「フィンテック上陸で高給バンカーたちの断末魔の叫びが聞こえる」−−。こんな刺激的な惹句が帯に乗ったのは、HCアセットマネジメント代表の森本紀行氏の新刊だ。その名も『銀行員大失業時代』(小学館)。書名まで刺激的な本書を氏が上梓した狙いはどこにあるのか。たずねてみるとそこには、「銀行」「銀行員」に対する期待と愛にあふれた思いがあった。(聞き手:濱田 優 ZUU online編集長)

フィンテック,銀行,淘汰,著者インタビュー
(写真=ZUU online編集部)

もりもと・のりゆき
1957年北海道生まれ。東京大学文学部哲学科卒業後、三井生命入社。年金資産運用に携わった後、90年ワイアット(現ウイリス・タワーズワトソン)入社、企業年金基金など機関投資家向け投資コンサルティング事業を日本で初めて立ち上げ。2002年HCアセットマネジメント設立。世界中の投資機会を発掘して運用委託する新しい資産運用事業を始める。

「統計の問題」より大切な「心の問題」はAIでは解決できない

−−なかなか刺激的なタイトルですが、本書刊行の狙いは?

タイトルは出版社がつけたんですけど(笑)、そもそも「銀行員」っていう肩書きはおかしいと思うんです。「商社マン」もそうですが、「会社員」でなく業種を名乗るあたりいかにも特異です。

ただ本書は「銀行員がクビになるぞ」という話じゃなく、「銀行を辞めて別な立場で仕事をしなきゃいけないとしたら、あなた方は何をしなければならないのか」というメッセージです。

——金融業界で人間がAIに職を奪われるという話はニュースでも報じられていますね。

AIを特別視しすぎだと思いますね。たしかにFinTechで銀行業務が合理化されるのは不可避です。だけどコンピュータにはできないことがあって、そっちのほうが圧倒的に重要です。これから銀行員がなるべきはコンピュータにできないことができる「金融のプロフェッショナル」なんです。

AIは「(人工)知能」というから大げさに響きますが、AIのほうが人間を上回るって言うのは極めて愚かな考え方。たしかに量的には超えているかもしれないけど、質的には“絶対に”AIは人間を超えないですよ。量が本質を変える可能性もありますが……。

——このところ金融に限らずあらゆる分野でAIは活用されています。

AIでよくなる分野はたくさんあります。その一つが「医療」です。

医師は患者の症状から病気を推測するわけですが、医者が知らないこともある。過去の膨大な数の症例がインプットされたデータベースがあってAIに学習させれば、考えられる病気が可能性の高い順番に並ぶ。1人の医師にかかれば、多くの医師が過去にみてきた症例データと照らし合わせることができるので、検査もたくさんやらなくても済むでしょう。誤診確率は抑えられるし、患者の体質をチェックして副作用が起きる可能性も精度高く計算できるでしょう。

僕の親父は71歳で、すい臓がんで亡くなったんです。この病気は発見が比較的難しい。すい臓は背中に近いから、疾患があると腰が痛くなるんですよね。腰が痛かったら内臓が腫れていることが高い確率としてあるらしく、内臓検査してもいいはず。ところが親父はずっと整形外科に通っていた。明らかに医療も間違ったと思うんです。

AIでできることがある一方でできないこともある。手術するかどうかを決めるのは患者で、執刀はコンピュータだけではできない。患者が信頼関係を築けるのも人間の医師だと思うんです。たしかにコンピュータは間違えないかもしれないけど、患者が求めているのは可能性の高さだけじゃない。

実は僕、昔ちょっと心臓に障害があったんです。生命に別状はないけど不整脈が起きる。先天性で別に珍しくない病気で、医者も手術しなくてもいいって言っていた。それでも「どうしますか?」って言われて考えた。そうやって患者に尋ね、自分の選択に委ねるのは生きた医師でないとできない。

要はどこまでが「統計の問題」で、どこからが「心の問題」か考えなければいけない。金融は医療以上に「心の問題」の部分が大きいと思うんです。

たとえば僕と年齢、年収、貯蓄額、同じ家族構成の人がいて、AIに投資先を聞いたらその人と僕には同じ答えを出すでしょう。でも、それでいいんでしょうか? 銀行員に求められるのはどれだけ熱心にお客さんに接するか。投信を売る−売らないという問題じゃない。本当に親身になってお客さんの立場になって考えられるかどうかです。

——AIを融資先の与信判断に使うという話もあります。

それも可能性はありますが、そこで忘れてはいけないのはデータが正しいかどうか。人間は嘘をつきますから。僕が本当のデータを入れるとは限りません。本当のデータを入れさせるには、「入れたほうが僕の得になる」という設計にしないといけない。

銀行から借金したいとき、所得や財産を聞かれても、低かったら素直に言わないですよね。僕が中小企業経営者で問題を抱えていたとして、ちょうど融資の借り換えの時期が来ていたら銀行の担当者には言わないですよね。融資を継続してもらわないと困るから。

この問題はAIでは解けない。AIも真実を伝えてもらわない限り、真実の答えを出せないけど、人間は自分の利益になるなら嘘をつく。

だから銀行として日常的な債務者管理ができていることがベースにあって、業務が一般化してきたらテクノロジーで効率化するのはいいんですよ。ただ最初からそれができていない銀行がAIとか言っても意味はない。テクノロジー化する前提条件としてのお仕事が今の銀行員にできているのかということです。

「お母さんは同意書に判子を押してくれました」が成立するわけがない

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(写真=ZUU online編集部)

高齢者が投資信託を買っているのって、息子も娘も来てくれないおじいちゃん、おばあちゃんのところに銀行の人が来てくれるからなんですよ。1時間ぐらい居てそれで投信の話されたら、「何買ったらいいの?」って言いたくもなる。銀行員にしてみれば、勧めちゃうとあとで問題になるから「これが今『売れ筋』です」って言うのが定番なんだけど。

そこで、支店が販売目標を設定しているという理由だけで商品を売ったりするのは別の問題。真にお客様の利益にかなうものを売ればいいんですよ。「お金はある」っていう高齢者にも、「じゃあこれ」って商品を売りつけようとせず、「使い道がないなら息子さんに聞いてみます?」って聞いてみればいい。

それで本当に使うのか使わないのかいろんな議論する。もしかしたら息子が「お母さん、使わないだったら生前贈与して子供の学資に回してくれない?」とか、「家を直してくれたら俺たちも一緒にここに住む」ってなるかもしれない。そっちのほうが幸せかもしれないし、正しいかもしれない。そんなことしていたら商売にならないけど、その一族との信頼関係は太くなる。金融庁が言っているのはそういうことですよ。

——相続の際のそうした問題は今後も多く起きそうです。

僕は今年60歳なんだけど、この世代は母親が90歳ぐらいまでに亡くなるわけです。男性の寿命が70代くらい、女性が80代くらいだから。ちょうど今から僕らの世代で相続が始まるわけです。

たとえば僕が親の遺産を相続するとして、母が買っていた投信の一覧を見て値下がりしてたら、売った銀行の支店調べて担当者に「よくもこんなもの売りつけやがって」と言うでしょうね。相手は「お母様は納得されましたし、喜んでおられました」とかいうだろうけど、僕は「意味が分かって買ったわけないだろ」と返す。すると、「そんな事ありませんよ。ちゃんと同意書にもハンコ押されてますから」と返ってくる。それでも即座に解約しますよ。預金なら間違いなく解約する。

ところがいい投信を売って、ちゃんと値上がりもしていれば、「すぐ売るのも面倒だし、置いとこう」ってなる。その瞬間に、僕という相続人が新しい顧客リストに載るわけです。そしたらいずれ退職金で投信を買い増してくれるかもしれない。結局ちゃんとしたものを売っておいたほうが銀行の長期的収益になるんです。

——値上がりする商品が分からないといけないですね。

いい商品を目利きできる能力は必須ですね。もしそれができたら、その銀行員はFinTechが進んで合理化されようが、銀行が合併しようが銀行に残れるはずだし、FPやIFAとして独立しても食っていけます。

僕は最近、銀行の研修会で銀行員に「銀行がなくなっても生きていけるようにしなきゃいけない」って言うんだけど、彼らにとっても耳が痛い一方、納得感あるんですよ。

その過程でテクノロジーの力も使うということなら、それは銀行をよくする、真のFinTechだと思います。

たとえば情報管理、データ管理って銀行はすごくうるさい。本部のデータって持ち出せない。紛失や盗難のリスクがあるから。だから「働き方改革」が言われているけど、在宅勤務ももう極めて困難。だけどそこをテクノロジーでブレイクスルーできたら……。

——改ざんができないようにするとかですね?

そういうことです。与信とか投資信託の提案をAIでやるといっても、根本的に顧客の視点が抜けています。どこの銀行がやっても同じことなら、最終的には金利以外の非競争的障壁は作れません。タダ同然の方向性に向かっていき、やがて利益は出なくなる。

企業経営にとっての資金繰りって、家計と同じでとても大切です。城南信金の小原鐵五郎の言葉を借りれば、「融資する」「お金を貸す」ではなく「心配して差し上げる」ということをしなければいけない。

ただ決済はちょっと別ですよ。決済分野の行く末は銀行にとって頭が痛すぎる問題。普通預金口座から、給料の振り込みとか、電話料金とかクレジットカードの引き落としとか、決済機能を全部なくなっても預金しておきますか? 銀行員に聞いても、誰も手を挙げないでしょう。そういう手数料もバカにならないから悩ましいところなんですが、決済のプラットフォームは一つあれば十分となったら、メガバンクはともかく地方銀行はどうしようもなくなる。

——決済にも多くのプレイヤーが参入しています。

先ほどの議論は、決済なきあと銀行としてどこに付加価値を見いだすかです。僕が怖いと思っているのがAmazon。書籍販売で確立したノウハウを一気に横展開するパワーとか、物流まで押さえにいく資金力とかすごい。ビジネスモデルは極めてシンプルで新奇性はないけど、あれだけ徹底してやるから結局データマイニングの精度も高くなっていく。

Amazonは顧客の日常生活そのものを取り込んでいる。たとえばプライム会員でヘビーユースしていれば、生活そのものが露骨にトレースされてしまう。僕がもし会員として頻繁に使っていたら、Amazon上に存在する僕は、限りなくホントの僕に近くなっていく。これまでSPAM扱いだったレコメンドのメールの精度がどんどん上がってくる。「ちょうどこれ欲しかったんだ」「ああ、こんな本出てたんだ?俺欲しかったんだ」みたいになる。

一方で銀行のデータベースに存在する僕は、実像とはかけ離れている。銀行は昔、もっと家計に近いところに座ってたはずなんです。なのに今、何もできていない。家計のことが分かってないし、信頼されてない。相談にのってくれないから、逆に営業に行ってるわけです。「それをFinTechで変わると思うんですか?」ってことです。

ブロックチェーンが画期的だと思う理由

(写真=ZUU online編集部)
(写真=ZUU online編集部)

——決済のほかに注目している分野や技術はありますか?

ブロックチェーンも衝撃ですね。歴史の認識の仕方を変えると思うんですよ。僕はもともと専攻が哲学なので、その観点からどこかで1回まとめたい。

歴史は事実の集積だと思われているかもしれませんが、そうではない。歴史は常に過去に向かってしかできない議論であって、その瞬間に過去を再構築しているわけです。

たとえば、僕が送金を何度か繰り返す。今の銀行システムってそれをシーケンシャルに、順番にデータ処理するんです。それは、歴史をそのまま再現しようとしているから。歴史は具体的事実の連続だという思想がそこにはある。

でも口座のお金のやり取りを1日ずーっと追い続けて、たとえば1,000回売ったり買ったりを都度全部記録して分かるようにする必要はない。1日などの単位でしめてから、お互い残高比較すればいい。大切なのは残高のバランスがあっていることだから。

——「途中経過が分からないじゃないか」といわれそうですね。

ええ。でも「分かってどうするの?」ってことですよ。僕はここが革命だと思うんです。ブロックチェーンは、技術より何より、こういう発想が革命的。

在庫管理でいえば棚卸法にすればいいんです。帳面に、100個仕入れて、1個売った、2個今日売った……と都度書けば、常に在庫数が分かるし正確でしょう。でも面倒だしコストがかかる。それを毎日ではなく一定期間でしめて、「97個あるから3個売れた」とすればいい。目的は事実の記帳ではない。何のために記帳するか考えれば、どれだけのデータやコスト、時間の節約になるか。

みずほの「誤送金」問題は「誤記帳」でしかない

これは僕が何度も本にも書いたけど、みずほの誤送金の件も問題です。僕はみずほを擁護して、「あれは誤送金ではなくて誤記帳だ」って言い続けています。何か錯覚があるようだけど、お金は動いていなくて電子信号の記録としてしか存在してない。

日本のFinTechが成功するかしないかは、国民がみずほの「誤送金問題」を「誤記帳問題」として再認識・再整理できるかにもかかっていると思う。そうでないとブロックチェーンなんて認められない。記帳してなくて再構成しているだけなんだから。これは戸籍も年金問題でもいえます。帳尻が合ってればいい。こんなこと言うと袋だたきにあうかもしれませんが(笑)。

——厳格に処理を進めようとする気質も影響しているのでしょうか。

日本って有価証券の決済とかってやると、1円でフェイルするんです。端数処理のときに切り捨てたり切り上げたり四捨五入したりする人が居るから。1円でもフェイルすると後ろの過程が全部ストップする。シーケンシャルな処理が厳格に行われているから。

ところが、海外の証券決済システムでは誤差たしか1,000ドルとか少額ならとっくの昔から通すようになっています。通してから1日でしめて誤差を精算するから圧倒的に早い。しかもそれが誤差なら大きなシステム障害にならない。誤差は誤差だから。預金通帳があるのも不思議ですよ。毎月のステートメントじゃ納得できない。

−−韓国では「無通帳金融取引革新案」があり、金融監督院の主導で今後は銀行が通帳不発行にするそうです。

通帳不発行なんてもう世界の常識ですよ。日本は不思議ですよね。「国民性」っていう単語使うと全部あいまいになっちゃうから嫌だけど。それに日本ならではの、ローカル色の中にこそ強みを見つけたいと思うので、日本独自の、日本ならではの部分すべてを切り捨てる必要はない。捨てたほうがいいものと、生かしたほうがいいものを峻別すべきですね。

日本の何を生かすか、何を捨てたらうまくいくかを見つけるのが、金融庁の課題でもあり、我々の課題でもあると思いますね。

ginkouin
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