仕事&集中力をうまく配分する「戦略的手抜き」で、効率良く休息を取る

疲れリセット術
(画像=The 21 online)

40歳前後になると出てくる「疲れがなかなか取れない」「若い頃のように働けない」という悩み。仕事のパフォーマンスを下げないために、きちんとした休みを取ることは必須。第5回のテーマは「休息」。医師であり、コンサルタントとしても活躍する裴英洙氏に、頭と身体を効果的に休める休息法についてうかがった。

休息の質を高める能力の配分のコツとは?

休息」というと、仕事の合間の休憩や週末など「仕事をしない時間」をイメージする方が多いでしょう。しかし、休息の概念をこれだけに限定すると、40代ビジネスマンが「しっかり休む」ことはほぼ不可能です。

なぜなら、言うまでもなく、この年代の人は総じて多忙だからです。多くの人はプレイングマネージャーであり、自分の業務と部下の管理を並行して行なっているでしょう。しかも、日々のタスクは常に同時多発的に、息つく間もなく発生するものです。その中で溜まった疲労は、休憩時間や休日だけで取り除けるものではありません。

そこで、今回は「休息」を大きく捉えて「仕事をしながら上手に休む方法」を考えたいと思います。連載第1回で「40代からは『戦略的手抜き』が必要」と述べましたが、これからお話しするのはその具体的な方法です。

それはひと言で言うと、「能力のアロケーション(配分)」。力の「出しどころ」と「抜きどころ」を決め、1日の中にうまく配分することです。

それにはまず、仕事の優先順位を見極めることが不可欠です。

有能なビジネスマンは、迅速かつ正確に優先順位を決められるもの。対して、判断の精度が弱い人はスタートが遅れたり、とりあえず発生した順に着手してしまったり、想定外の案件に混乱したりする中で、時間と体力を浪費してしまいます。

こんな人は、トレーニングとして「優先順位の点数化」の習慣を持つことをお勧めします。抱えているタスクを列挙し、重要度を計算してみましょう。

基準は「ヒト」「モノ」「カネ」「時間」、いわゆる経営資源の4要素。タスクごとにその4要素を照らし合わせ、不要なら0点、そこそこ必要なら1点、絶対に必要なら2点、と点数をつけて加算すると、得点の多いものほど重要度が高いとわかります。

この方法に慣れてくると、書き出さなくても頭の中で即座に計算できるようになります。こうして判断力を鍛えることから、まずは始めてみましょう。

では、こうして順位をつけたタスク群を1日の中にどう配分すれば良いでしょうか。当然、最初は最上位のものを手がけるのが正解です。

英国海軍の教えにも、「洗うなら大きな皿から」という言葉があります。最初に大きな仕事・厄介な仕事から片づけるべし、という考え方です。

そうすることで、いわゆる「不測の事態」に対応しやすくなります。突然予期しない仕事が舞い込むシーンはビジネスにつきものですが、そのときまだ「大皿」にまったく手をつけていないとなると、難しい仕事を並行で抱えて多大な消耗を強いられることになるでしょう。

有能なビジネスマンは手抜きがうまい!

また、これは人間の身体のバイオリズムを考慮したうえでも得策です。

人間のやる気は、アドレナリンというホルモンが大きく関与しています。アドレナリンの分泌量は午前中に高く、午後に向けて徐々に下がります。したがって、重要な仕事や緊張感が必要なタスクは、できるだけ午前中に行なうのが非常に合理的なのです。

しかし、だからといって、重要な仕事をすべて午前中に詰め込めばいいというわけではありません。下の図は、AさんとBさんの1日の集中力の配分を示したものです。2つの曲線を見比べると、Aさんは集中力に高低のメリハリがあり、Bさんは最初は高いもののなだらかに下がっているのがわかるでしょう。

裴英洙,疲れリセット術
(画像=The 21 online)

一般的に、やる気がある午前中は集中力も高くなるものですが、有能なビジネスマンは、やる気だけに頼らず、Aさんのように集中力をうまく配分しています。

つまり、最初に重要な仕事(大皿)に着手したとしても、午前中をそれだけに費やさず、少し疲れを覚えたら、適宜別の業務を挟むのです。

別の業務とは、手を抜くにふさわしい仕事――つまり頭を使わなくてもできるルーティンワークです。といっても、それらはいわゆる「単純作業」だけを指すものではありません。

実は、クリエイティブで難易度の高い仕事にもルーティンワークはあります。たとえば、大工さんの「カンナ掛け」は高度な技術を必要としますが、熟練した大工さんは、難しいとも思わずに行なっているはずです。習熟によって高いスキルを得た仕事なら、思考力や集中力を最小限に抑えたまま遂行できるものなのです。

経験を積んだ40代なら、そうした「隠れたルーティンワーク」を多く持っているでしょう。馴染みのある作業、慣れている仕事、苦もなくできることなど、思考力や集中力、体力を極小のままできる仕事をピックアップしてみましょう。こうした仕事は、一見すると「手抜き」には見えないもの。有能なビジネスマンは、こういった「休息用の仕事」を定型化して、日々の仕事の中にうまく配分しているのです。

こうした「定型」は、生活習慣に生かすこともできます。毎日同じことを同じようにすることで、余計なことに頭を使わずにすむのです。

たとえば私は電車に乗るとき、「3両目の2番目のドア」と乗車位置を決めていて、どこから乗ろうかといちいち考える手間を省いています。また、傘を「忘れないよう気をつける」ことに思考を割きたくないので、雨の日も折り畳み傘を使います。このような「頭の省力化」により、疲れの元を発生させないようにすることが大事です。

休憩中は夕食のことを考えよう

最後に、本当に休んでいるとき――ランチタイムや休憩時の過ごし方について考えてみましょう。

せっかくの休憩時間に、「身体は休んでいても頭や心が休んでいない」状態になってはいないでしょうか。失敗を引きずったり、心配事で落ち着かなかったりと、過去や未来に気を取られて、「今」の休息を浪費してしまっているとしたらもったいない話です。休憩中は頭を働かせず、リラックスすることが大事です。

とはいえ、ただ「雑念を払おう」「心を静かにしよう」などと念じるだけでは、かえって焦りが増幅しがちです。よほど悟った人でない限り、雑念は次々湧いてくるものだからです。

そんなときは、休みなのだから頭を無にしようなどと思うのではなく、「たわいない楽しいこと」を考えるのが早道。「今日の夕飯はなんだろう」「週末は何をして遊ぼうか」など、呑気かつポジティブなことを考えましょう。

これは「リプレイスメント」と呼ばれるやり方で、頭の中にあるイメージを別のイメージに置き換えることにより、疲労感を頭の外に「押し出す」方法です。単純ですが、手っ取り早く休息モードに入るのに有効です。

このように、「休むコツ」を意識して、短時間でも効果的な休息を手に入れられるよう、日々の業務の中の「手を抜けるポイント」や、生活の中の「ちょっと嬉しい瞬間」などを考えてストックしておきましょう。

そして、少し疲れを感じたら、それらを使ってこまめにリセットするのが賢い方法です。小さな休息のモトを使って、常時元気に働ける態勢を整えましょう。

裴 英洙(はい・えいしゅ)ハイズ〔株〕代表取締役社長/医師/医学博士/MBA
1972年、奈良県生まれ。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科に勤務。医師として働きながら、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネス・スクール)を首席修了。ビジネス・スクール在学中に、医療機関再生コンサルティング会社を設立。現在も医師として臨床業務をしつつ、医療機関経営に関するアドバイスを行なう。著書に、『一流の睡眠「MBA×コンサルタント」の医師が教える快眠戦略』(ダイヤモンド社)など。(取材・構成:林 加愛 写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2017年8月号より)

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