今年も残りわずかとなった。自動車業界のこの1年を回顧すると大変に感慨深いものがある。今年に起こった「一汽」「東風」「長安」の戦略的提携、「吉利」の「プロトン(マレーシア)」「蓮花汽車」への出資、「江淮汽車」と「大衆(フォルクスワーゲン)」の合弁、韓国系、フランス系の没落など、いずれも1年前には、誰も想像すらしなかったろう。2018年、中国の自動車市場には、どのような情景が表れるのだろうか。ニュースサイト「今日頭条」が展望記事を掲載した。展望は10項目の注目点を挙げている。

1 2018年の販売台数3000万台を達成へ

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(画像=testing / shutterstock.com)

2017年の初め、中国汽車工業協会(汽車=自動車)の販売予測は2940万台、伸長率は5%であった。第一四半期から第三四半期の伸長率は4.46%~4.77%で、この目標に近付いていた。しかし10月の伸長率は大幅にダウンしてしまった。協会の副秘書長(事務局次長)は、「10月の成績は年間目標達成のため、思い描いていた理想の数字には届かなかった。しかし市場の未来は中長期的に判断すべきである。」と述べた。

2018年のマクロ経済予測は、2017年とほぼ変わらない。中国人民銀行(中央銀行)の予測による中国のGDP成長率は、今年の6.8%に対し6.7%である。この経済の強さは、自動車市場への変わらぬ追い風である。小型車購置税の優遇措置(1.6L以下の自動車税10%を7.5%への減税)は終了し、新エネルギー車(電気自動車など)への購入補助金も減少するが、これは正常にもどるだけであり、消費者の購入マインドを抑えるものではない。思いがけない情勢の変化がない限り、2018年の販売台数は3000万台を達成するだろう。

2 3巨頭(一汽、東風、長安)の提携は「国家自動車隊」の形成か。

12月上旬、一汽、東風、長安の3社は、武漢市において提携協議書に署名した。協議の内容は、新技術での協力、運営のあらゆる場面にまで及ぶ。3社は新しいビジネスモデルの探索、新しい領域への展開で全方位にわたり提携する。協力して新しい航海へ出発するのだ。今年の初め、一汽と東風によって始まった戦略提携が、3巨頭に拡大し、深化したのである。「国家自動車隊」として、「北車」と「南車」(列車製造メーカーが合併し“中車”となった。)、「神華」と「国電」(エネルギー企業が合併し“国家能源集団”となった。)と同じ「国家隊」の方向へ向かうのだろうか?

3 ドイツ系高級ブランド、次の一手は。

2018年、高級ブランドの「ABB」Audi BMW Benz の販売台数は、60万台を超えると見られる。この新しい段階へ到達するには、それぞれのブランドがしっかり顧客にアピールしなければならない。

Audiは「上汽」と「一汽」の間で契約を巡る騒動に巻き込まれた。販売をあせり先走りがあったのかも知れない。「上汽」との新規契約は「一汽」の横やりにより暫定的に停止された。

BMWは長城汽車と接触し「MINI」を生産する可能性を探っている。BMWは欧州以外ではMINIを生産していない。中国でのMINI生産は、賢明な選択である。

Benzは、どうするのだろうか。合弁は「北汽」との一本である。北汽は福建ベンツを買収し、販売網の全中国統一を成し遂げた。近未来、Audiのように、新しい提携先を探すのか、BMWのようにSmartの国内生産を模索するのか、2018年の高級車カテゴリーでは、ベンツの動きに注目が集まる。

4 国産高級SUVシェア50%超えへ

長城汽車の高級SUVブランド「WEY」のVV7型、VV5型の5月の販売量は、1万台を超えた。長城汽車の董事長は、2018年のWEYブランドの販売目標を25万台に設定した。また吉利汽車傘下の「領克」ブランドでも、すでに展開している01に加え、2018年には、02、03を発売する。このカテゴリーにおける国産比率は、大きな上昇が見込めそうだ。現在のシェアは、国産45%、合弁企業ブランド45%、輸入その他10%である。2018年には、国産車のシェア50%突破は間違いない。

5 テスラの国産化計画は?

テスラの国内生産は、中国自動車業界における、最大の関心事である。11月初旬、トランプ大統領の訪中時、テスラの中国生産問題は、再度“発酵”した。これより先、米ウォ―ルストリートジャーナルは、テスラと上海市政府の合意を報じた。上海自由貿易試験区に、史上初の外資100%による自動車工場を建設、という内容だ。

世界で最も成功した電気自動車メーカー、テスラの進出は、全世界の電気自動車市場にもアクセスできるということだ。また共同で電気自動車時代の幕を開けることにもなる。ただし長年の間不変の合弁政策を考えれば、一抹の不安がないわけではない。

2018年、テスラの国産化計画はどこへ着地するのだろうか。市場の反応も含め目を離せない。

6 電気自動車事業の合弁、爆発的に増加。

これまでは個別の国産企業による新エネルギー車(ほとんど電気自動車)の市場への投入が続いていた。しかし2018年には、外資合弁型の企業が新エネルギー車の大規模導入を開始する年となる。

トヨタのTNGAプラットフォーム+THSⅡハイブリッドシステム、ホンダのIMAハイブリッドシステム、ビュイックの代替燃料車戦略「ビュイック・ブルー」日産のi-Power Plan、などが2018年には集中的に発表される。その他、長安マツダ、江淮大衆(フォルクスワーゲン)などが2019年の新エネルギー車の発売を予定している。全国乗用車市場信息聯席会の秘書長(事務局長)は、2017年の電気自動車などの新エネルギー車販売台数は、50万台を突破すると見ている。2018年は、100台の大台を達成できるかがポイントになる。

7 双積分政策、2019年より開始

双積分政策とは「乗用車企業平均燃料消耗量与新能源汽車積分並行管理辯法」に基付いた、燃費と新エネルギー車のシェアに関する新しい政策のことである。年間3万台以上の生産、または輸入を行う企業に、一定の割合の新エネルギー車を扱うことを義務付ける。2019年は10%、2020年は12%である。

2017年、フォルクスワーゲンと江淮、ルノー日産連合と東風、フォードと衆泰の新たな合弁が成立した。新エネルギー車の研究開発、製造、販売を協力して行い、市場の共同開発に努める。

一方で、トヨタ、ホンダ、GM、現代起亜、プジョー・シトロエンなどの伝統的燃料車の巨頭たちは、双積分政策に対する対応をまだ明確にしていない。今後、本土企業で新エネルギー車生産のキーを握るのは、どこになるのだろうか。

8 韓国系、フランス系の下降と民族系の混戦

11月中旬、広州モーターショーの開始前に、北京現代は新型SUV“ix35”2L車の価格を11万9900元~16万1900元に設定すると発表した。これは中国民族系メーカーの価格水準に、大きく接近してきた。業界では、北京現代の売上ダウンに対する、第一次反撃、と捉えてている。

2017年の市場拡大は緩やかなものにとどまり、ブランド力の弱い合弁企業にとっては苦しい一年だった。かつてスター企業であった北京現代の1~10月までの販売は、56万9000台にとどまっている。年間目標は125万台だった。 同じようにシトロエンの1~10月までの販売は、40万2000台、年間目標は70万台であった。そして合弁企業の東風プジョーと東風シトロエンの総経理(社長)は相次いで離職した。

2018年は、韓国系とフランス系にとって、のるかそるかの勝負の一年になるだろう。

9 新生産方式は定着するか?

12月中旬、蔚来ES8が消費者の前にお目見えする。蔚来汽車とは2014年に上海で創業した会社である。総裁としてフォードとマセラッティの幹部だったMartin Leach氏を招いた。電気自動車の設計に特化し、生産は他メーカーに委託するネット時代の新しいスタイルをとる。シリコンバレー、ミュンヘン、ロンドンに支店を置いている。メーカーとは 江淮汽車と戦略提携を結んでいる。マセラッティばりのスポーツカーを目指す。

インターネットを最大限に利用した車作りの新勢力が到来したのである。2018年には、蔚来以外にも2社が、この方式による新車発表を予定している。期待の大きい注目すべき業態である。

10 BAT(バイドゥ百度、アリババ、テンセント)とスマートカー

百度は無人運転の「Apollo計画」をスタートさせ、これは国家AIプロジェクトに選定された。2018年には初の量産車が登場する予定だ。

アリババは、グループのクラウドコンピューティングシステムAliOSを搭載した、スマートカー量産を目指す。2018年には東風シトロエンと組み、第一号車を完成させる予定だ。

テンセントは、投資家のスタンスである。フォックスコン、和諧汽車(高級車ディーラー)と組み自動車産業の投資信託を立ち上げる。また蔚来汽車やテスラに投資している。またノキアの地図アプリ“HERE地図”の買収も目指している。

このように、2018年の中国自動車市場は、さまざまなうねりの中にある。小型車に対する優遇税制は廃止となるが、急速に市場が冷え込むようなことはないだろう。日系各社の2017年はまずまずの数字でフィニッシュできそうである。気になるのはやはり新エネルギー車である。日系御三家、トヨタ、ホンダ、日産のうち、日産以外の準備は不十分と見做されている。何とか存在感を示さないことには、韓国系、フランス系のように、半端なブランド扱いされてしまいかねない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)