つい言いがちな「言葉の誤用」を防ごう!

敬語の使い方,コミュニケーション
(写真=The 21 online)

普段、何気なく使っていて、決して間違いではないけれど、本来、ビジネスシーンではふさわしくない言葉がある。言葉は大切なコミュニケーション手段の一つ。『 誰とでも仲良くなれる敬語の使い方 』著者の松岡友子氏に、正しい言葉の使い方をうかがった。

よく使われる言葉が“正しい”とは限らない

言葉は時代とともに変わりゆくもので、世代間で言葉の常識が異なることはよくあります。ですから、まわりの人が当たり前のように使っているからといって、それが適切で正しい表現とはかぎりません。広く使われることでいつしか市民権を得ていく言葉もありますが、ビジネスにおいては、本来の言葉の使い方をわかったうえで意識的に選んで使っていきたいものです。

ビジネスのコミュニケーションで言葉が重視されるのは、相手への敬意が最も如実に現われる表現方法であり、相手との心地よい距離感を作る大切な要素であるためです。距離感は同じような立場でも自分と相手の関係性によって異なってきます。一概に「良い・悪い」とするのではなく、その距離感にあった適切な言葉を選ぶためにまずは本来の使い方を知ること。

そこで、最近よく耳にする、本来のビジネスシーンではふさわしくない言葉を大きく3つの傾向にわけてご紹介します。

丁寧になりすぎている言葉

「~のほう」
「書類のほうをご覧ください」など、「~のほう」をつけて話す人が増えています。使っている本人は「柔らかくて丁寧に聞こえる」と考えている、もしくは敬語が苦手なゆえに無意識に「盛りすぎ」ているようです。たまに使うぶんには問題ありませんが、短い会話の中でも連発している人が見受けられます。ワンパターンなフレーズを繰り返されると、相手には耳障りで不快に感じられます。「書類をご覧ください」で敬意は伝わります。

「ご~していただけます」
「ご利用していただけます」は「ご利用する」+「いただく」で、1人の相手に2つの敬語を使っているのでNG。「利用していただけます」「ご利用いただけます」が正解です。ただし、会話に第三者が登場するときはOK。たとえば「Aさん、Bさんをご案内していただけますか」は正解。「ご案内して」は第三者のBさんに向けた敬語で、「いただけますか」はAさんへの敬語だからです。「1人の相手に敬語は1つ」と覚えましょう。

「おそろいになりましたか」
「書類はおそろいになりましたか」はNG。主語が「書類」なので、モノに対して敬語を使っている状態になってしまうからです。「書類はそろいましたでしょうか」が正しい表現です。一方、「みなさま、おそろいになりましたか」の場合はOK。こちらは主語が「みなさま」なので、人に対して敬語を使っていることになります。動詞に「お」「ご」をつけるとなんとなく丁寧に聞こえますが、モノや身内に対してつけるのは間違いです。

「ちょうだいします」
「ちょうだい」は“相手からもらって自分のものにする”という意味があるので、「お名前ちょうだいできますか」は少々オーバーな表現。ビジネスの場では「お名前をうかがえますか」で十分です。また、電話対応などで「山田はお休みをちょうだいしています」も電話の相手から休みをもらっているわけではないので適切ではありません。また、社内の人間が主語なので「お休み」はNG。「休みを取っております」が正しい表現です。

上から目線に聞こえる言葉

「差し上げてください」
「部長の奥さまに差し上げてください」はNGです。「差し上げる」は謙譲語なので、この言い方では「部長が差し上げてください」と上司をへりくだらせることになってしまいます。謙譲語を使っていいのは、自分や身内が主語のときだけです。この場合は、「部長の奥さまにお渡しください」が正しい言い方。混同しがちな尊敬語と謙譲語ですが、誰が主語なのかを考えると、正しく使い分けができます。

「なるほど」
相手の話に相槌を打ったり、感嘆を漏らすことは会話の潤滑油となりますが、言い方によっては、少し上から目線に聞こえることも。とくに相手が目上の立場の場合は、「なるほど」で終わらせず、そのあとに「確かにそうですね」「参考になります」とひと言を付け加えると、へりくだった姿勢が伝わります。また、何度も「なるほど」を繰り返すと、一本調子で耳障りに聞こえるので、相槌のバリエーションを広げましょう。

「お教えいたします」
「教える」という行為は、本来「先生→生徒」「親→子」「上司→部下」と上位者から下位者に行なうものです。したがって、取引先などから「御社までの行き方を教えてください」と聞かれて「はい、お教えいたします」と答えてしまうと失礼にあたります。「お教えいたします」自体は謙譲語としては正しい言い方ですが、マナーとしてはふさわしくない表現なのです。「説明いたします」「案内いたします」と言葉を替えましょう。

「お久しぶりです」
「お久しぶり」は、同等もしくは下位者に向けて使う挨拶表現です。親しい先輩、同僚などに使うならばOKですが、社外や目上の人に対しては「ご無沙汰しています」「ご無沙汰しております」と言うのが正解。とはいえ、常に「ご無沙汰しています」だと、距離感が縮まらないこともあります。「お久しぶり」が親しい間での挨拶であると理解したうえで、状況や相手に応じて使い分けるのができるビジネスマンでしょう。

伝わり方があいまいな言葉

「大丈夫です」
「大丈夫」は「安心できる、確か」という意味なので、承諾や可否を伝えるのに「大丈夫です」は適切ではありません。「承知いたしました」「はい、けっこうです」がより的確な言い方。また、相手を気遣うときの「大丈夫ですか?」も、時と場合によっては不親切かもしれません。大丈夫ではなくてもつい「大丈夫」と答えてしまう人が多いので、「気になる点はございませんか」などと具体的に聞いたほうが相手も答えやすくなります。

「けっこうです」
「けっこう」は、会話の流れで意味が変わる玉虫色の言葉です。否定の意味で「けっこうです」と伝えたつもりが、相手によっては「OK」と捉えられてしまって誤解のモトになることも。相手やシーンを見て「いいえ、けっこうです」「もう十分です」などと明確に伝わる言葉を選ぶことも必要です。ただ肯定の意味で使う「けっこうなお味でした」などの表現は、一段上の大人の表現になるのでぜひ使いこなしてほしい言い回しです。

「してもらってもいいですか」
人に依頼をするのに遠慮があるためか、相手に許可を求める表現になることがあります。この聞き方は相手によっては「回りくどい」「はっきり言えばいいのに」ととられ、ぶしつけに聞こえることも。ストレートに「していただけますか」が簡潔でスマートな表現です。その前に「お手数ですが」「申し訳ありませんが」などとクッション言葉を添えれば、相手に対する配慮を示したうえでの依頼表現となり、より丁寧になります。

「私的には~」
「~っぽい」や「~とか」と同様、断言することへの不安や自信のなさから、無意識のうちに「的に」とぼかしてしまっている表現です。「私的には~と思います」という言い方は、相手にも不安感を与えてしまうので、「私的には」という言葉は使わないほうがベター。もし、どうしても自信を持って伝えられないときは、「私といたしましては」「私どもといたしましては」と表現すると、責任感が伝わる表現になります。

松岡友子(まつおか・ともこ)
コミュニケーションマナーアドバイザー/マニエール・トモ代表
早稲田大学卒業後、ANA国際線客室乗務員・チーフパーサーとして11年半乗務。退職後、百貨店・エアラインスクール講師などを経て、2007年より研修講師に。現在、大手企業・官公庁・地方自治体などで、ビジネスマナーやセルフマネジメントまで幅広く研修・講演を行なう。著書に、『誰とでも仲良くなれる敬語の使い方』(明日香出版社)。(取材・構成:麻生泰子)(『 The 21 online 』2017年6月号より)

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