カンブリア宮殿,郵船クルーズ
© テレビ東京

大盛況!豪華客船の旅~クルーズ船の王者「飛鳥Ⅱ」の秘密

今、クルーズ船が日本各地の港に大挙して押し寄せている。寄港回数は実に年間2700回。大阪で開かれたクルーズ船の合同説明会「クルーズフェスティバル2018」には長蛇の列ができていた。

高嶺の花のイメージだったクルーズツアーが大盛況な理由は価格破壊。一大レジャー施設のような最新型のクルーズ船でも1泊1万円台のツアーがある。1日3食が付き、滞在中はお金を使う必要もない。そんな圧倒的コスパのクルーズの登場が空前の人気を支えている。日本ではこの10年だけで7万人もクルーズ人口が増えている。

活況を見せるクルーズ船のなかに絶対王者が存在する。クルーズ雑誌の人気ランキングでは「にっぽん丸」や「クイーン・エリザベス」をおさえて堂々の1位。26年も連続でトップに君臨し続けている。誰もが憧れるその船こそ日本が誇る「飛鳥Ⅱ」だ。

「飛鳥Ⅱ」の出航日。横浜の桟橋はまるでお祭り騒ぎだ。年末年始にサイパンとグアムを巡る「ニューイヤーサイパン・グアムクルーズ」。価格は10日間で46万8000円からと、1日あたり4万円を超える。

エントランスはまるで高級ホテルそのもの。船の中にはプール、大浴場、テニスコート、図書室、映画館……医師が常駐する診療所まである。「動く街」と言われるゆえんだ。

436室の客室のうち、最も高い部屋は1泊平均23万円の「ロイヤルスイート」。1泊平均4万8000円のツイン「Kステート」も、小振りな部屋だが、ゆったりとしたソファーにふかふかのベッドが快適そうだ。やや視界が遮られるが、海もばっちり見える。

「高い」というイメージを持っていた客も、一度乗船すると、その圧倒的な“お値打ち感”を知るという。

なにしろその料金には、3食の豪華な料理はもちろん、船内で提供している様々な食事の代金も含まれている。職人が窯で焼き上げるピザが食べ放題なら、一流のパティシエが腕をふるう、おいしいスイーツも食べ放題。クルーズ中、食事代は1円も必要ない。

食べ物だけではない。オーシャンビューのフィットネスが使い放題かと思えば、ゴルフの練習場では先生から無料でレッスンまで受けられる。ホールでは落語が始まったが、こうしたステージまで込みの料金だ。ちなみに船内に豪華なゲストを呼ぶクルーズは「飛鳥Ⅱ」最大の魅力の一つ。横綱白鵬ら現役力士を招いた大相撲クルーズに、有名歌舞伎役者をゲストに迎えた歌舞伎クルーズなど、他にないイベントで客を魅了してきた。

船内のサービスを存分に楽しみ、出発から5日後、見えてきたのは常夏の楽園グアム島。飛行機と違い、船から降りればすぐに観光を開始できる。

グアムを離れたのは大晦日。元日の早朝には甲板に大勢の乗客が集まっていた。お目当ては「飛鳥Ⅱ」から見る初日の出。獅子舞や琴の演奏で、船内は一気にお正月ムードになった。客の度肝を抜いたのが新年最初の朝食。伊勢海老から鯛まで付いた豪華なおせち料理が乗客1人1人に用意されていた。

カンブリア宮殿,郵船クルーズ
© テレビ東京

豪華船旅の舞台裏~「飛鳥Ⅱ」がトップに君臨する理由

カンブリア宮殿,郵船クルーズ
© テレビ東京

1991年の初代の就航以降、クルーズ界のトップに君臨し続ける「飛鳥」。累計の乗客数は87万人に達した。熾烈なクルーズ戦争に勝ち続けてきた郵船クルーズ社長の服部浩はその理由を、「お客様が何を求めてクルーズに来てくださるのか。一番はクルーじゃないかと思います。私たちの宝です」と言う。

横浜から39日間かけてオーストラリアとニュージーランドを巡る「オセアニアグランドクルーズ」(154万円~)。その船内にはあちこちで客をもてなすクルーの姿があった。

乗客定員872人の「飛鳥Ⅱ」に乗るクルーの数は470人。乗客2人にクルー1人が付く計算で、日本ではトップの水準だ。24時間いつでも何度でも頼んだ時にベッドメイクをしてくれるクルーから、呼べばすぐに駆けつける船内設備修理のエキスパートまで、クルーたちが総力を挙げて快適な旅を支えてくれる。

横浜港を出航して2週間、巨大なハーバーブリッジをくぐって到着したのはオーストラリアのシドニー。ここでもクルーたちの見えない活躍があった。

下船した乗客たちがオペラハウスを借り切ってオペラを鑑賞している間、料理人のクルーたちが向かったのはシドニーの食品市場。総料理長の西口雅浩も自ら出動し、しらみつぶしに食材を見て回る。

このとき目を留めたのは、今が旬だというタスマニアサーモン。その新鮮さに惚れ込み、早速買い付けた。船に戻ると、80人もの料理クルーたちが調理にとりかかる。

この日のディナーは全7品のフレンチ。オーストラリア産の牛肉を使った珍しい生ハムに、メインはタスマニアサーモンのソテー。脂ののった甘みは現地調達ならではのおいしさだ。代々「飛鳥」の料理人は、「1度たりとも同じ料理は出さない」ことにこだわってきた。

「いろいろなバリエーションでお客様に満足していただこうと思います」(西口)

一方、入社して1年の鈴木公実子の担当は客を楽しませるエンターテインメントチーム。始まったのは、イカの人形を蹴り飛ばし、その飛距離を競う「飛鳥Ⅱ」恒例のイベント「イカ飛ばし大会」。乗客同士の交流が目的だ。

 それが終わるやいなや、鈴木はすぐに次の現場へ行き、いきなり派手な衣装に着替えてゲームの司会を。さらに浴衣姿になってマイクを握り、歌を歌う。エンタメチームは客を飽きさせないよう様々なイベントを仕掛けるのが役割なのだ。   客を喜ばせることに執念を燃やす「飛鳥」のクルーたち。服部がこだわってきたのは、圧倒的なクルーの力による最高のおもてなし。「誰も提供できない最高品質のサービスを提供しなくてはいけない。世界で唯一無二の客船にしようじゃないか」と言う。

シドニーを出て3日、今度はニュージーランドの大自然が出迎えた。

カンブリア宮殿,郵船クルーズ
© テレビ東京

全航程102日間~魅惑の「世界一周」の全貌

航海を終えた「飛鳥Ⅱ」が横浜港に戻ってきた。ところが着岸するや否や、船内は慌ただしい雰囲気に。次なる航海の準備だという。大量の荷物を積み込み始めたのはエンタメチームの中村祥。それはワニのぬいぐるみだった。

「パナマ運河はワニが出るので、これで盛り上げていきたいと思います」(中村)

次に控えているのは、飛鳥の象徴ともなっている「世界一周クルーズ」なのだ。

その航路は壮大そのもの。まず横浜からシンガポールを通り、インド洋、地中海へ。タイのプーケットでは絶景のパンガー湾を堪能する。そして中東からヨーロッパへ。全長160キロのスエズ運河通過は船旅の醍醐味そのものだ。

地中海からはポルトガルを回り、オランダ、さらにイギリスへと北上するコース。ギリシャでは美しいミコノス島に停泊する。欧州の歴史ある港町に立ち寄る日々は贅沢そのもの。ジブラルタル海峡では天を突くザ・ロックの岩肌が必見だ。

そして大西洋を渡りアメリカ東海岸。さらにカリブ海を抜け西海岸へ上っていく。ニューヨークではマンハッタンの港に直接横付けし丸一日観光。全長80キロのパナマ運河が旅のクライマックスだ。幾重もの水門を通り、1日がかりで太平洋へと通り抜ける。

全航程102日間で18ヵ国をまわる壮大なクルーズ(330万円~)だ。

そんな世界一周には、通常とは比べものにならない苦労があった。

フォークリフトで「飛鳥Ⅱ」に運び込んでいたのは膨大な量の食材。食材担当のホテル部・鈴木将史課長代理がどうしても持っていきたいこだわりの品はウナギ。「スエズ運河を抜けるときに、『するっと通っていける』という縁起物です」と言う。

乗客700人以上の100日間を超える食事。その程度ではまだ足りない。東京・品川の埠頭にやってきた鈴木は「5月26日にボストンに入港するので、先回りしてコンテナ船で届けます」と言う。積みきれない食材を前もって寄港地に送るのだ。

さらに大きな困難に挑むのは「飛鳥Ⅱ」の航海士たち。世界一周は格段にシビアな航海だと言う。「世界一周には必ず初寄港地が入ってきます。見えてくるのはすべて新しい景色なので、それは1つの大きな挑戦になります」と、二等航海士・二子久は言う。

今回は特に緊張する航路があるという。それが3本の橋がかかるイギリスのエジンバラ近郊。この橋を通らなければ、今回の目玉の一つであるエジンバラにたどり着けないのだ。

「橋の高さが42メートルとされていますが、本船の高さが45メートルなので、潮が引いている隙を狙って通過します。特殊な操船が必要な場所になります」(二子)

挑戦から生まれた~最強クルーズ船、100年の歴史

カンブリア宮殿,郵船クルーズ
© テレビ東京

郵船クルーズの歴史は三菱グループの創立者・岩崎弥太郎に始まる。

明治初頭、弥太郎は欧米に支配されていた海外への航路を開拓すべく日本郵船の前身、三菱商会を設立。1875年、日本初の海外航路、横浜~上海航路開設を皮切りに、次々と世界の海へと挑戦していった。

そして作ったのが「浅間丸」や「氷川丸」など、当時の技術の粋を集めた豪華な船。

「チャールズ・チャップリン、ヘレン・ケラー、アインシュタインといった方々をお乗せした。『太平洋の女王』と言われ、ずいぶん活躍したと聞いています」(服部)

世界をも魅了したその勇姿は、日本郵船の誇りある歴史として刻み込まれている。

しかし第二次世界大戦が勃発すると、日本郵船の客船を次々に日本軍が徴用。戦争に使う船へと改造され、次々と沈んでいった。そしてほぼ全ての客船を失い、客船事業から撤退を余儀なくされる。

その25年後、再び豪華客船に挑戦しようという男が現れる。14代社長の宮岡公夫だ。1980年代、急激な円高で業績が悪化しつつあった日本郵船。宮岡はそれを打開するアイデアを思いつく。それが欧米で人気が出始めていた客船クルーズだった。

宮岡は「もう一度、最高の客船を造って世界に挑戦しよう」と宣言する。役員の中には「豪華客船のノウハウなんて今の我々にはない」「赤字になったら元も子もない」と反対意見もあったが、宮岡は諦めず、「多くの人がクルーズを楽しむ時代が来る」と、説得し続けた。そして1989年、子会社として郵船クルーズを設立。初代「飛鳥」を就航させた。

だが当時、日本ではまだ馴染みのなかった豪華なクルーズ船に客はほとんど来なかった。

当時を知る営業企画部の江頭紀光子は「最低記録は30数名様でした。お客様が乗組員の何分の1しかいない時代があったんです。催し物をやるにしても、お客様を探しにいかなければならなかった」と言う。

どうすれば客が集まるのか、毎晩のように話し合ったクルーたち。あるアイデアへの挑戦を決意する。それが日本初となる豪華客船による世界一周クルーズだった。

「本当にものすごい反響で、定員の2倍の申し込みがありました」(江頭)

飛鳥は世界一周で一気に知名度を上げ、客船クルーズの王者となる。そんな会社の礎ともいえる世界一周クルーズだからこそ、今も現場社員たちの思いは熱い。

寄港地でのツアー開発に奔走してきたツアーチームの中村圭は、2年がかりでとんでない企画を実現させた。それがローマでの停泊中、世界遺産バチカンにあるシスティーナ礼拝堂での貸し切り見学ツアー。壁一面に描かれたミケランジェロの最高傑作「最後の審判」。通常なら2時間待ちが当たり前の世界的スポットを、「飛鳥Ⅱ」の客だけで独占するのだ。

「絶対に楽しんでもらう。そこが私の中の挑戦だと思いました」(中村)

3月25日、3年ぶりとなる「飛鳥Ⅱ」の世界一周クルーズ出航の日。ターミナルには乗客が続々と集まってきた。服部もクルーを激励しに駆けつけた。100年前から受け継がれてきた世界への挑戦心が、今も「飛鳥Ⅱ」を走らせ続けている。

カンブリア宮殿,郵船クルーズ
© テレビ東京

気軽に豪華クルーズ体験~お値打ち国内戦略

「飛鳥Ⅱ」は手軽な価格で楽しめる国内のショートクルーズも充実している。例えば函館から山形の酒田に立ち寄り、富山まで行く「夏の日本海クルーズ」は2泊3日で8万4000円から。仙台から横浜へ1泊2日の「秋の仙台・横浜ワンナイトクルーズ」なら4万2000円からで、全てのサービスを体験することができる。

「飛鳥Ⅱ」の国内クルーズは、船ならではの足回りで普通なら行きづらい町を訪ねるのも特徴だ。

この日、到着したのは和歌山県の新宮港。「飛鳥Ⅱ」が到着するなり、地元の子供たちまで総出で歓迎イベントを開き、出迎えてくれた。降り立つなり特産品ブースで買い物を始める「飛鳥Ⅱ」の客たち。1回寄港するだけで1000万円以上が地元に落ちるという。

「市にとっても一大イベント。自治体と一緒になって盛り上げていこうと思ってくださるので、うれしく、ありがたいと思っています」(新宮市・田岡実千年市長)

郵船クルーズは、地方ツアーを増やすだけでなく、その地元とタッグを組み地域の活性化につなげている。交通の便が悪く、観光に不利な地方は多い。だが、秘境とまで言われる熊野古道や那智の滝へも、巨大なクルーズ船なら一気に数百人を連れてくることができるのだ。

普段は寂れてしまっている那智勝浦町の商店街もこの日は一変。「飛鳥Ⅱ」の効果で客を呼び込むことに成功していた。

今では「飛鳥Ⅱ」の船内に寄港地の自治体職員が乗り込み、観光地のアピールまで行なっている。観光産業課の辻雄多郎さんは「『飛鳥Ⅱ』に乗っている客様の生の声も聞くことができるので、ありがたい話だと思います」と言う。

客も地元も満足させるクルーズに「飛鳥Ⅱ」は挑んでいるのだ。

カンブリア宮殿,郵船クルーズ
© テレビ東京

~村上龍の編集後記~

「飛鳥Ⅱ」は旅・観光に限らず、消費傾向全体の変化を象徴している気がする。

優位性を示す競争的な消費はもう流行らない。「飛鳥Ⅱ」利用客の多くは、「ゴージャスな船旅」だけではなく、いろいろな意味での「出会い」を楽しんでいるように思える。

とくにシニア層は、大きな家、豪華な車などより、誰かとの出会いのほうが貴重なのかも知れない。

生みの親とも言える「日本郵船」は、日本の近代化のために先行する欧米に対し挑戦を続けた。洋上を走る「素敵な街」のような「飛鳥Ⅱ」はその精神性を受け継いでいる。

<出演者略歴>
服部浩(はっとり・ひろし)1953年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1976年、日本郵船入社。2014年、郵船クルーズ社長就任。

放送はテレビ東京ビジネスオンデマンドで視聴できます。

【編集部のオススメ記事 カンブリア宮殿】
目の健康を売る!苦境メガネチェーンの華麗なる復活劇 メガネスーパー
「安い・快適・安全」三拍子揃った旅を!バス業界に新風を吹き込む風雲児の挑戦 WILLER ALLIANCE
人生100年時代に光を灯す!凄腕ドクターの最新医療スペシャル 千葉西総合病院・慶應義塾大学医学部
サラダチキンから銘柄鶏までヒット連発!「ひと手間経営」で躍進する鶏カンパニーの秘密 アマタケ
消費者が欲しいものは消費者自身で作る!~安心&絶品、唯一無二「生活クラブ」の全貌 生活クラブ連合会