アメリカ合衆国の金融政策は、日本をはじめとして世界中の金融情勢に大きな影響をもたらすことが多い。アメリカの金融政策は、アメリカの中央銀行と言える連邦準備制度理事会 (FRB) によって決定されている。今回はアメリカの金融政策を読み解くうえで注目したい「イエレン・ダッシュボード」について解説する。

(写真=PIXTA)
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イエレン・ダッシュボードとは

FRBは7人の理事によって構成されており、議長は大統領が指名する。現在は2014年に第15代議長に就任したジャネット・イエレン氏が務めている。FRBの意思決定は合議制であるものの、議長であるイエレン氏が一定の影響力を持っていると言われている。

「イエレン・ダッシュボード」とは、FRB初の女性議長であるイエレン氏が、今後の金融政策を判断するにあたり重要視する9つの雇用関連指標 (ダッシュボード) のことだ。なお、これはイエレン氏本人が正式に発表したものではなく、イエレン氏の講演や会見などを基に、アメリカのメディアが分類したものだ。

ただ、イエレン氏は行動経済学を専攻とする経済学者であり、そのイエレン氏の講演や会見で話題にのぼった指標をまとめているので、世界の金融情勢を左右する女性と言えるイエレン氏の思考回路を読み解くヒントになることは間違いない。なお、9つの雇用関連指標とは、以下の通りである。

  • 非農業部門雇用者数 (Nonfarm payrolls)
  • 失業率 (Unemployment rate)
  • 労働参加率 (Labor force participation rate)
  • 広義の失業率 (U-6 underemployment rate)
  • 長期失業者の割合 (Long-term unemployed share)
  • 退職率 (Quits rate)
  • 求人率 (Job openings rate)
  • 採用率 (Hires rate)
  • 解雇率 (Layoffs and discharges rate)

これらのうち、非農業部門雇用者数、失業率、労働参加率、広義の失業率、長期失業者の割合については、米国雇用統計で発表されるものである。退職率、求人率、採用率、解雇率に関しては月次求人労働異動調査で発表されている。

米国雇用統計は原則的に、毎月第1金曜日にアメリカ労働省の労働統計局が発表している。時差はあるが、毎月ニュースなどで報道されているので注目するといいだろう。

雇用統計のヘッドラインだけで判断しない

ただ、雇用統計に関するニュースは、非農業部門雇用者数と失業率、平均時給の3つにフォーカスした報道が多い。しかし、本当にイエレン氏がイエレン・ダッシュボードを基に金融政策を判断しているならば、上記の3つだけで雇用情勢を全て表しているとは言い難い。

例えばU-6と呼ばれる広義の失業率は、通常の失業者に加えて「フルタイム勤務を希望しているがパートタイム勤務にしか就けていない人」や「ある時点まで求職活動を行っていた人」などを加えて計算する。従って、U-6失業率の数値は、通常の失業率よりも高くなる。

しかし、近年はライドシェアサービスにドライバー登録して副業をしたり、1つの職にフルタイム勤務するよりもダブルワークの方が自分のライフスタイルに合っていると感じて敢えてフルタイムに就かなかったりするケースもあるようで、賃金上昇とU-6失業率低下に硬直性があるとも言われている。

雇用市場はより複雑化しており、様々な角度から観察、分析しないと実態を把握するのが難しくなっている。雇用統計が良かったというニュースを見て利上げが近い、悪かったニュースを見て利上げが遠のいた、と判断するのは早計だろう。少なくとも、雇用統計のヘッドラインだけで判断はしないようにしたい。

アメリカの金融政策の動向を投資に生かす

アメリカの金利が上昇すると、日本円との金利差が拡大し、ドル高円安が進みやすいと言われている。円安になると、日本における輸出企業にとってはモノが売れやすくなるため良い傾向となる。一方で、円安になると輸入品にかかるコストが増えるため、国内のスーパーなどで商品が値上がりするという影響もある。

また、これは一般論であるが、アメリカの金利が上昇すると利ざやが拡大するため銀行業界にとって追い風である一方、ローン金利上昇で消費者マインドが減退するため自動車業界や不動産業界にとって向かい風、などと言われることもある。

もちろん、利上げされたからといって必ずしもこのような影響が出るわけではないが、アメリカの金融政策の影響力は大きい。「イエレン・ダッシュボード」の存在も頭に入れておきながら、アメリカの労働市場およびFRBの金融政策の動向を観察し、今後の投資行動の参考にしてみてはいかがだろうか。

(提供: 大和ネクスト銀行

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