金の専門家として著名な亀井幸一郎氏。アンティークコインの販売店ユニバーサルコインズ代表取締役 西村直樹氏。それぞれのアセットの見通しや、今後の富裕層の資産管理のあり方について語り合った。

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(写真=髙橋明宏)

西村:金のご専門家でいらっしゃる亀井さんは、アンティークコインに対してどのような印象をお持ちですか?

亀井:私自身は銘柄や価格動向のウォッチはしていないですが、相対取引が中心だと思うので、株や為替といった資産とは流動性の面で大きな違いがあるなと感じています。価値基準がわかり難いという点もありますね。

西村:ほとんどの方が同じようなご意見でして「面白そうなんだけど、でも何かちょっと怪しいよね」と仰います。我々としては、素直にそのような言葉を受け止めて、市場価格にあたるオークション価格の推移などをお見せしながらご説明しています。また1995年を起点としたイギリスの資産セクター別の騰落率をお見せすることもあります。

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(出典:英Stanley Gibbons社)

ポンド建ての金価格、イギリス不動産価格、イギリスの代表的な株価指数であるFTSE100も長期で見れば少なくとも2倍以上になっていますが、イギリスの主要なアンティークコイン200銘柄のインデックス指数「英国200レアコインインデックス」が特に目を引きます。21世紀に入った頃から上昇ペースを強め、多くのリスク資産価格が暴落した2008年前後の世界金融危機を物ともせず、今日では6倍近くまで上昇しています。

亀井:ひとつの参考データということで、上昇の背景にアジアやロシアなどの新興国の富裕層の資金流入がありそうですね。市場規模は小さく値動きが大きい印象です。アンティークコインは、欧米では資産保有のひとつとして愛好家の間で確立されているのは確かですが。

西村:はい、取引現場を勉強しにロンドンへ行ったときの話ですが、あちらの富裕層は代々コインを受け継いで資産保全しています。街を歩けばコインショップがそれなりにありますし、富裕層でなくとも子どもにコインをあげて「大人になったらコインショップへ換金してみてごらん」と伝えることも珍しくありません。そういうことが文化になってますし、日本とは大きく違うなとカルチャーショックを受けましたね。日本にもこの文化を根付かせたいと思って5年前に当社を立ち上げました。今でも定期的にセミナーを行っています。

亀井:セミナーはどのような方が対象なのですか?

西村:資産や年収の制限はないのですが「40代以上の経営者」が一番多い層でしょうか。不動産と違って、基本的にはレバレッジを効かせる(融資を受けて購入する)ことができないので、キャッシュで購入できる資力がある方、いわゆる富裕層の方々というわけですね。富裕層の中には、ペーパーマネーを完全には信用していない方も多いと感じています。

亀井:金融の世界は共同幻想ですよね。実は金もそうなんですよ。世界中のありとあらゆる人種や民族、現代では中央銀行までが「金は貴重なもの」とみなしていますが、これこそまさに本当に共同幻想で「誰が貴重なものって決めたんだ?」という話です。精神分析の大家ジークムント・フロイトは「金は人間の深い潜在意識の中で本能を満足させ、シンボルとして用いることをうながす」としています。みんなが「金は貴重なもの」と思ってから、既に4000年が経っています。「紙幣」の価値も共同幻想ですが、金に比べて非常に歴史が浅く「幻想」時間軸に大きな違いがあります。

アンティークコインも同じようなものだと思いますが、一般的な地金型金貨と違うのは、その希少性が価値の拠り所という点ですね。また、収集対象として、その背景に物語があることも違いますね。発行された経緯、印字された絵柄にロマンやストーリーがあるわけじゃないですか。値上がり益が狙えそうというマーケットバリューに加え、コインを持っていることによる心情的価値、センチメンタルバリューも人によっては感じるのでしょう。

西村:これをお伝えせずにご購入頂くわけにはいかないので申し上げますが、1億円のコインでも、ものによりますが金の含有量から考える金銭的価値は20〜30万円くらいです。結局40グラムとか50グラムしかないですから。亀井さんが仰ったセンチメンタル的なプレミアムというかスプレッドが乗っているわけです。

でも、例えばアメリカだったらアンティークコインは150万人の文化になっており、ヨーロッパでも代々受け継がれています。「文化を止める」ということはなかなか難しいと思うんですよね。だから、そのプレミアムが急に消滅することはないでしょうし、今後はいわゆる富裕層の数が爆発的に増えてくるはずなので、欧米で認められている文化が彼らに波及してくれば、もっと価値が上がる可能性も高いと思っています。

亀井:この間、ウイスキーの山崎が香港で3000万円の値が付いたというニュースがありました。当初150万円でも驚きましたが、希少性があるものはワインにしろ不動産にしろ、欲しい人がいる限り価値が上がっていく可能性はありますよね。もちろん逆もあるわけで、余裕資金でというのが鉄則ですね。趣味としても楽しむという余裕が大事です。

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亀井氏(写真=髙橋明宏)

西村:亀井さんもセミナーや講演の機会が多いかと思いますが、富裕層の投資行動に変化は感じますか?

亀井:変化は出てきてますよね。これだけ日本銀行がお札をばらまいてインフレ2%目標を達成しようとしているのは皆さんご存知ですので。ただ金がブームになっているかというと、そんなことはありません。実は今、世界中で一番、金価格が動いてないのは日本なんですよ。

過去10年間、グラム単価でいくと4000円台で推移しています。なぜかというと円が強いから。金価格が上がっても円高で相殺されるので、ずっと安定してるんですよ。皆さんによくお伝えしているのは「金を買う」と思わず、「円をゴールドに換る」と捉えるということです。どこの国でも共通の価値を持つ金は、いわば「無国籍通貨」ということです。金投資を通貨分散のひとつとして考えて頂ければと思います。

西村:仰る通りだと思います。私もよくセミナーでは「一定の割合では金を持ちましょう」とお伝えしています。

亀井:ただし、値の付き方や換金性(流動性)という点で金とアンティークコインは大きく異なりますので、それぞれの特性を理解した上で考えるべきですね。

西村: やっぱりコインは先程、亀井さんが仰ったように趣味的要素が非常に高いので、資産ポートフォリオの半分をコインが占める、といった状況は絶対にやっちゃいけないと思っています。コインの歴史を触れて頂いて「もし使ってないお金があるのなら、こっち(コイン)に変えておいたほうがいいんじゃないですかね?」とお話させて頂いています。

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西村氏(写真=髙橋明宏)

金とアンティークコインが輝くとき

西村:金が輝くのは、どんなときになるんですか?

亀井:どちらかというと、世の中の先行きに不安要素が多いときですね。アンティークコインはどうなのですか?

西村:アンティークコインは経済環境にあまり左右されない傾向があります。これは安いものでも高いものでも一緒ですね。リーマンショック時でも、一部のスペシャリティなコインは上がっていたようです。資力のあるコレクターから見たら「リーマンショックがあろうがなかろうが、欲しいものは欲しい」ということなのでしょう。

亀井:この10年で新興国の富裕層の数も爆発的に増えていますね。

西村:仰る通りですね。アメリカ人は基本的にアメリカのコインしか買いません。イギリス人はフランスのコインは買わないんですけど、ドイツのコインは買うことがあります。では中国人富裕層はどうかというと、まだ中国のコインしか買っていないです。

中国のコインはここ5年で何倍にもなっていますが、このチャイナマネーが中国の外に向き始めれば面白いことになるではないかと思っています。当社のビジネスは中国やアジア新興国でも活用して頂けると思っていまして、今年、香港に拠点を立ち上げたばかりです。

亀井:中国やインドは金信仰が強いから、アンティークコインにも興味を持ってもらいやすいかもしれませんね。

西村:私事ですが、私バツイチでして、前妻が福建省出身の中国人なんですよ。実家に行くと金だらけですからね、本当に。光り輝くものを持てば、そこに富は集まると考えられているようです。いたるところにあり過ぎて「どんだけ金が好きなんだ」と思いますけれども(笑)

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(写真=髙橋明宏)

アンティークコインの購入方法

亀井:アンティークコインはどのように購入できるのですか?

西村:当社は販売店ですのでご来店頂き、実物をご覧頂いて購入することが可能です。現金支払い、銀行振り込み、どちらでも構いません。ただコインの場合、銘柄がたくさんあり過ぎるのでどれを買えばよいか分からないという方が多いです。そこで我々は「このコインはこういうヒストリーがあって、このぐらいの発行枚数で、マーケットではこのぐらいの価格推移になってましたよ」という実績をご説明しています。

買うのはある程度簡単なんですよね。やはり売却が難しくて、元々この業界はオークションでの売却が一般的です。オークション日程は、当社からお伝えしております。会社によって違いますけど、半年に1回ぐらいオークションを開催しています。落札された価格からオークション手数料の約10%が引かれてお手元に入るというイメージです。

亀井:ユニバーサルコインズさんに買い取ってもらうというわけではないのですね?

西村:そのケースもあります。正直、オークション会社って何のリスクも背負わず、右から左、左から右ですね。ビジネスモデルとしては素晴らしいなと思うんですけども、顧客からすると「どんなんやねん」って話ですよね。

「これはちょっとおかしいな」と思ったものですから、迅速な換金のためにも、売却ご希望のコインは基本的に当社でお預かりさせて頂き、当社のショールームや販売ホームページに並べて委託販売をさせて頂きます。不動産の売買と似ておりまして、一旦お任せ頂いたらオーナー様が行うべきことはありません。大体2〜3ヶ月ぐらいでキャッシュに戻ることが多いですね。

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亀井氏持参の金貨(写真=髙橋明宏)

金とアンティークコイン それぞれの専門家たちの見通し

亀井:金はドル建て、ポンド建て、ユーロ建て、人民元建て、インドルピー建て、あらゆる現地通貨建てで高値更新していますが、唯一高値を更新してない国があります。それが日本です。1980年につけたグラム単価6495円が日本における金の過去最高値です。今は4600円ぐらいなんですけどね。

では、どうして金が日本で高値更新してないのかというと、日本円が強かったからです。1980年当時、1ドル200円を超えていました。日本円は世界で唯一、金に負けていない通貨なんですよ。しかし、日本円も金に負ける、過去最高値6495円を抜けるときが来るだろうなと思います。時期に関しては明確には言えないですけども、そんなに遠い将来じゃないと考えています。

西村:世界的なトレンドですが、世の中のほとんどの決済は電子化されていくと思います。しかし、現金も電子上の数字表示になってくるなか、アンティークコインや金、不動産といった現物資産の価値は生き続けるでしょう。

アンティークコインは欧米以外の国々ではまだ文化として定着しているとは言い難い状況です。文化が根付くまでは数十年、もしかしたら数百年かかるかもしれませんが、僕が平均寿命くらいまで生きることができるなら、あと40〜50年は残されています。皆さんが子供の誕生日や成人式のときにコインをあげる、子どもはそのコインを通して金融や資産運用について学び、自分の子どもができたときにまたコインをあげる…、そうやってコインが世代を超えて受け継がれていく姿を日本でも実現したいと思っています。

亀井:まさに同感でして、金融の世界は全てバーチャル化してるんですよね。電子マネーはもちろん、株券も国債も投資信託も、全部電子上の登録なんですよね。要するに電子記号なんですよ。その中では、金にしてもアンティークコインにしても、形あるものを求める気持ちはむしろ強くなるものだと思います。両者とも金利は生まず価格変動リスクのあるもの。購入に際しては、中長期の視点で余裕資金でというのが鉄則です。

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