家族が楽しめる買い物天国~コストコが大人気の理由

静岡県浜松市。朝5時、とある施設の駐車場が既に埋まっていた。入り口にはとんでもない大行列が。最後尾はなんと屋上駐車場。早朝から500人が並んだ。この施設はコストコ。アメリカから来た量販店だ。この日は日本で26店目となる浜松倉庫店のオープン初日。先頭の男性は夫婦で交代しながら二日間並んでいたという。そんな熱いファンを気遣い、予定より2時間早い6時にオープン。さっそく客たちが店内になだれ込んだ。

オープン初日ということで、信じられない値段の目玉商品もいっぱい。「国産さくらどり(モモ肉)」2.4キロが1998円。生卵は20個で198円。バナナはひと房1.3キロの巨大サイズで129円。飛ぶように売れていく。商品の中には2メートルを超えるクマのぬいぐるみ(1万7980円)も。熱狂の中でデビューした浜松の店は家族3世代のハートをがっちり掴んでいた。

群馬県前橋市の前橋倉庫店で、コストコがここまで客を引き寄せる理由を、熱烈ファンに教えてもらった。コストコ歴14年という青木端美さんは、入り口で買い物仲間2人と待ち合わせしていた。このメンバーで月に2回はコストコツアーをしていると言う。

正式名称はコストコホールセール。「ホールセール」とは「卸売り」と言う意味。コストコは会員制の卸売り価格を売りにした量販店だ。

青木さんが真っ先に薦めてくれたのは牛肉。アメリカンビーフのピラミッドの頂点、5%しかない「プライムビーフ(肩ロース)」は1267グラムで2762円。続いて1日3000袋が売れる大ヒット商品、アメリカ製の「ペーパータオル」(12ロール、2388円)は「厚手で丈夫なので、1回使っても洗ってまた使える」と言う。さらにアメリカ製のラップ「ストレッチタイトフードラップ」(2本セット、1378円)。日本製は50メートルの商品が多いが、これは230メートル。スライド式のカッターが付いていて、失敗することなく一発で密閉できる。

お菓子売り場は全てコストコサイズ。おなじみの「たべっ子どうぶつ」は1箱1.2キロ入りで1330円。通常は120円ほどの商品が、コストコでは20倍入っているので、同じ量で比べるとほぼ半額だ。さらに遊具や家具、宝石から薬まで、テニスコート36面分の巨大店舗で3500アイテムを販売している。

青木さんの一押しはパン売り場。コストコで最も数が出る商品がディナーロール。一袋に36個も入って458円とかなりお手頃だが、受けているのはその味だ。

美味しさの秘密はバックヤードにある。実はディナーロールは店内で生地から手作りしていた。ホテルのレストランで出てくるような小麦の甘みが感じられるパンを各店舗で生み出している。一日に4万個を売る人気ぶりで、焼きたてはモチモチ。一旦冷凍してもオーブントースターで再現できる。パンだけでなく、惣菜のほとんどは店内調理したものだ。

美味しい仕掛けはまだある。店内のあちこちで行列ができているのは試食コーナーだ。開店から夕方まで途切れなく振る舞い続けている。

青木さんたちは3人でグループ買い。気になるその合計金額は2万7000円だった。コストコツアーの締めは自宅に戻ってから。大量に買ってきた商品を3等分。食べきれない量もこうすればちょうどよくなる。これがコストコファンの主婦の間ではお約束の「シェア買い」だ。トータル2万7000円も、3人で分ければ1人9000円に。「外国のスーパーみたいにワクワク感があって、楽しめる場所だと思います」(青木さん)と言う。

なぜ激安が実現できる?~知られざるコストコの舞台裏

カンブリア宮殿,コストコ
© テレビ東京

日本に上陸して18年、国内26店舗で従業員は8700人。そのコストコの本社は川崎倉庫店の店舗の上にある。コストコジャパン社長、ケン・テリオ(59歳)は、新規出店の準備などで全国を飛び回っている。1週間のうち社長室の席に着いているのは「3、4時間かな」と言う。

テリオがデスクワーク以上に時間を割いているのが売り場のチェックだ。テリオが目指すのは「客にとっていい売り場」。だから商品が選びやすくなっているかどうかにとことんこだわる。テリオが考えるコストコの最大の魅力は「コストコは毎日がベストプライスです。他の店より10%から40%は安くしています。50%、60%安いものもあります」だという。

ありえない価格はどうやって実現されるのか。神奈川県相模原市にある、シャンプーなどのメーカー、ユニリーバの出荷工場にコストコのトラックが。コストコはこうした商品をメーカーから直接仕入れている。仲卸を飛ばし、中間マージンを省く事で安さを実現。文字どおり卸売り価格なのだ。

そのシャンプーは通常サイズのおよそ6倍。コストコ専用に開発された大容量パックだ。さらに梱包もコストコ仕様。ユニリーバ・ジャパンの宮口昌久さんは「コストコさん専用のパレットに合わせて、そのまま店に陳列できるトレイを製作しました」と言う。

フォークリフトで商品を運ぶ台、通称「パレット」。コストコは、縦102センチ、横122センチのパレットにピッタリと合うよう、メーカーに商品トレイを作ってもらっている。実はこれも安さを生む仕掛けのひとつになっている。

メーカーから商品が集まってくる、兵庫県三木市のコストコ三木物流センター。サッカーのフィールド4面分という広さだ。ここに到着する商品は実に2500種類。しかし、どのメーカーもパレットぴったりのコストコ仕様だから、仕分けはスムーズ。これが物流コストの削減につながっている。

運搬には通常のフォークリフトだけでなくロングタイプも。これだとパレット4枚分を一気に運べる。日本ではコストコでしか使っていない。作業効率ももちろん4倍になる。

「物流コストを削減したものが全て商品に反映される。そのぶん、低価格で販売できるように努めています」(物流センター長の富澤淳二)

コストコ仕様の梱包は各店舗に持ち込んだ後も大活躍。店舗では陳列棚に移し替えるのではなく、パレットごと置いていくのだ。仕上げは包装されたフィルムをむくだけ。こうして効率を上げ人件費などを抑えている。

小売業界世界2位、9000万人会員のためにここまでやる

さらにもう一つ、安さの秘密がある。コストコ通の専門家、経営コンサルタントの坂口孝則さんは「コストコは仕入原価が売上の9割になる。人件費、間接費を除くと利益は1%も残らないぐらいなんです」と言う。

例えば12万3800円で売られている巨大遊具「プレイセンタースイングセット」の利益はわずか1015円にすぎない。この数字は薄利多売の業界にあっても異例だ。

コストコがどこで利益を出しているかといえば、個人で年間4400円の会費。この安定した利益があるから商品を安くできる。そしてその安さに惹かれ、また客が来る。まさに好循環のビジネスモデルなのだ。

今や世界中で支持され、会員は9000万人に。売上はウォルマートに次いで小売業界・世界2位の座に君臨する。

会員制のコストコには会員のための独自サービスがある。その一つが川崎倉庫店のメガネ売り場に。普段は専門店で20万円近くを出して買っていると言う女性客が来ていた。コストコでも高級ブランドを揃えているが、フレームは市場の半額以下。レンズを入れた合計金額は4万2100円。以前の5分の1の値段になった。

メガネだけではない。薬など、医療に関する商品は利益を薄くし、安くしている。「デジタル補聴器」(16万5000円)も市場価格の半分以下だ。

さらに驚くのは、コストコ以外ではありえない返品サービスだ。商品に満足できなかった時は無期限(家電は90日以内)で返品できる。「大きすぎた」「甘くて飲めなかった」というような理由でも受け付けてくれる。

「食料品で封が開いていても、味が合わないということであれば、お返しいただいて構いません。会員になっていただいた以上、お気に召す商品を買っていただくことをモットーとしておりますので」(川崎倉庫店・増田亜紀子)

会員のためにここまでやる。これが黒船、コストコ流だ。

コストコにも苦難の歴史~日本進出を阻んだ大きな壁

コストコ浜松倉庫店のオープン前日、関係者を招いての店舗のお披露目が行われていた。そこには商品を卸している400社を超えるメーカーの人間の姿もあった。

「全国チェーンに匹敵するような販売量を扱っていただいているので、コストコさんと組むメリットを非常に感じております」(「中村屋」業務用食品部・水野豊司さん)

「2倍、3倍に売上が増えました。感謝しています」(長野県の味噌メーカー「ひかり味噌」営業本部・五味正浩さん)

今や日本のメーカーから絶大な信頼を集めるコストコだが、日本進出当時の事情は全く違ったと言う。福岡県久山町にある久山倉庫店。1999年にオープンした日本1号店だ。コストコが日本に進出する際、テリオは現場責任者だった。

「チャレンジでした。日本では誰もコストコを知らなかったからね」

日本進出を画策していた1998年、コストコは既に売上2兆円を超えるグローバル企業で、世界を席巻していた。しかし日本でコストコ流を実践するには大きな壁があった。

「日本の1号店は、東京に作りたいと考えていました。しかし、メーカーが直接取引を嫌がり、コストコ流の低価格が実現できなかったんです」(テリオ)

日本進出前に、メーカーに対してコストコのやり方である仲卸を飛ばした直接仕入れを申し入れると、「他の取引先の手前、特別扱いする訳にはいかない」「長年付き合ってきた仲卸との関係もあるから」と、メーカーは揃って難色を示した。

結局、コストコは東京を断念。そんな時、福岡で出店できることになり、地方ならメーカーが「直接仕入れ」に応じると考えたのだが、交渉は難航した。当時、打診を受けた菓子メーカー、「カルビー」新規事業企画部の吉岡健太郎さんはこう証言する。

「直接取引するには、例えば新商品、物流の仕組み、専用の設備などが必要で、これだけでもかなりハードルが高いんです。直接取引の必然性はあまり考えにくかったですね」

しかし、メーカーとの直接取引はコストコ流「高品質・低価格」を実現する要の戦術。コストコのバイヤーは粘り強い交渉を重ねた。すると、意外なきっかけから潮目が変わる。それはコストコサイズと呼ばれる、これまでになかったビッグな商品だった。

「本当にこういう商品が売れたら新しい展開になる。気付いていないニーズを、売り方や売り場を変えたら発掘できるんじゃないかと思いました」(吉岡さん)

そんな水面下の交渉を経て1999年、1号店をオープン。コストコは自分のやり方を貫くことにこだわり、オープン時には商品の7割をメーカーから直接、仕入れた。

「我々にとってもメーカーにとっても大きなチャレンジでしたが、乗り越えることができたんです」(テリオ)

「郷に入っても郷に従わない」。コストコの世界進出はひたすら頑固だった。

世界で売れる絶品を探せ~人気を支える本当の理由

© テレビ東京
© テレビ東京

コストコが新しい店を出す際、必ず行っていることがある。その地域の優良な商品を発掘し、店頭に並べるようにすることだ。例えば浜松倉庫店なら地元で、絶大な人気を誇る相馬のパンや、「楽器の街」ということでデジタルのグランドピアノを販売した。

そのオープンからさかのぼること2ヶ月前。静岡市葵区の山の中にコストコのバイヤー、商品購買部・角薫の姿があった。浜松店で売り出す名産品の買い付けに来ていたのだ。

見に来たのは山肌を鮮やかに染めた茶葉。茶畑だ。作られているのは、徳川家康にも献上された由緒あるお茶「本山茶」。実はブランド化に出遅れ、静岡茶の中では埋もれた存在となっていた。「すごいんですよ、この甘みが」と角。本山茶は浜松店の新商品として、売られることが決まった。お茶農家の中山雅之さんは「コストコに入れただけでもすごいな」と、信じられない様子だ。

そして迎えたオープン当日、売り場に本山茶がズラリと並んだ。中山さんもお手伝いに来て、客に試飲を勧めている。「美味しい、美味しい」の声に、中山さんも感無量。「本山茶という名前も広まるし、いいことばかり。嬉しい限りです」と言う。

スタジオでテリオはこう語っている。

「コストコに商品が並ぶということは大量販売に繋がるので、地元メーカーにとって大きなメリットがあります。さらにコストコの近くにあるメーカーであれば、物流のコストも節約できます。結果的に地域の経済も活性化するはずです。地元企業と協力すれば、様々ないいことが生まれるんです」

一方、村上龍はコストコのホームページの採用に関する一文に注目した。そこには「コストコは、『機会均等主義をとっている企業』です。人種、宗教、肌の色、性別、年齢、身体障害、国籍、又は同性愛者か否かに係わらず、最適な人材を雇用し、各職務に就ける様、心がけています……」とあった。

「これはとても重要です。コストコは、同じレベルの仕事であれば、都会だろうが田舎だろうが同じ給料です。全員が平等。それが我々の大切にしている価値観なのです」(テリオ)

~村上龍の編集後記~

コストコは、日本に進出するとき、業務提携先を得られなかった。だがビジネスモデルを変えようとはしなかった。自分たちのやり方を貫いた。

「品質、低価格、清潔で安全な環境を追求し続けていれば、世界中どこでも成功する」

その戦略は、「人類は平等でなければならないし、共有すべき価値観があるはずだ」という哲学に基づく。それが、真のグローバルスタンダードだと思う。

従業員の採用では差別を排除し、徹底的に機会均等を守る。コストコのビジネスは、「フェアネス」「公正」という普遍的な源流に支えられている。

<出演者略歴> ケン・テリオ 1958年、カナダ生まれ。1975年、小売会社に就職。1995年、コストコホールセールカナダに転職。1998年、コストコ日本進出スタッフに選出。2009年、コストコホールセールジャパン社長就任。

放送はテレビ東京ビジネスオンデマンドで視聴できます。

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