今年の平昌オリンピックでは日本人選手が大活躍。13個のメダルを獲得し、メダリストには日本オリンピック委員会(JOC)から100万円~500万円の報奨金が支払われる。また、東京マラソンで日本記録を更新した選手には1億円の報奨金が支給されることが決まった。

ここで気になるのがメダリストやアスリートへの報奨金への税金だ。1億円をプレゼントされても、高い税率で課税されたら、ただのありがた迷惑にすぎないかもしれない。

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(画像= Herbert Kratky / shutterstock.com)

スポーツの報奨金は原則「一時所得」として課税

税法では原則、スポーツの報奨金であっても一時所得として所得税が課することになっている。一時所得とは「営利目的でもなければ、モノやサービスの対価としての性質もなく、あくまでも一時的に受け取る所得」だ。事業所得や雑所得のような営利目的の継続的行為により形成された所得や、給与所得のような労務・役務の対価、譲渡所得のような資産の譲渡による対価とは異なる。具体的には次のようなものが「一時所得」の対象となる。

・懸賞・福引の賞金・賞品
・競馬や競輪などの払戻金
・生命保険の一時金や損害保険の満期返戻金
・法人から贈与された金品
・遺失物拾得者や埋蔵物発見者の受ける報労金等

スポーツの報奨金は「法人から贈与された金品」に該当するので、一時所得となる。一時所得は次のように計算する。

一時所得=総収入金額-収入を得るために支出した金額(※)-特別控除額(最高50万円)
※一時所得に関する行為や原因の発生に伴い直接必要となった金額のみ

つまり、報奨金が50万円を超えたら課税となる。ただし、一時所得は総合課税により、他の所得と合算される際、「上記計算式で算出された金額×1/2」とした上で合計されることとなる。これは、「たまたま発生した一時的な所得で課税負担が過度に大きくなっては課税の公平を欠く」という観点からの配慮だ。

JOCやJPSAの報奨金は規定により非課税

スポーツの報奨金は原則として一時所得に該当するが、例外もある。日本オリンピック委員会(JOC)や日本障がい者スポーツ協会(JPSA)、あるいはこういった法人に加盟している団体からの報奨金は所得税法第9条第1項第14号により課税されない。以前はオリンピック・パラリンピックの報奨金も課税対象だったのだが、スポーツ振興の目的から平成22年に規定が整備され、現在、非課税となっている。

ただし、これらの団体からの報奨金ならすべて非課税かというとそうではない。同条文および所得税法施行令28条、平成22年(2010年)文部科学省告示66号、平成22年(2010年)財務省告示102号により、次のように定められている。

【対象者】
オリンピックまたはパラリンピックで1位から3位に入賞し、それぞれの大会の優秀者顕彰規定により国の顕彰を受ける者

【対象物】
1.上記の者に対し、JOC又はJPSAから表彰として交付される金品
2.上記の者に対し、JOCに加盟する団体(※1)で所得税法などにより規定されているところから交付される金品(※2)

   ※1:文部科学省の平成22年(2010年)3月31日告示66号にあるものに限る
※2:ただし、次のような上限額がある。
オリンピックでの1位入賞者…300万円
オリンピックでの2位入賞者…200万円
オリンピックでの3位入賞者…100万円

1億円の報奨金の所得税は約1753万円?

すでにスポーツ報奨金の課税については、いくつかのメディアで語られている。「JOC・JPSA関連の報奨金は非課税で、それ以外は課税」というイメージをお持ちかもしれない。そのイメージはおおよそ間違いではないが、完全非課税というわけではない。

オリンピックで1位になって報奨金をもらったとしても、その交付団体が法律上で規定されている加盟団体でなければ課税対象になる。また、規定されている加盟団体であっても、報奨金が規定の上限額を超えていれば、超えている部分については課税となる。さらに、パラリンピックでの入賞者がJPSAの加盟団体から報奨金を交付されても非課税にはならない。
 冒頭の文章にあてはめると、オリンピックの報奨金の多くは非課税となるが、マラソン選手の1億円の報奨金は一時所得として課税される。ちなみに、1億円の一時所得単独で所得税を考えると、約1753万円が納税額となる。実際には他の所得もあるだろうから、より多くの税金を納める可能性が高い。

カーリング選手への米俵100俵も課税対象

さらに、今回のオリンピックで活躍したカーリングの選手たちには、スポンサーの全国農業協同組合連合会(JA全農)から6トン分のお米が支給されることになった。米俵にすれば100俵分だ。「現物支給だからタダでもらえる」と我々は思いがちだが、税法では受け取ったものがお金以外のモノでも課税することとなっている。選手たちが受け取る米俵100俵が非課税にならないのは、JA全農が先述の非課税の規定の要件にある法人ではないからだ。

では、米俵100俵分の課税金額はいくらになるのだろうか。リオデジャネイロオリンピックで入賞した石川佳純選手も全農から同量のお米が贈られた例を参考にして考えてみる。石川選手の場合、100俵分のお米は6トン分の「おこめ券」として支給された。この時のおこめ券の総額はおよそ264万円。冒頭の一時所得の計算式に当てはめると、以下のようになる。

【6トン分のおこめ券の一時所得の金額】
264万円-50万円=214万円

このときの石川選手の25歳という年齢や状況から推測して、給与収入が年間500万円であった仮定し、合計所得金額、課税される所得金額、税額を計算していく。

【合計所得金額】
給与所得346万円+一時所得214万円×1/2=453万円

【課税される所得金額】
453万円-社会保険料75万円(※)-基礎控除38万円=340万円
※年収の15%と仮定

【所得税額】
340万円×20%-42万7500円=25万2500円
※税率は20%

もし、6トン分のおこめ券がなければ、税率10%、納税額は13万5500円。つまり、オリンピックで入賞し、所属団体からご褒美をもらったことにより、税金を10万円以上納付する必要がある。

スポーツ報奨金に限らず、金品の支給に関する非課税規定は限定的な構成となっている。「無税で支給されるもの」は例外的だ。事実、ふるさと納税の返礼品も一時所得として課税される。我々一般人も、国や自治体、勤務先の会社から何らかの一時金を支給されたら、課税か非課税かを意識するようにしたい。規模が違うだけで、スポーツ選手の課税問題は他人事ではない。(鈴木まゆ子、税理士)