健康を維持するためには、健康を害する要因を取り除くことと、定期的に検査をし、なるべく早く異常を見つけて対処することが大切です。

現在、国の健康診断に関する制度には、国の健康増進事業(健康増進法)に基づく健康診査や各種検診(1)のほか、労働安全衛生法や健康保険法に基づく就労者が対象の一般健康診断、高齢者の医療の確保に関する法律に基づく40~74歳が対象の特定健診(特定健康診査)があります(2)。

こういった制度による健康診断は、特定の基本項目にしぼって実施されるのに対し、人間ドックでは、基本項目だけでなく、より幅広い項目の検査を受けることができます。また、施設によって検査項目も費用も異なります。一般健康診断や特定健診の代わりとして、費用の一部を補助する企業等や自治体もありますが、原則として人間ドックは全額自己負担です。幅広い選択肢があるうえ、高額負担となることも多いことから、いつ、どこの施設で受けるべきかについて、多くの方が1度は頭を悩ませたことがあるのではないでしょうか。

ここでは、一般に、どのような施設選択基準があるかを紹介します。

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(1)歯科検診、がん検診等。
(2)その他、妊婦や乳幼児を対象とする母子保健法に基づく妊産婦健康診査や乳幼児健康診査、就学児童を対象とする学校保健安全法に基づく健康診査等がある。

施設選択のポイント

人間ドック
(画像=PIXTA)

企業等や自治体で補助を受ける場合は、通常、実施施設がいくつか指定されています。その場合、企業や保険者が、一定の基準を満たす施設の中から指定していることが多いため、受検者はその中から選ぶことができます。

一方、受検者が個人的に探す場合は、どのように選んだらいいのでしょうか。たとえば以下のようなポイントがあげられます。

(1) 学会等が認定する施設

現在、人間ドック実施施設の多くが、(公社)人間ドック学会や(一社)日本総合健診医学会等に属しています。それぞれ、検査の精度、医師からの説明や生活のアドバイスの有無、受けた後のフォローアップの有無等について、基準を設定し、それをクリアした施設を、人間ドック学会では「機能評価認定施設(360施設程度(3)。2018年5月時点。)」、日本総合健診医学会では「優良総合健診施設(260施設程度。2018年5月時点。)」として認定しています。現在は、複数の団体で認定作業を実施していますが、認定施設に関する認定基準や精度管理の基準を統一しつつあります。

特定の検診に特化した施設等は、この認定基準の対象とならないこともあるため、これ以外の施設が悪いわけではありませんが、上記の認定を受けた施設は、いずれも学会を通じて情報収集を行っている点や、いずれの施設認定も、数年ごとの更新制であるため、繰り返し設備や体制の精査を受けている点が特長です。

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(3)社会保障制度改革国民会議は、社会保障・税一体改革を契機に創設された。

(2) 受けたい項目を受けることができる施設

疾病は、性・年齢によって発症のしやすさが異なるものがあります。また、体質は遺伝によるところもあるため、血縁者が大きな病気をしていれば、気になるものです。

そこで、一般健康診断や特定健診にある基本項目をカバーしたうえで、優先したい項目の検査が充

(3) 毎年同じ施設か。いくつかの異なる施設か。

健康診断や人間ドックは、1回だけ受ければいいというものではありません。また、結果が基準値の範囲内か範囲外かだけを見ればいいものでもありません。定期的に受けて、その時点での健康状態を確認するとともに、これまでの結果との比較から、より早いタイミングでリスクを把握することが大切です。

ところが、一般に、検査試薬や計測機器が異なると、結果に差異が出てくることがあるとされています。一般健康診断や特定健診と同じ基本項目については、施設が変わっても、同じ基準値が使えるようにする動きがありますが、特にオプション健診では、同じ名称の検査でも施設によって検査内容が異なることが多くあります。

毎年同じ施設を利用すると、同じ試薬や機器で測定した過去の結果を踏まえて医師に診断してもらうことができます。前回の画像情報等の結果と比較することで不要な再検査や精密検査を避けることができる場合もあります。

一方、複数の施設をまわり、それぞれの施設が得意とする検査を順に受けることもできます。数年おきに同じ施設を利用すれば、過去の結果との比較も可能となります。

最近のトピックス

●施設間の差異を埋める動き

(1) 健診項目や基準の統一

健康診断・人間ドックをより広く効果的に広めるために、認定施設に関する認定基準や精度管理、結果の判定区分の基準や測定方法、検査結果のフォーマットやフォロー体制を統一する動きがあります。

健康診断における基準範囲は、「いわゆる健康人の95%の検査値が当てはまる」範囲と定められて、測定された患者の検査値が健康人とどの程度異なるかで異常かどうかを判断しています。したがって、その基準範囲は、予防医学的閾値と異なるだけでなく、全国の医療または健診機関によって異なることがあります。また、サンプル数が充分にない等の理由により、男女差や年齢差を考慮して基準範囲を設けている項目はごく一部しかありません。

そこで、大規模なサンプルを使って、全健診機関に適用可能で、男女別、年齢別の基準範囲を設定しようとする動きがあります(4)。

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(4)例えば、2015年の人間ドック学会と健康保険組合連合会による150 万人分の健康診断結果の分析等(「新たな健診の基本検査の基準範囲 日本人間ドック学会と健保連による 150 万人のメガスタディー」(2014年4月))

(2) AI活用

経験が少ない医師でも同様の診断ができるよう、自動システムやAIの導入に積極的です。たとえば、内視鏡検査にAIによるシステムを使い、ポリープや早期がんが正確に判別できるようテストが行われています。

●施設差別化の動き

(1) フォロー体制を充実

40~74歳が受ける特定健診と人間ドックの最も大きな差は、特定健診が、検査後の保健指導(生活アドバイス)に重点をおいているのに対し、人間ドックは検査に重点が置かれているため、検査後のフォロー体制が施設によって異なります。再検査が必要な受検者に対して、再検査の受診・未受診の確認はしている施設はありますが、特定健診を受けた場合、結果に基づいて行われる保健指導のような生活習慣の改善に対する指導を行う施設は、現在のところ多くはありません。

しかし、フォロー体制に力を入れている施設も増えてきています。人間ドック学会では、2015年以降「保健指導実施施設認定事業」を開始しています。

(2) 新しい検査

1) 認知症検査

認知症様症状の中には、適切な対策を行うことにより、症状の進行を阻止することができるケースがあると言われています。たとえば、「水頭症」、「脳腫瘍」等の異物が脳を圧迫することで起こるものでは、これらは圧迫の原因を取り除けば改善します。また、糖尿病などの生活習慣病がアルツハイマー病や血管性認知症に関係することから、人間ドックの機会等に、認知症の疑いを早期に発見し、早期介入を行うことも有効であると考えられています。

2) 遺伝子検査(遺伝子学的検査)

最近では、オプションとして遺伝子検査を導入している医療施設もあります。

遺伝子検査には、(1)病原体核酸検査(ウイルス等感染症を引き起こす病原体の核酸を検出する)、(2)ヒト体細胞遺伝子検査(がん細胞特有の遺伝子の構造異常等を検出する)、(3)ヒト遺伝子学的検査(ゲノムおよびミトコンドリア内の原則的に生涯変化しない、その個体が生来的に保有する遺伝学的情報を明らかにする検査)があります。人間ドックで扱う可能性があるのは、(3)の、生涯変化せず、血縁者間で共有される情報についてだと考えられています。しかし、将来的に発症する可能性はほとんどないが遺伝子変異を有しており、その変異を次世代に伝える可能性がある場合や、発症する前に将来の発症をほぼ確実に予測できる場合等では、倫理的な配慮が必要と考えられています(5)。

人間ドック学会による「人間ドック健診の実際」では、2013年米国臨床遺伝学会による「本人に報告すべき疾患」として家族性腫瘍、血管系に関連する疾患、心筋症や不整脈疾患などを例示していることを取り上げ、「今後は家族歴問診でリスクの高い人をスクリーニングし、必要な場合は遺伝専門家に紹介することが重要になる」としています。また、現在、国内でも大規模コホート研究が進行中であり、正確な多因子疾患の遺伝学的検査への期待も寄せています。

検査項目も重要ですが、人間ドックは、リスクをより早く見つけるための検査ですから、要精密検査・再検査を指示された場合は、必ず受けることが大切です。

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(5)日本医師会のサイトによる。

村松容子(むらまつ ようこ)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

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