カンデオホテルズ
(写真=髙橋明宏)

既存のビジネスホテルでもなく、かつシティホテルでもない、新しい第三のホテルカテゴリーを確立しつつあるカンデオホテルズ。『日経ビジネス』のホテルランキングでも1位を獲得している同社は、どのようなホテルなのだろうか。カンデオホテルズを率いる穂積輝明社長に聞いた。※インタビューは2018年4月16日に行われました。

——カンデオホテルズはどのようなホテルなのでしょうか?

いわゆる「ただ安くて寝るだけのビジネスホテル」でもなく「サービスは良いけど高くて使いにくいシティホテル」でもない、その中間領域のホテルです。創業時に出店用地を探すため、年間200泊ぐらい出張していたときに、本当に癒やされる品のある空間を持ち、かつ使い勝手が良いホテルが少ないということに気がつきました。

需要がそもそも無いのか、潜在需要はあるのに供給が無いのか、どっちなのだろうと最初はかなり悩みましたが、数多くの都市のホテル市場を自分の足で検証した結果、潜在需要はあると半分確信し、自分で作ろうと思いました。もう半分は賭けでした(笑)

——お客様の反応はどうでしたか?

創業時はブランド力もないですし、認知度もないですし、経験もないので、ないないづくしで本当に苦労の連続でした。「ビジネスホテルの割には高い」「シティホテルの割には中途半端だ」とご意見を頂くことも数多くありました。

ただ自分たちが本当に泊まりたいホテルを作ろうという想いはぶれていなかったので、意見を頂戴しては改善というサイクルをハイスピードで回し続けた結果、3年ほど経つと「こういうホテルが欲しかったんだよ」と言って頂けるようになり、リピート率も一気に高まりました。そこでやっと、もう半分も確信に変わりました。

——『日経ビジネス』2017年10月23日号の「ビジネスパーソンに聞く 後悔しない航空&ホテル 5000人満足度ランキング」で1位を獲得しました。

私たちは顧客目線で運営していますので「自分たちが本当に泊まりたいと思うホテルは何か」をベースに企画を進めます。例えばカンデオホテルズでは、最上階に展望露天風呂を設置しているのですが、実は技術面やコスト面でのハードルが高いのです。だから、多くのビジネスホテルの大浴場は、低層階にあります。

でも、お客様としては最上階で眺めのいい露天風呂に入りたいと考えます。温泉旅館のような価値の高いお風呂を、ビジネスユースでも使えると嬉しいだろうなと。そのような価値を追求したいと考えています。

また、ビジネスホテルのなかには、冷凍食品を解凍したできあいのみを朝食会場に並べているケースもありますが、当社はかなり手間をかけて調理した料理も提供しています。体にやさしい健康料理をテーマに、60品目のビュッフェ形式です。その分、朝食代金も少し高いのですが、それでも払う価値があると感じて頂けるサービスをずっと追求してきました。こういったお風呂(Bath)、朝食(Breakfast)、ベッド(Bed)を表す3Bでの付加価値の追求が、お陰様で日本一の評価に繋がったのだと思います。

カンデオホテルズ
(写真=髙橋明宏)

——今後は、どのように進化したいとお考えですか?

近年の傾向として、特にバリバリ働く優秀なビジネスパーソンの方ほど、働きながら余暇も過ごすワークライフ・インテグレーションが進んでいます。そういった方々には、いわゆるサードプレイスと呼ばれる、自宅以外で本当にくつろげ、気分転換にもなり、かつ仕事もはかどる独自の空間体験を提供するホテルとして進化したいと考えています。

眺望の良い最上階をスイートルームにして一部の方だけにご提供するのではなく、露天風呂やラウンジのような共用部にすることで、多くのお客様に新しい価値を提供することを、引き続き追求したいと思います。

当ホテルは、ホテル内の全てのエリアを、お洒落な館内着で楽しめる設定となっています。お風呂に入った後、館内着のままでラウンジでオリジナルのビールを飲んでもいいし、ソファでPC作業してもいいし、デザイン性の高い空間でくつろげるようにしています。

——ここ(エントランスエリア)もオシャレですよね。デザインやインテリアには何かこだわりがありますか?

家具は全て特注です。既製品は使っていません。ちょっとした事ですが、仮に自分が20畳のリビングを持ったときに、置きたいと思うような家具を選んでいるという感じです。

お客様の疲れを癒やすベッドは、最高のバランスと呼ばれているシモンズ社のものを採用しています。実は1号店を開業するときに、ブランド名を隠したマットレスを10個くらい並べて、みんなで跳んだり跳ねたり寝転がったりしてみました。

それで「ユーザーとしてどれが一番いい?」と聞いたら、みんな同じのものを選んだのです。それがシモンズ社でした。日本人の体型に合うのかもしれません。創業以来、ずっとシモンズ社製です。

——お風呂、朝食、ベッドに特徴があるわけですね。

ホテル業界では、お風呂(Bath)、朝食(Breakfast)、ベッド(Bed)の「3B」が、お客様が直感的にホテルを判断する3大要素と言われています。その3大要素において、どうやって差別化しようかと考え抜いて運営してきました。

近年は、当社と同じような方向性を謳うホテルも増えてきました。ハードはすぐに真似する事が出来ますし、真似される事は業界発展の為に良いこと捉え、当社はソフトも含めて、追いつかれないように、更に進化し続ける必要があると考えています。

カンデオホテルズ
(写真=髙橋明宏)

——経営指標の目標はありますか?

我々は今、開業予定を含めて国内は約4,500室の規模になりましたが、市場規模から逆算すると国内事業は最大で10,000室までと考えています。海外はASEANを中心に4,000室を展開し、創業20周年の2025年5月までに14,000室を展開するのが目標です。

売上高でいうと500億円程度になります。名著『ビジョナリーカンパニー』で定義されているBHAG(とてつもなく困難だが達成するとワクワクする大胆な目標)を設定しています。それが創業20期で売上高500億円という「BHAG500」です。国内で300億円、海外で200億円というイメージです。

株式上場は考えていません。創業当時は上場を目指していた関係で、上場会社水準のガバナンスを意識してきたので、数字の透明性などは極めて高水準ですが、あえて非上場会社で柔軟性を最優先にやっていこうと考えています。売上高500億円を達成したあとは、本業とシナジーのある社会貢献事業に力を入れたいと思っています。

——必要以上に規模は追わない、ということでしょうか?

売上高では、大先輩たるグローバルホテルオペレーターに遠く及びません。しかし、収益力では、将来的には世界一を目指しています。高い顧客満足度を提供し、より高い利回りを求めるデベロッパーや投資家から必要とされるホテルオペレーターとなり、かつ当社の仲間を幸せにする原資として高収益を確保する、というハードルの高い三方良しの実現を目指しています。

ラグジュアリーホテルよりもビジネスホテルの方が、利益率は高いのが一般的です。ラグジュアリーホテルはオペレーションが高度かつ複雑です。一般的に1部屋を運営するのに従業員1人以上が必要です。100部屋あれば100人といった具合です。ただ、それだけ多くのスタッフを配置して手厚いサービスを展開するのがラグジュアリーホテルの役割でもあると思います。当社はオペレーションを効率化しつつ、顧客満足度を高めるという矛盾したゴールをあえて両立させ、オリジナルのポジションを目指しています。

カンデオホテルズ
(写真=髙橋明宏)

私自身、学生時代にボランティアに携わった経験があります。私は学生で時間が余っていたので問題なかったのですが、一緒にやっていた社会人の仲間が、ボランティアを頑張れば頑張るほど日々の稼ぎを得る仕事との両立で苦しむ姿を見て「これはおかしいな」「世のため人のためにやってるのに、頑張るほど苦しくなるのは矛盾があるな」と感じていました。

その矛盾を解決する為に、ボランティアではなく、民間の営利会社で、持続可能型社会に貢献する事業を立ち上げたいという想いをずっと持っていました。その為には、やはり本業はどこよりも強くする必要があります。本業のホテル業では利益率で世界一を目指し、売上高500億円の事業サイズから得られるパワーを活かして、衣食住、エネルギー、農業、教育などのホテル業とシナジーのあるカテゴリーで、社会貢献事業を横展開したいと考えています。

例えば、カンボジアの農家をより発展させるミッションの為に、我々が農業技術を持ったパートナー企業と組んで、現地の農業技術力を上げ、農家の方が地元の市場で農産物を直接売れる仕組みを作る。価格が良い時は農家の方はどんどん市場で売って豊かになる。値崩れが起きた時は、我々が最初から決めた値段で買い支える。そうすれば農家の方は安心して直販でき、我々はトレーサビリティが高い農作物をホテルのお客様に提供できる。

これはWin-Winのビジネスモデルになると思います。ホテル業は周辺領域の広がりが大きいので、同じような事業を、広いカテゴリーに展開できる事が魅力です。

——カンデオホテルズは、今までになかった第三のポジションと言えます。

そういう意味では、非常に効率のいいオペレーションをしながら、かといって「安かろう悪かろう」ではない、今までになかったタイプのホテルと言えるかもしれません。

我々の調査では、現在の国内ホテル市場は約90万室が供給されていますが、当社のような中間領域を意識しているホテルは全体の中で5%程度です。5スターや3スターと比べれば市場規模がそもそも圧倒的に小さく、明らかにニッチですが、ニッチトップを突き進みたいと思っています。ありがたいことに、最近ではロイヤリティの高いお客様も着実に増えてきています。

——最後にZUU online読者にメッセージをお願い致します。

当ホテルは、大都市ですと一人利用で1泊1.5万円から2.5万円前後、地方都市でも1万円前後と、一般的なビジネスホテルより高いのは事実です。でも、ありそうでなかった価値を提供しておりますので、ぜひ使って頂きたいですし、期待を更に超えていきたいと考えています。