業と海外営業を統合し、国内営業での成功事例を海外営業にも水平展開しやすい体制に改めました。非常に大きな変更ではありますが、ここに至るまで、会社が目指す方向や、それに対する私自身の強い想いや価値観をくり返し社員に語り続けてきました。だから今回の変更に関しても、『この部分を社長は変えたがっているだろうな』と、皆うすうす感じとってくれていたのではないかと思います」

良い結果が出たら社員を労い褒めまくる

社長の方針に沿って組織が動き、結果が出たら、その結果を社員と共有する。これも鈴木氏の社内コミュニケーションにおけるこだわりだ。

「結果を共有する仕組みとして、2年前から自らが行う『社内決算説明会』を始めました。これは単なる財務会計の報告ではなく、数字の裏にある活動を分析し、計画を達成した、あるいは未達だった理由を社内で共有するためのものです。それによって社員が自分たちの貢献を実感することが、とても重要なことだと思っています。

さらに、自社の決算だけでなく、日本全体や日用品業界、流通業界の状況についても私が説明します。『今期が黒字でも、3年先、5年先のためには、まだ努力すべきことがあるよね』と。こういったことを、新入社員でも理解できる言葉で伝えています」

良い結果に対しては、徹底的に褒めまくる。これも、鈴木氏が大事にしている習慣だ。鈴木氏の笑顔は、社員を労い、褒めるためのものでもある。

「当社の社員は会社と仲間が好きで、自分たちの企業文化や理念に誇りを持っています。それはとても素晴らしいこと。それに対して、私から社員の皆へ感謝の言葉をてらいなく口に出して伝える。これがとても大事だと思っています」

鈴木貴子(すずき・たかこ)エステー〔株〕取締役兼代表執行役社長(COO)
1962年、東京都生まれ。84年、上智大学外国語学部イスパニア語学科を卒業後、日産自動車〔株〕に入社。中南米エリアのマーケティング業務を担当する。その後、LVJ(ルイ・ヴィトン・ジャパン)グループ〔株〕などを経て、2010年1月にエステー〔株〕に入社。同年4月に執行役、11年に取締役に就任。13年より現職。(取材・構成:前田はるみ 写真撮影:永井浩)(『 The 21 online 』2017年5月号より)

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