(本記事は、秋元司氏の著書『日本の極みプロジェクト 世界から大富豪が訪れる国へ』CCCメディアハウス、2018年6月14日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【『日本の極みプロジェクト 世界から大富豪が訪れる国へ』シリーズ】
(1)海外の超富裕層たちが日本でお金を使う3つのポイント
(2)特別扱いは当たり前 超富裕層がホテルに求める「一点もの」サービスとは
(3)希少価値を好む超富裕層が「不動産投資」に資産をそそぐ理由
(4)世界の超富裕層が「自分の住まい」に求める3つの条件
(5)超富裕層向けの空間を作りづらい日本の「5つの制約」
超富裕層が好む不動産の特徴
それでは、超富裕層はどのような不動産に投資しているのでしょうか。
まず、特筆すべきは、超富裕層は不動産が大好きということです。
所有する資産のうち不動産投資の占める割合は実に約40%に達します。これはワイン、車、宝石などのラグジュアリーグッズと比べると極めて大きな割合です。
超富裕層を対象とするビジネスを展開するとなれば、いかに不動産の重要性が高いかを端的に示した結果でしょう。
もう少し詳しく見てみますと、超富裕層の投資対象となる不動産は、プライマリー・レジデンス(自己住居物件)、セカンダリー・レジデンス、そして純粋な投資用の不動産に大別されます。超富裕層の資産のうち、約16%がプライマリー・レジデンスとセカンダリー・レジデンスが占め、約24%が投資用不動産に配分されています。
プライマリー・レジデンスはビジネスを手がける拠点となる大都市での生活の場となります。生活の拠点といっても、超富裕層は通常世界中を飛び回っているので、常にそこに住んでいるわけではありません。一年のうち数か月をそこで過ごし、その他の期間はまた別の場所で過ごします。
ただ、彼らがそこに帰ってきたときには、最高のリラックスを得る場所となります。食事、エンターテインメント、ショッピングを含めて、リラックスするために必要なサービスを常に手にすることができる環境でなければなりません。
世界を見渡すと、このような超高級物件が多数存在します。
ニューヨーク・マンハッタンのセントラルパーク周辺、ロンドンのリージェンツパーク周辺を筆頭に、香港ではセントラル(中環)、シンガポールではオーチャードやセントーサ島に立地しています。
これらのプライマリー・レジデンス物件の特徴は、大きく3つあります。
いずれもグローバルな経済都市に所在すること、その中でも特定のブランドのあるエリアにあること、そして、近年の特徴として、ホテルと併設され、そのサービスを受けるホテルレジデンス形態をとっている例が多いことが挙げられます。
それぞれの条件を詳しく見てみましょう。
まず、超富裕層の投資先として選ばれるためには、グローバルな経済都市であることが欠かせません。すでに述べたとおり、超富裕層はその資産の安全性を求めています。
グローバルな経済都市には、多くの多国籍企業のトップとそこで働く従業員が住居を構えます。そして企業が集まれば、そこでは国際会議などが開催されます。おのずと、不動産の需要は常に高い状態になります。
そのため、超富裕層はグローバルな経済都市における不動産の価値は安定的に維持されるのではないかと考えるのです。
では、このようなグローバル都市の物件であれば、どこでもいいのでしょうか?実はそうではありません。
たとえば、東京の物件といっても、東京のどこか、ということが問題になるのです。超富裕層の投資対象となるのは、都市の中のごく一部に限られるというわけです。
超富裕層が好むのは、先に述べたように、ニューヨークであればセントラルパーク周辺、ロンドンであればリージェンツパーク周辺など、都市の中でも特定のブランドが築かれているエリアです。
超富裕層のライフスタイルを満足させる環境が整っていると評価されるエリアでなければなりません。
世界中からアクセスが可能であり、プライバシーとセキュリティが保たれる空間。ミシュラン3つ星クラスの食事を楽しむこともできる食環境。
文化、芸術、ナイトライフを含めたエンターテインメントの存在。そのような最高の立地の物件でありながら、滞在中には超一流のサービスを受けることができるホテルレジデンスが、ニューヨーク、ロンドンをはじめ、世界各地で次々とプロジェクト化されているのです。
では、セカンダリー・レジデンスの場合はどうでしょうか。
まず、認識しておきたいのは、日本と海外のリゾートのあり方はまったく異なるということです。
よく耳にしたことがあるかもしれませんが、日本の一般的な休暇は欧米と比べて極めて短期間です。
日本では週末に数日休暇をつける程度、長くてせいぜい一週間程度の休みしか取られていないのが実情です。ゴールデンウィークの谷間の日も休日として、9連休が最大といったところではないでしょうか。
休暇が長くないため、基本的に特定の目的地(美術館、博物館、観光名所など)を訪れて、写真を撮って、土産物を買い、帰るというのが基本的なパターンです。
一方、海外では、超富裕層に限らず、休暇の日数は日本に比べて圧倒的に長いものです。
海外の企業と仕事をしたことがある人はわかると思いますが、彼らは基本的に8月になるとバカンスで不在になります。
年末も、クリスマスを過ぎると年明けまで帰ってきません。
日本の会社では考えられませんが、少なくとも2週間は休暇を取って、海外のリゾートなどに遊びにいくのです。
休暇の期間や過ごし方が日本とは大きく変わるので、彼らが長期休暇で滞在するホテル・リゾートに求めるものも、日本人とは大きく異なります。
日本人のように数日しか滞在しないのであれば、多少値段が高く、クオリティが低くてもやむをえないという判断もあるかもしれません。我慢するのは数日ですから。
ただ、数週間滞在するとなると、話は変わってきます。
その上、超富裕層となると、プライマリー・レジデンスと同じく、最高のサービスが提供されることを求めます。
都市型のレジデンスと異なり、余暇では人の目から離れて自分(または自分たち)だけの時間を過ごしたいという欲求が強まるため、プライバシーやセキュリティの確保がとりわけ重要となります。
もちろん、その場所でしか得られない経験、食事、風景を、滞在期間中に満喫できることも必要になります。
超富裕層向けレジデンスの価格帯と開発効果
超富裕層向けレジデンスの特徴について見てきましたが、みなさんの関心は、このような超富裕層向けのレジデンスがいくらくらいで売買されているかではないでしょうか。
日本では「億ション」という言葉が超高級マンションの代名詞として使われていますが、物件の価格は床面積に比例しますので、総額ではなく、床面積あたりの価格で比較して見てみましょう。
オークションハウスとして名高いクリスティーズのレポートによると、1億円(百万米ドル)以上の物件の1平方フィート(概ね0.1㎡)あたりの平均価格は、都市部では、香港で4895ドル、ロンドンで2710ドル、マンハッタンで1940ドルとなっています。
リゾートについて見てみますと、モナコは5420ドル、サンモリッツで3000ドル、カンヌで2500ドルとなっています。
参考までに日本での例を挙げてみましょう。
高額物件として名高い虎ノ門ヒルズレジデンスが84.9㎡で4.18億円との情報があります。
2倍の価格をつけても、香港どころかロンドンにもマンハッタンにも届きません。
日本では超富裕層を対象とした物件の供給はこれからですが、「東京の都心部では国内外の富裕層が満足するレベルの住宅の市場が今後拡大する」という報道もあります。デベロッパーの中には1戸億円以上の最高級物件の提供を検討する動きも出てきているようです。
超富裕層向けレジデンスの開発は、ファイナンス面からも不可欠なものとなりつつあります。
今、世界的な金融緩和の状態にあります。
そのため、デベロッパーはお金を借りやすい状況にあるのですが、それでもこのような希少性の高い土地を自らの資金だけで取得、開発することは、リスクが大きすぎるのが現実です。
このときデベロッパーには、自分で抱えきれない開発案件の資金のやりくりとして、開発後にファンドに売却して投資を回収するという手段があります。
もちろん、どのような形で開発するかも重要になります。在庫リスクを抱える分譲住宅は、一般的にファンドでは取り扱われません。また、賃貸住宅は、ファンドでは市場での流通が容易な物件を志向するために、借り手が限られる超高級物件はあまり扱われません。
このような開発物件においては、ブランドの価値を高めるため、5つ星クラスの高級ホテルを誘致する例が最近は主流です。
ただ、ホテルの客室収入による資金回収には長期間が必要な上に、景気にも左右されます。
資金回収を早く確実なものにするために、最近、積極的に活用されるのが、超富裕層向けのレジデンスを開発の中に組み込むことです。超富裕層向けのレジデンスを最上階に設けて、高級ホテルを併設することで、これらのホテルが提供する最高級のサービスが特徴になり、物件の価値が高まります。
超富裕層に対して直接その物件を販売することで、短期間で開発資金の回収も可能になるのです。
近年の代表的なラグジュアリー・レジデンス開発事例の多くが、高級ホテルブランドと提携しています。日本でも、フォーシーズンズホテル京都のように、その手法を取り入れ始めています。
また、超富裕層向け物件の開発は、その都市にも大きな意味をもたらします。
これまで述べてきたように、超富裕層向け物件は、彼らのライフスタイルを満足させるだけの魅力が絶対条件です。そのためには、最高の立地と、24時間オーナーの要望に100%応えるコンシェルジュを含めた最高のサービスが求められます。
そして確実なセキュリティを備えた上で、物件のみでなく、街全体として超富裕層の求める環境を備えていることが必要不可欠です。
このような要件を満たす物件が開発されることによって、波及効果がその地域にもたらされます。物件に投資する超富裕層が求めるレベルのレストランやエンターテインメントに対する需要が創出されます。
そして、都市・リゾート全体の魅力が高まっていく好循環が期待されるのです。
秋元司(あきもと・つかさ)
KIWAMIプロジェクト研究会代表、衆議院議員。2004年参議院選挙に初当選。第1次安倍・福田内閣で防衛大臣政務官に就任。2012年衆議院議員1期目当選、現在3期目となる。第3次安倍内閣では、国土交通副大臣兼内閣府副大臣兼復興副大臣を務める。
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