残業を減らし、生産性を高める。今や企業経営者にとって喫緊の課題として取り組まなければならないことのひとつでしょう。生産性を高めるには、従業員にやる気を起こさせることが必要になります。それがインセンティブですが、会社が社員に何を求めるのか、インセンティブの設計がどれくらいのインパクトを持っているのかを人事評価制度の作り手は強く認識しておくことが必要です。インセンティブ設計は、優秀な人材ですら大きく変えてしまう危険性をはらんでいるからです。
インセンティブ次第で会社が揺らぐ
![(写真=LeoWolfert/Shutterstock.com)](https://cdn.zuuonline.com/600/400/uploads/0912.jpg)
数千億円規模の巨額の赤字を出し、有望な事業の売却に追い込まれ、いまなお、経営が大きく揺れている大手電機メーカーの不正問題。実は、人事評価制度に理由がありました。役員のいわゆる報酬、賞与は数千万円単位で業績連動でした。このように業績が賃金に反映されることはインセンティブとして用いられることが多く、とりたてて間違った設計とはいえません。
問題だったのは、その業績が、以前は年間の利益、いわゆる「期間PLの達成」がインセンティブ基準だったことです。そうした理由により不正が生まれたと第三者委員会が分析しています。不正を生んでまでも期間PLを達成することが、大きなインセンティブになってしまったということになります。
インセンティブの設計の仕方次第では、優秀な人たちさえも選択や決断を間違うことになってしまいます。場合によっては会社が大きく揺れてしまうことさえあり得るのです。
部下の残業時間を評価に入れてみると
日本を代表する企業ですら、人事評価制度というものさし一つで経営のかじは大きく揺らいでしまうことを考えると、いかにインセンティブ設計が重要かということがわかります。本来、動機付けとなるはずのインセンティブですが、それを正しく機能させるためには、多少の痛みも必要です。
たとえば、こうした方法があります。上司の評価に部下の残業時間を入れてみることです。タイムカードやICカードでの記録システムを採用していても、多くの会社では残業時間はいまだに自己申告であり、サービス残業も多いのが実態です。「部下の残業を減らせ」といい続けても減ることがないのは、社員の自己申告だからであり上司自身には痛みがないからといえます。
そこで「残業を減らさなければ、上司の評価が落ちる」という仕組みを作ります。自己申告による残業時間数ではなく、実際に残業させないように指導させることが上司にとっての課題となります。結果として、部下の残業が減らなければ、自分の痛みになってしまいます。
政府の働き方改革で、今や残業は社会問題になりかねない時代です。労働基準監督署の立ち入り調査や未払い残業代請求など、何かおかしなことが起きれば、残業ひとつで会社の屋台骨が揺らぐようなことが起こり得ます。それが自分の評価に連動するとなれば、否が応でも動くのではないでしょうか。
インセンティブ設計と人事評価制度で好循環を作る
残業を減らす以外にも、会社が社員に対して伸ばしていってもらいたい点、改善して欲しい点があるはずです。経営陣が求めていること、やってほしいことを、人事評価制度として設計すれば、それはそのままインセンティブとなります。
評価を賃金に直結させる。そうした制度が作られていれば、評価の上下は生活や人生に影響を及ぼすことになります。給与を下げることを選択する人はいません。漠然とした抽象的な目標ではなく、会社が求めることを社員の目標に結びつけ、評価のサイクルも早め、人材育成という視点や企業防衛という視点も持って、きちんと賃金に反映させていく。そうした制度をつくり、インセンティブ設計に同期させるようなシステムを設計する。会社の人事評価制度と処遇が合致すれば、結果的に会社が望んでいる新陳代謝が自然に進み、好循環が生まれるはずです。
インセンティブ設計や人事評価制度がない会社は新たに作成することが求められます。すでに何らかの制度がある会社は改定が必要であり、それなりの労力が求められます。しかし、シンプルにスタートできる中小企業だからこそ、制度の構築がしやすく、会社を変えていけるのです。
(提供: あしたの人事online )
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