睡眠の質を下げる「4つのNG行動」に注意!
記憶力アップや脳の活性化のためには生活習慣が重要になる。中でもとくに大事なのは、勉強の効率や集中力に大きく関わってくる「睡眠」の取り方だ。しかも、作業療法士の菅原洋平氏によれば、「記憶は眠っているあいだに定着する」という。正しい眠り方について詳しくうかがった。
記憶が定着するのは「睡眠中」だった!
睡眠は、疲労回復や体調の維持に必要なだけでなく、体験した出来事や学習した記憶を整理し、定着させる役割も果たしています。食べ物が胃で消化されてはじめて栄養になるように、情報もただ脳に溜め込むのではなく、消化しなければ使える情報にはなりません。脳で言えば「睡眠」が、「消化」にあたるのです。
では、睡眠は記憶にどのように関わっているのでしょうか。睡眠はその深さや脳波の状態によって四つの段階に分けられます。
眠りはじめのまどろんでいる状態(睡眠段階一)から、次第に睡眠感を伴うようになると、浅い眠り(睡眠段階二)に入ります。眠り始めて三十分を超えたあたりから、デルタ波という脳波が出現し、ぐっすり眠っている状態(睡眠段階三・四)になります。この深い睡眠のときに、昼間に学習したことが脳内でリプレイされ、習得されます。つまり、記憶の定着には、深い睡眠が重要な役割を果たしていると言えます。
深い睡眠は、実は意識して取ろうとしなければ、十分に取ることができません。
眠りは、睡眠段階1から4へと徐々に眠りが深くなったあと、4から1へと浅くなり、最後に睡眠中に眼球が急速に動いている状態の「レム睡眠」と呼ばれる浅い眠りが出現するというサイクルを繰り返します。最初のサイクルで、睡眠段階3、4の深い睡眠が多く出現し、3回目以降からは、睡眠段階1、2とレム睡眠の浅い眠りが大部分を占めるようになります。
つまり、いかに眠りはじめで深く眠るかが重要なのですが、ここで注意したいのが体温コントロールです。深い眠りは、体の内部の体温である深部体温が下がることで訪れます。この勾配が急になればなるほど、深い睡眠が得られるのです。
深部体温を急降下させるには、睡眠一時間前の入浴が効果的です。入浴によって上昇した深部体温を下げるために、身体の表面上に熱が放出されるため、深部体温の急勾配のリズムを作りやすいのです。
40歳を超えると深い睡眠が減っていく!?
このように、深い睡眠は、意識しないと十分に取れないのですが、そればかりか、40歳を過ぎると徐々に得にくくなるという側面も持ち合わせています。
その理由は二つあって、一つは運動量の減少や基礎代謝の低下です。深い睡眠を得るには深部体温を下げなければならないと言いましたが、運動量の減少による筋肉の衰えや基礎代謝の低下から、深部体温を上下させるリズムを作るのが難しくなっていくのです。
もう一つは、記憶に関係しています。睡眠中の脳は情報処理を行なっていますが、若い年代ほど初めて経験することが多いため、脳の学習量も増え、情報処理に時間がかかります。
一方、年齢を重ねて経験則が身についてくると、情報処理にそれほど時間がかからなくなり、深い睡眠が減っていくというわけです。
かといって、こうした自然の成り行きに任せて深い睡眠を減らしてもいい、というわけではありません。寿命が今より短かった時代は、それでもよかったのかもしれませんが、60歳や70歳まで現役で活躍することを考えるなら、40歳を過ぎてからも深い睡眠を意識して取ることが大切です。
「通勤電車の居眠り」が睡眠の質を悪化させる
睡眠の原理を知らずにいると、よかれと思ってやっていることが、実は深い睡眠を妨げていることがよくあります。ここで40代によく見られる四つのNG行動を見ておきましょう。
1つ目は、「ベッドの上で何かする」。脳は、場所と行為をセットで記憶する性質を持っています。たとえば、ベッドの上で読書をすると、「このベッドは文字を読む場所だ」と脳は記憶してしまい、睡眠とは関係のない脳の部位を働かせてしまうのです。 就寝前に本を読む習慣があるなら、その習慣は変えなくてもいいので、「場所を切り分ける」ことを意識してみてください。ベッドの横に椅子を置いて、読書はそこでして、ベッドの上では何もしない。そうすることで、「ベッドは睡眠する場所」と脳が記憶し、深い睡眠にスムーズに入れるようになります。
2つ目は、「眠くないのにベッドに入る」。脳が眠くない時間にベッドに入っても、睡眠は始まりません。そこで何か考え事をすると、「ベッドは考える場所」という記憶がつくられ、余計に眠れなくなってしまいます。
3つ目は、「就寝前にうたた寝寝する」。仕事帰りの電車の中でつい眠ってしまう人や、子育てなどの疲れからうたた寝をしてしまう人もいるでしょう。しかし、うたた寝をすると本睡眠で深く眠ることができません。
睡眠は、連続して起きていた後の睡眠が最も充実します。眠らない時間に溜まった眠気を「睡眠圧」と呼びますが、睡眠圧をうまく活用して睡眠の質を高めることが大切です。
4つ目は、「寝る時間をそろえようとする」。私たちは子供の頃から「早寝早起き」と習ってきたため、「就寝時間をそろえれば、朝起きられるようになる」と思いがちですが、それは正しくありません。脳は、起床して光を浴びた時を「朝」と認識し、そこから十六時間後に眠くなる仕組みです。最初は就寝時間がバラバラでも、起床時間をそろえることで、夜にしっかりと眠れるようになります。
「起床4時間後」の眠気の有無をチェック
では、脳にいい睡眠が取れているかは、どのように判断すればいいのでしょうか。
「6時間寝たから十分」とか、「途中で目覚めてしまったから、いい睡眠が取れなかった」とは、必ずしも言えません。なぜなら、最適な睡眠の長さは人によって異なりますし、また日照時間が変わる季節によっても変化するからです。
それに、深い眠りは大事ですが、かといって浅い眠りやレム睡眠が必要ないわけではありません。浅い眠りはひらめきを生み出し、また、レム睡眠は余計な感情の記憶を消去する役割を担っています。もし、睡眠中にレム睡眠が多く現れたなら、昼間に生じた嫌な感情を溜めないように、脳が睡眠のサイクルを調整していると考えられます。
質のよい睡眠が取れたかどうかを判断するには、睡眠がどうだったかを見るのではなく、目覚めているときのパフォーマンスを判断基準にします。頭は、起床から四時間後が最も冴えています。六時に起床する人なら、午前十時です。この時間に眠気があるかどうかをチェックし、もし眠気があれば、睡眠の質が悪いか、量が不足しているということになります。
貧乏ゆすりは睡眠不足のサイン!?
眠気のサインは、人それぞれ違います。自分なりの眠気のサインを把握しておくとよいでしょう。
いくつか例を挙げると、「文章を読むときに、同じ行を2度読んでしまう」「パソコン操作で普段はやらないミスタッチをくり返す」といったことがあります。これは「マイクロスリープ」と言って、2~7秒ほどの短い間、脳の一部が眠っている状態です。「思ったこととは違うことを口走ってしまう」「ろれつが回らない」「物を落とす」なども同じ現象です。
「なんとなく落ち着かない」「些細なことで動揺する」といった状態も、セロトニン不足によって生じる睡眠不足のサインです。
セロトニンは、脳を緩やかに覚醒させつつ、急な刺激に驚かないよう調整する物質です。セロトニンが不足すると、前述のように気分が不安定になりますが、一方でセロトニンはリズムのある運動で分泌される特徴があるため、「うろうろ歩き回る」「ボールペンをカチカチ鳴らす」「貧乏ゆすりをする」などの律動的な運動も生じてきます。
これらのサインは、ややもすると、「気の緩みから集中力が低下している」とか、「せっかちな性格」「ストレスが溜まっている」といった言葉で片づけられてしまいがちです。
しかし、実体は脳の覚醒レベルが下がっていることを示す生理現象です。生理学的な問題を心理学的な問題にすり替えるのではなく、脳という内臓の問題として、生理学的に解決していく必要があります。
昼間のパフォーマンスが最大になるはずの時間に眠気のサインを自覚したら、質のよい睡眠を妨げるNG行動を取っていないか、生活を見直してみてください。
睡眠の質をよくすることを意識して生活すれば、睡眠のサイクルは脳が自動的に調整してくれます。疲労回復や健康維持のみならず、記憶力アップのためにも、睡眠を中心に生活を見直してみてはいかがでしょうか。
菅原洋平(すがわら・ようへい)作業療法士/ユークロニア〔株〕代表取締役社長
1978 年、青森県生まれ。国際医療福祉大学卒。国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事したのち、現在はベスリクリニックで薬に頼らない睡眠外来を担当するかたわら、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修も行なう。2017年、フードディスカバリー〔株〕と共同で、アクティブスリープ指導士を養成するウェルネスライフ推進協会を設立。13万部突破の『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社)や最新刊『頭がよくなる眠り方』(あさ出版)など、著書多数。(取材・構成:前田はるみ イラスト:ゆづきいづる)(『
The 21 online
』2017年7月号より)
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