(本記事は、山崎将志氏の著書『「儲かる仕組み」の思考法』日本実業出版社、2018年6月10日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

【『「儲かる仕組み」の思考法』シリーズ】
(1)トイレが故障「スピード対応」で事業者が儲かるカラクリ
(2)ひげそりのジレット、野球ボールーー従来のビジネスモデルの死角に商機あり
(3)20年間価格を変えずに「行列ができるレストラン」の秘密
(4)飲食店の「ドタキャン・ブラックリスト」個人の信用度をスコア化するビジネスモデル

「儲かる仕組み」の思考法
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

20年間価格を変えない「行列のできるレストラン」の秘密

利益を残している会社は、一見安く見える価格設定でお客を集めたあと、さらに原価率の低い商品を上手に追加販売しています。

まさに、値上げに見えない値上げをしているわけですが、これを「アドオン戦略」と呼びます。これは本体に加えて原価率の低い商品をお客に追加で買ってもらうことです。

身近なケースでは、ラーメン屋のトッピングが好例です。

700円のラーメンに、味付け卵、ほうれん草、もやし、海苔などのうちひとつでも追加してもらい、100円売上が増えれば、それだけで売上金額が14.3%増えます。

もやしや海苔などは非常に原価率の低いトッピングですから、料金100円のうちかなりの割合が利益として上乗せされることになるわけです。

しかも、ラーメン本体そのものの魅力も上がり、お客も喜ぶ値上げです。

最近流行りのLCC(Low Cost Carrier)もアドオン戦略で利益を確保しています。

「人間の輸送」に関わる部分以外のコストはすべて削り、非常に低い運賃を提示することでお客を集めます。しかし、決済にはクレジットカード利用料が追加され、スーツケースを預ければ重量に応じて料金が加算され、事前予約の機内食も別料金、さらにドリンクやスナックはその場で現金払いです。

一般的には、これらのアドオンに対する料金を払ったとしても、フルサービスの航空会社のチケット料金よりも安いため、価格重視の旅行客に受け入れられているわけです。

LCC側のコストは、最低限の機能の提供をベースに設計されています。

そのため、フルサービスの航空会社より安く同レベルのサービスを提供しても、損にならないどころか、このアドオンの部分がまさに利益を生むことになるわけです。

アドオン戦略は、基本料金を低価格にすればするほど、その威力を発揮します。

銀座一丁目にある行列の絶えない有名イタリアンレストラン「ラ・ベットラ」の落合務シェフに一度直接お話を伺ったことがあります。この店では創業以来20年間コースの値段を変えていないそうです。

前菜+パスタ+メインのコースが3800円(税別)、しかもパスタもメインもそれぞれ複数の選択肢が用意されていて、どれを選んでも追加料金なしという、シンプルな価格設定です。

「ははぁ、飲食店なのだからお酒で利益を取ってるんでしょ?」との先回りしたあなたのご指摘については、まったくそのとおりです。

しかし、もうひとつポイントがあります。

それは食後のデザート(400円前後)とドリンク(コーヒーは200円)が別料金という点です。これがこの店のアドオンです。食事が終わったら、デザートとコーヒーを飲みたくなるものです。

値段を見るとほかの店に移ってお茶するよりも安い。お客はお得感すら感じることでしょう。

お店側としては、もちろんコースだけ食べて帰ってもらってもかまわない(と落合さんは言っていました)わけですが、お酒も飲んで、さらに原価率の非常に低いデザートとコーヒーも注文してもらって、お客により満足してもらえれば、結果としてお店の利益も増える。

こうした仕組みを用意したうえで、従業員に頑張ってもらうことが、利益を増やす方法なのです。

20年間行列の絶えない店を続けるコツを尋ねたところ、「食事をリーズナブルな価格で提供することです」と答えられました。

落合さんが看板となって料理本を出版したりメディアに出演したりして、店を訪れたことのない人にとっても味に対する信頼度は十分に高い。興味を持ってウェブサイトを調べてみると、コース料理は大変リーズナブル。

実際に店を訪れれば食事は期待以上の味で、しかも食後のデザートは「安くておいしい」。

レストランは味とサービスに価格以上の価値があることは最低条件ですが、落合さんは創業時からアドオン戦略を徹底することによって長い間人気店を維持しているというわけです。

脂肪分5%のヨーグルトか、無脂肪分95%のヨーグルトか?

「儲かる仕組み」の思考法
(画像=StockPhotosLV/Shutterstock.com)

前節では、基本機能を競争力のある価格で提供し、原価率の低い付帯品を買ってもらうことで利益を確保する「アドオン戦略」についてお話ししました。

基本機能の価格のみを見て購入したお客は、結果的に予算オーバーとなってしまうのですが、それでも納得してお金を払っています。納得していなければリピートがないだけでなく、悪評も立ちますので、ビジネスが長続きしません。

利益を確保しながら、そのビジネスを続けられているということは、お客が納得していると解釈できます。お客はお金がないわけではなく、予算を抑えているだけなのです。

もし、LCCがすべてのサービスを込みにした値段を最初から提示する、ラ・ベットラがデザートとコーヒーも含めてコース料理の値段を提示するなどしたら、どうなるでしょうか。

おそらく競合との違いがぼやけてしまい、現在ほどうまくはいかない可能性が高いでしょう。ですから、「見せ方」がとても重要です。

消費者も事業者も長く続くデフレ下の値付けに慣れきってしまって、上手な値上げの方法を模索中のところが多いと思います。値上げをするにあたっては、本質的には商品・サービスの価値を上げることが必要ですが、それを伝える方法にも工夫が必要です。

たとえば、あなたは次のどちらが魅力的に感じますか?

・脂肪分5%のヨーグルト
・無脂肪分95%のヨーグルト

あるいは、次の例はどうでしょう?

・ウール20%のカシミヤ混セーター
・カシミヤ80%のセーター

それぞれ対比した選択肢は、まったく同じことを別の面から見て表現しているに過ぎません。しかし、ふたつの質問のそれぞれ後者である「無脂肪分95%のヨーグルト」と「カシミヤ80%のセーター」を魅力的に感じたはずです。

このように、表現によって人に与える印象は異なります。

実際に、「20人に一人タダ」という家電量販店のキャンペーンは、「この期間すべて5%割引」とは比較にならないほどの効果があったといわれています。

計算してみればわかりますが、「20人に一人タダ」は5%引きとまったく同じです。にもかかわらず効果には大きな差があります。

あなたももしかすると真似してみようと思ったかもしれませんが、これが行われ始めたのが少なくとも十数年前からで、いまでは認知されすぎているため、まったく同じことをやっても当時ほど効果が出ないかもしれません。

ですが、その基本的な考え方を理解すれば、あなたなりの新しいアイデアを生み出すことができるでしょう。

私がみなさんにお話ししたいのは魚そのもの(ハウツー)ではなく、魚の獲り方(ハウツーの生み出し方)です。

山崎将志(やまざきまさし)
ビジネスコンサルタント。1971年愛知県岡崎市生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年にアクセンチュアを退社し独立。プロフェッショナル開発の知識工房、事業再生コンサルティングのアジルパートナーズをはじめ、数社の新規ビジネスを開発。なかでも2011年にイオングループの傘下に入った「カジタク」は業界トップクラスの規模にまで成長した。2010年4月に出版された『残念な人の思考法』(日本経済新聞出版社)が34万部のベストセラーとなり、著書累計発行部数は100万部を超える。2016年よりNHKラジオ第2「ラジオ仕事学のすすめ」講師を務める。