社会人はなかなか異性との出逢いがないもの…。「自然な出会いではなく、自主的に結婚に向けた活動をしなければ自分は結婚できないのでは?」そんな焦燥感にかられ、婚活に励んでいる人も多いのではないだろうか。婚活ツールには様々なものがあり、人それぞれ自分にあった方法を取っているだろう。

異性で出逢う方法として、多くの人はまず合コンを思いつくだろう。その一方、近年はスマートフォンの普及もあり、マッチングアプリに出逢いを求める人も多い。合コンとマッチングアプリ、経済的合理性が高いツールはどちらなのだろうか。

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(画像=Lucky Business/ Shutterstock.com)

「深さ」にメリットがある合コン

男女が対面する合コンは、まさに白兵戦と言えるだろう。どんなにITツールが発達しても、対面による情報伝達力にはかなわない。話をしている相手の表情や雰囲気、仕草などに現れる深層心理や、お洒落なお店の雰囲気やお酒の酔いも気分の高揚を後押ししてくれる。合コンは1回セッティングするのに時間も費用もかかってしまうが、こと「深さ」においてはマッチングアプリを圧倒する。

しかし、合コンにもデメリットはある。それは「広さ」の面で効率が悪いということだ。特に結婚したい相手に求める条件をしっかり持っているならば、合コンはやや相性が悪い。参加者は、どうしても幹事のフィルタを通したものになってしまうし、一度に接することできる人数も限られている。さらに立地の影響も受ける。自分の居住エリア以外の異性と出逢えるチャンスは、物理的にほぼないと言って良いだろう。

「広さ」にメリットがあるマッチングアプリ

広さはない合コンに対して、真逆のメリットを持っているのがマッチングアプリだ。年収や年齢、居住地などの条件をかけて検索すると、数秒で条件にマッチした人を日本全国の会員からアクセスできる。この「広さ」は合コンにはないメリットであり、マッチングアプリの強みそのものだ。

筆者は合コンで結婚したカップル、マッチングアプリで結婚したカップルとも知人にいるが、合コンのカップルは同じ生活圏だったのに対し、マッチングアプリのカップルは埼玉と大阪という遠距離恋愛だった。マッチングアプリがなければ決して実現し得なかった、まさにネットの力を示すものといえる。

「情報の非対称性」を「シグナリング」でカバーする

それでは、マッチングアプリは、合コンのメリットである「深さ」に弱点があるのだろうか。必ずしもそうとは言えないかもしれない。キーワードは「シグナリング」だ。

シグナリングとは、2001年にノーベル経済学賞を受賞したマイケル・スペンス氏によって分析されたミクロ経済学の概念だ。取引において、買い手と売り手が同等の情報を保有している稀であり、ほとんどの場合は「情報の非対称性」が存在する。そこで、情報優位者は「この商品は〜という性能を持っていますよ」とシグナルを発信し(シグナリング)、情報劣位者は複数の選択肢を提示したりテストを設けたりすることでふるいにかける(スクリーニング)。

恋愛市場に置きかえれば、自分がいかに魅力的な人間かをアピールするのがシグナリングであり、自分に言い寄ってくる人を見極めるのがスクリーニングだ。顔が実際に見えないネット上で出逢うということに不安を持つ人はまだまだ多い。そこで「情報の非対称性」をシグナリングでカバーするわけだ。

反対に、アタックされた側は、そのシグナルが本当かどうか見極める必要がある。職業を医者や弁護士と偽るのは造作もなく、デートのときだけ見栄を張ることによって、お金持ちを装うことは可能だからだ。

スクリーニングも重要な能力

マッチングアプリは大抵の場合、身長や顔写真、体型といった外的情報はもちろん、勤務先や年収、出身校、趣味嗜好などを詳細に記入することができる。自由に文章を記載できるフリースペースが設けられていることも多いので、その気になれば、かなり綿密なシグナルを発することができる。これは大きな差別化になるだろう。

恋愛市場に限らず、色々な場面でもシグナリングは活用されている。富裕層向けサービスの営業パーソンが、高級なスーツや時計を身に着けていることもそうかもしれない。多くの受験生が有名大学に入りたがるのも、学歴という分かりやすいシグナルを手に入れるためとも言える。新卒の就職活動も同様だ。

上手にシグナルを発して、受け取る側になるときはスマートにスクリーニングする。これが様々な分野で成功する秘訣なのかもしれない。(黒坂岳央、高級フルーツギフトショップ「水菓子肥後庵」代表)