住宅ローンには大きく分けると変動金利型、固定期間選択型、全期間固定金利型の3つの金利タイプがある。それぞれにメリットがあればデメリットもある。メリットにばかり目を奪われてデメリットを理解していないと、予想外のことが起こって損することになりかねず、とんでもない落とし穴にはまることもある。

まずは3つの金利タイプの特徴を理解しておこう。

住宅ローンの3つの金利タイプと金利水準の違い

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(画像=Antonio Guillem/Shutterstock.com)

住宅ローンの3つの金利タイプのなかで、最も多くの人が利用しているのが変動金利型。なぜ利用者が多いのかといえば、金利水準が低いからにほかならない。金利が低ければ、毎月返済額が減って負担は軽くなる。まずは金利がどれくらい違っているかをみてみよう。 2018年3月のメガバンクの例をみると、最も金利引下げ幅が大きい最優遇金利は次のようになっている。

変動金利型           0.625%
固定期間選択型の10年固定   0.80%
35年の全期間固定金利型    1.28%

返済額は年間で10万円以上の差になる。

この金利の差が、返済額にどれくらの違いをもたらすのか――借入額3000万円、35年の元利均等・ボーナス返済なしで毎月返済額を試算すると、こうなる。

変動金利型           7万9544円
固定期間選択型の10年固定   8万1918円
35年の全期間固定金利型    8万8656円

全期間固定金利型と変動金利型を比べると毎月9112円の差で、年間にすれば10万9344円と11万円近い差になる。3000万円の借入額でこれだから、借入額が5000万円、6000万円と増えれば、15万円、20万円以上の違いが出てくる。この負担額の違いを目の当たりにすれば、変動金利型を利用する人が多くなるのも当然のことだろう。

金利が低いのにはそれなりの理由がある

しかし、いいことばかりではない。どんな商品でも安いものには安いなりの理由があり、高いものにも高いなりの理由がある。

一番分かりやすいのは、野菜などの訳あり商品だろう。たとえば、同じ産地のキュウリでも、まっすぐ育ったものは高く売れるが、曲がってしまったものはほとんど商品にならない。廃棄か生産者の自家消費に回されるのが普通だろう。

でも、消費者のなかには、形は悪くても味が同じなら、曲がっていてもOK。少し安くしてくれれば買うという人もいて、いわゆる「訳あり商品」として出回ることがある。安いには安いなりの理由があるというのはそういうことだが、キュウリなら見てくれが落ちても味は変わらないから問題ないが、住宅ローンはそうはいかない。低いなりの理由をシッカリと理解していないと、たいへんなことになってしまう。住宅ローンにとっては、金利が値段になるが、値段が安く、低い金利のローンには、借入後に大きなリスクがあるからだ。

住宅ローンの金利とリスクの関係を知っておく

そこで、まずは住宅ローンの金利タイプによる金利の違いだけではなく、その商品特性、特に金利上昇時のリスクがどうなっているのかを知っておく必要がある。この2、3年は超低金利が続いているが、住宅ローンは20年、30年と返済が続く。その長い年月の間には必ず金利の変化が起こるから、それを念頭に入れておく必要があるわけだ。

特に、現在のような超低金利で住宅ローンを利用した場合、借入時の金利以下に下がる可能性は低く、上がる可能性のほうが高いと考えざるを得ない。もちろん、バブル期のような高金利はあり得ないにしても、1%、2%程度の上昇は十分にあり得ることを頭に入れておくべきだろう。

では、金利が上がるとどうなるのか、3つの金利タイプの特徴を整理しておこう。

3つの金利タイプの金利変化への対応

変動金利型

変動金利型は市中の金利変化に応じて、半年に1回適用金利が見直される。ただ、金利が変わるたびに返済額が変わっては計画を立てにくいので、返済額の見直しは5年に1回になっている。つまり、金利が上がったとしても5年間は返済額は変わらないわけだ。

その間に動きがあった場合には、返済額は変えずに元金分と利息分の内訳を変えて調整することになる。金利が上がった場合には、元金分の割合が減って、利息分が増えることになる。たとえば、月額10万円の返済額で、元金分が6万円で、利息分が4万円とすれば、金利上昇によって元金分が4万円に減って、利息分が6万円に増えたりする。その分、元金の減り方が遅くなってしまう。もちろん、金利が下がったときには、逆の現象が起きて、元金の減り方が早くなる。

借入後に金利が上がっても、5年間は返済額が変わらないので、ある程度安心できる。しかも、金利上昇があっても、5年後の返済額増加率は25%までに抑えることになっている。ここは微妙なところで、25%も増えるのかという受け止め方があれば、25%ですむという考え方もある。できれば、後者ですむように、5年後に返済額が増えても、何とかやりくりできるような返済計画を立てておくことが肝心だ。

固定期間選択型

固定期間選択型は、2年、3年、5年、10年などの特約期間中は金利が固定していて、その固定期間終了時に、その時点の金利で再び固定期間選択型にするか、変動金利型に切り換えるかを選択できる金利タイプ。特約期間中は金利が確定しているので安心だが、たとえば、0.7%の3年固定でスタートして、3年後に同じ3年固定が1.0%に上がっていたなら、返済額が増えてしまうことになる。変動金利型と同じようなリスクがあるといっていいだろう。

しかも、問題なのは、固定期間選択型には変動金利型のような「25%ルール」がないという点。金利が大幅に上がったときには、25%以上、3割、4割も増えてしまうリスクがあるわけだ。

固定期間によって金利が異なり、固定2年、固定3年などの固定期間の短いタイプは変動金利型並みの0.6%、0.7%程度に設定しているところが多い。固定期間が10年になるとやや高くなって、メガバンクでも0.8%から1.1%程度までの間で幅がある。固定期間が短いほど金利は低く、長いほど高くなる。

全期間固定金利型

全期間固定金利型は、借入時の金利が完済まで変わらない住宅ローン。仮に、当初1.3%の金利でスタートすれば、その後市中の金利がいくら上がっても1.3%のままで、適用金利が上がって、返済額が増加するというリスクはない。

ただし、借入後に金利が下がったときにも適用金利が下がることはないので、返済額が減るということもない。ただ、現在のような超低金利であれば、これから下がるよりは上がる可能性のほうが高いので、全期間固定金利型が一番安心であるのはいうまでもない。

現在の金利水準は、メガバンクなどでは1%台の前半で、全期間固定金利型の代表格ともいうべき住宅金融支援機構のフラット35も同様。2018年3月の金利をみると、返済期間15年~20年が1.29%で、21年~35年が1.36%となっている。

たしかに変動金利型や固定期間選択型の固定期間の短いタイプに比べると金利はやや高いのだが、それでも過去の金利水準に比べるとはるかに低い水準であり、この金利で最長35年間フィックスできるのであれば十分だろう。

変動金利型などのリスクを知らずに利用している

この3つの金利タイプのうち、多くの人が変動金利型を利用している。国土交通省の『平成28年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書』から2015年度の新規貸出額における金利タイプ別のシェアをみると、変動金利型が56.5%と過半数を占め、固定期間選択型が30.0%で、全期間固定金利型は13.5%という結果だった。

その後、若干の変化はあるにしても、この構成比にはさほど大きな変化ない。たとえば、住宅金融支援機構の『2017年度民間住宅ローン利用者の実態調査〔民間住宅ローン利用者編〕(第1回)』では、変動金利型が50.4%で、固定期間選択型が36.9%、全期間固定金利型が12.6%となっている。

皆さんがやはり金利の低さから何より変動金利型を優先していることが分かる。実際、住宅金融支援機構の同調査では住宅ローンを選んだ決め手を聞いているが、トップは「金利が低いこと」の68.0%で、2位以下は20%前後以下だから、金利の低さが最大かつ唯一の決定要因になっているといっても過言ではないほどだ。

住宅ローンの失敗は家庭崩壊につながりかねない

しかし、やはり住宅金融支援機構の調査によると、半数近い人が変動金利型や固定期間選択型のリスクについて十分に理解していないという結果も出ている。金利が上がれば、返済額が増える。そのリスクを見込んで、多少返済額が増えても問題のないような資金計画になっていればいいのだが、必ずしもそうとはいえない。

なかには、当面は金利の上昇はあり得ないから恐れる必要はない、変動金利型でOKという専門家もいるが、それで本当にいいのだろうか。たしかに今すぐの上昇はないだろうが、5年、10年の間には1%、2%上がる可能性があると考えて、少なくともその準備だけはしておくべきだろう。

住まい選びに失敗してもガマンすればすむし、命まで取られることはない。しかし、住宅ローンはそうはいかない。ローン残高が大きいと売却もできず、最悪の場合、住まいを取り上げられてローン返済だけで残るという悲劇に襲われる。そこに待っているのは自己破産、家庭崩壊への道筋である。

そうならないためには、とにかく変動金利型などのリスクを十分に理解し、その対策をとっておくことが重要。

山下和之
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『家を買う。その前に知っておきたいこと』(日本実業出版社)、『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(学研プラス)などがある。山下和之のブログ: http://yoiie1.sblo.jp/