相続税の申告件数は、ここ数年増加傾向にある。全国各地の税理士事務所では、相続税に関する相談が増えていることだろう。孫のいる高齢者によく推奨されるのが「生前贈与」だ。生前贈与といっても手法はいろいろ。孫のいる高齢者にとって使いやすい方法は現在5つあり、「暦年贈与」「相続時精算課税制度」「結婚・子育て資金贈与の特例」「教育資金への一括贈与」「住宅取得等資金の贈与」だ。5つの方法の主な特徴や注意点を確認しよう。

2015年度の税法改正でどう変わった?

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近年、相続税申告件数が増加傾向にあるのは、2015年1月1日に施行された相続税法の改正である。基礎控除額が変更されたために、相続税を納付する必要がある世帯が一気に増える結果となった。国税庁が公開している計算方法の違いは、以下の通りである。

改正前
基礎控除額の計算式=(法定相続人の数×1,000万円)+5,000万円

改正後
基礎控除額の計算式=(法定相続人の数×600万円)+3,000万円

以前は、法定相続人が配偶者と実子2人だった場合は、8,000万円までは必ず控除された。しかし同じケースでも2015年度からは4,800万円しか控除されなくなったのだ。

方法1 「暦年贈与」 どのような世帯でも使うチャンスがある

「暦年贈与」とは、元来贈与税の計算の際に用いられる言葉である。1年間に贈与した金額をもとに贈与税額を計算することを暦年贈与と呼ぶ。生前贈与をするときは、この贈与税を課税されないように配慮する必要がある。

暦年課税額の計算式=(年間の贈与額の総額-基礎控除額)×税率-(その他の控除額)

贈与税の基礎控除額は年間で110万円と決められている。したがって、孫に1年間に110万円までの財産を贈与するならいっさい課税されない。このため毎年少しずつ孫に財産を贈与しておけば、相続税を減らすことになる。この方法には、残りの4通りの方法と比べて制限が少ないというメリットがある。

孫へ生前贈与した財産には相続税を課税される可能性がない。実はこの制度を活用して財産を分割しながら贈与しても、それから3年以内に被相続人が死亡して相続手続きが発生すると、贈与した分は相続財産に含めて計算しなければならない。

しかし孫はその対象に含まないため、贈与してからすぐに亡くなった場合でも相続税を課税される心配はない。

もちろんこの節税方法にも注意点はある。税務調査でよく指摘されるのは、「贈与された事実があったか否か」だ。たとえば贈与した金を預けている金融機関の通帳や印鑑を、孫が自身で管理していなければ贈与とみなされない恐れがある。税務署の職員にいつ調査を受けてもよいように、贈与が間違いなく行われたと認められるやり方を心がけることだ。

方法2 「相続時精算課税制度」 値上がりしそうな財産があるなら検討の価値あり

相続時精算課税制度の申告を行うと、贈与の際に2,500万円までの控除額が認められる。1年で2,500万円ではないため、数年かければ課税されずに総計2,500万円近く贈与できる。

ただし2年以上かけて節税できるというメリットは、デメリットと紙一重でもある。相続時精算課税制度を選択したら、翌年以降も継続して同じ方法で税額を計算することになる。何年か過ぎてから暦年贈与を使いたくなっても、それが認められることはない。

この制度には条件があり、孫が20歳に達していること、生前贈与する祖父母が60歳を過ぎている必要がある。また2,500万円を超える贈与をすることになったら、超過した額については贈与税を課税されることになる。その税率は20%だ。

そのほか覚えておいたほうがよいのは、相続時精算課税制度を活用しながら孫に贈与した財産は、祖父または祖母が死亡したときに相続財産の一部とみなされる点だろう。この場合、相続税が課税されることになる。

ただし計算はあくまでも贈与したときの価額である。将来的に値上がりしそうな不動産などを持っているなら、早めに孫に贈ることで将来的な相続税の上昇を回避できるかもしれない。

手法3 「教育資金一括贈与の特例」 孫が幼いうちから成人後にかけて使える

孫の教育を援助したいと考える高齢者は少なくないだろうが、そのような場合におすすめなのがこの「教育資金一括贈与の特例」だ。

期限が設けられており、2019年3月31日まで利用できる。この期間中に法で定められた手続きをとりながら孫に教育資金を贈与すると、1,500万円まで(習い事のような、学校以外の教育に使う資金に限ると500万円まで)なら課税されない。孫の年齢は30歳までと決められているため、成人している孫に対しても使える。

この方法でよく指摘されているのは、孫が30歳に達したときの残額である。30歳になっても祖父母から与えられた資金を使い切っていないなら、贈与税を課税される。ポイントは孫に計画的な使用を促すことだ。

また資金の贈与は必ず金融機関を通して行う必要がある。領収書のような、資金の使途を証明する書類を金融機関に提出することも義務付けられている。

手法4 「結婚・子育て資金贈与の特例」家庭を築く孫を助けたいなら有効

孫が成人している場合は「結婚・子育て資金贈与の特例」も日本各地で利用されている。期限は2019年3月31日までだ。

何かとコストがかかる結婚や子育の資金を援助するなら、1,000万円まで非課税扱いを受けられる。結婚資金の限度額は300万円だが、子育て資金と認められる場合なら1,000万円まで課税されない。

孫の年齢制限が20歳~50歳未満と幅広い上に、資金の使用目的も幅広いのがメリット。たとえば、孫が産んだ子供の医療費や幼稚園の入園費、出産で必要となる費用、結婚後の新居にかかる費用など、さまざまな目的が認められている。

注意点は教育資金贈与制度と似ている部分が多い。50歳になったときに残額があれば課税される。また銀行のような金融機関を通す必要があり、領収証の提出が重視される点も共通している。

なお祖父母が亡くなったときに残額があっても贈与税を納付する必要はない。相続財産の一部とみなされるため相続税の支払いは発生するが、1親等の親族でない場合につきものの「相続税額の2割加算の対象」からは外される。

手法5 「住宅取得等資金の贈与の特例」 孫が家を買いたいと思っているなら検討も

子・孫など自分より後の世代で直系の親族である「直系卑属」に対し、住宅を手に入れるための費用を贈与する際に課税されない。期限は2021年12月31日までだ。

孫が20歳以上に達していることが条件となっている。成人している孫がいて、家を買いたいといった希望を持っているならこの方法は役立つかもしれない。

この「非課税の特例」の最大の特徴は、手に入れる予定の家屋によって課税を免れる範囲が変わることだろう。取得する予定の住宅が、省エネなどの基準を満たしていると非課税限度額が高くなることがある。

2018年3月現在、この制度を利用することで最大1,200万円までの贈与を非課税で実現できる。また消費税が10%に上がったときは、非課税限度額が上がることになっている。

最大の注意点は手続きが複雑なことだろう。申請する家屋については、細かな決まりが設けられている。また購入の契約日によって非課税限度額が変わることにも留意する必要があるだろう。

残された時間が少なくても、慌てずに慎重な判断を立てることが大事

生前贈与は、方法を的確に選べば贈与税および相続税を大幅に抑えられる。孫にまとまった財産を渡せるため、孫に有意義な人生を過ごしてもらえるだろう。

しかし法律や制度をよく把握する必要がある。期限や条件がはっきりしているし、それぞれ細かな違いがある。素人が適当に判断するとリスクを伴うため、相続や贈与をよく手がけている税理士や弁護士に相談するといいだろう。(ZUU online編集部)