(本記事は、山崎将志氏の著書『「儲かる仕組み」の思考法』日本実業出版社、2018年6月10日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

【『「儲かる仕組み」の思考法』シリーズ】
(1)トイレが故障「スピード対応」で事業者が儲かるカラクリ
(2)ひげそりのジレット、野球ボールーー従来のビジネスモデルの死角に商機あり
(3)20年間価格を変えずに「行列ができるレストラン」の秘密
(4)飲食店の「ドタキャン・ブラックリスト」個人の信用度をスコア化するビジネスモデル

「儲かる仕組み」の思考法
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

モノの値段は「利用価値」で決まる

資産を持たない経営が浸透し、AIによるマッチングが最適化されると、モノの値段は利用価値で決まることになるはずです。

最近私は、自動運転の自動車が早く普及して欲しいと強く思うようになりました。

私は自家用車を持っていて、主に通勤とゴルフ場への往復に使っています。

住居のある都内では公共交通機関が充実しているし、レンタカーやカーシェアリングもありますから、車を持っていなくても困らないといえばそのとおりです。

しかし、満員電車での通勤で体力を奪われたくありませんし、余計なトラブルに巻き込まれるリスクを避けたい、それに通勤の車のなかでは勉強もできるしリラックスもできます。

また、ゴルフ場はそもそも交通の便がよくない場所にあり、必要な荷物も多いため、トータルで考えると自家用車のほうが便利です。

しかし、ゴルフ場からの帰り道に睡魔と戦っていると、運転は嫌だなあと思うことも多くあります。

自家用車を持つ一番のムダは、使わない時間が長いことです。

私のようにほぼ毎日使っていても、仕事時間中は8時間以上まったく使われませんし、ゴルフ場でのプレーの間は少なくとも6時間は駐車場に置かれたままです。夜は自宅の駐車場で待機しているだけです。

もともと車とはそういう使われ方をするものだということに、これまで私は何の疑いも持っていませんでしたが、自動運転技術の進展をウォッチし続けていると、いかにもこれがもったいないと感じるようになりました。

もし私が完全自動運転車を所有していて、ドライバー以外がそれをコントロールできるサービスが提供されれば、夜自宅に車を停めている時間、会社で仕事をしている時間、ゴルフ場でゴルフをしている時間など、ある程度まとまった時間は人に貸し出すことができます。

しかし、私が自分で借り手を探すのは大変です。私のようなニーズを持つ人が数多くいれば、シェアリングサービスが成り立ちます。

私の車はシェアリングサービスを通じて誰かのリクエストに応え、夜中に横浜辺りを往復したり、日中は都内で現在のタクシーのようにいろいろな人の足として使われたり、ゴルフ中は近隣に住む高齢者の買い物の足として使われたりするはずです。

そんな社会が来たら、私自身も、ほかの人がシェアしてくれた車を使えばよく、車を保有する必要がなくなるかもしれません。仮に、ユーザが誰も車を保有しなくなると、配車会社が車を持つことになります。

そうなると、車両の利用価格は時間帯別になるはずです。

朝夕のラッシュ時や、イベントがある場所での混み合う時間帯は高くなるでしょう。そうであれば、朝夕のラッシュ時に車を使う人は、車を持ったほうが経済的に得なケースも出てくるでしょう。

利用料金が高い時間帯には、自ら保有する車で移動し、それ以外の時間帯に配車システムに自分の車を登録してほかの人に利用してもらうことで、保有コストをカバーするという使い方です。

現在のところ、自家用車は何の利益も生まず、費用ばかりかかって、おまけに減価スピードが著しく速い(最近は新車価格と売却価格の差が3年で3分の1から4分の1になることもざら)金食い虫ですが、反対にお金を生み出す資産となります。

もしこれが、法律面も含めて実現すれば、車の価格設定の考え方も現在とは大きく変わるでしょう。

最近、ソフトバンクは、世界の主なライドシェア・サービスの企業に巨額の投資を行っています。

ウーバー(アメリカ)、リフト(米)、滴滴出行(中国)、グラブタクシー(シンガポール)、オーラ(インド)の5社です。

その理由は、自動運転社会が到来すると、すべての車の情報をコントロールする会社が強大なパワーを持つことになるからだと、私は思います。

法律や企業ブランドに代わる仕組み

「儲かる仕組み」の思考法
(画像=HAKINMHAN/Shutterstock.com)

ところで先ほど法整備の話に触れましたが、ウーバーやエアビーアンドビーが提供しているようなサービスに関する法整備が進められています。既存の法律がいまの社会のニーズや仕組みと合わなくなってしまっているとしても、新しいサービスがすでに運営されているから、といって放置していては、法治国家として成り立たなくなります。

しかし、私は法整備の目的を考え直す時期に来ていると考えています。

先述のサービスに対する法整備の目的のひとつに「安全性の確保」があります。私はこの点については少し違った見方をしています。

日本では、多くの国民が安心・安全の担保を国に強く求める傾向にあります。

テレビでは何か事件が起こると街頭インタビューで「国がチェックを強化してほしい」と話す市民の声が流されますし、それを受けたキャスターやコメンテーターもそれを後押しするような発言をします。

その3分後には行政のムダをなくせ、税金を減らせと主張しているのでまったく矛盾する話です。

本来は消費者である我々がつねに勉強と情報収集を怠らず、何事も自己責任で判断することを基本とするのがあるべき姿だと私は考えます。

結局それが一番自分を守ることができますし、行政コストも下がります。

街頭ではたくさんの人にインタビューしているはずですが、番組のディレクターが主張したい内容に沿ったものだけが切り取られます。

スタジオの出演者もディレクターの意向に沿わなければ使ってもらえなくなりますので、同調する以外にありません。だから、私と同じ意見を持つ人の発言は、テレビに映らないのです。当のディレクターも視聴率を取るために番組をつくっていますから、テレビを見ている人の聞きたい情報を流します。

ですから、結局のところテレビ番組の意見はおよそ国民の意見(国民全員が必ずしもテレビを見ているわけではありませんが)と考えることができます。

また、大手企業ブランドの信頼性も同様です。自動車会社が安全だと保証した、大手食品会社ブランドの加工食品ならば安全だろうと多くの人は考えます。

しかし、いまは国のお墨付きや企業ブランドに代わる仕組みが出てきています。それは、「レビュー」のシステムです。

インターネット上のレビューシステムが確立される前は、広告やメディアが編集した記事と、狭い人間関係のなかでの口コミ情報しか判断材料がありませんでした。

たとえばアマゾンは、カスタマーレビューを一切検閲しないことで知られています。

レビューを書く人の動機が単なる承認欲求の充足であっても、レビュー内容が星ひとつであっても5つであっても、商品と無関係のポエムであっても、手を加えずに公開することが、購入を検討する人の判断材料として最も役に立つという考えがその理由です。

知らない人の車に乗る、知らない人を車に乗せるのは怖い。知らない人を自分の物件に泊めて汚く使われたら嫌だ、事件に巻き込まれたらどうしよう、と心配になるのはよくわかります。

しかし、そこに過去のユーザからの正直なレビューがあれば、自分なりの判断を下すことができます。ある人が不便だと感じている点があるとしても、それは自分はまったく気にしないポイントかもしれません。

あまりにレビューがよすぎて怪しいと感じれば、選択肢から外すという判断も可能です。レビューを書いている人のプロフィールやほかのレビューをチェックすれば、その発言の信頼性を評価することもできます。

私が実際に先述のサービスを利用して感じたことは、なかなか不誠実なことはしづらい仕組みがあるということです。

たとえば私がウーバーを使うと、ドライバーから評価を受けます。私もドライバーを評価します。その評価は、それぞれがそのサイトを使い続けるかぎり、ずっと残ります。

サービスを提供する側は、ユーザの評価次第では断ることもできます。できるだけお互いに気持ちよく対応しようというインセンティブが働いています。

エアビーアンドビーも然りです。使い方について私も物件のオーナーからレビューを受けますから、きちんと片付けて掃除をしてから、部屋を後にします。

ここだけの話、ホテルの部屋よりずっと丁寧に使います(活字にしてしまっていますが)。

この実在する個人をお互いにレビューし合うというシステムは、かなり強力です。

少なくとも私が見るかぎり、行政が監視の目を光らせるよりはずっと効果があり、しかも行政コストはほぼゼロでできる点に、優位性があると思います。

もちろん、企業が運営していますから、社会的コストはゼロではありません。しかし、従来の信頼性担保の仕組みと違うのは、運営企業はレビュー行為自体は一切しない点です。

そんなことをしてもすぐにやらせだとバレてしまいます。彼らは公平なレビューが維持できる仕組みの整備と運営に尽力しているのです。

個人の「信用度」がスコア化される

「レビュー」とは、言い換えれば信用です。

他人から信頼される行動を自然にとることができなければ、レビューのスコアを高く維持し続けるのはとても難しいことです。

このネット上での信用イコールその人自身の信用度であると多くの人が考える時代が、日本でも割と早い時期にやってくると私は考えています。

すでに中国ではネット上の仕組みを使って、いわば「消費者としての信用度」がスコア化されています。

「なんだ、中国の話か」と興味を失ってしまったあなた、ちょっと待ってください。

あなたは頭の中をアップデートする必要があります。たしかに年前の中国のGDPは日本の8分の1で九州の経済ほどの大きさしかありませんでしたが、16年では日本の2.3倍です。そしていまや中国はネット最先端国です。

たとえば、中国ではもはや現金はほとんど使われていません。

2016年のスマホによる決済額は600兆円にも上り、全個人決済の98%を占めています。一方、日本のスマホ決済は6%で、個人決済の50%が現金です。日本に長期滞在する中国人が、日本に来て久しぶりに財布を買ったという話もあるくらいです。

中国がスマホ決済を急速に普及させたのは、日本のように銀行間の決済システムや、クレジットカードの認証システムが十分にインフラとして機能していなかったところに、アリババのアリペイ、テンセントのウィチャット・ペイの二強があっという間に市場を席巻したことにあります。

アリペイは、4億人のユーザを抱え個人のスマホ決済の50%を占めています。ネットショップの決済手段として登場し、14年までは80%のシェアがありましたが、シェアを落としています(市場が拡大しているので決済額は増大)。

一方のウィチャット・ペイはユーザ数8億人で、シェアは38%です。リアルの小売店で使われるようになってから、14年の8%から一気にシェアを拡大してきています。

これだけスマホ決済が普及しているということは、その前段階のいろいろな個人の活動がスマホで行われていることを意味します。

すると、その行動のトラッキングを通じて個人の信用度をスコア化することができます。

たとえば、中国でレストランを予約しようとしたとき、スコアの低い人は、全額前払いを求められます。中程度の信用度の人は、一定金額のデポジット(預かり金)が必要になることもあります。

信用が高い人だけが、ただ席だけを予約し、店に入ってから料理を選ぶという行動がとれるのです。

何だか薄気味悪いと感じた人もいるかもしれません。しかし、キャンセル問題は飲食店にとって非常に頭の痛い問題です。

東京・渋谷に私が十数年通い続けている焼肉店があります。ここは古いビルの地下にあり、看板がなく、入り口もそっけないつくりで、通りかかった人が店にふらりと入ることはまずありえない感じの店構えです。

私も最初そうでしたが、この店を知っている人に連れて行ってもらわなければ、存在すらわからない店です。この店に行くには電話での予約が必要で、訪れるといつも満席です。

先日行った際、お店の人との雑談で、私が「ネットで予約できるようにしてくれたら便利なのに」とつぶやきました。

いつも電話で予約していて、別にそれで困っているわけではないのですが、ネット予約に馴れ過ぎてしまっているため、とくに強い要望というわけでもなくポロっと言ってみただけです。

「ネット予約の受付はやったことがあるんですが、キャンセルする人が多いのでやめたんです」との答えが返ってきました。常連のお客を大事にしたいから、ネット上での宣伝はせず、テレビの取材も全部断っているそうです。

最近、飲食店で予約をドタキャンした人の電話番号を会員登録した店舗間で共有するシステムの存在が話題になっています。

金融でいうところの「ドタキャン・ブラックリスト」です。

このウェブサイトは、個人によって小規模で運営されているようですが、食べログやぐるなびなどの大手サイトが、もっと大々的にこの仕組みを運営してもよいのではと私は思います。

個人の財布の紐が堅いうえ、飲食店は供給過剰状態がずっと続いているため、消費者に対して強く出ることが難しいという事情はよくわかります。しかし、人手不足が深刻化し、食材費の値上がり基調も顕著なことから、そろそろこの関係性を見直すタイミングが来ていると私は思います。

いま飲食店を例に取りましたが、個人が信用を蓄積する仕組みと、それを活かす仕組みはこれからビジネスモデルを考えるにあたって重要なポイントとなってくるでしょう。

山崎将志(やまざきまさし)
ビジネスコンサルタント。1971年愛知県岡崎市生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年にアクセンチュアを退社し独立。プロフェッショナル開発の知識工房、事業再生コンサルティングのアジルパートナーズをはじめ、数社の新規ビジネスを開発。なかでも2011年にイオングループの傘下に入った「カジタク」は業界トップクラスの規模にまで成長した。2010年4月に出版された『残念な人の思考法』(日本経済新聞出版社)が34万部のベストセラーとなり、著書累計発行部数は100万部を超える。2016年よりNHKラジオ第2「ラジオ仕事学のすすめ」講師を務める。