・日銀とECBが相次いで金融政策決定会合を実施。いすれも政策金利、量的緩和を据え置いた。日銀の2%達成時期の1年先送りは、市場想定よりもやや早かった。

・ドラギECB総裁は、強気の経済見通しとともに、債券購入額の縮小議論は秋に始めると発言。経済見通しや、近時のユーロ高への言及がなかったことに反応しユーロ高が進行した。

・次の注目は来週7/26の米FOMC。政策金利には動きなしと予想されるが、9月にバランスシートの縮小に向かうかどうか、イエレン議長の発言次第でドル円相場に影響も。

日銀:インフレ目標達成時期を先送り。市場予想より早い修正

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(写真=PIXTA)

今回、金融政策の中身については予想通り据え置きとなったが、意外感を持って受け止められたのは、インフレ率2%の達成時期を、「2018年度頃」から「2019年度頃」へ先送りした点である。

前回の目標先送りは2016年11月1日だったため、1年経たずに先送りを決定した。市場の事前予想では、インフレ率見通しは若干引き下げるものの、足元のインフレ率はやや上昇していることから、目標の引き下げは次回の展望レポート以降行われる可能性が高いとみられていた。

日銀政策委員によるインフレ率の見通しは、これまでもコンスタントに引き下げられてきた(図表1)。しかし、これまでの引き下げ幅は毎回せいぜい0.2ポイント程度までだった。これに対し今回の2017年度の引き下げ幅は0.3ポイントと大きく、結果として、2017年度のインフレ率見通しは+1.1%、2018年度は+1.5%となり、とうてい+2.0%には及ばない、という予想となった。

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今回のインフレ率見通し引き下げの背景として、日銀は「企業の賃金・価格設定スタンスがなお慎重」であることや、「賃金・物価が上がりにくいことを前提」に企業も個人も行動しているためとしている。但し、比較的大きな引き下げになった理由の説明は明確ではない。

足元の消費者物価指数の上昇幅は、生鮮食品を除く総合で+0.4%と、若干拡大している(図表2)。しかしこれはほぼエネルギー価格の上昇のせいで、これを除くとほぼゼロとなっており、デフレに戻ってもおかしくないペースである。2%目標の先送りは、こうした現状を考えればごく自然である。

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このような環境では、日銀が緩和縮小の糸口を見つけるのは当面極めて困難だろう。文末図表6にあるように、先日カナダも利上げを開始し、ユーロ圏も時期はやや遅れてつつも出口に向かいつつある。日本の長期金利は、他国につられて上昇していたが、今回のインフレ目標達成時期の先送りで頭を抑えられると思われる。

ECB:景気は強いが、"出口"に向けた動きは極めて緩慢

7/21のECB理事会では、予想通り金融政策は据え置かれ、中央銀行預金金利は-0.4%、資産購入額も月次600億ユーロとされた。

注目されたドラギECB総裁の会見では、「見通しが悪化すれば資産買い入れを拡大する用意がある」という文言が削られ、政策の"出口"をより明確にする可能性もあるのでは、との事前予想に反し、こうした発言はみられなかった。また、一部で懸念されていたような急速なユーロ高に懸念を表明するようなコメントもみられなかった。

ドラギ総裁は、緩和策調整に関する選択肢の策定を「スタッフ委員会に指示しなかった」とし、「秋に改めて議論する」とした。すなわち、従来9月にも開始するとみられていた資産購入プログラムの縮小は、10月以降に後ずれする公算が高まった。

足元では、ユーロ圏の経済成長率もインフレ率も安定的に改善しており(図表3)、フランスの大統領選挙も無難に通過した。こうした好調なマクロ経済と政治の落ち着きに加え、ドイツなどのユーロ安による貿易黒字の問題などからも、早期の金融緩和の縮小が適切とする見方は多い。

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一方、7/18の弊社レポートでも振れた通り、足元ではややインフレ率が低下しており、イタリアの金融システムの問題にも積み残しもある。ドイツの議会選挙、イタリアの総選挙やスペイン・カタルーニャ政府の独立を問う国民投票の問題なども残る。
(詳細は、 https://info.monex.co.jp/report/financial-market/20170718_01.html をご参照)。

ECBは日銀とは異なり、多数の国の異なる景気や金融システムに注意を払わなければならないだけに、極めて複雑な状況である。出口議論は後ずれしそうだが、それでも、日本よりははるかに確実で、恐らく12月までには議論が始まる可能性が高いとみれらる。

金融政策の影響と今後の注目点:FOMCから米政治問題へ

次の注目は来週7/26の米FOMCである。金利については、前回6月に既に引き上げられたため、今回は動きなしと予想される。従って注目点は、バランスシートの縮小開始の時期や、次の利上げ同時などに言及されるかどうかである。

現時点では、9月にバランスシート縮小が開始され、その影響を見定めつつ12月に追加利上げ、という見方が市場の太宗を占めていると思われる。これらに関して、イエレン議長の発言のニュアンスが注目される。

一方、日本については、低インフレ・リスクが再び高まっており、金利が上がりにくい状態が続く。このため日米・日欧それぞれの金利差は再び拡大傾向に向かう可能性があり、金利差的には当面円安圧力が高いとみられる。

但し、特にドル円については、トランプ政権の抱える様々な課題の露呈や、9月に予算の期限が切れる財政問題などの政治要因がリスクとなる。FOMC通過後は、当面、こうした政治リスクに注目が集まるだろう。

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大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券 チーフ・アナリスト

【関連リンク マネックス証券より】
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