お金持ちの人は、行動経済学で言われる「心の会計」をすることはないようです。普通の人が何気なく使ってしまう「お金」。お金持ちの人は、どんなお金の使い方をするのでしょう。

(本記事は、中桐啓貴氏の著書『日本でお金持ちになる人の思考法』=クロスメディア・パブリッシング/インプレス、2012年10月11日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

【関連記事 『お金持ちになる人の思考法』】
・(1) 半分は相手、半分は自分のために働く——お金持ちの「考え方」
・(2) 愚痴を言わない、手紙をよく書く……真似したいお金持ちの「習慣」
・(3) 「心の会計をしない」「見た目も大事に」「節約しない」−−お金持ちの「お金」の使い方

最も有効な投資先を知る

株、債券、不動産など投資するものはいくつもありますが、必ずその価値が下がって損失を被ってしまう懸念がつきまといます。そんな中でも、絶対損をしない投資先が一つだけあります。「自分」です。考えてお金を使えば、その分確実に成長が期待できますし、価値が下がるなんてことはありえません。

自己投資と聞けば、読書や資格取得にお金をつぎ込むことを想像する人も多いと思いますし、社会を生き抜くための知識を増やすためにも、特に若い人にとってはある程度必要なことです。

お金持ちの人も自己投資には積極的にお金を使いますが、それは知識を得るためではありません。経験するためです。高級な店に行って、良いサービスを受けるのも自己投資、旅行に行って異文化に触れるのも自己投資、芸術を鑑賞して感動するのも自己投資です。

良い雰囲気の中に身を置くことで、その雰囲気を普段から身にまとうことができるようになります。私も最近、とあるリゾートの会員になりました。会員制の施設ともなるとやはり雰囲気が違います。商売上、富裕層の方と接する機会が多いので、彼らに引けを取らないようなオーラを身につけようと思ってのことです。「この人は魅力的だ」と思うとき、そこにはっきりとした理由があるでしょうか。「何となくそう思う」場合が多いのではないでしょうか。その「何となく」は、言葉に言い表せない雰囲気によるものなのだと思います。

金銭的余裕のない人に銀座のバーに行ったり、ヨーロッパ旅行へ出かけたりするのを勧めているわけではありません。ちょっと背伸びする程度のランクで良いので、普通に生活していては決して触れることのできないもの、それを体験することにお金を出すのです。

自分が成長することが、お金持ちになるための必要条件です。自己投資につぎ込むお金を惜しんで、貯めてばかりいてもお金持ちになることはできません。

留学で視野を広げる

留学経験のある人がお金持ちには多くいます。

留学しようと思ったら、500万円から1000万円程度の費用がかかります。もともと家庭が裕福だったから留学できるんじゃないかと思われるかもしれませが、そうでもありません。私も留学を2度経験しましたが、2回目の留学は誰かに負担してもらったわけではなく、大学卒業後働いて貯めたお金で実現しました。私のようなパターンで留学する場合もありますし、会社が負担してくれる場合もあるでしょう。

安くはない費用が留学にはかかりますが、留学は費用対効果の非常に高い自己投資です。実にさまざまなことを学ぶことができます。

留学によって得られるものは、MBAのように今すぐにでも使えるものばかりではありません。

例えば英語圏の国に行けば、確実に英語を話すことができるようになります。今となっては英語を話せることはビジネスマンにとっての重要なスキルとなってしまいましたが、20、30年前に留学した人が皆、数十年後の未来にこうなることを予想していたとは思えません。しかし、結果的に多くの人が高い報酬を得られる職に就いています。いつになるかはわかりませんが、学んだことは必ず役に立つ時が来ます。

異文化の中で長期間生活することは良い刺激となります。私自身、留学していた間は、住み慣れた日本にいるときと比べて考える時間が増えました。四六時中頭を働かせていました。

留学に大金を使ってしまったことも加わり、そこではじめて「自分の人生はリスクを取り続ける人生なんだ」と覚悟を決めることができましたし、日本に帰ってから起業する決心もできました。

また、今の時代どの業界であってもビジネスで成功しようと思ったら、海外企業との取引が必ず出てきます。留学することで視野を広げることはその後の人生に大きな影響を及ぼすことになります。

考えを深めるために環境を変える

お金持ちの人は長期滞在でなくても、旅行や出張などタイミングを見つけて定期的に、それも頻繁に遠出します。

その目的の1つには、休養が含まれます。たまには体を休めるのも仕事のうちですし、旅行という楽しみは仕事を乗り越えるための大きなモチベーションともなります。

お金持ちの人には1人で旅行に行くのを好む人が多いです。その場合たいてい、環境を変えて1人でゆっくり考える時間を設け、現状を振り返ったり、今後の仕事のプランを立てるなど、自分を見つめ直すためであることが多いです。普段と異なる環境で考えることで、新たな発想が得られるのです。

お金持ちの人はいつもと違う環境、空気感の中に身を置くことで、アイディアを熟 成しているようにも思います。

良いアイディアだけれどもクリアしなければならない問題があるものを、考えに考え込んだ挙げ句、煮詰まってしまった経験はありませんか。

そんな時は一旦考えるのをやめてみる、アイディアを頭の奥底で塩漬けにして熟成させてみると、簡単に問題点が解決することもあります。その熟成期間中、そのアイディアをいつもと違う環境、雰囲気にさらすことで、さらに良いものになるではないでしょうか。

毎年秋にアメリカでファイナンシャルプランナー(FP)会議が開催されます。アメリカのFP業界は日本よりも長い歴史がある分、成長もしています。アメリカのFP業界がどうなっているのか、現地で生の声を聴き、学び、日本で実践するためにも、私はこの会議に必ず参加するようにしています。本を通してではわからないもの、自分で直接見聞きしなくてはわからないものを求めに行くのです。

眠らせてあるアイディアの質を上げるために、肌で直接感じる強い刺激を求めて環境を変えるのがお金持ちの人です。

見た目も大事にする

お金持ち,哲学,富裕層
(画像=PIXTA)

ビジネスは信用勝負です。そのためにもやはり服装は大事です。「人は見た目じゃない」としばしば言われもしますし、実際それは正しいとも思いますが、一方で人間は他人を見た目で判断してしまっていることも真実です。

第一印象は後の関係に大きく影響を及ぼします。良い印象を与えられるか、悪い印象を与えてしまうか、その分かれ道を、服装にお金をかけることでものにするのが、お金持ちの人です。

彼らは、いい身なりをするために使うお金は信用を得るための必要経費である、そのためのお金を惜しめばそれだけ信用も失ってしまう、と考えています。成長が期待できる若い人、将来お金が集まってくるだろうなと思えるような人も、たとえ金銭的に余裕がなかったとしても良い服装をしている場合が多く見受けられます。

しかし、闇雲に高いものを買えばいいものではありません。20代の新人社員が、40、50万円もするスーツを着て、ブランドものの時計をしていても、逆にうさんくさい雰囲気が出てしまうでしょう。ですから、年齢をベースに少し背伸びしたくらいの値段のものがちょうど良いです。相手に、「年齢の割に良い服着てる。できるヤツなのかもしれない」ぐらいに思わせられれば、第一印象のつかみとして上出来です。

スーツ、時計、鞄、靴と揃えるべきものは多くありますが、お金持ちがもっとも注目しがちなのが、ネクタイです。「いいネクタイしてますね」という言葉はよく耳にします。顔に近いため、目に入りやすいのもあるかもしれませんが、ネクタイは3万円払えば「良いもの」に分類されます。何百万円もする時計を見て「いい時計してますね」と言うのは、少しイヤらしい感じがしてしまいますが、3万円の「良い」ネクタイを褒めるのに抵抗はあまりないのでしょう。

冒頭でも書いた通り、最終的には人は見た目ではありません。しかし、入り口はやはり見た目なのです。嘘を塗り固めればいいわけではありませんが、時には「演じる」ことも必要なのではないでしょうか。

生き金と死に金を使い分ける

お金を払う価値のないものとは、消費するだけでリターンのないもの、あるいは払ったお金分以下のリターンしか得られないものを指します。これに払ってしまったお金を死に金と言います。お金を払う価値のあるものとは、払ったお金以上の見返りが期待できるもののことです。これに払ったお金のことを生き金と言います。

お金を払う価値を見出せるかどうかは人それぞれ異なるので、それを決める普遍的なものさしは存在しませんが、お金持ちの人は必ず自分なりのものさしを持っています。お金の使いどころ、使うべき場面と使うべきでない場面の線引きがはっきりとしているのです。

ある70代の私のお客様は、数億円の資産をもっているのに、移動には歳以上は無料となる都営地下鉄を、遠回りになったとしても必ず使うそうです。また、私のオフィスに、Tシャツにスラックスといった、あまりお金のかかっていないような服装でいらっしゃる資産家のお客様もいます。

タクシーを使うにしても、その後予定が詰まっていて時間がない人にとってみればタクシー代は生き金ですし、予定もなく電車で帰ることもできるのに使ってしまったタクシー代は死に金となるでしょう。

自分なりの生き金、死に金を決めるものさしがなければ、目先の欲を満たすためにお金を浪費し続けることになります。目先の欲を満たすためのお金、それは多くの場合死に金です。死に金に浪費を続ければ、ここぞというお金の使いどころでお金が手元にないなんてことになりかねません。

決してお金持ちの人が皆吝嗇家、つまりケチなわけではありません。そこにお金を払う価値を見出していないだけです。倹約に倹約を重ねただけで、資産家と呼ばれる程に蓄えを膨らませることはできません。

生き金と死に金、その線引きがしっかりできていれば、お金を使うべきタイミング、大きな見返りが期待できるタイミングを決して逃しませんし、無駄遣いをしてしまうことも絶対にありません。そうしてお金は確実に集まってくるのです。

節約はしない

無駄遣いをしてはいけません。しかし節約をする必要もありません。

お金持ちの人で節約することに躍起になっている人はいませんし、徹底して節約をしている人にお金持ちはいません。

節約することを否定するわけではありませんが、ストレスを感じるような節約はやめた方が良いです。

家の部屋に電球が3つあるところを1つしか使わないとか、暑いのを我慢してクーラーは使わないとか、一時も休まる暇がありません。しかも努力の割に、月数百円程度料金が浮くだけで効果は著しく低いです。

ストレス解消だと言って、ちょっと高めの洋服を買ってしまうだけで、数本余分にお酒を飲むだけで、ちょっと贅沢に外食をするだけで、結果チャラどころか、マイナスになってしまいます。

付き合いの場である飲み会を、節約だと言って断るのも好ましくありません。数千円のお金とプライスレスな人とのつながりを天秤にかけてみてください。

お金を使うことに関して、守りの姿勢になってしまってはいけません。お金は貯めるものではなく、使うものだからです。金遣いを控えることに慣れてしまうと、本当にお金を使うべきポイントでも臆してしまうようになります。

本当に節約すべきものはお金ではなく、時間と労力です。では時間と労力はどう節約すればいいのか。その方法はお金を使うことです。 面倒を省くためにある、というのがお金の存在の第一義です。スーパーで野菜を買 うのは野菜を育てる手間を省くため、電車を使うのは歩く手間を省くためです。

余談ですが、もしお金で解決できない手間があったら、そこにはビジネスチャンスが転がっているはずだと思いませんか。そう考えれば、お金を使うことでしか本当の面倒は見えてこないはずです。お金を使うからこそわかること、お金を使わないと見えないものがあることをお金持ちの人は知っているのかもしれません。

資産価値で判断できる

絵画、時計、金など、お金持ちの贅沢品というイメージがつきまとうものが多々ありますが、お金持ちの人たちはお金があり余っているからそれらにお金をつぎ込む、そんな短絡的な考え方をしているのではありません。資産価値があるかどうかで判断しています。

絵も時計も金も、時間とともに価値が変動する可能性はありますが、基本的にお金と交換可能です。資産価値があるものとはこういうものを指します。

一方、資産価値がないものとは、一度お金を出して買ってしまったら消費するしかないもののことです。食べ物、文房具、服......などです。

あるお医者様は、不動産や株に何千万円もの投資をしています。それだけの資産を持っているのに、お金持ちのステータスであると思われがちな車を、10年以上買い替えずに乗り続けています。車は使えば使うほど劣化していくだけで、資産価値はないからです。

資産を増やすためには長い時間がかかります。ですから、失敗したとわかったときには時既に遅し、という可能性もあるわけです。失敗しないようにするためには、今どうお金を使うべきか、その判断を誤らないようにしなければなりません。

高度経済成長期からバブルが弾ける前あたりまでは、働きながら給与天引きで自社株を買う、というのがお金持ちへの王道でした。SONYでもPanasonicでも大きい会社の株価はどんどん膨れ上がっていきました。

しかし、今はどこの会社がいつ潰れるかわからない時代です。成長著しいネットベンチャー企業の株を買って一攫千金を狙うにしても、あまりにもリスクが大きすぎます。リスクをとらなければお金持ちにはなれないとは言っても、実際損失を被ってしまったときに首が回らなくなるほどの、身の丈に合わないリスクはとるべきではありません。

ですから、お金持ちになるためには、物事の価値を見極める目と、10年20年と時間をかけて資産を増やす心構えが必要です。

心で会計しない

「心の会計」という、行動経済学の専門用語があります。例を出せば、聞いたことがあると思う方も多くいることでしょう。

あなたはある万年筆を買おうと決めました。とある文房具店Aに行くと、それが5000円で売っています。しかし情報によれば、その文房具店Aから100メートル行ったところにある別の文房具店Bで、同じものが2000円で売っているそうです。文房具店Aで高く買うのと、少し足を伸ばして文房具店Bで安く買うのとどちらを選びますか。アンケートをとるとBで買うことを選ぶ人が圧倒的に多くなります。

またあるとき、スーツを買いに百貨店Aに行きました。狙いのスーツは9万8000円。しかし聞くところによれば、100メートル先の百貨店Bでは9万5000円で同じスーツが売っているそうです。今度は3000円高くてもAで買う人が多くなります。

万年筆もスーツも値段の差額は3000円なのに行動に違いが出てきます。同じ差額でも「心で会計」することで、まったく異なる数字に見えてしまうのです。

資産運用でも「心で会計」してしまったために損切りできていない人をよく見ます。例えば、1万円で買った株が9000円に値下がりすると焦るのに、その株が値下がりを続け、5000円から4000円になってしまった時にはまったく焦りを見せないような人が多いです。でも、よく考えてみれば、前者の値下がり率が10%なのに対し、後者の値下がりは20%と笑ってはいられない状況です。

ものを売る側もこの心理を利用してきます。ホテルで売られている飲み物が2、3割高く値段設定されているのに買ってしまうのも、カーディーラーが勧めてくる使いもしない付属品を買ってしまうのも、心で会計しているからです。売る側を責めるわけにはいきませんし、商売上手と言うしかありません。ですから、買う側がしっかりとそれを認識した上でお金を出すかどうか決めなければなりません。

お金持ちの人は心で会計することはありません。数字でお金は表されます。それを客観視できるようにならなければ、お金の使い道を誤ってしまうことになります。

お金を区別しない

「心の会計」を語る際にもう一つ有名な逸話があります。

とある夫婦がラスベガスに来ていました。毎晩カジノにお金をつぎ込むものの負けに負け、財布の中身はすっからかんです。そんな折、夫が部屋にルーレットに使う5ドルチップを見つけ、早々に寝てしまった妻を部屋に残して、5ドルチップを握ってカジノに向かうと、当たりに当たり、気がつけば100万ドルもの勝ちになっていました。調子に乗って次の賭けに、100万ドルすべてをつぎ込みましたが、そこが運の尽き。結果は外れ、100万ドルを失うことになってしまいました。肩を落として部屋に帰ると、目を覚ました妻に「どうしたの」と聞かれ、彼はこう答えました。

「5ドル損しただけさ」と。

5ドル損しただけだね、と聞き流してしまってはいませんか。収支を合わせれば確かに5ドルの損失で済んだことになりますが、一瞬だとはいえ、彼は確実に100万ドルを手元に持っていたのです。ですから、いくら損したのかと問われれば、100万ドル損した、と答えるのが正しいのです。

本来、収入は労力に比例するだけ得られ、支出も労力に比例するように使うものなのに、ギャンブルで得たお金はこの理論から完全に外れてしまいます。「心」が邪魔をしているからです。ギャンブルに限らずとも、苦労もなく得られたお金は湯水のように使ってしまいたくなるものです。

学生の頃、アルバイトで必死に稼いだ2万円は大事に使うのに、おばあちゃんからもらった2万円はすぐに使ってしまったりしませんでしたか。パチンコで儲かったお金はその日のうちに消えてしまいませんでしたか。宝くじで100万円当たったとしたら、まず欲しかった高価なものを買おうと想像したことはありませんか。

お金持ちの人は労働によって得られたお金も、労力なくして得られたお金も区別しません。どちらも大切に使うためのお金であると考えています。過程は無視して、お金そのものの重みを感じられるようになることが必要です。

中桐啓貴(なかぎり・ひろき)
ガイア株式会社代表取締役。山一證券株式会社を経て、メリルリンチ日本証券大手町支店にて個人富裕層へのコンサルタントとなる。退社まで常に1500人中トップ10の成績を残し、最年少でシニア・ファイナンシャル・コンサルタントに昇進。留学のため退社し、アメリカ、ブランダイズ大学院にてMBA取得。帰国後、独立系FP会社、ガイア株式会社を設立。