トランプ大統領は、2016年3月、衝撃的な発言をした。『ニューヨーク・タイムズ』紙のインタビューで「自分が大統領に就任した場合、日本と韓国の核保有を排除しない」と述べたのだ。この発言の趣意は、「日本と韓国は、北朝鮮と中国の脅威を防ぐために、自国で核兵器を持ってもいいではないか、アメリカの軍事力に依存するな」ということである。

(本記事は、大村 大次郎氏著『 お金の流れでわかる日米関係 元国税調査官が「抜き差しならない関係」にガサ入れ 』KADOKAWA (2017/6/1)の中から一部を抜粋・編集しています)

この発言があったのは、大統領選の共和党の指名争いの最中である。トランプ大統領としては、アメリカ国民の支持を得たいと思っての発言であることには間違いない。そして、トランプ氏は実際に、アメリカ国民に支持されて大統領となった。逆にいえば、アメリカ国民の一定の部分はトランプ氏の発言を支持しているのであり、つまりは、トランプ氏の発言はアメリカ国民(の一定の部分)の意思を代弁しているともいえる。

日本が核を保有すればアメリカ経済は破綻する

大村大次郎,税,日米関係
(画像=Webサイトより)

現在、アメリカは世界中に軍を派遣し、「世界の警察官」の役割を担っている。もちろんそれには、莫大な軍事費を必要とする。アメリカ国民の多くはこの軍事費を無駄だと考えており、「無駄な軍事費を削って、もっと国民のためにお金を使うべきだ」、もしくは「税金を安くすべきだ」と考えているのだ。そのためトランプ大統領は、日本や韓国と結んでいる「安全保障条約」をたびたび攻撃してきた。

「アメリカは日本や韓国を守る義務を負っており、多額の駐留経費を支出している。日本や韓国はもっと経費を負担すべきだ」
「在日アメリカ軍は撤退してもいい」

というような発言も行ってきた。日本でも、在日米軍の縮小や撤退を要求する声は、けっこう大きい。アメリカ国民も日本国民も、在日米軍やアメリカの核の傘を歓迎していないのだから、撤退すればいいではないか、と思う人も多いだろう。

もちろん、両国民が望むのであれば、そういう選択肢があってもいいと思われる。しかし、もしアメリカ軍が日本から撤退したり、日本が核兵器を保有したりすれば、世界経済、国際情勢に多大な影響が及ぼされるということは、知っておかなければならない。特に経済面においては、世界経済秩序が破壊されてしまうほどの衝撃が起こるはずである。

「なぜアメリカ軍が撤退すれば、世界の経済秩序が壊れるのか?」と疑問に思う人も多いだろう。その疑問を紐解いていきたい。

在日アメリカ軍の"経費"と"儲け"

アメリカ軍と世界経済の関係を述べる前に、まず現在、アメリカは日本の安全保障のために、どのくらいの負担をしているのかをざっくりと計算してみたい。

在日アメリカ軍は、約3万6000人、東アジア地域に派遣されたアメリカ海軍の人員は約1万4000人。合計約5万人が、日本周辺に派遣されている。

アメリカ国防省の予算から見ると、アメリカ軍の日本への駐留経費は、約55億ドル、日本円にして6000億円弱とされている。

アメリカ軍の日本への「貢献費」

だが、このアメリカ軍が算出した経費は、駐留費だけであり、空母や軍用機などの調達費までは含まれていない。それらを含めると、アメリカ軍の日本駐留経費は、少なくとも年間1兆円以上はかかっているとみられる。

それに対して日本政府は、アメリカ軍に対し、さまざまな経費項目で毎年5000億円前後を支出しているとされている。

アメリカは、差し引き5000億円のマイナスということになる。

しかも、これは表向きの軍派遣の経費だけである。

アメリカは核兵器によって威嚇することで、世界中ににらみを利かせており、その核の傘の中に日本も入っている。好む好まざるにかかわらず、アメリカによる核威嚇で、日本も守られている事実があるのだ。

その効果を含めると、アメリカは日本のために純額1兆円前後の軍事負担をしているともいえるだろう。

これを見ると、確かにアメリカの負担は大きい。

日本はアメリカの軍事力に「ただ乗りしている」という見方も当たっていなくはない。

だから、トランプの「在日米軍を撤退させる」「日本は勝手に核兵器を持てばいい」という発言も理解できないものではないだろう。

だが、ここには抜けてしまっている視点がある。実は、アメリカは、日本や韓国をはじめ、世界中に軍を駐留させることで、表には出てこない莫大な利益を享受しているのだ。

大村大次郎(おおむら・おおじろう)
元国税調査官。国税局に10年間、主に法人税担当調査官として勤務。退職後、ビジネス関連を中心としたフリーライターとなる。単行本執筆、雑誌寄稿、ラジオ出演、『マルサ!!』(フジテレビ)や『ナサケの女』(テレビ朝日)の監修等で活躍している。ベストセラーとなった『あらゆる領収書は経費で落とせる』をはじめ、税金・会計関連の著書多数。一方、学生のころよりお金や経済の歴史を研究し、別のペンネームでこれまでに30冊を超える著作を発表している。