(本記事は、山崎将志氏の著書『「儲かる仕組み」の思考法』日本実業出版社、2018年6月10日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

【『「儲かる仕組み」の思考法』シリーズ】
(1)トイレが故障「スピード対応」で事業者が儲かるカラクリ
(2)ひげそりのジレット、野球ボールーー従来のビジネスモデルの死角に商機あり
(3)20年間価格を変えずに「行列ができるレストラン」の秘密
(4)飲食店の「ドタキャン・ブラックリスト」個人の信用度をスコア化するビジネスモデル

「儲かる仕組み」の思考法
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

バットとボール、儲かるのはどっち?

私の子どもが軟式野球をしているので、買い物に付き合うために時々スポーツ用品店に出向きます。野球用品のコーナーには様々な商品が並んでいます。

バットは、カラフルでとりあえず必要な人向けの安いものから、特殊な素材を用いてよく飛ぶようにつくられた高価なバットまで、バリエーションが豊富です。

また、グローブも投手用、内野手用などのポジション別に、色や素材、加工方法の違いがあり、さらには人気プロ野球選手と同じモデルなどが棚一面に並んでいます。

しかし、ボールの棚に目を向けると、非常に限られた種類のものしかありません。ブランドは最大手と思われる一社と、スポーツ用品店のプライベートブランドの2社だけ。

バットやグローブが5社以上のブランドがあるのと対照的です。しかも、商品の種類は1パッケージ当たりのボールの個数の違いだけ―1個売り、2個入り、12個入りの3種類―しかありません。

野球をするのに最低限必要な道具は、グローブ、バット、ボールです。

グローブとバットは、一度買うとめったなことでは買い替えません。きちんと手入れすれば長持ちしますし、何か事故でも起こらなければ壊れません。

しかし、ボールはちょっとしたことですぐになくなってしまいます。

私の子どもは、近所の河川敷でよく練習していますが、何日かに一回は必ず川にボールを入れてしまうのです。また、生き残ったボールも使っているうちに消耗してきます。

そんなわけで、我が家の野球用品のうち購入頻度ナンバーワンはボールです。

値段が万単位のグローブやバットと比べると、単価は数百円ですが、それでも1年間を通してみると結構な金額になります。

さらに、グローブやバットと違って、ボールはチーム単位でも大量に買うことを考えると、かなりビジネスとしては魅力的な部類に入るのではないかと想像します。

現在、軟式野球ボールを国内で製造しているメーカーは、ナガセケンコーをシェア筆頭に、ナイガイ、ダイワマルエス、トップの4社しかありません。

商品の性能は、全日本軟式野球連盟の規定に則っているため、ほぼ同じです。素材はゴムですから、定価に対しての原価率は微々たるものでしょう。

寡占状態が保たれている理由は、おそらく市場規模が小さく、原価率は低いものの生産設備等の投資がそれなりにかかるため、大手企業にとって十分魅力的ではないからだと推察します。

こうした目で見てみると、軟式野球ボールと似たような市場はたくさんあります。

ほかのスポーツ市場を見てみても、ゴルフのボールやバドミントンの羽シャトルなどがあります。巨大なビジネスを狙わず中小規模の市場でよいと割り切り、設備投資と知的財産権の問題さえクリアできれば、利益率が高く資金の回転もよいビジネスです。

ビジネスで一旗揚げたいと考えると、どうしても目立つ市場に目を向けてしまいがちです。

野球ならバットやグローブ、ゴルフならドライバーやパター、バドミントンならラケットです。

しかし、ボールやシャトルなどの目立たない市場に一般の人は注目しませんが、新しいビジネスを生み出したいと考えている人ならば、こうした市場を狙うという着眼点を持つことが必要です。

いま例示した市場であれば、知財権を調査したうえで、海外のメーカーと組んで安価な商品を提供するようなことは十分に考えられます。

実際に始めてみると、既存のメーカーも対抗策を打ってくることと思います。

しかし、法的規制もない自由競争市場ですから、野球用品市場を変えたいという強い意志(たとえば、野球をやりたい子どもを持つ親の負担をもっと減らし、日本の野球選手の能力の底上げに貢献したい、など)を持って、粘り強くやれば、一定規模のシェアを奪うことはできるでしょう。

「ジレットモデル」の死角に商機あり

「儲かる仕組み」の思考法
(画像=4 PM production/Shutterstock.com)

野球のボールやバドミントンのシャトルは、本体そのものの機能が非常に短い寿命で消費される消耗品です。一方で、本体に付随する消耗サプライ品で利益を取るビジネスがあります。

これは古くから「ジレットモデル」と呼ばれて知られるビジネスモデルです。

ひげそりの取っ手を安く販売し、消耗品である替え刃を継続的に購入してもらうことで利益を得るというビジネスを始めたのがジレット社であることから、こう呼ばれるようになりました。

このモデルを援用したビジネスは数多くあります。

たとえば、プリンタです。家庭用のインクジェットプリンタ本体は、非常に安く販売されています。しかし、インクカートリッジを買おうとして、その値段の高さに驚いた経験のある人も多いでしょう。

また、ネスレ社のネスプレッソもジレットモデルです。

人が集まるショッピングモールで、コーヒーの香りを店中に広げながら、試飲キャンペーンをしているのをよく見かけますね。カフェで飲むような本格的なコーヒーを自宅で簡単に淹れられ、マシンはインテリアとしても映えるデザイン。

一般的なコーヒーメーカーとそれほど変わらない価格で、しかもコーヒーのカートリッジがたくさん付いてくる。

しかし、肝心のカートリッジは、1杯当たり100円もします。豆を買ってきてコーヒーフィルターで淹れれば、高級な豆を使っても1杯当たり80円(豆の値段が100g800円、1杯当たり10g使うと想定)、もっと安い豆を使えば10円を切る値段でコーヒーが楽しめることを考えると、ネスプレッソはかなりの贅沢品といえるでしょう。

ところが、近年、このジレットモデルは、必ずしもすべてのサプライ品市場を自社で取れなくなってきています。

たとえば、インクジェットプリンタのインクカートリッジは、純正品だと全色セットで7000円くらいで売られているものと同等品を、アマゾンで300円程度で購入できます。

何と、20分の1の価格です。

メーカーは、純正品以外のインクを一度でも使えば本体の保証をしないと謳っています。

それでも、インクジェットプリンタ本体を1万円程度で買えるのですから、ちょっと計算すれば、社外品インクカートリッジを使って壊れたとしても、買い直したほうが安いことがわかります。

またアマゾンなどで大量に投稿されているレビューに故障の報告がほとんどなければ、まあ大丈夫だろうと考える人も多いでしょう。

ネスプレッソのコーヒーカートリッジにもサードパーティ製が存在します。

アマゾンの実勢価格を見ると、ネスレ社純正品の6割程度の値段で売られています。

ネスプレッソのマシンの寿命を左右する重要な部品はガスケットです。

従来、ガスケットはマシン本体に組み込まれていましたが、現在はカプセル側に埋め込まれているため、マシンの寿命が大幅に伸びたのと、カートリッジにガスケットを組み込むための技術的制約とコストによって互換カートリッジは出てこないと考えられてきました。

しかし、これだけ普及した製品ですから、やはり目を付ける事業者も出てきます。サードパーティ製のカートリッジが出てきた際には、案の定、ネスレ社は訴訟を起こしました。

しかし、現在の販売状況から推測するに、ネスレ社はネスプレッソのカートリッジの知財権を完全に守り切れてはいないようです。

社外カートリッジ販売事業者とネスレ社との間で何らかの取り決めがあるのか、あるいはまったくの野放し状態なのかはいまのところ明らかにされていません。

インクジェットプリンタやネスプレッソなど業界のガリバー企業でさえ、利益の源泉であるサプライ品市場を守り切れないことがあるのです。

とくに、中小の事業者であれば、このようなチャンスが転がっていないか、つねにアンテナを張っておく必要があるでしょう。

山崎将志(やまざきまさし)
ビジネスコンサルタント。1971年愛知県岡崎市生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年にアクセンチュアを退社し独立。プロフェッショナル開発の知識工房、事業再生コンサルティングのアジルパートナーズをはじめ、数社の新規ビジネスを開発。なかでも2011年にイオングループの傘下に入った「カジタク」は業界トップクラスの規模にまで成長した。2010年4月に出版された『残念な人の思考法』(日本経済新聞出版社)が34万部のベストセラーとなり、著書累計発行部数は100万部を超える。2016年よりNHKラジオ第2「ラジオ仕事学のすすめ」講師を務める。