真実の情報を見抜くためには、「誰かが言った意見」ではなく、一次情報としての「数字」に触れることです。企業の決算数値や経済情報など、数字に苦手意識を持つ人は多いことでしょう。しかし、数字への苦手意識を解消し、情報の真偽を見抜くようにしましょう。
(本記事は、加谷珪一氏の著書『ホンモノを見分けられる人に、お金は転がり込んでくる!』ぱる出版(2017年7月8日)の中から一部を抜粋・編集しています)
数字で考えると物事の真贋が見えてくる
「数字はウソをつかない」とよくいわれますが、この話は本当です。数字を当てはめてみると、物事の本質がよりはっきり見えてきます。数字に強くなることは、物事の真偽を判断するための近道といってよいでしょう。東日本大震災の発生は多くの人を恐怖に陥れました。筆者は仙台出身で、幼い頃、東日本大震災に匹敵する大地震(宮城県沖地震)を経験していますので、第一報を聞いた時には、当時の記憶が一気に甦りました。
こうした災害が発生した直後は、人々の不安心理が一気に高まります。地震とは直接関係していなかった人でも、この先、日本はどうなってしまうのだろうかと不安を感じたのではないかと思います。
日本では震災をきっかけに何かと「安心」というキーワードが使われていますが、こうした非常事態においてもっとも大事なことは、正しい情報を得ることです。正しい情報を得ることができれば、正しい対処ができますから、それは安全につながり、最終的には安心をもたらします。
今回の震災では筆者の親族も被災していますが、被災した人が本当に必要としているのは、安心というキーワードではなく、現実的な解決策なのです。人々が不安になるのは、この先どうなるのかという情報がないからです。仮に悪い情報であっても、先が見通せると人の行動は変わってくるものです。
災害とはまったく違う話題ですが、情報について興味深い話があります。経営に行き詰まり、まさに生きるか死ぬかという状況に追い込まれた企業の経営者にとって、もっとも嫌な曜日はいつでしょうか?
それは土曜日と日曜日なのですが、その理由は情報が入らなくなってしまうからです。
知識人がトランプ経済を予測できなかった理由
事前の予想を覆しトランプ大統領が誕生したことで、多くの知識人が混乱に陥りました。金融市場の世界では、トランプ氏が大統領になった場合には株が暴落すると予想していた人も多かったのですが、結果は正反対でした。
確かに就任後のトランプ相場は、彼に対する過度な期待がもたらしたものですが、物事を数字で考えるクセを付けている人にとって、一連の株高を予想することはそれほど難しくはなかったはずです。経済や市場に関する情報にはたいていの場合、その情報を発信した人の感情が含まれているものです。米国に関する情報にはその傾向が顕著ですから、情報収集する際には注意する必要があります。 ではトランプ大統領が就任する前の米国の状況について整理してみましょう。
米国は100年に一度というリーマンショックに直面し、経済や株式市場は大混乱となりました。日本では「米国流の資本主義が限界に来た」「競争の行き過ぎは弊害をもたらす」「米国はこれから長期停滞に向かう」といった悲観論が多数を占めるようになりました。 確かにリーマンショックは米国に大きな衝撃を与えましたが、経済や株価に対する負の影響は、米国よりも日本の方が圧倒的に大きかったというのが現実です。
米国人は自己に厳しい
数字を直接、見なくても、景気の動向などについて情報を得る際には、以下の点に注意しておくだけでも余計なバイアスから自由になることができます。
日本と米国を比較すると、自国に対する評価に根本的な違いが見られます。米国人は自分達が高いパフォーマンスを出して当然と思っていますから、ちょっとでもその理想から外れるとかなり手厳しく自らを批判する傾向が顕著です。
リーマンショック後の米国経済は、客観的に見ればかなり良好で、経済をうまく舵取りしたオバマ大統領の手腕は高く評価してよいはずです。しかし、オバマ氏に対する米国内の世論はかなり手厳しいものでした。
米国人にとっては、最高の状態でなければダメであり、それを実現するために有能なリーダーを選んでいると考えます。リーダーに対して敬意を払う代わりに、極めて高い要求をするわけです。
こうした基本的な価値観が報道などにも反映されますから、日本から見ると、米国は常に厳しい状態にあるように見えてしまいます。 米国経済に関する情報はこれがベースになりますから、悪い話を聞いても、実際はそこまで悪くないと考えた方が安全です。
これとまったく逆なのが日本です。日本人は劣等感が強く、最高のパフォーマンスを出し続けることが当然とは思っていません。したがって、自国経済やリーダーに対する評価は甘くなりがちです。今の日本ではGDPが1%の成長を達成しただけで「首相のリーダーシップ」「力強い成長」といった見出しが新聞に躍ってしまうのです。 米国とは逆に日本で得たポジティブな情報は話半分くらいに聞いておくのが賢明といえるでしょう。
数字を使ったマジックにご用心
筆者は先ほどから数字はウソをつかないと説明してきました。意図的に虚偽の数字を出さない限り、数字ははっきりと物事の状態を映し出します。つまり数字には相当な説得力があるわけです。
しかし、その説得力が逆に悪用されてしまうこともあります。巧妙な人は、数字をうまく活用して自分をよく見せようとするからです。世の中には、こうした数字のマジックがあちこちに存在していますから注意してください。数字そのものは同じでも、それが何を意味しているのかは、数字の定義によって大きく変わってきます。典型例が売上高と利益です。
企業の場合でしたら、本来は、売上高、当期利益と名称がしっかり決められています。売上高は製品やサービスを売った金額そのものであり、当期利益は、そこから仕入れや各種経費、税金を差し引いて会社に残った利益になります。売上高がいくら大きくても、当期利益が小さければ、会社は儲かっているとはいえません。
ところが、あえて正式な表現を使わず、曖昧な言い回しをすることで、事業を大きく見せようとする人もいます。「弊社の収益は拡大しており10億円に達します」などという説明の場合、売上高なのか利益なのかがはっきりしません。売上高が10億円であっても利益がゼロでは経営状況は健全とはいえないでしょう。
似たようなケースは、不動産投資から得られる収入や、ブログから得られる収入を説明する場面においてもよく見られます。近年、アパートやマンションを一棟買いして賃貸収入を得る、いわゆる大家さん業がちょっとしたブームになっています。メディアには不動産投資で成功した人の話がよく紹介されますし、自らその成功事例を紹介し、有料セミナーなどで稼いでいる人もいます。
このケースは、企業会計の用語で説明すれば、収入が2000万円なのではなく、年商が2000万円、あるいは年間の売上高が2000万円となります。私たちが年収としてイメージするのは、すべての経費を差し引いて手元に残ったお金のことですから、これは会計上では利益ということになります。
ブログで儲ける話や不動産投資で儲ける話を見聞きした時には、年商のことなのか、利益のことなのかについて注意を払う必要があります。このあたりを曖昧に表現している場合には、その人の経済状況については少し疑ってかかった方がよいでしょう。
数字をうまく見せようという人は、見せ方のテクニックも上手ですから、騙されないようにしなければいけません。特に気をつける必要があるのは、言葉との上手な組み合わせです。数字を数字として使わず、情緒的な言葉と組み合わせて使えば、数字でウソをつかなくても、同じような効果を得ることができるからです。
加谷珪一
経済評論家。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っており、ニューズウィーク日本版(電子)、現代ビジネスなど多くの媒体で連載を持つ。億単位の資産を運用する個人投資家でもある
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