シンカー:内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」では、団塊世代が後期高齢者となり医療費を含む社会保障費が膨張するとされる2025年度においても、民間貯蓄が過多であることが示されていることはあまり知られていない。もともと、しっかりとしたマクロ経済的な根拠もなく、2010年度頃の財政健全化計画の策定の時に、10年後が区切りがよいということで2020年度頃がターゲットとなったようだ。2025年度まで民間貯蓄が過多であるというマクロ経済的な根拠が示されているのであれば、ターゲットは2025年度に先送りしてもまったく問題はないだろう。民間貯蓄が潤沢である2025年度までは、財政を拡大してでも、名目GDP、すなわち所得を拡大するため、デフレを完全に脱却し、生産性の向上につながる、企業活動の活性化によるイノベーションと資本ストックの積み上げ、そして急なラーニングカーブを登る若年層の雇用の拡大を促進する必要があろう。10月22日の総選挙に向けた自民党の政権公約では、基礎的財政収支の黒字化の目標は堅持されたが、達成時期が示されなかった。2020年までは、財政政策を緩和し、デフレ完全脱却への動きを加速させる方針とすることは正しい選択だろう。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

「高齢化が進行する中で国内貯蓄の縮小による財政ファイナンスの困難化が懸念されるが、内閣府の試算では2020年度の基礎的財政収支黒字化の政府目標の達成は困難であり、財政緊縮を急ぐべきである」という形の論調がこれまで多かった。

しかし、同じ内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」では、団塊世代が後期高齢者となり医療費を含む社会保障費が膨張するとされる2025年度においても、民間貯蓄が過多であることが示されていることはあまり知られていない。

成長率の低い前提であるベースラインケースでも、団塊世代が後期高齢者となり医療費を含む社会保障費が膨張するとされる2025年度においても、民間貯蓄はGDP対比6.3%と過剰で、国際経常収支はGDP対比3.9%の黒字であると推計されている。

2025年度、ましてや政府の目標である2020年度をターゲットにして、国内貯蓄の縮小を警戒し、基礎的財政収支の黒字化を目指す財政緊縮を急ぐ必要性はほとんどなかったことを示している。

財政緊縮が急務であるという論調が依拠してきた内閣府の試算が、逆にその必要性を否定しているのは皮肉である。

消費税率引き上げにともなう税収を教育無償化などの「全世代型社会保障」に使うことにより、政府は2020年度の基礎的財政収支の黒字化のターゲットを先送りする方針だ。

もともと、しっかりとしたマクロ経済的な根拠もなく、2010年度頃の財政健全化計画の策定の時に、10年後が区切りがよいということで2020年度頃がターゲットとなったようだ。