結果の平等と機会の平等

結果の平等を保証するというのは理想的に思えるが、残念ながら普通の人間は怠け者だ。頑張っても頑張らなくても結果がほとんど変わらないのでは、人々が努力を怠るようになる。20世紀末に社会主義国が次々と市場経済に転換した一つの理由は、あまりにも結果の平等を求め過ぎたからだ。結果の平等を作り出す政府による所得移転制度は必要ではあるが、やり過ぎると社会の活力を低下させるので望ましくない。社会の活力を維持しながら大きな不平等が生み出す社会的な問題を回避するには、機会の平等を保証して、結果は本人の努力次第という仕組みにすることが望ましい、というのが一般的な考え方だろう。

しかし、大学の入学試験のように全員が同じ問題を解くことにすれば、誰にも機会が平等に与えられているように見えるが、真の機会の平等を実現することは見かけほど簡単なことではない。家庭環境の差によって大学入学試験に対してどれくらいの準備ができるかには大きな差があるからだ。大学入試に有利な高校、さらに進んで競争は小学校や幼稚園のお受験にまで及んでいる。

親心と格差の悩ましい関係

親が子供のためになるようにと心を砕くのは自然なことだが、世代をまたがって格差を伝えていってしまうことには何か歯止めが必要だ。日本社会にこうした共通の考えがあるからこそ、遺産に累進税率の相続税を課して、親の資産格差がそのまま子供に伝わらないようにしているといえるだろう。能力があるにも関わらず学費が負担できないという理由で高等教育機関に進学できないという問題については、給付型奨学金を拡充させるなどの方策が考えられる。しかし、これだけでは教育が格差を拡大させている可能性があるという問題を解決することにはならない。

子供の幸福を願うのは誰しも同じだが、どの程度教育を重要と考えるかは人それぞれだ。子供に学校以外での教育を施すことが成績の差に繋がるといった問題を解決するために、社会が全ての子供に同じようなレベルの教育を提供することは無理だろう。ありきたりの方策ではあるが、学校の先生が教育に力を注げる環境を改善するなど、まずは誰もが必要と認めてきた義務教育の充実にもう少しお金を使うというところからはじめるのが妥当ではないか。

----------------------------------
(注1) Gregory Clark (2014) Princeton University Press, “The Son Also Rises : the surnames and the history of social mobility” (有名なヘミングウェイの小説「陽はまた昇る」The Sun Also Risesのもじりである)
(注2) Richard V. Reeves (2017), Brookings Institute Press, “Dream Hoarders: How the American Upper Middle Class Is Leaving Everyone Else in the Dust, Why That Is a Problem, and What to Do About It”
----------------------------------

櫨浩一(はじ こういち)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー

【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
教育無償化と教育国債~憲法改正、財政再建議論も重なり複雑に~
巻き起こる格差議論~ピケティ「21世紀の資本」の意味~
蟹工船ブーム
夢の実現を支える親の贈与
選択肢増える高齢期の住まい