「運動しよう!」と張り切らず、生活の延長線上でできることを
40歳前後になると出てくる「疲れがなかなか取れない」「若い頃のように働けない」という悩み。この年代になるととくに、体力の低下を実感する人が多いのではないだろうか。第4回のテーマは「運動」。医師であり、コンサルタントとしても活躍する裴英洙氏に、忙しいビジネスマンでも実践できる運動法についてうかがった。
運動の習慣化を阻む「3つの関門」
40代の体力低下を補う知恵と、疲れない身体を維持する方法について語る本連載。今回は、体力維持に不可欠な「運動習慣」に焦点を当てましょう。
第1回でもお話ししたように、年齢を重ねると筋肉量が低下します。筋肉を構成する「筋線維」は40歳頃から年に0.5%ずつ減少し、筋力もそれに応じて衰えます。運動量が不足している場合、この低下には拍車がかかります。
筋肉が落ちると、エネルギーの消費量も下がります。結果として肥満になりやすく、生活習慣病のリスクも増大しかねません。年齢的にも環境的にも運動不足になりやすい40代ビジネスマンは、今こそ積極的に運動習慣を持つべきでしょう。
──と言うと、「重々承知だが、それができれば苦労しない」という声が聞こえてきそうですね。確かに、運動習慣をつけることは容易ではありません。そこには「3つの関門」がある、と私は考えます。
1つ目は「意識」。危機意識を持って、体力維持や運動の必要性を感じているか否か、という点です。意識が低い人は、言うまでもなくリスク大。
他方、意識が高い場合も油断はできません。気持ちばかりが先走って、無理な運動でケガをしたり、1日で疲れ果てて投げ出したり、といったケースも多々あるからです。
2つ目のポイントは「時間」。運動する時間を確保できるか否かです。これに関しては、多くの方が「ない」と答えるでしょう。逆に言えば、この難関をクリアできれば問題は一気に解決に向かうとも言えます。
そして3つ目が、「経験」の有無です。学生時代に運動をしていた人は自分の身体の取り扱い方をある程度心得ていますが、未経験者は自分に合った運動量や内容を適切に選べず、これまたケガや三日坊主につながりがちです。
以上のポイントを踏まえたうえで、まずは自分が今どの状態にあるかを把握しましょう。下の図を見て現状を確認してください。どのタイプに該当するかによって、適切な運動方法は違います。
では、それぞれに合った方法と注意点を順に解説しましょう。
スポーツ初心者の「自己流」はNG
タイプ①の方々は、意識が高く、時間があり、すでに運動習慣があるはずなので、とくにアドバイスはありませんが、あえて一つ挙げるなら「過信」に注意していただきたいところ。
最初に述べたとおり、年齢とともに運動能力は落ちます。若い頃と同じ運動量をこなそうとするのはケガやトラブルのモト。翌日に疲れが残るようなら、運動量を減らすなどの調整を心がけましょう。
また、40代以降の愛好者が多いであろうゴルフには要注意です。実は年間200人もの人がゴルフ中に突然死しており、このうち最も多いのが、最後のパットで、緊張によって脳卒中などを起こすケース。若い頃からずっと続けている人も過信は禁物です。
運動経験がないタイプ②の人は、運動をすることへのハードルを低くすること。いきなりジムに通う、道具一式を揃えるなど、形から入ろうとすると長続きしません。
ですから、「生活の延長線上」でできるトレーニングから始めるのがベストです。通勤時にひと駅手前で降りて歩く、エスカレーターではなく階段を使う。慣れてきたら毎晩10分のストレッチを加える、それにも慣れたらジムの初心者用レッスンを試してみる──というふうに、少しずつ負荷を上げていくと良いでしょう。
タイプ③の方々も、タイプ②と同じく生活の延長線上でできることをしましょう。ただし②のように運動入門のためではなく、「時間の有効活用」が主目的。基礎力はあるので、②よりも高い負荷の動きをスーツのままキビキビ行なうイメージです。
たとえば、ひと駅手前から歩くときは速足にする、カバンにペットボトルを2本入れる、椅子に座りながら1分間だけ腰を浮かせて「空気椅子」をする、重い荷物を運んでいる同僚がいたらその役割を買って出る……などがお勧めです。
タイプ④は、経験不足が最も危険を呼ぶタイプ。手早く効果を得ようと考えて方法を誤り、時間をムダにしたり、無理をしてケガをしたりする可能性が高いのです。ここは「自己流は厳禁」と心得て、まず情報収集をすることが必要。効率的な筋肉の使い方やケガをしない身体の動かし方を知りましょう。
本やネットで調べる際は、「初心者」というキーワードを意識しましょう。運動に慣れた人向けの情報をうっかり実践してしまう危険を防げます。スポーツ用品店で用具を買う際も、スタッフに「初心者なのですが」とひと言添えると、適切なアドバイスをもらえるでしょう。
そのうえで、タイプ②と同じく生活の範囲内でできる方法を実践しましょう。足を痛めない歩き方、腰を痛めない空気椅子、筋肉痛を起こさないストレッチ……など、安全第一をモットーに。
運動したくない人は「趣味」に結びつける
さて、ここからは「意識の低い人」について考えましょう。本人にやる気がないなら処置ナシ──かと思いきや、工夫によっては上手に運動習慣をつけることも可能です。
中でもタイプ⑤の人は時間も経験もあるので、運動を始めるのは比較的容易です。内容はランニングでもテニスでも何でもOK。その際に、誰かを誘って始める、もしくはそうした相手がいるスポーツサークルに参加するのが長続きさせるコツです。
その相手は、「大事な人」であることも重要なポイントです。尊敬している先輩や仲の良い友人など、自分だけが勝手に止めたら心が痛むような相手を選びましょう。
そうした相手がいない場合は、「回数限定」がお勧め。「明日だけランニングしてみよう」など、一度で止める前提で気軽に試してみるのです。あえて目標を小さく設定することで、心理的ハードルを下げる作戦です。
さらに、小さく「3歩だけ走ってみよう」とするのもいいですね。実際に走ってみれば、3歩では終われないはず。いったん走り出せば、かつては馴染み深い感覚だった「スポーツの爽快感」が蘇ってくるでしょう。
タイプ⑥は、「運動しよう」と思うのではなく、趣味が結果的に運動に結びつくような方法を。たとえば歴史好きなら「史跡散歩」、自然好きなら「鳥類観察」、アート好きなら「美術館めぐり」。好きなことを通じて歩く量を増やすのが効果的。実際、「ポケモンGO」を夢中でやっているうちに痩せた、という例も見られます。
タイプ⑦と⑧の方々は、とにもかくにも意識改革を。青年時代の写真や、昔着ていた細身の服を目につくところに置いてモチベーションを高めましょう。家族に「運動しないとまずいかな?」と聞いて「もちろん!もっと痩せて!」と遠慮なく言ってもらうのも良いでしょう。
そのうえで、タイプ⑦ならタイプ③の方法、タイプ⑧ならタイプ④の方法で実行に移すこと。これで身体作りの第一歩を踏み出せます。
裴 英洙(はい・えいしゅ)ハイズ〔株〕代表取締役社長/医師/医学博士/MBA
1972年、奈良県生まれ。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科に勤務。医師として働きながら、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネス・スクール)を首席修了。ビジネス・スクール在学中に、医療機関再生コンサルティング会社を設立。現在も医師として臨床業務をしつつ、医療機関経営に関するアドバイスを行なう。著書に、『一流の睡眠「MBA×コンサルタント」の医師が教える快眠戦略』(ダイヤモンド社)など。(取材・構成:林加愛 写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2017年7月号より)http://shuchi.php.co.jp/the21/
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