(本記事は、秋元司氏の著書『日本の極みプロジェクト 世界から大富豪が訪れる国へ』CCCメディアハウス、2018年6月14日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

日本の極みプロジェクト
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

【『日本の極みプロジェクト 世界から大富豪が訪れる国へ』シリーズ】
(1)海外の超富裕層たちが日本でお金を使う3つのポイント
(2)特別扱いは当たり前 超富裕層がホテルに求める「一点もの」サービスとは
(3)希少価値を好む超富裕層が「不動産投資」に資産をそそぐ理由
(4)世界の超富裕層が「自分の住まい」に求める3つの条件
(5)超富裕層向けの空間を作りづらい日本の「5つの制約」

世界の超富裕層が求めるものとは

日本の極みプロジェクト
(画像=Ollyy/Shutterstock.com)

日本は世界の人を惹き付ける資源に恵まれていて、「潜在能力」が非常に高い国です。

では、そもそも超富裕層は、海外での滞在・観光にどのようなことを求めているのでしょうか。

超富裕層の嗜好や消費行動に詳しい複数の有識者を通じて超富裕層が何を求めているのかについて調べてみたところ、そこから浮かび上がったのは、超富裕層を惹き付けるために必要な要素は、彼らにとってゆっくりとプライベートな時間が過ごせる滞在型施設と移動手段があるということでした。

日本には、外資系ホテルや高級旅館はすでにあり、飛行機や新幹線が全国を網羅していると考える人もいるでしょう。

しかし、ここで重要なのは、「彼らにとって」という部分です。

「彼らにとって」とはどういうことか。

実は超富裕層からは、日本にはまだ自分たちを十分に満足させる滞在型施設・移動手段がほとんどない、と受け止められているのです。

具体的に、世界の超富裕層向けのラグジュアリー・レジデンスを見てみることで、彼らが求めるものが浮かび上がってきます。

たとえば、イギリスのOne Hyde Park(ワン・ハイド・パーク)。

ロンドン中心部にありながら、緑豊かな公園ハイドパークの南に位置し、眺望の良さは抜群です。86の住戸があり、1住戸の販売価格は約11億円~250億円だといわれています。

レジデンスの管理や入居者への各種サービスの提供は、隣接しているマンダリンオリエンタルホテルが担っています。

アメリカ、ニューヨークのOne57(ワン)。

ここは、マンハッタンのセントラルパークの南に位置します。高さ306メートルの超高層タワービルの上層階がレジデンスになっています。眼下にはニューヨークの摩天楼とセントラルパークの緑が広がっています。

92の住戸があり、1住戸の販売価格は約3.6~120億円だといわれています。

タワービルの下層階がパークハイアットホテルとなっており、レジデンスの入居者はパークハイアットホテルのサービスが受けられる仕組みです。

このようなラグジュアリー・レジデンスでは、基本的に、室内の家具などの調度品はホテルと同じです。滞在期間中はホテルと同じサービスを受けられるようになっており、国際レベルで認知されているラグジュアリーホテルなどのブランドを前面に出したレジデンスとなっています。

ロンドンやニューヨークがいくら大都市といえども、周辺の地価相場からするとこれらのレジデンスはとてつもなく高額です。

しかし、ブランド力のあるホテルのサービスを受けられるということで、周辺の不動産価格とはかけ離れた額で、実際に売れています。

一見、ホテルの一室と同じように思えるかもしれませんが、レジデンスは専有面積が比較的広い上に、超富裕層が「資産」として購入します。購入すれば、この部屋を使うのは、基本的に購入者とその家族・親戚などだけです。

購入者はホテルに滞在するよりも特別感・プレミアム感を味わうことができます。

加えて、このレジデンスの購入は、単なる消費ではありません。

投資・資産運用としての不動産保有となり、超富裕層にとって資産保全策の一つとして捉えられています。

次に、彼らの移動手段についてはどうでしょうか。

ラグジュアリー・レジデンスを購入するような人は、バスや電車などの公共交通機関は基本的に利用しません。

プライベートが確保され、移動したいときに自由に移動できることが前提で、ストレスのないことが重要です。その上で、ラグジュアリーな仕様など、移動空間の快適性も重視します。

したがって超富裕層の多くは、プライベートジェットやヘリコプター、クルーザーなど、既存の一般的な交通インフラとは一線を画する移動手段を好みます。

また、車であっても、最高級の車種と運行サービスで、超富裕層に上質な時間をもたらすことが必要です。

既存の港などを使用する場合であっても、VIPレーンを用意し、とにかく、ストレスなく移動できる環境をつくらなければ、魅力的だと感じてもらうことはできません。

では、このような超富裕層が日本に滞在した場合、いったい何をするのでしょうか?

過ごし方は、当然、人それぞれですが、多くの超富裕層に共通していると思われるのは、そこでしかできない「唯一無二」の体験です。

彼らは、価値を感じるもの、「本物」には、糸目を付けないお金の使い方をします。

たとえば、ある神社を拝観し感銘を受けたため、その場で数百万円奉納した、工芸品などの逸品を多数購入して1回の滞在で1億円使った......などということが起きていると耳にします。

お金の使い方が桁外れなのです。

もちろん、ここでもプライベートの確保が求められるため、店や施設の貸切りといった対応が必要になってきます。

また、彼らは、健康や環境配慮にも高い関心を寄せる傾向にあります。健康や自然と調和的であることも超富裕層に対する大きな訴求ポイントになるでしょう。

加えて、日本でしかできない体験を彼らが満足する形で提供するためには、完全にパーソナルなアテンドを行うことが重要になります。

彼らのニーズに応え、適切にサービスをアレンジできるコンシェルジュなどの存在が必要でしょう。

移動と同じく、彼らにとって価値のある体験をストレスなく提供することで、最大限の満足を引き出すことが求められます。

どうでしょう。超富裕層の嗜好について、少しはイメージが湧いてきたでしょうか。

これまでの整理をしてみると、超富裕層を惹き付けるためには大きく3つの観点が重要になりそうです。

第1に、日本での滞在場所となる施設=「ハコ」。第2に、移動手段=「アシ」。そして、第3に、滞在を楽しめる「サービス」。

この「ハコ」「アシ」「サービス」の充実をいかに図っていくかが、ポイントとなります。

超富裕層向けの施設や移動手段には、十分な広さと洗練されたデザイン、ゆっくりと価値のある時間を過ごせる環境、他と差別化されたサービスが求められます。

また、当然のことながら、家族・友人らと過ごすプライベートな空間が保たれること、滞在にストレスがないこと、セキュリティが整っていることは必須です。

注意すべきは、彼らにとっては、日本一であることはさほど意味を持たないということです。

世界的視野に立って消費・投資行動を行う彼らを惹き付けるためには、世界のラグジュアリー市場の中で日本を選んでもらえるプランを彼らに提示しなければならないのです。

これは、単に、滞在施設や移動手段といったハード面の整備だけでは実現できません。

日本でしかできない体験、つまり歴史・文化を感じたり、日本が有する多彩な自然環境を享受し、その保全に貢献したりなど、日本での滞在が彼らにどのような価値をもたらすのか、一から考える必要があるでしょう。

他国にはない日本ならではの価値をパッケージで明確に提示できなければ、超富裕層を惹き付けることは難しいのです。

秋元司(あきもと・つかさ)
KIWAMIプロジェクト研究会代表、衆議院議員。2004年参議院選挙に初当選。第1次安倍・福田内閣で防衛大臣政務官に就任。2012年衆議院議員1期目当選、現在3期目となる。第3次安倍内閣では、国土交通副大臣兼内閣府副大臣兼復興副大臣を務める。