世界最大規模のMMF「余額宝」が注目されている。余額宝は今年、月平均10%のペースで資産を伸ばし、すでに招商銀行を上回る。さらに国有四大銀行に迫る勢いに、当局は注視しているという内容である。このところ中国のネットニュースで余額宝の名を見ない日はない。なぜこうも一身に話題を集めているのだろうか。Webニュースサイト「今日頭条」の記事から検証していこう。

アリババ、アント・フィナンシャル、余額宝の関係

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(写真=PIXTA)

中国のネット通販最大手、アリババ集団(淘宝網や天猫を運営)は、その初期発展過程において、売り手と買い手の信用をつなぐ資金プールを開設した。それは同社発展の要となった。現在日本ではメルカリの利用している方式である。

やがてその資金プールはアント・フィナンシャルというグループ会社に移管され、そこでアリペイ(支付宝)という第三方支付平台(モバイル決済)へと発展した。そして現在アリペイは国内モバイル決済シェアの過半を握っている。

さらに支付宝に預けている資金は、いつでもいくらでも「余額宝」というMMFへ資金移動できるようにした。これは簡単なスマホ操作で可能だ。そうすれば利息を得られる。銀行定期のように金額や預入れ期間の制約はない上、利率も高い(年率換算4.1780%、7月4日現在)。その利便性と高い利率によって爆発的な拡大を続けているのだ。

国有四大銀行に迫る

余額宝は天弘余額宝貨幣という別会社で運用している。上半期を締めくくる6月30日の資産規模は、1兆4318億500万元(23兆8000億円)に拡大した。3月段階では1兆1400億元だったが、そのあまりの拡大ぶりに、5月には政府が投資上限額の引下げ要請をしたと伝えられた。

今回の記事で比較されたのは銀行の個人普通預金である。小見出しには「余額宝、招商銀行を秒殺!」とある。招商銀行は中国の先進的リテールバンクで、預金集めは最も得意とするところだ。その招商銀行の2016年末個人普通預金合計は9516億1500万元である。完全に追い抜かれている。さらに国有四大銀行にも迫っているのだ。

個人普通預金ナンバーワンは中国農業銀行で、4兆2318億8800万元、以下中国工商銀行ー3兆4405億8100万元、中国建設銀行ー2兆9861億900万元、中国銀行ー1兆6329億8900億元と続いている。今の勢いなら最下位の中国銀行に追いつくのは時間の問題だ。なお7月の四大国有銀行の1年定期預金の利率は1.75%、普通預金は0.3%で横並びある。

ローリスク、ハイリターン

こうした利便性と利回りの差以外に、記事は余額宝の急拡大について外部と内部の要因を一つずつ挙げている。

外部要因ー余額宝は強大で有名なアリババ帝国内にいる有利さを生かし、ネット時代の便利な金融商品の需要をうまく先取りできた。また金融政策は引き締め気味で、一般大衆の株や不動産などの投資熱は衰えている。その結果、貯蓄型投資商品への需要を取り込めた。

内部要因ー余額宝の資金運用は、株式などハイリスク商品には向けず、国債や銀行定期など固定収入資産への投資が中心だ。そしてローリスクを訴求しながら、ハイリターンの期待(アリババのイメージ)を抱かせる方向へ導くのに成功している。

今年に入り、管理監督当局は、MMFの流動性を保つ方向で指導を強化している。余額宝においては個人投資家の上限を100万元から25万元に制限するもようだ。5月には50万元に引き下げると伝えられたばかりだが、さらに半分に制限を加えて余額宝への集中を排除する。その上で次の一手が出るかどうかが当面の注目点だ。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)