実質利回りの算定要素 諸費用はこう見積もる

次のステップとして、実質利回りを試算するための算定要素を投資物件広告のどこからみつければよいのかという問題が出てくる。

投資物件の広告には通常次の情報が掲載されている。

・物件価格(税込)
・想定利回り
・想定賃料(年額)
・現況(満室賃貸中/空き室あり/全室空室・オーナーチェンジなど)
・間取図
・物件写真
・物件の特色(リフォーム状況・即引渡可または入居可かどうか)
・物件までのアクセス/周辺環境
・物件詳細(築年月・建物面積・総戸数・構造・土地情報など)
・駐車場の有無 など

以上から分かるように、実は、広告から実質利回りの算定要素である必要経費等の情報を入手できることはほとんどない。仮に、「費用」欄が設けてあっても、そこに固定資産税や管理費・修繕積立金(共益金)が記入されていることはないと思ってよい。

不動産仲介業者に問い合わせても、売買契約成立前に入手できる情報は現在の管理費・修繕積立費等や物件情報だけである。購入時の諸費用は確定しておらず、管理費・修繕積立金等も変動する可能性があるので、各自で概算費用を見積もって、実質利回りのおおまかなイメージをつかむことになる。

実質利回りの計算に必要となる費用は、不動産購入時の諸費用と継続的に発生する必要経費の2種類だ。それぞれの費用の具体的な内容や概算費用の目安を紹介する。

●不動産購入時の諸費用……中古物件なら、以下を合算して物件価格の6〜10%として見積もる

・不動産仲介手数料
(物件価格が400万円以上の場合、実質的には物件価格の3%+6万円+消費税が上限になる)
・登録免許税(土地:2019年3月31日までの登記の場合、固定資産税評価額の1000分の15、建物:固定資産税評価額の1000分の3)
・司法書士報酬
・印紙税(2020年3月31日までに作成された不動産売買契約書にかかるもので、物件価格1000万円以上5000万円以下の場合、1万円)
・固定資産税(1月1日時点での固定資産税評価額の1.4%、基本的に契約成立日からその年の12月31日までの日数分を按分することが多い)
・都市計画税(23区内では、1月1日時点での固定資産税評価額の0.3%、基本的に契約成立日からその年の12月31日までの日数分を按分することが多い)
・不動産取得税(固定資産税評価額の3%)
・火災保険料/地震保険料

※投資資金に不動産投資ローンを組み込む場合、別途、融資手数料・印紙税・保証料・団体信用生命保険料が必要

●継続的に発生する必要経費……以下を合算して、年間賃料総額の10%程度として見積もる

・管理費/共益費(賃料の5%程度)
・修繕積立金(物件建築当初に作成された「長期修繕計画」に基づく)
・賃貸管理代行手数料(管理会社に施設管理を委託する場合。一般的には賃料の5%程度)
・口座振込手数料(各金融機関による)
・固定資産税(1月1日時点での固定資産税評価額の1.4%)
・都市計画税(23区内では、1月1日時点での固定資産税評価額の0.3%)

実際に、次のような投資物件の実質利回りを試算する。

「一棟売りマンション」(2LDK×全12戸賃貸中)
・物件価格 9800万円
・年間賃料総額 1152万円/年(1戸 8万円/月)
・利回り 11.7%

この場合の利回りは、表面利回り(年間賃料総額÷物件価格)であることが確認できるので、全額自己資金による物件購入を前提として、実質利回りについても試算する。

・物件購入時の諸費用概算(物件価格の10%と仮定する) 980万円
・年間諸費用(年間賃料の10%と仮定する) 115.2万円
・実質利回り 
(年間賃料総額−年間諸費用)÷(物件価格+購入時の諸費用)=0.0962

おおまかに諸費用を加味した実質利回りは、広告に掲載されている表面利回り11.7%より2.1%低い9.6%になっていることが分かる。

特定の物件についての投資判断を進めるにあたって、または複数の物件を比較するにあたっては、広告に掲載されている利回りだけを判断基準にするのではなく、少なくとも実質利回りを試算して実際の投資イメージに近づける必要があるのはお分かりいただけただろう。

実質利回りに影響を及ぼす空室リスクも織り込むべし!

おおまかな諸費用を見積もって実質利回りを試算した上で、投資候補の物件を比較検討することの重要性をお伝えした。しかし、これは現在の賃料のまま全室満室であることを前提とした試算であり、空室が発生するリスクをまったく考慮していない。購入検討段階で空室が数戸ある場合などは、より現実的な投資判断をするために、実質利回りに空室リスクも加味するほうが望ましい。

将来の空室リスクや収入減少の要因としては以下のようなものが挙げられる。

・退去者が出て、次の入居者がなかなか決まらず空室状態が数カ月続く
・長期修繕計画の見直しにより、修繕積立金が増額される可能性がある
・物件が最寄りの公共交通機関の駅やスーパー・コンビニエンスストアから遠い
・築年数が古く設備が老朽化している
・周辺に競合しそうな物件が多数ある
・都心から遠い
など

立地条件や設備面の問題の他にも、入居者側の諸事情で空室率が上がったり賃料が下がったりする可能性はある。予想通りの収入が得られなくなるリスクを実質利回りの試算に織り込むならば、年間諸費用を控除した年間賃料総額を90%程度に減額して空室リスクを加味して計算するとよい。

さらに、不動産投資ローンを組んで購入資金に充てた場合、月々のローン返済が必要になり、今回紹介した全額自己資金を前提に試算した実質利回りとは大きな違いが出てくる。空室リスクを加味した実質利回りに加えて、家賃収入が返済額を上回るかも確認しておくべきだろう。

優良物件を選ぶには現地の視察も肝心

机上の試算によって投資物件を絞り込むことができたら、次は実際に現地に足を運んで、空室上昇リスクのある物件でないかを目で見て判断するのも重要だ。

まず、現在の賃料が物件周辺の相場に対して適正かどうかを現地の不動産業者の広告などで調べたい。相場より高い場合、空室になって入居者を募集する際に早々に賃料を下げる必要が出てくるだろう。そして、実際に駅から物件までを歩いてみて、所要時間や周辺環境など暮らしやすさを見極める。さらに建物の状態を自分の目で見て確認し、今後の修繕の必要性などの見込みを立てることも大切だ。現地に赴き、借り手目線で“借りたくなる物件”であるかを確認して、最終的な投資判断を下したいものだ。(ZUU online編集部)