「お客様と接する時間」以外はすべてムダだと考えよう

横山信弘 ,ムダとり,時短
(写真=The 21 online/横山信弘 (アタックス・セールス・アソシエイツ代表取締役社長))

「目標を絶対達成させるコンサルタント」として、数々の書籍や講演を通じ、効率的に目標を達成するための考え方・ノウハウを提言し続ける横山氏。しかし、ムダとりや時短について、いまだに多くの営業マンが重大な勘違いをしているという。一体どんな点に注意が必要なのだろうか?(取材・構成=前田はるみ、写真撮影=まるやゆういち)

「まず時短」では本末転倒になる!

営業マンはとかく残業が多いイメージがある。少しでも仕事のムダをなくし、効率化を図りたいというのは、誰もが感じているところだろう。ただし、「目標を絶対達成させるコンサルタント」として数々の営業現場を指導してきた横山信弘氏は、「目標を達成していない営業マンが時短を先に考えるのは、本末転倒になりかねない」と警鐘を鳴らす。

「ものづくりを例にとるとわかりやすいでしょう。たとえば、製造現場で欠陥品が出たとします。そこで『工程が長いから削減しろ』と言われても、品質が安定していない状態で工程を削減することはできませんよね。試行錯誤し、欠陥品をなくしたうえでようやく、『品質を維持しながらどの工程を削減できるか』を考えられるのです。

営業も同じで、まずは目標達成するためにどんな活動をどれだけ行なう必要があるのかを明らかにしなければなりません。そのうえで、ムダを見極め、減らしていくのが、正しい時短のやり方です」

会議は時間を縮めるより回数を減らすべき

そうはいっても、営業マンにとって、長すぎる会議や細かすぎる日報など、ムダに感じられる業務が多いのも事実。では、目標達成のためのムダとりとは一体どんなものか。横山氏は、「顧客と向き合っていない時間を減らし、顧客と向き合う時間を増やす。これが、営業マンの時短の軸になる」と話す。

「会議、メール、資料作成など、お客様と向き合っていない時間はたくさんあります。〝とりあえず〟送られてくる社内のCCメールや、部下の行動を監視したい上司を満足させるための日報などは、その典型。『どうすれば減らせるか』と聞かれることがありますが、見る必要のないメールは見ない、日報は分量を減らすのではなくやめる。つまり『減らす』のではなく『なくす』発想が重要です。

会議も、ゼロにするのが難しいなら、時間を短縮するよりも、これまで10回だったのを5回にするなど、『なくしていく』ほうが断然効果的な時短になります。そして生まれた時間を、お客様との対面に使うのです」

また、目標達成のためのムダとりは、これまで当たり前のように行なっていたムダな作業を、生産性の高い活動に「差し替える」ことでもある。その際カギとなるのは、「過去」から「未来」への視点の転換だ。

「過去の報告をもとに、『なんで結果が出ないんだ』と上司が怒鳴り散らす会議は、ムダです。反省は必要ですが、失敗の原因追及に時間を費やしても目標達成できるわけではありません。反省や叱責のための会議をやめて、次をどうするか、未来について話す会議に変えるべきです。未来のことはやってみなければわからないので『それ、やってみよう』で話が終わります。会議時間も必然的に縮まります。

同様に、過去の報告がメインの日報をやめ、代わりに行動計画を書きます。さらに、すでに関係のできているお客様へ足しげく通うのもやめて、連絡を電話やメールに変える。その時間で、新規のお客様への訪問を増やしていきます。

こうして、ムダな作業を生産的な活動に差し替えていくことが、目標達成への近道になります」

便利なメールが時間泥棒を生む!?

近年はコミュニケーションツールが多様化し、とくにメールは手軽な手段として多用されている。ただし、メールは利便性が高い一方で、「使い方によってはムダを生むので要注意」と横山氏は指摘する。

「とくに『朝イチのメールチェック』は仕事の効率を下げると私は思っています。メールを見ることで、『今日はあのお客様を訪問して、この商品を提案しよう。そのためには……』と考えていた思考の流れが遮断され、せっかく高まっていた集中状態が解けてしまうからです。

顧客第一を心がけていると、ついメールも気になりますが、緊急の用件なら電話で連絡があるはず。メールにいちいち対応していれば、お客様はなんでもメールで連絡してくるようになり、営業マンはそれに振り回されてしまいます。営業マンは、お客様を時間泥棒にしてはいけません。コミュニケーションの主導権を握るには、安易につながりすぎるのは問題なのです」

では、営業マンが心がけるべきコミュニケーションとは、どのようなものだろうか。

「直接コミュニケーション、つまり対面や電話を増やしていくべきでしょう。これは対顧客だけでなく、上司・部下との間にも言えます。タイムラグがあって話がかみ合わないメールよりも、直接話せる電話にします。また、会議よりも1対1の面談のほうが意思疎通でき、お互いの納得感は高まります。相手としっかり向き合うことがコミュニケーションの質を高め、質の高いコミュニケーションが効率アップにつながるのです」

ツールに頼らず「記憶力」を鍛えよう

さらに、手帳やデジタルデバイスでのタスク管理・スケジュール管理など、一見すると仕事の生産性アップに役立ちそうなこれらのツールも、頼りすぎれば生産性の低下を招くという。

「最近は便利なツールがいろいろ出ており、私も営業マンの必須アイテムは何かなどと聞かれることもあります。しかし、ツールに依存すると、営業マンとして覚えておくべき大事な事柄すら覚えられなくなってしまう恐れがあります。

たとえば、自分の目標数字と達成のためのアクションプランは、何も見なくてもスラスラ言えなければ営業マン失格です。また、お客様からの質問に『それは調べてみないとわかりません』と答えていては、機会損失になりますね。

私はメモ魔ですが、それは脳に記憶させるため。だから、メモの整理や管理に時間はかけません。大事なことはツールではなく頭に入れ、お客様のどんな質問にも対応できるようにする。それが時短につながります。

営業の要は、コミュニケーションです。マニュアルどおりにはいかないお客様とのコミュニケーションで主導権を握るには、ツール依存は最低限に抑え、何よりも自分の頭を働かせて脳の回転数を上げることが大切。いつも頭を働かせていれば緊張感が生まれ、適度な緊張感は効率を上げます。

もしかすると、これが最も効果的な時短術だと言えるかもしれません」

マイクロマネジメントは時間のムダ!

部下に指示を出す際に、部下が失敗しないように1から10まで細かく指示する人がいる。こうしたマイクロマネジメントは、かえって部下や上司自身の時間を奪うと横山氏は指摘する。

「細かく指示を出し続けていると、部下は自分の頭で考えられなくなり、思考停止状態に陥ります。そうなった部下に、『なんでできないんだ!』と怒鳴ろうものなら、部下は頭が真っ白になって、何も答えられないでしょう。もしもそんな部下がいるとしたら、それはあなたの責任です。過干渉によって部下の手足を縛ることは、部下の頭をフリーズ状態にさせ、回り回ってあなたの仕事効率も低下させるのです。

上司がすべき指示は、今期の目標数字などゴールの設定。一方、そのゴールをどうやって達成するかは、担当者に任せます。あるべき姿、すなわち『あり方』はしっかりと伝え、『やり方』は本人に任せるのが、ムダのない指示の出し方と言えます」(横山氏)

横山信弘(よこやま・のぶひろ)
〔株〕アタックス・セールス・アソシエイツ代表取締役社長
1969年、名古屋市生まれ。独立系最大手のITベンダー、日立製作所を経て、2004年アタックス入社。12年より現職。企業の現場でのコンサルティング支援を続けながら、年間100回以上の講演・セミナーをこなす。ベストセラー「絶対達成」シリーズの著者であり、メルマガ「草創花伝」は3.8万人の経営者、管理職が購読する。(『 The 21 online 』2017年8月号より)

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