一見ムダな雑談時間も、本当は重要

前川孝雄,部下への指示,仕事のムダをなくすコミュニケーション
(写真=photolibrary)

部下への指示がきちんと理解されずにやり直しになったり、報告や連絡が行き違いになって誤解が生じたり……、コミュニケーションのミスは、仕事を滞らせる原因となる。職場改革のプロであり、ダイバーシティにも詳しい前川孝雄氏に、仕事のムダをなくすコミュニケーションについてアドバイスをいただいた。《取材・構成=前田はるみ》

「普通はこう」という意識を捨てよう!

近年はダイバーシティの潮流を背景に、職場でのコミュニケーションがより難しくなっているのを感じます。年代や性別、国籍を超えて、価値観や働き方の異なる人たちが一つの組織に集うようになり、日本企業でこれまでなんとなく不文律として浸透してきたことが、通じなくなってきているのです。

そのため、上司は伝えたつもりでも、部下にすれば「それ、聞きましたっけ?」といったコミュニケーションのズレが至る所で起きています。その結果、互いの理解不足や誤解から、仕事のやり直しにつながるなどのムダが生じているのです。

こうしたコミュニケーションのズレを引き起こす要因の一つに、言葉の定義が人によって違うことが挙げられます。

たとえば、部下から声をかけられたものの、手が離せなくてすぐに応じられない場合、あなたならどう答えますか。「ちょっと待って。後で声をかけるから」と答えるか、あるいは「一時間後に手が空くから、もう一度声をかけてくれる?」と答えるか。これを管理職研修で問いかけると、参加者の多くは、上司から声をかけるべきだとして前者を選びます。

しかし、「ちょっと待って」の「ちょっと」とは、何分のことでしょうか。上司は1時間のつもりでも、部下は10分程度と解釈するかもしれません。部下にすれば、いつまで経っても上司から声がかからず、仕事の手を止めたまま1時間も待つというムダが生じます。部下への指示では、定義の曖昧な言葉は避けるべきで、先ほどの例では、「1時間後にもう一度声をかけてくれる?」が正しい選択です。

同じように、「普通はこうするよね」という言葉もよく聞かれますが、この「普通」も人によって違います。たとえば、「部下に仕事の計画を立てさせても、報告に来てくれない。普通は自分から報告するよね」という上司がいるとします。

これは、「普通」なのでしょうか。部下が報告をしないのは、その段階で報告する必要がないと思っているせいかもしれませんし、単にそのように教育されていないだけなのかもしれません。こういう場合は、上司から声をかければすむことでもあります。「普通はこうだ」と決めつけないことは、ムダな誤解や理解不足を防ぐためには重要です。

あえて「雑談の時間」を作る意味とは?

そもそも、一度伝えただけで、相手が百パーセント正しく理解することは難しいと思います。

昔は、組織に人的・時間的な余裕があったため、雑談や飲み会の場で「ああでもない、こうでもない」と議論しながら、コミュニケーションのズレや不足を埋めることができました。しかし、今は効率や生産性を追求するあまり、雑談などの機会が削ぎ落とされてしまっています。このことが、先ほど述べたダイバーシティの進展に加えて、職場でのコミュニケーションをより一層難しくしているのです。

とはいえ、今は子育てや介護などで働き方に制約や制限のある人が増えており、就業時間外の飲み会が最善の方法とは言えません。であれば、飲みニケーションに代わる今の時代に即したコミュニケーションの機会を、時間内で工夫するしかないと思います。

たとえば、私が経営する会社では、長期休暇後の最初のミーティングでは、休暇中の出来事について皆で一時間ほど話します。また週に一度、その週に読んだ本を互いに紹介し合う時間を設けています。仕事に直結するわけではありませんが、相互理解に大変役立っています。

一見するとムダに思える雑談も、コミュニケーションのズレや不足を補うためにはあえて必要ではないでしょうか。

定例の情報共有タイムで報連相のムダを排除!

最近は、プレイングマネジャーとして多忙な上司が増えています。そのため部下が報連相するタイミングをつかめず、仕事の進め方を誤った結果、取り返しのつかない事態を招くこともあります。そうならないよう、必要なときにコミュニケーションを取れるようにするには、次の二つの方法があります。

一つは、報連相の時間をあらかじめ設けておくことです。たとえば、毎週月曜日の朝九時から十時までを定例の情報共有タイムと決めておき、急ぎではない報連相はこの時間を利用するようにします。

もう一つ、緊急を要する報連相については、全員のスケジュールをオープンにしておくことで、部下は上司の空き時間を確認して報連相を行なうことができます。私の会社ではグーグルカレンダーやドライブを活用していますが、こうしたITツールを使えば、互いのスケジュールや進捗を把握でき、報連相のために声をかけやすいはずです。

さらに言えば、上司からの声かけがあれば、なお良いでしょう。「今週は水曜の午前中に比較的余裕があるから、何かあれば相談して」と声をかけておきます。このように、定例での時間の確保や、スケジュールの見える化と上司からの声かけを習慣化することで、報連相をスムーズに行うことができます。

「すべて監視する」姿勢は生産性を低下させる

こうした環境作りに加えて、本人の役割設定や目標設定を明確にしておくことが、実は仕事の効率を高めるために最も大事なことだと思います。

たとえば、プロジェクトの立ち上げのタイミングで、上司は部下に対して、部下に求める役割と目標を示し納得させます。そのうえで、目標達成のためのプロセスは、部下本人に設計させます。部下の行動をすべて管理しようとする上司がいますが、これでは部下のやる気を削いでしまいます。ゴールは上司が決め、プロセスは本人に任せる。これがメンバーの自律的な動きを促すうえで非常に重要です。

プロジェクトがスタートしたら、定期的に面談を行ない、本人が設定したプロセスどおりに進んでいるか確認します。基本的にはメンバーの自律的な動きに任せながらも、軌道修正や問題解決をサポートする時間を定期的に設けておくことで、結果的に仕事の生産性や効率アップにつなげることができるのです。

前川孝雄(まえかわ・たかお)〔株〕FeelWorks 代表取締役/青山学院大学兼任講師
1966年、兵庫県生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒業。㈱リクルートを経て、2008年に起業。「上司力研修」「働きがいサーベイ」「人を活かす経営者ゼミ」「育成風土を創る社内報」などを通じて、300社超で人が育つ現場作りを支援。〔株〕働きがい創造研究所会長。青山学院大学兼任講師。著書に、『「働きがいあふれる」チームの作り方』(ベスト新書)、『上司の9割は部下の成長に無関心』(PHPビジネス新書)など。(『 The 21 online 』2017年8月号より)

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