これが神田氏が「本棚に残した」24冊だ!

神田昌典,本棚,選ばれし24冊
(写真=The 21 online)

日本を代表するマーケターであり、希代の読書家としても知られる神田昌典氏。氏は最近、本との付き合い方を大きく変え、いわば「都合のいい読書術」にシフトしたという。

その具体的な内容は近著『都合のいい読書術』に詳しいが、本書の中に気になる記述がある。それは、神田氏が数百冊あった蔵書のほとんどを処分したこと、だが、それにもかかわらず本棚に残した書籍が24冊だけあった、という事実だ。いったい、その「選ばれし24冊」とはどんな本なのか。

以下、神田氏に1冊ずつご紹介いただいた。

1~3 世の中の「本質」が理解できる本

『流れと形』(エイドリアン・ベジャン、J・ペダー・ゼイン)


「Sカーブ」が不確実性を克服する』(セオドア・モディス)


『精神と自然――生きた世界の認識論』(グレゴリー・ベイトソン)

私が好んで読むのは自然科学系の本、それも世の中の本質的な構造を解き明かそうとするような本です。必然的に、本棚に残した書籍もそうした本が中心になっています。中でも多くの人にお勧めしたいのが 『流れと形』 です。すべてのかたちは「熱放射力学」によって作られているという「コンストラクタル理論」について説かれた本です。

この理論を一言で説明すると、「すべてのものは熱がスムーズに流れるようにデザインされていく」ということ。たとえば雷と樹木の筋、あるいは血管と河川の流れは驚くほど似たかたちを取るのですが、これは、熱がスムーズに流れるようデザインされた結果ということなのです。

私がこの理論について語る際にいつも挙げるのは、「アップルのコンピュータはなぜ静かなのか」という話です。アップルコンピュータの静音性についてはよく知られていますが、これはファンの数が少ないから。では、なぜファンが少なくて済むのか。それは、アップルのコンピュータが熱放射力学的に最適な構造をしているから、つまり、熱が最適に放出されるようなデザインになっているからなのです。アップルコンピュータの静音性はまさに、コンストラクタル理論によって実現しているのです。

そう考えたとき、この理論はさまざまな分野に応用できることがわかります。たとえば「情報」もまた熱の一つだと考えれば、それが最適に流れるような仕組みを作ればいいことがわかります。ウェブサイトなら、どんな構造で、どんなタイトルをつけ、どのくらいの文章量にするかなどを考えることで、最もスムーズに読んでもらえるウェブサイトになるのです。

続いてご紹介したいのが 『「Sカーブ」が不確実性を克服する』 。これは、商品のライフサイクルから景気の流れ、人の一生まで、すべては「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」という「Sカーブ」を描くことを説く一冊。これまた、時代の先を読み解き、ビジネスに幅広く応用できる本質的な知識をもたらしてくれる本です。

興味深かったのが、「モーツァルトは早死にだったのか」という事例。35歳で亡くなったモーツァルトは一般には「早逝の作曲家」とされますが、彼が残した作品の数をプロットしていくと、見事にSカーブを描くのです。導入期を経て成長期に一気に数が増え、そして徐々にペースダウンしていくのですが、すでに35歳時点でモーツァルトの作品数は90%を超えている。すなわち早死にとは言えない、ということになります。

これだけ見ると、「早熟な人はピークが早く過ぎてしまう」とも読めますが、著者であるモディスはこうも言っています。「教育者に転身することで、再びSカーブを描くことができる」。つまり、自分自身が「成熟期」に到達してしまっても、新たに教育者として人を育てることにシフトすれば、再びSカーブを描くことができるということ。人材育成の面でも示唆の多い一冊です。

この分野で最後にご紹介したいのは、 『精神と自然――生きた世界の認識論』 です。これは私が大学生時代に読みふけった本なのですが、内容以上に、「対話を通じて知を想像していくプロセスの重要性」に気づかせてくれた本でもあります。

ニューギニアの部落からサイバネティクスまで「生きた世界」をどう認識するかを説くという内容で、正直、内容は相当に難解です。ただ、本書は「娘との対話形式」になっているのです。そのため、難解な内容がわかりやすく、かつ味わい深く入ってくる。知の創造は対話によって行なわれるということを知る原体験になった一冊です。

4~6 「物語」の重要性を説く本

『英雄の旅』(キャロル・S・ピアソン)


『神話の法則』(クリストファー・ボグラー)


『Managing Corporate Lifecycles』(Ichak Adizes)

『英雄の旅』 および 『神話の法則』 はどちらも「ヒーローズ・ジャーニー」について扱ったものです。これはジョゼフ・キャンベルという人が提唱したもので、数々の神話を研究した結果、長年語り継がれてきた神話には「天命を受け、旅を始め、メンターに出会い……」といった一連の共通した流れがあり、ハリウッドでヒットした映画の大半もこれにプロットになっている、というものです。これもまた、情報はどうすれば最適な形で伝わるかという「本質」を教えてくれる理論に他なりません。

『英雄の旅』は、マーケターであるピアソンが、このヒーローズ・ジャーニーを元に人間のタイプを12に分け、それぞれの成長論について書いたもの。あの鏡リュウジさんが監訳しています。

一方、『神話の法則』はこの「ヒーローズ・ジャーニー」をより詳細に解説したもので、実際にどのようにストーリーを作るべきかを解説した本。作家や脚本家、ゲームのシナリオライター向けと言えるでしょう。

より正確には、ハリウッドの「ストーリーコンサルタント」のために書かれた本。これは映画化される前の脚本を読み、その価値を判断する職業。つまりハリウッドには株式アナリストのように、ストーリーの良し悪しを判断する「アナリスト」がいるのです。

「そんなことが可能なのか」と思う人もいるかもしれませんが、今ではアルゴリズムにより、かなりの程度までヒットの確率がわかるようになっています。そのことを詳述した『ベストセラーコード』という本がありますが、大ヒットした『君の名は。』を分析すると、このパターンに見事に当てはまっていることがわかります。

「Sカーブ」や「物語」の理論を、いかにマネジメントに落とし込むかが詳細されているのが 『Managing Corporate Lifecycles』 。会社の導入期、成長期、成熟期それぞれについて、どのようなマネジメントが必要で、どんな人材を採用すべきかが詳しく書かれた一冊です。Ichak Adizesの本は、本書を含めほとんど翻訳されていませんが、まさにマネジメントの天才。邦訳が出ることを望みます。

7~9 未来の日本・世界を読み解く本

『Generations: The History of America's Future, 1584 to 2069』(Neil Howe、William Strauss)


『情報と秩序』(セザー・ ヒダルゴ)


『文明崩壊』(ジャレド・ダイアモンド)

よく「歴史は繰り返す」と言われますが、実際にどのようなサイクルで歴史が循環するかを知れば、不確実な時代に先を読む大きなヒントになります。その一つが前述した「Sカーブ」ですが、本書 『Generations: The History of America's Future, 1584 to 2069』 もまた、不確実な時代に先を読む視点を与えてくれる1冊です。

ピューリタン、すなわち17世紀にアメリカ大陸に上陸した人々について、その後16世代にわたって詳細な分析を行なった結果、4世代ごとに同じようなサイクルが繰り返され、それが循環することで歴史が成り立ってきたということが明かされます。あのアル・ゴアが読んで感動し、自費で議員全員に配ったという一冊でもあります。

より大きな視点で未来予測を可能としてくれるのが 『情報と秩序』 です。「情報」という観点ですべてを説明する画期的な一冊です。

著者のヒダルゴは、太陽がフレアを出し続けるがごとく、地球は情報を生み出し続ける星だと説きます。たとえば、人間は木と紐を組み合わせて弓矢を発明する。これは既存のものとものが組み合わさり、新たな情報が生まれたことを意味する。さらに人類は蒸気機関やパソコンなど、どんどん新たなものを生み出し続けてきましたが、これもまた、地球が情報を生み出し続けるプロセスの一つ。彼によれば経済成長もまた、情報成長のひとつの表われにほかならないのです。

誰も情報の拡大を止めることはできない、と考えたとき、気になることがあります。このまま情報が拡大していくと、いずれネックとなるのは「人間」だということ。増え続ける情報に人間の処理速度が追い付かなく日がいずれやってくることが予想できるのです。時代が向かう先を占う意味でも重要な一冊だと思います。

では、このような変化の激しい時代に日本は生き残ることができるのか。そんな危機感を抱かせる一冊が 『文明崩壊』 です。

著者は、『銃・鉄・病原菌』などのベストセラーで知られる生物学者のジャレド・ダイアモンド。過去1万年近くに及ぶ全世界の文明を分析し、その崩壊の原因を探った結果、生き残った文明と崩壊した文明の違いが見えてきた。その分水嶺となったのは病原菌でも戦争でもなく、時代の変わり目において旧来の価値観を手放せたかどうかだった……。旧来の価値観に囚われて、新しい価値観を作り上げられなかった社会は崩壊するという現実をまざまざと突き付けられる一冊です。

今の日本もまさに、時代の変わり目にあります。日本は旧来の価値観を手放すことができるかが問われています。

10~13 誰もが知る名作

『モモ』(ミヒャエル・エンデ)


『かもめのジョナサン』(リチャード・バック)


『天平の甍』(井上 靖)


『善の研究』(西田幾多郎)

ここからは、誰もが知る名作でありつつ、今でも本質的な気づきを与えてくれる書籍を。まずはご存じ、ミヒャエル・エンデの代表作 『モモ』 。「時間どろぼう」とちょっと変わった女の子「モモ」の間で繰り広げられる不思議な物語ですが、ご存じのとおりそこには資本主義・管理社会に対する数多くの問題提起や警鐘が含まれています。今読んでも色あせない優れた童話であり、寓話です。そして、本書で触れられている貨幣中心社会への本質的な矛盾は、今でも解決されていないと感じます。

『かもめのジョナサン』 は、群れから追放され、自分自身の限界を突破しようと飛び続けたカモメ・ジョナサンの物語。これはまさに、前述の「英雄の旅」(ヒーローズ・ジャーニー)そのもの。非常に短い短編ですが、そのエッセンスが余すところなく凝縮された見事な作品です。

井上靖の名作 『天平の甍』 は、奈良時代、請われて中国から日本を目指した鑑真和上が、幾多の苦難を経て日本にたどりつくまでを描いた物語です。鑑真和上の不屈の精神もさることながら、私が注目したいのは、当時の日本が思いのほかオープンで多民族だったという事実です。

鑑真和上のみならず、奈良時代の日本には数多くの外国人、しかも世界最先端の知識を持った人々が集っていました。当時の中国はまさに世界中から人々が集まる多民族国家で、インド人や西域のソグド人などさまざまな人々が活躍していました。奈良時代の日本人は、そんな国際的頭脳集団を丸ごと国に移植しようとしたわけで、鑑真の来日もまた、その文脈でとらえられるわけです。

つまり、奈良時代の日本は思った以上にコスモポリタンだった。今の日本は、そうしたベースの上に成り立っている。日本の国際化を考えるに当たり、考えさせられる一冊です。

『善の研究』 は、日本を代表する哲学者、西田幾多郎の代表作。1911年に刊行されて以来、時代の変わり目になるたびに求められてきた本です。

ただ、正直、あまりに難解で、一字一句をしっかり理解しようとすると相当に困難な一冊でもあります。ただ、面白いのがこの本を読書会――つまり、複数の人で集まって一緒に読むことで、内容がスッとわかるのです。

難解な本こそ読書会で、という好例として挙げておきたいと思います。

14~16 名経営者の視点を追体験できる本

『ブランド帝国LVMHを創った男 ベルナール・アルノー、語る』(ベルナール・アルノー)


『小倉昌男 経営学』(小倉昌男)


『起業家福沢諭吉の生涯』(玉置紀夫)

私がメンターとしている経営者の一人が、ベルナール・アルノー。ルイ・ヴィトン、ディオール、フェンディ、ホイヤーなど数々のブランドを買収し、世界最強のブランド帝国であるモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)グループを作った「帝王」。欧州の長者番付の常連でもあります。

まったく畑違いに思える彼をメンターにしていることを意外に思われるかもしれません。ですが、彼がやったのは老舗ブランドを現代によみがえらせたということ。一方、私がやりたいことは、人のブランドを束ねていくこと。どちらも「ブランド」がカギであり、ブランドをどう生かし、経営をしていくかという点で、非常に多くの示唆を与えてくれます。そんなアルノーの著作 『ブランド帝国LVMHを創った男 ベルナール・アルノー、語る』 は、節目で何度も読み返してきた一冊です。

日本人で尊敬する経営者も数多くいますが、ヤマト運輸元社長の小倉昌男氏もその一人。ご存じ「宅急便」の生みの親です。著書 『小倉昌男 経営学』 はまさに「事業開発戦略の教科書」といえる名著です。

本書には小倉氏が社員の抵抗や国の規制などさまざまな困難にあいながら、何を考え、どういう苦労をした結果、宅急便を生み出したというプロセスが赤裸々に描かれています。これはつまり、事業を立ち上げ、成功に導くまでの困難や苦労を疑似体験できるということ。これほど貴重な読書体験はありません。

『起業家福沢諭吉の生涯』 は、教育者として知られる福沢諭吉の「起業家」の側面に光を当てた本。実際、彼は教育者であるとともに起業家、経営者であり、同時代の経営者たちとの付き合いも深かったそうです。ただ、そのため「学商」――すなわち、学問を使って商売をしている人と批判されていたというのです。

これは、後世になって評価される人が、必ずしも同時代人から正当に評価されているとは限らない、ということです。新しいことを始めるとどうしても批判を受けがちですが、そんなときにぜひ読んでほしい一冊です。

17~19 とにかく使える本

『ザ・ワーク』(バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル)


『Provocative Coaching: making things better by making them worse』(Jaap Hollander)


『頭脳の果て』(ウィン・ウェンガー、リチャード・ポー)

私は物事の本質を解き明かすような本をよく読むというお話をしましたが、ノウハウ本や即効性のある本も嫌いではありません。むしろ、その根底にしっかりした理論があるノウハウ本は好んで読みます。そんな中でもとにかく「実用的」な本を紹介してほしい、と言われたら、まずはこの 『ザ・ワーク』 を挙げたいと思います。

副題「人生を変える4つの質問」のとおり、4つの質問をするだけで目の前の問題がみるみる消えていくというもの。4つの質問とは、「それは本当でしょうか?」「その考えが本当であると、絶対言い切れますか?」「そう考えるとき、(あなたは)どのように反応しますか?」「その考えがなければ、(あなたは)どうなりますか?」というシンプルなものですが、効果は絶大です。

『Provocative Coaching: making things better by making them worse』 は、残念ながら邦訳は出ていませんが、これも非常に面白く、かつ役立つ本です。

内容はとにかく刺激的。ひと言で言えば「相手を侮辱、挑発することで成長を促す」というコーチング方法。つまり、パワハラ・セクハラに近いことをすることで成長させるという毒のあるテクニックなのです。

ちなみに本書の根底にあるのは、「成熟した大人として人を育てるよりも、『道化師』として育てたほうが、成長は早い」という考えです。これは人間の本質をついていると思います。確かに人間的に成熟できればそれに越したことはないけれど、時には道化師・ピエロになることで、何かに挑戦したり、悩みを吹っ切ることが大事なこともある。

しばしば「最もお金を稼ぐのはコメディアンだ」と言われます。確かに、トム・クルーズよりもビル・コスビーのほうが、日本ならキムタクよりもタモリのほうが稼いでいる。さらに、寿命も長いと言われます。その問いに対する答えがここにあるかもしれません。

もし私が「その本を読んだことで、最も稼がせてもらった本」を挙げろと言われたら、本書 『頭脳の果て』 になると思います。本書で取り扱っているのは「いかにアイデアを生み出すか」ということ。それも、ロジックだけでなく、「イメージ」の力によってアイデアを引き出すための具体的な方法論が紹介されています。

今の時代、最も価値あるものは「アイデア」です。シリコンバレーのベンチャーキャピタルの間では、「一番価値のあるものはアイデアであり、一番安いのはお金」という考えが常識。つまり良質なアイデアこそが最大の価値を持つ。では、そのアイデアを作り出すための方法とは何か。それを教えてくれるのが本書なのです。

20~21 人間の可能性を知るための本

『「思考」のすごい力』(ブルース・リプトン)


『あるヨギの自叙伝』(パラマハンサ・ヨガナンダ)

本書 『「思考」のすごい力』 の著者は細胞生物学者。研究の結果、細胞には知性があることがわかった。一般には遺伝子が人間をコントロールしていると言われているが、実は細胞こそが意識や環境をコントロールしており、逆に我々が抱く思考もまた、細胞に強い影響を与える……。

本書については話し始めるとキリがありませんので、このくらいで(笑)。とにかく画期的な本です

ある意味、さらにとんでもない一冊がこの 『あるヨギの自叙伝』 。インドのヨギ(ヨガ行者)の自叙伝なのですが、現代の常識から言えば、はっきり言って常識外な内容。300歳まで生きる人の話とか、空中を飛ぶ人の話とか……。正直、「本当かいな」という内容です。

ただ、本書が私にとって忘れられないのは、本書を私に勧めてくれたのが、「アイボ」開発者として知られる元ソニー上席常務の土井利忠氏だったこと。「天外伺朗」というペンネームでの著作活動でも知られています。私は20代の頃、土井さんと直接接する機会を得たのですが、その際にいただいた読書リストにこの本があったのです。

ちなみにそのリストに載っていたのはいわゆる「スピリチュアル」と呼ばれる本ばかり。ただ、土井氏始め当時のソニーの人たちはこうした本を読み漁りながら、次々に斬新な製品を生み出し、急成長していったのも事実です。ちなみに本書はあのスティーブ・ジョブズが唯一、自分のiPad2にダウンロードしていた本としても有名です。

22~24 私の「原点」を作ってくれた本

『マーケティング・マネジメント』(フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー)


『コーポレート・ファイナンス』(リチャード・A・ブリーリー、スチュワート・C・マイヤーズ、フランクリン・アレン)


『パンツをはいたサル』(栗本慎一郎)

『マーケティング・マネジメント』 と『 コーポレート・ファイナンス』 の2冊は、私がビジネススクールに留学していた時に読んだもので、MBAの必読書であるとともに、私にとってもやはり原点といえる本。その後もいろいろなマーケティング本を読みましたが、やはり自分のマーケティングの原点はコトラーであると感じます。

マーケティング戦略がわかっているからこそ、それをさまざまな分野、たとえばコピーライティングなどにも応用できますし、最新のマーケティングオートメーションなどを理解するためにも、やはり 『マーケティング・マネジメント』 の知識は非常に役立ちます。

一方、 『コーポレート・ファイナンス』 ですが、実は私はMBAではマーケティングではなくファイナンスを専攻していました。ただ、それがマーケティングの役に立っていないわけではなく、むしろ最新のマーケティングを理解するためには、数字の知識が不可欠です。

最後にご紹介する 『パンツをはいたサル』 は、実はこのリストを作るに当たって久しぶりに思い出した本なのですが、思い返してみれば、まさに私の原点を作ってくれた本だと再確認しました。何より、本質を見ることの重要性について目を開かせてくれた一冊。消費社会の原点はどこにあるのかを説く名著で、今読んでも十分に刺激的です。

栗本氏が専門とするのは「経済人類学」。今はやりの「行動経済学」に似ていますが、似て非なるものです。ちなみに、実は行動経済学は新しい概念のように思われていますが、その内容はマーケティングの世界ではすでに、100年前から言われていたことにすぎません。

それよりも私は栗本氏の「経済人類学」に魅力を感じます。経済現象を研究する文化人類学の一分野で、よりスケールの大きなもの。たとえば、「なぜ戦争は繰り返されるのか」「なぜ極右政権は生まれるのか」といったことを、経済学の視点も踏まえて解き明かしていくものです。ちなみに栗本氏はその研究から、トランプ政権の誕生を予見していたことでも知られています。

読書により、人生に奇跡を起こすことができる

以上が私の本棚に残った24冊です。

正直、難解な本が多い。「分厚い本を一冊読むのも大変なのに、24冊なんて無理だよ」という声が聞こえてきそうですが、心配はいりません。

めまぐるしく進化するテクノロジーと違って、「本を読む」という行為はアップデートされないと思っている人も多いかも知れませんが、それは間違っています。

実はすでに「本は一人で読むもの」という常識は過去のものなのです。では、これからの読書とはどんなものか……それについてはぜひ、拙著『都合のいい読書術』を読んでいただきたいと思います。

読書には、人もお金も動かすことのできる、奇跡的なまでの力があります。それをぜひ、実感してください。

神田氏が「本棚に残した」24冊

『流れと形』(エイドリアン・ベジャン、J・ペダー・ゼイン)
『「Sカーブ」が不確実性を克服する』(セオドア・モディス)
『精神と自然――生きた世界の認識論』(グレゴリー・ベイトソン)
『英雄の旅』(キャロル・S・ピアソン)
『神話の法則』(クリストファー・ボグラー)
『Managing Corporate Lifecycles』(Ichak Adizes)
『Generations: The History of America's Future, 1584 to 2069』(Neil Howe、William Strauss)
『情報と秩序』(セザー・ ヒダルゴ)
『文明崩壊』(ジャレド・ダイアモンド)
『モモ』(ミヒャエル・エンデ)
『かもめのジョナサン』(リチャード・バック)
『天平の甍』(井上 靖)
『善の研究』(西田幾多郎)
『ブランド帝国LVMHを創った男 ベルナール・アルノー、語る』(ベルナール・アルノー)
『小倉昌男 経営学』(小倉昌男)
『起業家福沢諭吉の生涯』(玉置紀夫)
『ザ・ワーク』(バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル)
『Provocative Coaching: making things better by making them worse』(Jaap Hollander)
『頭脳の果て』(ウィン・ウェンガー、リチャード・ポー)
『「思考」のすごい力』(ブルース・リプトン)
『あるヨギの自叙伝』(パラマハンサ・ヨガナンダ)
『マーケティング・マネジメント』(フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー)
『コーポレート・ファイナンス』(リチャード・A・ブリーリー、スチュワート・C・マイヤーズ、フランクリン・アレン)
『パンツをはいたサル』(栗本慎一郎)

神田昌典(かんだ・まさのり)経営コンサルタント・作家
上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済部に勤務。戦略コンサルティング会社、米国家電メーカーの日本代表として活躍後、1998年、経営コンサルタントとして独立。コンサルティング業界を革新した顧客獲得実践会を創設(現在は「次世代ビジネス実践会」へと発展)。日本最大級の読書会『リード・フォー・アクション』主宰。
主な著書に『2022―これから10年、活躍できる人の条件』(PHPビジネス新書)など。(『 The 21 online 』2017年09月29日公開)

【関連記事 The 21 onlineより】
日米のカリスマが明かす「時間管理術」とは?
神田昌典×竹田恒泰<特別対談>今、必要な勉強とは〔1〕
できる人が書店に足を運ぶ理由とは?
サクッと読めて身につく「スマホ的読書術」のススメ
なぜ、できる人は「本」を読むのか?