タイプ分布の時系列変化
グラフ5は、各タイプの分布状況を年毎に記述して時系列の変化を見たものである。
こうやって見てみると、各年のタイプ分布状況はバラバラで、グラフ3の均等な分布状態は個々の年には現れていない。
AMベストはこのグラフについて、新興市場を含むタイプと先進国の保険会社間の国境を越えた取引のタイプが早い時期に優勢であったが、調査期間の後半には、ロンドン市場での取引タイプや一国市場内の統合タイプ、ランオフ取引タイプが登場して重点のシフトが見られる、後者のタイプは2014から2016年にかけて活発となり重要であったが、一方で前者のタイプは全期間を通して一定のベースと鳴り続けたと記述している。
またAMベストは、今後のタイプ分布においては、買収対象となるべき残された保険会社が少ないロンドン市場タイプ、競争政策等のために大規模な統合は散発的なものとならざるを得ないと見られる一国市場内統合タイプは大きな構成比を持続的に獲得することはないだろうとしている。
ちなみにEIOPAは先にあげたレポートの中で、M&A事例のうち、買収者が保険会社であるもの、2時点の株価等の必要情報を入手できるもの等の条件をクリアした343件のM&A案件を「ドメスティック(国内取引)」と「クロスボーダー(国境を越えた取引)」に、また「焦点化(事業分野集約)」取引と「多様化」取引に区別して、それぞれの分布状況を調べている(グラフ6)。
グラフ6を見ると、件数ベースでは、「ドメスティック(国内取引)」対「クロスボーダー(国境を越えた取引)」に関しては「クロスボーダー(国境を越えた取引)」が、「焦点化(事業分野集約)」取引対「多様化」取引では「多様化」取引が、時の経過とともに比率を高めているように見えるが、金額ベースでは必ずしもそうとは言い切れない。
M&A統計においては、時に発生する大型案件が統計に大きな影響を与えることがあり、なかなか一概には言い尽くせないようである。
さいごに
以上、米国AMベスト社のレポートを紹介する形で、2012年から2016年の間の欧州保険業界のM&Aの動きを見てきたが、その中で、低金利、市場の成熟化、海外進出と海外事業での収益化の難しさ(撤退)、新たな規制(ソルベンシーII)への対応の必要、中国等の新興勢力の市場参入など、欧州保険業界が直面している厳しい環境が見えた。欧州保険業界を取り巻く環境の厳しさは今後も緩むことはないと考えられるので今後も環境対応型のM&Aが続いていくことになるのだろう。
欧州保険業界が直面している困難は、基本的には、わが国の生保業界が直面している困難と何ら変わるものではない。その意味では、同様の動きがわが国でも起こりえると見て、今後の参考とすべきことも多いと考えられる。
松岡博司(まつおか ひろし)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部
主任研究員
【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
・
2014~2016年度経済見通し
・
株式市場における投資家の行動 -1990年代以降に関する一考察-
・
英国生保業界の変容-投資・貯蓄指向の生保経営 年金への傾斜が強まる-
・
米国生保業界における2016年のM&A、事業再編等の動向-数と規模は対前年で減少、目立つ環境対応、守りの姿勢-
・
欧米生保市場定点観測(毎月第二火曜日発行) EU域内の生命保険会社の状況―揺れる欧州、生保会社の経営はだいじょうぶなのか―