(本記事は、秋元司氏の著書『日本の極みプロジェクト 世界から大富豪が訪れる国へ』CCCメディアハウス、2018年6月14日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【『日本の極みプロジェクト 世界から大富豪が訪れる国へ』シリーズ】
(1)海外の超富裕層たちが日本でお金を使う3つのポイント
(2)特別扱いは当たり前 超富裕層がホテルに求める「一点もの」サービスとは
(3)希少価値を好む超富裕層が「不動産投資」に資産をそそぐ理由
(4)世界の超富裕層が「自分の住まい」に求める3つの条件
(5)超富裕層向けの空間を作りづらい日本の「5つの制約」
立地に関する現行制度上の課題
超富裕層に好まれるラグジュアリー・レジデンスの立地は、グローバル経済都市であることや、超富裕層が好む「ブランド」が確立された土地であることが重要です。
土地のブランドは、自然環境が豊かなこと、文化・歴史などのストーリーがあること、先進的な都市であることなど、その土地ならではの個性が際立つことで確立されます。
日本には、東京のような一大経済都市に加え、京都や奈良といった歴史的価値の高い地域があり、このほかにも、各地に魅力的な地域が点在しています。
ラグジュアリー・レジデンスの建設候補地としての可能性を持つ土地が多いような印象もあります。
しかし、日本は、成熟した国ならではの難しさがあります。
たとえば、極端に人口が集中している東京や横浜、大阪といった日本を代表する都市部は、どこも過密状態で、まとまった土地を確保することが簡単ではありません。
また、風光明媚な海岸や川辺、自然公園などでは新規の大型不動産開発が困難です。
さらに、歴史的な価値のある建築物などの文化財は保存の観点から観光客の利用に供することに対して合意が得られにくいこともあります。
以上のような理由から、日本はポテンシャルを秘めながらも、超富裕層向けのラグジュアリー・レジデンスの開発が進みにくい環境にあるといえるでしょう。
ラグジュアリー・レジデンスの開発に関連すると思われる現行制度上の課題を見てみましょう。
(1)自然公園法による制約
日本には、数々の景勝地があります。
なかでも「傑出した自然の風景地」として環境省が指定した区域である国立公園などでは、その優れた自然風景を保護するために、いろいろな行為が規制されています。
たとえば、国立公園内でホテルなどの施設を設置し、宿舎事業を実施する場合には、環境大臣の認可が必要となります。
しかも、宿舎事業の運用ルールは、自然保護の観点から、地域ごとに異なっているようです。
仮にレンタル・プログラム付きレジデンスの建築計画が持ち上がったとして、それが宿舎事業として認可されうるのかは未知数です。
そもそも、地域によっては新築・増築を基本的に認めていない場合もあります。自然公園法の運用が事業者にとって明確ではないため、かなりの調整が必要になるでしょう。
現状のままでは国立公園などの名所は観光資源として十分に活かしきれない可能性が高いといわざるをえません。
(2)文化財保護法による制約
文化財は、日本の古くからの歴史や文化の理解に欠くことのできない貴重な遺産です。
本物の文化財を鑑賞できることは、日本人のみならず世界中の観光客にとって、そこでしか得られないかけがえのない経験となります。
現行の文化財保護法は、何を文化財として認めて守っていくかという「保護」の視点に力点が置かれています。
認定した文化財を観光資源として活用し、その収益をもとに必要な修繕費にあてるといった視点は盛り込まれていないのです。
このことについては、2016年3月にまとめられた「明日の日本を支える観光ビジョン」においても、「とっておいた文化財」を「とっておきの文化財」に変えていくべきであるとされています。
これからの時代には、文化財の保存と活用という両方の視点が欠かせません。
(3)海や湖、河川等に関連する制約
水辺・水上は、スーパーヨットや水陸両用機などによるアクセス利便性に優れています。また、プライバシーやセキュリティ確保という点でも優位性が高く、超富裕層のニーズに訴求できる貴重な空間といえるでしょう。
水上空間を有効活用する上で、バージ(はしけ)や作業船をホテルやコンサート会場といった商業施設に転用することも考えられます。
しかし、バージなどの活用については、船舶安全法に基づく詳細な技術基準を満たすことが求められます。さらにいえば、そもそも転用によって有効活用することを想定した法整備がなされていないのが現状です。
また、水陸両用機が水面着陸する際は、関係行政機関に加えて、都道府県の漁業調整規則に基づいて地元漁協との漁業権の調整などが必要となります。
この調整に時間がかかる場合もあります。
(4)都市計画による制約
都市計画上、住居専用地域などの宿泊施設の立地が制限されている区域では、ホテル併設型のラグジュアリー・レジデンスが原則として設置できません。
また、都市計画では、用途地域ごとに容積率(敷地面積に対する建物の床面積の割合)の上限が設定されていますが、ラグジュアリー・レジデンスを設置する際に、この容積率の上限が制約になり、十分な収益が見込めず事業化が困難になる場合もあるでしょう。
(5)建築基準法による制約
現行の防火基準では、基準の一つとして、居室を100m2以内に防火設備で区画し、壁や天井を不燃材などで仕上げた場合には排煙設備(火災時に発生する煙を屋外に排出し、消防活動を円滑に行うことを支援するために設置する設備)の設置が免除されています。
結果として、100m2以内で区画する設計にした方が、排煙設備を設置する場合と比較して経済的には優位となります。
そのため、超富裕層が求める1室100m2を超えるような広い部屋は建設されにくくなっているのが実情です。
また、条例によって、避難上有効なバルコニーの設置が求められることもあります。
このため、結果的に、超富裕層に訴求できるレベルのデザイン・景観の設計をしたくても、デザイン・景観上の自由度が低く、難しくなっている面もあるようです。
秋元司(あきもと・つかさ)
KIWAMIプロジェクト研究会代表、衆議院議員。2004年参議院選挙に初当選。第1次安倍・福田内閣で防衛大臣政務官に就任。2012年衆議院議員1期目当選、現在3期目となる。第3次安倍内閣では、国土交通副大臣兼内閣府副大臣兼復興副大臣を務める。