老後の蓄えとして自分の資産を非課税で運用することができる個人型確定拠出年金(iDeCo)が人気だ。2017年からは対象者が拡充されたことによって、ほぼすべての現役世代が個人型確定拠出年金に加入することが可能になった。個人型確定拠出年金にはいくつかおさえておくべきポイントがある。その1つが手数料だ。
チリも積もれば……個人型確定拠出年金の手数料
個人型確定拠出年金を運用するには手数料がかかる。加入時にかかるものもあれば、毎月かかるもの、さらには受給時にかかるものまでさまざまだ。1回あたりの数百円程度のものなのでそこまで気にしない人もいるかもしれない。
しかし、確定拠出年金はその性質上、手数料をおろそかにできない。確定拠出年金に加入するのであれば老後までの数十年は払い続けることになる。毎月支払うことになる手数料をどれだけ抑えられるかで、最終的な支払総額は大きく変わってくるのだ。
個人型確定拠出年金の手数料の種類
まず個人型確定拠出年金での手数料はどのようなものがあるのか確認しておこう。
・加入時手数料 ・口座管理手数料 ・国民年金基金引落とし手数料 ・信託銀行管理手数料 ・受取時手数料
こうして並べると随分とたくさん手数料を取られるという印象を受ける人もいるだろう。しかし、それぞれの手数料はそこまで大きなものではない。
●加入時手数料
個人型確定拠出年金に加入するときに発生する手数料。一律で2,777円かかる。
●口座管理手数料
運営管理手数料とも呼ばれる。確定拠出年金の運用を任せる金融機関に支払うもので、手数料は金融機関ごとに異なる
●国民年金基金引落とし手数料
確定拠出年金を積み立てる度に毎月発生する手数料。一律で103円かかる。
●信託銀行管理手数料
確定拠出年金を積み立てる度に毎月発生する手数料。一律で64円かかる。
●受取時手数料
60歳以上になってから確定拠出年金を受け取る際に発生する手数料。支払われる度に毎月432円かかる。
毎月発生する手数料に注意
上で紹介した手数料のうち、積立中に毎月発生する手数料は以下の通りだ。
・口座管理手数料 ・国民年金基金引き落とし手数料 ・信託銀行管理手数料
これらのうち、「国民年金基金引き落とし手数料」と「信託銀行管理手数料」は一律であるため、気にする必要はない。問題は口座管理手数料だ。これは金融機関によって手数料が異なる。その差は最大で450円になり、馬鹿にできない。
●口座管理手数料のシミュレーション
ここで、最大月々450円の差が長期でどれだけの違いになるのかシミュレーションしておこう。
月:450円 年:5,400円 5年:2万7,000円 10年:5万4,000円 20年:10万8,000円
20年間積み立てると口座管理手数料だけで10万8,000円の差額が発生するのだ。
●口座管理手数料の比較
金融機関名と運用期間中にかかる費用(毎月)
イオン銀行、大和証券、マネックス証券、楽天証券、SBI証券,、みずほ銀行(資産50万円以上)、野村證券(資産100万円以上)、第一生命保険(資産150万円以上)、損保ジャパン日本興亜アセットマネジメント(資産200万円以上) ……以上167円
損保ジャパン日本興亜アセットマネジメント(資産100万〜200万円未満) ……307円以内
岡三証券 ……372円
ジブラルタ生命保険、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行/三菱UFJ信託銀行【ライトコース】、ゆうちょ銀行 ……以上422円
みずほ銀行(資産50万円未満) ……422円以内
荘内銀行、スルガ銀行、さわかみ投信 ……437円
野村證券(資産100万円未満)、北洋銀行、北海道銀行、北陸銀行 ……以上450円
横浜銀行 ……453円
お金のデザイン(MYDC)、滋賀銀行 ……以上458円
広島銀行、琉球銀行 ……以上470円
中央労働金庫、三井住友海上火災保険、京葉銀行、中国銀行 ……以上472円
明治安田生命保険相互会社【シンプルコース】、北越銀行、池田泉州銀行 ……以上477円
富国生命保険相互会社 ……478円
住友生命保険相互会社、東京海上日動火災保険、日本生命保険相互会社、みちのく銀行、第四銀行、北國銀行、大垣共立銀行、十六銀行、静岡銀行、百五銀行、紀陽銀行、伊予銀行、愛媛銀行、鹿児島銀行 ……以上480円
第一生命保険(資産150万円未満) ……482円
りそな銀行 ……483円
西日本シティ銀行 ……487円
ジャパン・ペンション・ナビゲーター ……491円
ソニー生命保険、損保ジャパン日本興亜DC証券、東邦銀行、筑波銀行、足利銀行、群馬銀行、常陽銀行、八十二銀行 ……以上491円
損保ジャパン日本興亜アセットマネジメント(資産100万円未満) ……491円以内
三井住友信託銀行【プランN】 ……492円
山梨中央銀行 ……495円
青森銀行 ……512円
あいおいニッセイ同和損害保険 ……523円
明治安田生命保険相互会社【スタンダードコース】 ……534円
秋田銀行 ……537円
三菱東京UFJ銀行/三菱UFJ信託銀行【標準コース】 ……545円
岩手銀行 ……577円
SBIベネフィット・システムズ ……579円
肥後銀行 ……598円
信金中央金庫 ……599円
十八銀行 ……617円
信託報酬(運用管理費用)に注意
確定拠出年金では金融商品を組み合わせて運用する。金融商品の中には投資信託があるが、この投資信託は運用のプロに任せることで金融に詳しくない人でも資産運用ができるというメリットがある。
しかし、プロが無料で資産運用してくれるはずはなく、手数料が発生する。これが信託報酬だ。信託報酬は残高に応じて一定比率で設定されており、残高が多ければその分信託報酬も高くなる仕組みになっている。
実は、この信託報酬は確定拠出年金の積立期間が長ければ長いほど、積立金額が大きければ大きいほど差が出てしまうのだ。
●信託報酬のシミュレーション
たとえば、信託報酬が0.5%と1%の商品があるとする。ここでは比較するために運用リターンは計算に含めず単純に積立金に信託報酬を乗せて計算している。
・毎月2万円×10年間 0.5%の手数料総額:5万9500円 1%の手数料総額 :11万7100円
・毎月2万円×20年間 0.5%の手数料総額:23万3200円 1%の手数料総額 :45万1500円
信託報酬の違いがどれだけ手数料の支払い総額に影響するかがわかったのではないだろうか。口座管理手数料は20年間でも最大で10万円程度の違いが出るのに対して、信託報酬に関しては選ぶ商品によっては6万円〜数十万円の差が出てしまう可能性があるのだ。
手数料をお得にする方法
実は手数料を節約する方法がいくつかある。
●月払いよりも年払いがお得
確定拠出年金は2018年からの制度改正によって積み立て方法を毎月積み立てる「月払い」と年単位でまとまった金額を支払う「年払い」を選べるようになった。年払いを選択するには別途申請が必要だが、こうすることで毎月積み立てにかかる手数料を節約することが可能だ。
ただし、この方法では「ドルコスト平均法」による積立投資のメリットをフル活用できない。買いタイミングを分散することで価格変動リスクを抑えられる「ドルコスト平均法」のメリットが大きいか、手数料を節約するメリットが大きいかはしっかり比較する必要があるだろう。
●口座管理手数料が無料になる金融機関を利用する
口座管理手数料が無料になる金融機関もある。SBI銀行や楽天証券、マネックス証券は口座管理手数料が無料だ。これらの金融機関を利用すれば毎月かかる手数料を節約することができるだろう。
個人型確定拠出年金を早く始めれば始めるほど、この手数料無料の効果は大きくなる。今後もこういった形で手数料無料を謳う金融機関は増えてくる可能性があるので、まずは口座管理手数料が無料の金融機関を探してみるのも有効な手段になるだろう。
受取時の手数料はどうすれば良いか
60歳以上になると確定拠出年金を受け取ることができるが、この場合の手数料はどう考えればよいのだろうか。確定拠出年金の受取方法は「一時金」「年金」「一時金+年金」として受け取る方法の3種類がある。
受取時手数料は受取の際に432円かかる。これは金融機関に関係なくかかるため、どこを利用していても変わらない。一時金で受け取れば432円を一回支払えば済むが、年金として受け取る場合は毎月受取手数料を支払うことになる。
こうしてみると一時金で受け取った方が断然お得に見える。しかし、手数料だけで比較すると損する可能性がある。
一時金で受け取る場合、退職所得控除が利用できる。しかし、定年時に企業からの退職金を受け取っていてこの退職所得控除を使い切ってしまっている場合、確定拠出年金を一時金で受け取るとすべて課税対象になってしまう。
年金として受け取る場合は公的年金控除が受けられる。これは65歳までは70万円まで、65歳以上は120万円までの控除が受けられる制度だ。退職金で退職所得控除枠が余っていないのであれば、年金で受け取った方が年間数十万単位の控除を受けられるのだから、毎月かかる432円など微々たるものになるだろう。
退職所得控除が少し余っているのであれば、「一時金+年金」で受け取ることもできるので、控除枠を最大限に利用できる割合で受取方法を選択すれば良い。このように手数料だけにとらわれるのではなく、トータルで1番良い選択することが大切だ。
「手数料だけ」で選ぶのはNG
ここまで手数料についての説明をしてきた。手数料は目に見える「コスト」であるため、一度気になるとそればかりに目が行ってしまうことがある。しかし、確定拠出年金の本来の目的を見失っては本末転倒だ。
確定拠出年金の目的は「非課税での資産運用」だ。要は手数料が多少高くても、手数料以上のリターンが見込めるのであれば、その金融機関を選ぶ理由は十二分にあるのだ。そのため、各金融機関の金融商品を比較したうえで、魅力的な商品があるのであればそちらを選んだほうが良いだろう。
手数料は他の要素を検討したうえで、最後に条件が横並びになったときに比較するものであることを覚えておこう。(ZUU online編集部)