1980年代のバブル絶頂期。当時は空前の好景気に沸く中で「財テク」と呼ばれる投資ブームが熱を帯びていた。そんな財テクブームの起爆剤の一つとなったのが日本電信電話(以下、NTT) <9432> のIPOだった。
その数年後、日本経済はバブル崩壊から「失われた25年」と呼ばれる長期低迷に突入することになるが、注目されるのは当時の「財テク」の象徴ともいえるNTT株が30年前の第一次売り出しの「公募価格」を上回りつつあることだ。これは新たな財テクブームの到来を意味するのだろうか?
日本経済「デフレ終焉」の象徴
今年、日経平均株価は25年ぶりの高値をつけた。先に述べた通り、バブル崩壊後の日本は一部で「失われた25年」と呼ばれることも多いが、少なくとも株価についてはすでに「失われた25年」を取り戻している。
株価だけではない。巷では長期デフレの終焉を象徴するかのような現象が相次いで見られる。たとえば郵便はがき・切手が23年ぶりに値上げ(※消費税による値上げを除く)されたほか、クロネコヤマトの個人向け宅急便も27年ぶりに引き上げられた。デフレビジネスの代表格ともいえる焼鳥チェーン「鳥貴族」も28年ぶりに280円均一から298円への引き上げを発表、さらにビール大手各社は10年ぶりに業務用ビールの値上げを実施する。
株価はもちろん、筆者は「生活実感」としてもデフレ終焉の印象を強く抱いている。
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2カ月半で2.7倍に上昇
そして、何よりも注目されるのがNTT株の動向である。NTTが日本初の民営化企業のIPO案件として脚光を浴びたのは1987年。その当時の記念すべき「公募価格」を突破しようとしているのだ。
当時のNTTの公募価格は119万7000円だった。IPO初日は買い気配で値が付かず、翌営業日(2月10日)に付けた初値は160万円だった。公募価格からの値上がり率は34%。その後もNTT株の人気は高まるばかりで、4月22日には318万円の高値を付けた。わずか2カ月半で公募価格から2.7倍に上昇したのである。
NTT株の上場は当時「財テク」と呼ばれた投資ブームを加速し、バブルの原動力となった側面があることは間違いないだろう。実は筆者もNTTに投資し、その利益で中古車を購入したのであるが、当時はどのタイミングで売れば良いのか迷ったものである。その後のNTT株の低迷ぶりを見ると、あのとき売っておいて本当に良かったと感じている。ただ、当時の投資家の中には公募価格(119万7000円)で購入したまま塩漬けになっている人も意外と多いかも知れない。
ちなみに、2009年1月にNTTは1株を100株に分割、さらに2015年7月には1株を2株に分割している。最初から保有している人は200株になっている計算だ。当時の公募価格119万7000円で買った人の「一株当たりの調整後」のコストは5985円である。NTTは今月13日に5890円の高値を付けており、30年前から塩漬けしている人の収益がプラスに転じる可能性が高まっているのだ。
持ち株会社となり「株主重視」に転換
ところで、NTTは上場後の1991年にモバイル事業を分離し、新会社(NTTドコモ <9437> )として1998年に上場している。実は、この分割当時も筆者はNTTの株主だったのだ。NTTは親会社ではあるが、成長分野を分離することは残されたNTT自体のポテンシャルを低下させることにもなりかねない。当時の株主である筆者には、ちょっと納得のできない出来事だった。
そんなNTTも、その後は持ち株会社となり「株主重視」に転換する。一株当たりの配当は2009年3月期の55円から2018年3月期には150円まで増えた。実質増配に相当する自社株買いも今期予定の上限1500億円を含めて過去10期で2兆940億円に達する。実質配当は過去10年で3倍以上になり、現在の配当利回りは2.6%と東証1部の平均を大きく上回っている。
「失われた25年」を取り戻す原動力として
11月10日、NTTが発表した2018年3月期上期(4〜9月)決算は、売上が2.5%増の5兆6647億円、営業利益5.3%増の9751億円と好調だった。NTTコミュニケーションズやNTTデータ <9613> が担当するクラウドやビッグデータを活用したシステム開発が好調で、最終利益は10.8%増の5275億円と過去最高益を更新した。通期の売上・営業利益予想は据え置いたが、インド財閥タタ・グループとの提携解消による特別益が見込まれ、最終利益予想を8300億円から8800億円に上方修正している。
また、先週20日には次世代コンピューターとして注目される「量子コンピューター」の試作機を27日からクラウドで無償一般公開すると発表した。株式市場では新しいテーマとして関連銘柄が人気化しているが、NTTはその分野でも期待されている。日本経済の「失われた25年」を取り戻す原動力として、NTTの取り組みに注目したい。(ZUU online 編集部)
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