前編 ではFOLIOの事業概要だけでなく、大学を休学してプロボクサーとして新人王をめざした挑戦や、ゴールドマン・サックス、バークレイズ証券時代の話についてうかがった本対談。後編では起業に至るきっかけと、同社が構想している将来について聞いた。(構成・ 濱田 優 ZUU online編集長 /写真・森口新太郎)

前編はこちらから

甲斐真一郎(かい・しんいちろう)
1981年生まれ、2006年、京都大学法学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券入社。金利トレーディング部で日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券同部署に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。2015年11月にバークレイズ証券を退職し、12月より現職。 フォリオWebサイト

フィンテックに出合った衝動で3カ月後には辞職の話をしていた

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(写真=森口新太郎)

松田 ゴールドマンで5年ほど金利(日本国債、金利デリバティブ)のトレーダーをした後、バークレイズ証券で金利オプションデスク責任者をしながら、トレーディングアルゴリズムチームの立ち上げまで行ったと。なぜ起業しようと思ったのですか?

甲斐 衝動です。辞めざるを得ないくらいのワクワク感が外の世界にあったからです。

トレーダー時代はお客さんにヘッジファンドの方も多かったので、海外のニュースを毎日チェックしていました。そんな中、2015年1月あたりに見た記事で、フィンテックという領域がアメリカでどんどん成長してきているのを読んだんです。P2Pレンディングや、ロボアドの誕生など。面白そうだったのでどんどん深堀していきました。仕事をしながら各フィンテック企業のビジネスモデルをザーッと調べていったら、すごいワクワクに満ちていた。そして、「日本こそ、この技術を取り入れて変わるべきじゃないか」と思い、3カ月後の4月には上司と会社を辞める話をしていましたね。

松田 スピード感がめちゃくちゃありますね。フィンテックは広範な概念ですが、今の事業にたどり着くまで、ご自身の中で何かインスピレーションはあったのですか?

甲斐 私はディーラー、トレーダーですから、知見のある資産運用系のことをやりたいという思いは初めからありました。フィンテックというと、何かアプリケーションを作ることが多いと思うんですけど、僕が作りたかったのはアプリではなくプラットフォーム。やるなら世の中にインパクトを与えられる事をやりたいと思って証券会社を作りました。証券会社を作ったほうが日本を変えられるなと。

松田 走りながら考える。よく分かります。「日本を変える」と思われたのはなぜでしょうか?

甲斐 当然日本人だからということもありますが、「変えたい!」というより「変わらなければまずいな」という危機意識の方が強いかもしれません。その根本的な理由の一つが金融です。預貯金が1000兆円くらいあって、お金が対流していない。血液が流れていない巨大な体を抱えて、このまま日本はどこへ行くのかと。そこを変えないと間違いなく日本は傾いていくと考えています。自分には子供が3人居るのですが、子供達が大人になるころには相当危ないんじゃないかという危機感があって、より一層自分事化して考えてしまいますね。

松田 飛び出した後、どうやって仲間を集めたのでしょうか?

甲斐 8月から人集めとお金集めを始めました。投資家のコミュニティーに行ったりエンジニアに会ったり。一番重視したのは「エンジニアをいかに採用するか」。ずっと金融に居たので金融の人間は何とか誘えるかなと。エンジニアの雇い方が分からなかったので、エンジニア探しの旅に出ようと思っていたら、なんと一番初めに出会ったのエンジニアが、共同創業のデザイナー広野萌(注1)です。彼は当時Yahoo!にいたんですが、間違いなく日本でトップレベルのクリエイター。彼が僕のイメージ、アイデアをプロダクトに落としこんでくれた。実はお見せしたこのサービスの画面って創業前からあるんです。

注1) UI/UXデザイン担当。早稲田大学在学中から数々のハッカソンで優勝するなど活躍。日本最大級のハッカソン「Open Hack Day」最優秀賞受賞。ヤフー時代にはアプリのUIや機能に関する特許出願も。国内外のプロダクトコンテストで30以上の受賞歴を誇る。

実は創業者の家系。尊敬する同世代の経営者は?

(写真=森口新太郎)
(写真=森口新太郎)

松田 創業前に既にアイデアがあったということ。

甲斐 アイデアとしてもあるし、このビジュアルでこうした機能も想定していました。(ビジネスで使える)このレベル感のものを彼は数時間程度で実装してしまう。そんなデザイナーっておよそ日本であまり存在しないと思いますよ。そして彼が入ってくれたから優秀なエンジニアが集まってくれた。バークレイズで一緒だったCOOの梶原をはじめ、インベストメントサイドのメンバーにも恵まれました。

松田 すごいな。先ほど「総選挙」の企画をされているとうかがいましたが、私は政治の世界でも同じような事をやろうとしました。日本を元気にする会を立ち上げた後、国民投票をもっと身近にネットでやりたいと提案した。現在の日本における「国民投票」は憲法改正の時にしか行われませんが、たとえば「原発をどうするか」といった国の重要事項も、国民に問いかけるべきだと思います。我々もその為のサイトを作ったんですけど、デザインは……。パッと見でヒキがないとダメですよね。

広野さんのような人材に早い段階で出会えた「運」は、やはり必死になって努力していたから得られたんでしょう。昔から会社経営をしたいと思っていらっしゃったんですか?

甲斐 「経営をしたい」っていう気持ちは昔からありました。トレーダー時代に焼き肉店への投資も検討していましたし。創業者が多い家系なんですよ。父親もいくつか会社を経営してましたし、ブイテクノロジーという上場企業があって、液晶の検査装置の会社で時価総額1000億円ぐらいの会社なんですが、そこの創業者が叔父だったりもします。

松田 同世代ぐらいの経営者の方で意識していらっしゃる方はいますか

甲斐 経営者の友達っていうのは何人か居ますけど、尊敬しているのは元ミクシィ社長の朝倉祐介君ですね。彼とは就職活動時代に知り合ったんです。彼も元ジョッキーで、僕はボクサーで、東京と関西の変なやつを引き合わしてやろうという友達がいて。起業するときも少し相談させてもらったり、いろいろアドバイスもらったりしました。

テーマ投資は他の証券会社でもできる でもFOLIOにしかできないことがある

(写真=森口新太郎)
(写真=森口新太郎)

松田 先ほどサイトを見て自分もやってみたいと思いました。現在はベータ版を人数限定の招待制で運営していて、11月にベータ版を一般公開する予定でしたね?

甲斐 ありがとうございます。はい、だからもう今追い込みですね。本当に僕らがやりたいことは2,000万人をいかに動かすかということ。

その人たちがいるのは経済圏ではなくて生活圏。生活イコール消費、つまり消費と投資をまったく別物としていて、「自分には関係ない」「縁遠いもの」と決め付けてしまっている。そこを変えていきたい。

「テーマ投資」の機能の部分だけ切り取ると、「他のオンライン証券でもできるのでは」というご指摘もあるんですが、テーマ組成の方法、こういったこだわりぬいたUIやUX。誰でも使えるような証券会社をゼロから全部作っているのがフォリオの強みです。

投資ポートフォリオのイメージって白黒とか単色のイメージだと思うんですよ。でもたとえば広島カープファンのポートフォリオは真っ赤でいいじゃないですか。自分のポートフォリオのグラフがカラフルで見ていて楽しければ、インスタに貼りたいって思う人もいると思うんです。世界を探しても“インスタ映えする投資”って多分無いですよ。

松田 インスタ映えする投資ね、なるほど面白い。

甲斐 さすがに「どこどこの株で100万もうかった」ってインスタに載せる人は居ないでしょうけど、画になるものをSNSでみんなが載せてたら「自分もちょっと投資やってみようかな」って思うんじゃないかな。こういう世界観って、ゼロからエンジニアとデザイナーたちで作り上げた金融機関でないと作れないと思います。

松田 本当にそうですね。口座数や売り上げなどの目標はありますか?

甲斐 ベータ版提供のための事前登録件数が、かなりの数にのぼります。事前登録者全員が口座開設はしてくださるわけではありませんが、非常にありがたい数字だと思っています。目標についても具体的なものは公表していませんが、IPOは目指しています。証券会社として、大手の仲間に入るぐらいの口座数は獲得したいと思います。2000万人を動かそうと思っているんですからそれは当然ですよね。

松田 ZUU onlineの読者さんには投資家やVCの方もいらっしゃるんですが、たとえば資金調達はもうワンラウンド、ツーラウンドぐらい考えていらっしゃるのでしょうか。

甲斐 証券会社なのでかなりお金が必要ですし、我々は証券会社だけでは終わらないつもりで、もっと拡大していきたいのでラウンドはやります。ただ詳細については非公開で進めております。

松田 これまでに既に21億円調達しているんですよね。。タリーズコーヒー、ナスダック・ジャパン上場時の何倍もあります。

日本の資産運用を盛り上げるための一歩とは?

松田 最後にフィンテック全般のお話もうかがいたいと思います。今後、日本がどうあるべきか。私は政治も古い産業も中央集権型ではなく分散型の時代にするべきだと考えています。この流れはフィンテックの分野でも起きていて、ブロックチェーンはまさに分散型の時代の象徴だと思います。

日本の金融業界は、護送船団といわれた時代からフィンテックの出現もあって、大きく変わってきています。この流れに期待していますが、懐疑的な見方、批判をする人も多い。たとえば金融庁など行政、政治に変わって欲しい点はありますか?

甲斐 金融庁は森信親長官の下、フィンテックにも理解があってよりお客様が使いやすいサービスや商品に非常に好意的に話を聞いてくださる体制になってきていると感じています。しかし、日本が遅れていると感じるのは例えばですが本人確認(KYC:Know Your Customer)のオンライン化ではないでしょうか。証券会社の口座開設がオンラインで完結できない。僕らもできる限り簡素化していますが、最後は本人確認の郵便物を送って確定する必要がある。

ここまでいってほしいとは思いませんが、たとえば中国ではセルフィーで写真を送って本人確認が終わりというサービスもある。日本のKYCプロセスの煩雑さ、書類文化、ハンコ文化、まだまだ改善の余地はありますね。口座開設のプロセスで半分ぐらいの人が離脱してしまうんですよ。せっかく資産運用に興味を持ってきているのに、オンライン化できていないことで多くが離脱しているというのは、早々に改善していかなければならないポイントのひとつだと思います。

松田 私も銀行員でしたからよく分かります。印鑑は誰かが勝手に押すことだってできてしまいますから。

甲斐 日本の資産運用を盛り上げるには、まずオンラインで完結する本人確認の実現、しかしそれのみならず、我々の様なUI/UX・機能性にもこだわりを持った新しい証券会社がどんどん出てくることが証券業界の新陳代謝を生み出し、よりお客さんに寄り添ったサービスが残っていくためにも必要だと考えています。

(写真=森口新太郎)
(写真=森口新太郎)

公太's EYES

「テーマ投資」とだけ聞くと、そう珍しいサービスではないように思えますが、FOLIOの投資家が使う画面を実際に拝見して、従来のものとは明確に違うことに驚き、自分もやってみたいと思いました。投資に関心があるけど未経験だという潜在投資家が2000万人いるそうです。こうした初心者でも始めやすいサービスがあれば、日本の投資家が一気に増える、その起爆剤となるかもしれませんね。

松田公太(まつだ・こうた)
1968年生まれ。5歳から17歳までの大半を海外で過ごす。三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)を経て、97年にタリーズコーヒー日本1号店を創業。翌年タリーズコーヒージャパン設立。2001年上場(MBOで非上場化)。07年社長退任。09年にEggs ‘n Things (エッグスンシングス)の世界展開権(米国除く)を取得し、EGGS ‘N THINGS INTERNATIONAL HOLDINGS PTE. LTDをシンガポールに設立。10年、原宿に日本1号店開業、「パンケーキブーム」の火付け役に。参議院議員(東京選挙区)の任期を満了、飲食事業や自然エネルギー事業で精力的に活動中。

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