一見非科学的に思えることが、結局正解だったりします。例えば「人柄は、顔に出る」というのは、本当でしょうか?

人の表情に一瞬だけ現れる微表情の読み方や、SNSから適切に情報を読み取るコツ、そしてそこから、本当の情報を得るを学びましょう。

(本記事は、加谷珪一氏の著書『ホンモノを見分けられる人に、お金は転がり込んでくる!』ぱる出版(2017年7月8日)の中から一部を抜粋・編集しています)

顔つきを見て判断するのは非科学的か?

相手が信用できる人なのか顔つきを見て判断するという成功者は少なくありません。当然のことですが、こうした考え方に対しては、人を見かけで判断すべきではないという反論が出てきます。人の表情や顔つきを見て物事の真偽を判断するのは、果たして非科学的なのでしょうか。

筆者の知る女性実業家は、重要な取引をする際、必ず相手に会って、ある事柄を確かめています。それは相手の「声」です。彼女によると、表情や顔つきに人柄が出るのはもちろんのこと、それがさらに顕著に示されるのが声だということです。

基本的に声は小さいより大きい方がよいそうですが、ただ大きければよいというわけではありません。声の出し方にハリがあるのかどうかが重要なポイントになると彼女は主張しています。

地方在住のある実業家も同じようなことを言っていました。彼は、自分が住んでいる地域以外でも手広く不動産投資をしているのですが、地域ごとに物件探しを依頼する不動産会社を1社に絞って決めています。どの不動産会社にするかの決め手となるのが、営業マンの言動です。

彼は、担当の営業マンと必ず一度は昼食を共にして人柄を観察するそうです。一連の受け答えなどを見て、任せるかどうかを決定します。その際に、不動産に関する細かい知識などはほとんど気にしないそうです。どんな姿勢で営業しているのかが分かればそれで十分というのが彼の見解です。

このように、相手の表情や雰囲気などから真偽を察知するというのは、実は成功者の中では一定のコンセンサスを得ている手法です。さらにレベルが高くなると、相手を見ただけで億単位の投資を決断するという話になってきます。

その最たるものは、ソフトバンクの孫正義社長でしょう。孫社長率いるソフトバンクは今から15年以上も前に、創業したばかりの中国の電子商取引サイト「アリババ」に20億円の投資を行っています。この投資によってソフトバンクはアリババの株式の3割を握る筆頭株主となり、その後、アリババは米国で上場。同社には何と8兆円もの含み益が転がり込みました。

ソフトバンクは2016年に英国の半導体設計大手ARMを3.3兆円で買収しているのですが、こうした思い切った買い物ができたのも、アリババが生み出した巨額の含み益が存在していたからです。孫氏は、アリババの創業者であるジャック・マー氏と会って、わずか5分で出資を決断しました。

当時のアリババは、創業間もない時期で、緻密なビジネスプランが作成されている段階ではありませんでした。孫氏は、話し方や目つきなど動物的なニオイが出資の決め手になったと述べています。 ちなみに孫氏が米ヤフーへの出資を決断した時も、似たような状況でした。孫氏が創業者のジェリー・ヤン氏に会った時、彼は狭いオフィスの中で雑魚寝をしながらWebサイトを作っていました。孫氏とヤン氏は宅配のピザを食べながら議論に熱中し、孫氏はすぐにヤフーへの出資を決めています。

人は見た目が9割のホント・ウソ

人は見た目が9割といわれます。これは心理学の世界において、相手が持つ第一印象について、言語が占める割合が7%、声など聴覚が占める割合が38%、表情など視覚が占める割合が55%という実験結果を分かりやすく示したものです。

言語、つまり論理で決まる部分が7%しかないので、乱暴に言ってしまうと、見た目などで9割が決まるという話になります。もっともこの実験は、矛盾した情報が与えられた時に、どの情報を優先するのかという内容です。例えば、笑いながら怒っている内容を話している人を見た時、多くの人は笑っていると解釈するということですので、厳密な意味で、見た目で相手を判断しているのかを調べた研究ではありません。

しかしながら、現実のコミュニケーションにおいて、視覚や聴覚が極めて大きな影響を及ぼしているのは紛れもない事実です。この話は、それぞれの情報が持つデータ量からも推測できます。

例えば、400字詰め原稿用紙には400文字の情報が入りますから、これをテキストデータにすると約800バイトという大きさになります(2バイトコードの場合)。800バイトはかなり小さい数字ですから、無味乾燥な文字の中に含まれる情報量は非常に少ないということが分かります。

一方で、同じ文章を、人間が声に出してしゃべった場合には、これはテキストデータではなく音声データとなります。文字の場合には、文字で表現できる内容以外は含まれませんから、抑揚や声の調子といった情報はありません。ところが声に出して読み上げると、聞いた相手は、喋っている人がどんな気分なのか、体調がよいのか、自分に対してどんな感情を持っているのかなど、多くの情報を取得することができます。声にすると情報量が一気に拡大するわけです。

人の表情に一瞬だけホンネが現われる「微表情」を読む

心理学の世界には、人の表情に一瞬だけホンネが現れる「微表情」を分析する専門分野があります。微表情分析を扱った米人気テレビ・ドラマ「ライ・トゥー・ミー」によってこの技術は多くの人に知られるようになりました。

ドラマでは、主演のティム・ロスが、微表情の分析を専門にする風変わりなコンサルタントを演じています。FBI(連邦捜査局)やCIA(中央情報局)から依頼された難事件を、微表情の分析を通じて解決していくというストーリーです。

ドラマの主人公であるライトマン博士のモデルにもなったといわれる、カリフォルニア大学のエクマン教授によると、人は自身の感情を覆い隠そうとするので、本当の感情は15分の1秒という極めて短い時間にしか表情に現れないそうです。逆にいえば、一瞬の表情をうまく読み取ることができれば、相手のホンネを理解できるというわけです。

エクマン教授がこの理論を開発する前は、表情というものは、社会的、後天的に身に付くものであり、民族や文化圏によって異なると考えられていました。しかし、エクマン氏は、多くの文化圏を比較することで、微表情は万国共通であることを明らかにしました。さらにエクマン氏はその普遍性を確かめるため、文明との接触がほとんどないパプアニューギニアに行き、現地で同様の調査を行いました。結果は同じで、怒りや悲しみ、軽蔑といった微表情は共通だったそうです。

人とのコミュニケーションが上手な人は、おそらく無意識的に、こうした相手の表情をうまく読み取り、相手がどのような感情を持っているのか理解していると考えられます。

ドラマでは、ライトマン博士の部下として、表情を読む天才的能力を持った女性コンサルタントが登場します。劇中では、彼女は幼い時に父親から虐待を受けていたという設定になっていますが、危険を察知するために、表情を読むトレーニングを知らず知らずのうちに重ねていたというわけです。これはドラマですから、あくまで創作ですが、ひとつのヒントにはなるでしょう。リスク回避といった一種の危機意識を持ってこうしたトレーニングを行うと、その効果は倍増するのです。

これは表情の分析に限った話ではありません。経験を積んだビジネスパーソンや投資家になると、トラブルになりそうなプロジェクトや業績が悪化しそうな会社を本能的に察知できるようになります。おそらく、それは本能ではなく、過去の経験が総合的に作用した結果と考えられます。

表情を読むことと相手を理解することは別

先ほど、うまく表情を読み取ることができれば、相手がホンネでは何を考えているのか分かるようになるという話をしました。しかし、表情やしぐさなどから相手の気持ちを読み取ることと、相手を理解することはまったくの別物であることを肝に銘じておく必要があります。

例えば、相手の表情などから、少しイラついていることが分かったとしましょう。もしあなたが相手に対して失礼なことを言ったのなら、相手がイラついている理由ははっきりしています。

しかし、相手のイライラは、単に体調が悪かっただけかもしれませんし、別の案件で何かトラブルがあったのかもしれません。相手の表情やしぐさを見ているだけでは、そこまでは分かりません。

もちろん、相手の気持ちが分かるだけでも意味はあるでしょう。相手がイライラしているにもかかわらず、それを倍増させるようなことを言ってしまっては、まとまる話もまとまりません。何かお願い事をする時には、相手の機嫌がよいタイミングを見計らうのは常識です。

しかし、相手の気持ちが分かっただけでは、それ以上の対応はできません。その先、もう一歩進んだ対応を実現するためには、相手の状況を理解しておく必要があります。状況を理解するためには、やはり定期的な情報収集が不可欠です。

結局のところ、こうした地味な情報収集が真偽を判断するためのカギになるのです。人は置かれている環境が変化すると、いろいろなところにその影響が出てきます。会話のテーマや特定の話題に対する反応、服装や髪型などは、本人が意識しなくても変化していくものです。

加谷珪一
経済評論家。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っており、ニューズウィーク日本版(電子)、現代ビジネスなど多くの媒体で連載を持つ。億単位の資産を運用する個人投資家でもある

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