生前贈与は、相続財産を減らすため誰もが思いつく相続税の節税対策だ。しかし、生前贈与には「3年内加算ルール」があり、生前贈与後3年以内に相続が発生すると、贈与額が相続財産に加算されてしまうので注意が必要だ。
生前贈与による節税がクローズアップされるようになった理由
2013年度の税制改正は相続税に大きな影響を及ぼす改正であり、人々の関心も高く、相続税について改めて考えた人も多かったはずだ。
この税制改正のポイントは大きく分けて2つある。一つは相続税の課税対象が拡大され、定額控除額と法定相続人比例控除額がともに減額された点。もう一つは、1本だけだった贈与税率が「特例贈与財産」と「一般贈与財産」に対する2本立ての税率構造となった点である。
相続税の課税対象の拡大
13年度の相続税改正は、高額の遺産取得者への相続税負担を求めることを主眼としていた。具体的には、相続税の基礎控除額が「定額控除が5000万円から3000万円」に、「法定相続人比例控除が1000万円×法定相続人の数から、600万円×法定相続人の数」に引き下げられた。これによって、相続税の納付義務が生じる相続人が増えることになる計算だ。
その一方で、未成年者控除額と障害者控除額がどちらも「1年につき6万円から10万円」に引き上げられている。
「特別贈与財産」と「一般贈与財産」に対する税率2本立て
2013年度の贈与税改正は、富裕層に属する高齢者の資産を現役世代に早期に移転して、経済活性化を図る目的があった。新しく設けられた「特別贈与財産」税率が対象になるのは、20歳以上の成人が直系尊属から贈与を受けた場合だ。例えば、金額が410万円以上であれば、その税率は一般贈与に比べると優遇されているのだ。これによって、富裕高齢者は生前に子や孫に贈与しやすくなっている。
一例を挙げると、110万円の基礎控除額を除いた金額が600万円超から1000万円未満の贈与では、一般贈与財産の税率が40%であるのに対して、同課税価格帯の特別贈与財産の税率は30%に抑えられている。
同時に、一般贈与財産の税率については、最高税率が50%から55%に引き上げられており、税率区分についても6段階から8段階に変更されている。この一般贈与財産については、生前贈与加算ルールの影響を受けることはない。
節税対策としての生前贈与と3年内加算ルールの関係性
2013年度の税制改正では、新しく設けられた特別贈与財産の税率が低めに設定されていること、相続税の基礎控除額が引き下げられていること、こうした理由から、生前贈与が相続税の節税対策として話題に上るようになった。これは言い換えれば、政府のお墨付きを得て、生前贈与という形で相続税の節税対策ができるようになったわけであり、この権利を行使しない手はない。
生前贈与するメリットは、特別贈与財産として優遇された税率だけではない。基礎控除額を超える遺産総額があり相続税が発生するようなケースでは、相続税より贈与税のほうが支払う税金が少なくてすむ場合が多い。
例外もあり、5000万円もの高額な生前贈与では上限の55%の税率が適用となって優遇税率の恩恵を享受することができない。このような一部の富裕層の相続では、税率も50%前後となり、生前贈与と相続のどちらを選んでも大差ない。
しかし、相続税の支払い義務のある一般的な富裕層では明らかに生前贈与のほうが有利だ。法定相続人の人数で按分した相続分に課せられる税率は最低でも10%になる。生前贈与を受ける金額が1年で110万円以下であれば非課税、課税されても税率が10%を超えるのは550万円前後からだ。つまり、非常に高額な生前贈与でなければ、何年にもわたって生前贈与を受けたほうが相続するよりも得になると考えることができるのだ。
確かに、多くの場合、生前贈与は相続税の節税対策の最初の選択肢であるに違いない。しかし、悪質な相続税逃れを防止するために、案の定、例外規定が設けられている。親が余命6ヵ月の宣告を受けてから、相続税の節税のためだけに、慌てて相続権のある子供たちに生前贈与することは認めないという趣旨だ。
3年内加算ルールとは
相続権がある直系卑属に生前贈与が行われてから3年以内に本人が亡くなって相続が発生すると、生前贈与額が相続財産に加算され、相続税の対象に組み込まれるというルールが3年内加算ルールである。
簡単な例で本ルールを検証してみよう。相続権があるAさん(父)が一人っ子のBさん(子)に生前贈与として1年目に300万円、2年目に300万円が贈与された。各回とも、申告によってそれぞれ19万円の贈与税を支払った。
ところが、2回目の贈与があった翌年、Aさんが急死して相続が発生し、その時点での遺産8000万円が相続財産となった。Bさんへの1回目、2回目の生前贈与から3年以内にAさんが亡くなったため、合計贈与額300万円は相続財産に加算されることになり、結果的にAさんの相続財産は合計8300万円とみなされた。
Aさんの遺産の法定相続人は、妻とAさんの2人であるため、基礎控除額は、3000万円+(2人×600万円)=4200万円となる。この結果、相続税の課税遺産総額は、8300万円-4200万円=4100万円であり、法定相続分で按分すると257万5000円がそれぞれに課せられる相続税となる。
Bさんは贈与税を過去2回、合計38万円を納付済みなので、Bさんが今回納付すべき相続税は、257万5000円-38万円=219万5000円となる。
3年内加算による節税効果ゼロを回避するテクニック
ここまでの解説で改めて確認することができたのではないだろうか。相続税対策として行ったはずの生前贈与から3年以内に相続が発生すると、節税効果がゼロになるどころか、生前贈与を受けて贈与税を支払った行為自体が無駄骨になってしまうのだ。これは何としても避けたいところだろう。
人の生死は予測できないことであり、3年内加算ルールの適用対象になるような事態に絶対ならないとは言い切れない。それでも、より確実な相続税の節税を図りたいのであれば、対策を講じることはできる。以下を参考にしてもらいたい。
生前贈与は早めに始める
近い将来相続が発生することを見越して生前贈与を行うのではなく、早い時期から計画的に生前贈与を進めることが大切だろう。
ここで注意したいのは定期贈与だ。1年に110万円までの贈与は非課税だからといって、「10年間、毎年110万円ずつ生前贈与する」という取り決めを交わすことである。
この場合、合計1100万円を10回に分けて贈与するとみなされて、1100万円に対して贈与税が課せられてしまうのだ。これを回避するために、たとえ10年間に分けて生前贈与する予定であっても、特に取り決めることなく毎年110万円ずつ贈与すれば、毎年基礎控除の対象になり、10年で1100万円贈与を受けても結果的に非課税となるのだ。
贈与の基礎控除を最大限活用する
1年間に110万円以下の贈与が非課税になる。これは贈与を受ける側が1人につき年間110万円以下受け取るのであれば贈与税を支払わなくてよいという意味であり、贈与を受ける人に相続権があるかどうかも問われない。
したがって、相続人の相続税負担を軽減するのが目的であれば、相続権のある子供たちはもちろんのこと、その子供の配偶者、相続権のない孫たちにも、年間110万円ずつ各自に贈与すればよいのだ。それが何人になろうとも、1人110万円を超えなければすべて非課税となるのだから、大きな相続税の節税効果になる。
孫には3年内加算ルールは適用されない
親が高齢で今後数年のうちに不測の事態が起きないとは言い切れないが、できるだけ生前贈与によって相続税の負担を減らしておきたいという場合には、孫に生前贈与すれば基本的に3年内加算ルールの適用を受けることはない。
このルールは、原則として相続権のある子供が対象なのだ。それに加えて、孫は直系卑属であるため、特別贈与財産の税率が適用され、基礎控除の110万円を超える贈与を受けても税率が優遇される。「孫への贈与」が話題にのぼるのはこのためだ。
しかし、孫といえども、3年内加算の対象になることがある。遺言書で孫に遺産を相続させることが定められているケースや、孫が生命保険の受取人になっているケースだ。いずれも、孫を実質的な相続人としてみなしており、3年内加算の対象になってしまうのだ。
3年内加算ルールを考慮して、生前贈与で効果的な節税対策を
生前贈与は相続税対策の有効な手段だということはすでに誰もの知るところである。本記事をご覧になって、生前贈与の3年内加算とは、相続権のある子供が親から贈与を受けてから3年以内にその親が亡くなり相続が発生すると、生前贈与のメリットが享受できないという仕組みであることも十分ご理解いただけたはずだ。
生前贈与という方法で少しでも相続税を減らしておきたいと願う親の気持ちに報いるためにも、どのような生前贈与の形がもっとも有効であるかを、親子でじっくり話し合ってみてはいかがだろうか。(ZUU online編集部)