男性が自分の知能を過大評価するのに対し、女性は過小評価する傾向が強いことが、アリゾナ大学やロンドン大学など、数多くの研究結果から明らかになっている。自分のIQを推測する実験でも、男性のスコアは女性よりはるかに高いという。

男女間の所得格差に焦点が当たっている近年、こうした性別による自信格差が結果的に学業や社会での成功に影響しているのではないか——との議論も聞かれる。自信格差の原因については解明されていないものの、自己評価基準の差、社会的位置づけの差、家庭での教育方針などが挙げられている。

自己概念の高い生徒ほど、学術や仕事で成功しやすい?

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(画像=Anetlanda/Shutterstock.com)

2018年2月に発表された調査は、アリゾナ大学生物学教育研究機関のサラ・ブロウネル助教らが、学生の学術(科学・テクノロジー・エンジニアリング・数学)に関する自己概念を調査し たもの。GPAをコントロールした被験者に対する調査で「自分はクラスメイトの何%より頭がよいと思うか」という問いに対し、男性生徒は平均66%、女性生徒は平均54%と答えた。

過大評価といえばそれまでだが、自己概念の高い生徒ほど少人数のディスカッションでも積極的に発言する点をブロウネル助教は指摘している。こうした積極的な参加は、言葉少なく受け身な姿勢で議論に耳を傾けているよりも、はるかに学習や知識、経験の向上につながる。しかし、科学の講義で自発的に手を挙げて発言する女性生徒は、ほとんどいないという。

男女間でなぜこのような差が生まれるのかについては、今なお解明されていないものの、ブロウネル助教らは、「女性は男性よりも能力や振舞いに対する自己評価が厳しいのではないか」との仮説を立てている。

それが結果的に自分の能力への不信感となり、「クラスメイトの前で間違ったり、的はずれな発言をすると恥をかく」「自分は難しい問題を解けるほどかしこくない」といった自信の欠落を招いているのかもしれない。

同様の差は言語にもみられる。母国語が英語の生徒は「クラスの61%より頭がいい」と思っているが、英語が第 2 言語の生徒は「クラスの46%より頭がいい」と答えている。

自己概念の高さ、低さが、学業だけではなく、社会にでた後の成功に影響をあたえても不思議ではないだろう。

特にフランス、英国の男性は自己過大評価する傾向が強い?

同様の調査結果は多数報告されている。2009年にロンドン大学の心理学者トーマス・チャモロ・プレムージク博士らが行った調査でも、12カ国・地域(米国・英国・フランス・スペイン・トルコ・オーストラリア・オーストリア・ブラジル・イラン・イラク・マレーシア・南アフリカ)で、「男性は女性よりも自分の知性を過大評価しやすい」との結果がみられた。

この調査では2006人の参加者が、7つの評価項目(空間的知能・論理的知能・言語能力・感情的知能など)に基づき、自分のIQを55〜145で推測するというもの。特にフランスの男女の自己評価が大きく開いており、男性の平均スコアは女性より15ポイントも高かった。英国でも10ポイントの差がみられた。

プレムージク博士は、「男女間の実際の知能の差に関係なく、男性は自己過大評価の傾向があり、女性はその逆であることが分かる」とし、「男女の社会的位置づけなどが、こうした差を生みだす要因かもしれない」と分析している(Medical News Today2009年4月20日付記事)。

男女のIQに大差はない

それでは男女のIQには本当にそれほどの差があるのだろうか。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのエイドリアン・ファーナム博士 は30種類以上の国際調査報告を分析した結果、男女のIQは同じくらいだと結論づけている。

しかし、ここでも女性は自分あるいは他の女性の知性を過小評価する傾向があり、男性はその逆である点が指摘されている。

ファーナム博士は、少なくとも英国では、あらゆる教科の成績で女性生徒が男性生徒を上回っていることを実例に挙げ、「平均あるいはそれ以下の男性が自分は頭がいいと思いこんでいるのに対し、非常に聡明な女性が自分は頭が悪いと思いこんでいる」と述べた。

ファーナム博士が「男性の傲慢、女性の謙遜」と表現する「思いこみ」は世界中の家庭で何代にもわたり受け継がれており、先入観で親が無意識のうちに子どもの自信を奪うような子育て環境も珍しくないとの懸念を示した(Newsweek2008年1月22日付記事)。

所得格差が女性からさらに自信を奪う「負のループ」?

これらの調査結果や分析から判断すると、プレムージク博士やファーナム博士の指摘通り、女性の知能に関する自信の欠落には、様々な要因が複雑に絡み合っているものかと思われる。

近年、「自信の欠落が女性の社会的成功を阻んでいる」との指摘が多方面か ら挙がっている。国際的な著名リーダーシップ・コーチ、マーギー・ワーレル氏 も、自信の欠落と自分の価値への不信感が、女性にとっての最大の壁のひとつとなっている点に懸念を示すひとりだ。

ワーレル氏はカリフォルニア大学のウィープケ・ブレイドーン博士が8年間にわたり、世界45カ国・地域の男女98.5万人の自尊心を調査した報告書を 独自に分析し、特に欧米諸国では男女間の所得格差が、さらに女性が自信を失う一因になっていると警告している(フォーブス2016年1月20日付記事)。

自信格差が所得格差の一因であるとともに、所得格差が自信格差を招くという負のループだ。同氏は職場で「No」ということを恐れないこと、リスクを恐れないことなどを女性に提案している(Business Chicks2017年6月6日付記事 )。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)