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こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

「ドルの失墜」などと言われるようになって久しいですが、以前と比べて米ドルの立場が弱まっているとは言え、基軸通貨としての役割を果たし続けています。では、何故この状況が続いているのでしょうか。今回は、基軸通貨が持つ3つの機能(①価値基準、②決済手段、③価値保蔵)を説明した上で、基軸通貨となりうる通貨が登場しても、容易に基軸通貨を切り替えられないロックインの現象がある事により基軸通貨の地位が簡単に揺るがず、少しずつしかドルの地位は落ちない事を説明します。


基軸通貨としての米ドル

図1は、通貨別の売買高の世界シェアを表わしています。売買のシェアの合計なので、全部で200%のうち、2013年4月時点では米ドル(USD)は87.0%と半分近くを占めています。勿論、これは為替取引のシェアなので為替投資などの売買も含んでいますが、ドル建てで貿易をして最後に自国の通貨に交換する行為も高いシェアの要因になっています。

一方で、相対的に見て信認の高いユーロ(EUR)、日本円(JPY)、ポンド(GBP)、オーストラリアドル(AUD)は、33.4%、23.0%、11.8%、8.6%で4通貨を合わせて76.8%であり、やっと米ドルに届くかといったところです。

通貨別の売買高の世界シェア

図1:通貨別の売買高の世界シェア(2010年と2013年)

出典:BANK FOR INTERNATIONAL SETTLEMENTS, “ Triennial Central Bank Survey of foreign exchange and derivatives market activity in 2013 ”, 2013, Graph 1.

実際、貿易においても米ドル建ての決済は多いです。例えば、下図2と3は、それぞれ日本の実質実効為替レート指数(指数が高いほど円高)と日本の輸出における決済通貨のシェアを示しています。これによると、円高になると円建て決済を増やしたりユーロ建て決済を減らしたりといった貿易における為替戦略が垣間見えますが、米ドル建て決済に関しては、あまり為替レートの関係は見られないようです。

実質実効為替レート指数

日本からの輸出における決済通貨のシェア

図2・3:実質実効為替レート指数と日本からの輸出における決済通貨のシェア

出典:輸出における決済通貨シェアは 「貿易取引通貨別比率」(税関) 、実質実効為替レート指数は “BIS effective exchange rate indices“(国際決済銀行)
注1:いずれも左軸は決済通貨のシェア(%)、右軸は実質実効為替レート指数
注2:実質実効為替レート指数は、上半期は1-6月の指数の単純平均、下半期は7-12月の指数の単純平均で表示している。

実際、下図4の日本からの輸出における決済通貨のシェアと実質実効為替レートの相関関係を見ても、実質実効為替レートと米ドル建て輸出には殆ど関係がありません。輸出における決済ですから、日本が対価を受け取る側なのですが、為替レートに限らずドルで受け取る割合が恒常的に高いという傾向がある事が分かります。これは、特に米ドルが好まれる傾向を示していると考えられます。

実質実効為替レート指数と決済通貨シェアの相関係数

図4:実質実効為替レート指数と決済通貨シェアの相関係数

出典:同上より筆者作成

注:相関係数は-1から1で表し、プラスの場合は「一方の値が大きく(小さく)なれば、もう一方も大きく(小さく)なる関係」を示し、マイナスの場合は「一方の値が大きく(小さく)なれば、もう一方は小さく(大きく)なる関係」を示します。相関係数(R)と相関の程度の関係は、一般的に、「|R| ≧ 0.7 ⇔ 強い相関」、「0.7 > |R| ≧ 0.3 ⇔ 弱い相関」、「0.3 > |R| ⇔ 無相関」と解釈されます。では、米国が基軸通貨としての地位を未だに高く維持している事が分かったところで、基軸通貨の機能を見ていきましょう。


基軸通貨が持つ3つの機能

冒頭でも述べた通り、基軸通貨が持つべき3つの機能を簡単に整理すると、

  1. 価値基準
  2. 決済手段
  3. 価値保蔵

となります。これは、そのまま「通貨の機能」でもありますが、特にこの3機能が他の通貨と比べて優れているという「実態」と「信用」が必要です。では、これらの機能の意味を説明しましょう。


各機能の解説

【価値基準】

まず、財やサービスの価値を表す時の基準として基軸通貨が使われます。この意味を厳密に説明すると、貨幣論の複雑な議論が必要になるので簡単に説明します。「財・サービスの価値がどれほどか」と考えた時、絶対的な価値があるわけではなく、それは様々な財・サービスと比較した時の相対的な価値になります。そして、その価値表示方法にも、「◯◯ドル」や「△△円」、果ては「リンゴ■個分」まで無数にあるわけですが、統一されていなければ価値の把握が複雑ですし、意思疎通も困難になります。なので、統一的な基準で価値を把握する事で、利便性が高まります。

日本の場合は、「日本円ベース」や「米ドルベース」で表示する事が多いでしょう。それだけ両通貨レートの相対的な価値が日本で知られているからです。また、米ドルの価値は世界中で広く知られており、国際間で価値基準を見る場合は、米ドルが基準になる事がもっと増えます。

【決済手段】

決済手段は、その名の通り「支払いに使われる通貨」の事で、前述の貿易における決済通貨のシェアでも分かる通り、為替レートに限らず米ドル決済が安定しているというのは、米ドルの地位が極めて高い証拠です。意味としては、これ以上説明する事は特に有りませんが、基軸通貨かどうかを判別する最も重要な機能であることは補足しておきましょう。

【価値保蔵】

資産を保持する場合に、どのような形態で保有するでしょうか。別にリンゴで資産を持っても構わないのですが、リンゴの場合は直ぐに劣化して価値が失われてしまうので、普通は選ばれません。通貨の場合もこれと同じで、価値が不安定な通貨で保有する事は敬遠されがちです。決済等で米ドルが好まれるのは、通貨価値が安定しているからであり、信用が低い通貨は基軸通貨としての条件を満たしていません。その意味で、価値が保蔵されれば通貨でなくとも良いという事で、嘗ては金本位制などといったシステムも存在したのです。


米ドルにかかるロックイン

これらの3機能から考えれば、ユーロや円も十分に要件を満たしているように見えます。しかし、米ドルに比べれば圧倒的にシェアが低く、基軸通貨とは言い難い状態です。この理由の一つに、米ドルが基軸通貨として使う事に慣れており、他に優れたものがあっても簡単には基軸通貨を変更しないという人の習慣が関係します。これをロックインと言います。

例えば、国際統計を見たり分析を行ったりする時に、ユーロを基準にしてはならない道理はありませんが、それを変えると分かり難いなどの不都合があります。日本の統計なら大抵は日本円か米ドルベースで表示されていますが、突然ユーロベースになると、きっと不便でしょう。これは、価値基準においてロックインがかかっている状態です。

このロックインは、価値保蔵や決済手段にも影響します。米ドルベースでの支払いや資産を続けている中、急にユーロに変えるとなると、不都合を感じる人は多いと思われます。勿論、分散投資の観点から通貨を分散させるという事は行われていますが、米ドル中心である事には変わりがありません。このように、いったん米ドルが基軸通貨としての地位を持ってしまうと、なかなかその地位が揺るがないという傾向があり、その傾向は基軸通貨の機能が生み出していると言えるのです。

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