(本記事は、秋元司氏の著書『日本の極みプロジェクト 世界から大富豪が訪れる国へ』CCCメディアハウス、2018年6月14日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

日本の極みプロジェクト
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

【『日本の極みプロジェクト 世界から大富豪が訪れる国へ』シリーズ】
(1)海外の超富裕層たちが日本でお金を使う3つのポイント
(2)特別扱いは当たり前 超富裕層がホテルに求める「一点もの」サービスとは
(3)希少価値を好む超富裕層が「不動産投資」に資産をそそぐ理由
(4)世界の超富裕層が「自分の住まい」に求める3つの条件
(5)超富裕層向けの空間を作りづらい日本の「5つの制約」

日本に不足しているものは何か

日本の極みプロジェクト
(画像=Maksim Shmeljov/Shutterstock.com)

超富裕層を日本に惹き付けるため、我が国の現状を「ハコ」「アシ」「サービス」の観点から検証することが必要です。

超富裕層を惹き付ける「物理的・空間的」なハコ(世界基準のレジデンス)とアシ(ストレスのない移動手段)に加え、彼らが日本で過ごす「時間」を最高のものにするサービス。

この3点それぞれについて、日本は超富裕層が求める世界水準を満たしているでしょうか。

●超富裕層が求める「ハコ」

富裕層を対象とした国内の高級ホテル、レジデンスの動きを見てみましょう。

2016年秋に「フォーシーズンズホテル京都」が開業しました。

ホテルサービスと併せ、客室の約3割にあたる57室をレジデンスとして販売しています。分譲価格は非公表ですが、1平方フィート5000~6000米ドル(約56万2000円~67万5000円)で、ユニットあたりの面積は890~2045平方フィート(約83~190m2)とも報じられています。

単純計算すれば、1住戸4.8~13.8億円になります。

銀座では、2017年秋に「ホテルザセレスティン銀座」(三井不動産)が開業しました。総客室数が104室で天井高は約3.1m、銀座三越と連携した外国人スタッフによるアテンダント・サービスも提供しています。

2018年1月には、「ハイアット・セントリック・銀座東京」(キッチンダイニング付き127m2のスイートルームあり。総客室数164室)が開業しました。

今後は、マリオット・インターナショナルの最高級グレード「東京エディション銀座」(新国立競技場に携わる隈研吾氏の設計。総客室数約室)も計画されています。

レジデンスとしても、「プラウド六本木」(全35戸、専有面積100.12~318.71m2)は最高価格14億円超。2016年初夏に販売が始まり、すでに完売しています。

コンシェルジュが通訳を紹介したりケータリングを取り次いでくれたりするのが特徴です。

2017年夏に分譲された「ブランズ六本木ザ・レジデンス」(全51戸、専有面積55.01~313.53m2)は最高価格15億円超、2018年に完成した「パークコート青山ザ・タワー」(全163戸、専有面積70.07~234.04m2)も最高価格は15億円です。

青山ザ・タワーは最上階にインフィニティプールを備え、水面と眺望が連続する幻想的な光景を提供します。

このように、高級なホテルやレジデンスは日本でも出始めています。

しかし、超富裕層を対象とする施設の世界の状況を見ると、日本はまだまだこれからという気がします。

モナコの最高級レジデンスTour Ode?on(トゥール・オデオン)は約470億円、ニューヨークのOne57(ワン57)は約120億円、アジアでは香港の天匯(ティンウィ)が約92億円、シンガポールのClermont Residence(クラモント・レジデンス)で約55億円といったように、世界では、日本とは桁違いの「ハコ」が提供されています。

●超富裕層が求める「アシ」

超富裕層が求める「アシ」、移動手段について見てみましょう。彼らが移動手段において重視するのは、プライベートの確保と待ち時間がないことです。

日本の極みプロジェクト
(画像=書籍より)

米国13133(367)機、ブラジル840(25)機、メキシコ777(20)機、イギリス589(10)機、カナダ502(6)機、ドイツ410(6)機、中国245(5)機、フランス176(34)機、南アフリカ167(6)機、オーストリア165(5)機、インド157(12)機。

これは、2015年3月末の主要国別のビジネスジェット(いわゆるプライベートジェット)の保有機数です。()は内数で政府専用機などの民間以外の所有です。ちなみに、日本の保有機数は85機。それも、政府専用機等が58機を占めており、民間所有はわずか27機となっています。

民間所有では同じアジアでも中国の約9分の1、インドの約5分の1にとどまっています。

絶対値では米国が圧倒的ですが、伸び率をみると、近年、超富裕層が増加している中国をはじめとしたアジアが大きくなっています。

彼らは世界を飛び回るために、プライベートが確保できて、待ち時間がない移動手段として、ビジネスジェットを選択しているのです。

日本の極みプロジェクト
(画像=書籍より)

さらに、もう一つ数字を見てみましょう。

ニューヨークのテターボロ空港約10万回、パリのル・ブルジェ空港約6万回、ロンドンのファンボロー空港約2万回。これは、海外主要都市のビジネスジェット専用空港における2011年の着陸回数です。

日本を見てみると、羽田空港におけるビジネスジェットの着陸回数は2017年で約1700回にとどまっています。

国内のすべての空港を足しても、約7500回。保有機数と同様に桁が違います。

このように、今後、その利用がさらに増加すると見込まれる超富裕層の「アシ」、すなわちビジネスジェットの世界において、現時点で日本は諸外国から後れをとっているのは明らかです。

超富裕層の移動手段について日本がおくれをとっている状況は、他の交通手段でも同じです。

世界の超富裕層を相手にビジネスを展開する第一線の実務家からは、日本には超富裕層を送迎できる高級車を持つタクシー会社がほとんどないとの声を聞いたことがあります。

超富裕層を乗せるからといって、必ずしも、高級車である必要はないかもしれません。

ただ、ポイントは、ビジネスジェットで日本に降り立った超富裕層が国内の目的地まで、引き続きプライベートを確保して、待ち時間なく移動できるかどうかです。

陸上交通の場合もあれば、そのままビジネスジェットによる国内移動、あるいは、ヘリコプターに乗り換えることも考えられます。

海上の交通手段としては、スーパーヨットなども想定されます。

一般的に全長が24mを超す大型ヨットがスーパーヨットと呼ばれ、価格は40m級で約20~40億円程度です。

古くから造船業の栄えたイタリアを中心に毎年700隻程度が生産されています。2012年現在で世界に約6290隻が保有されています。

スーパーヨットは、プライベートが完全に確保できることから、超富裕層が好んで所有する洋上の移動手段です。宿泊はもちろん、レセプション施設にもなります。

中には、複数のヘリコプター発着場やプール、映画館、ディスコ、小型潜水艇、ミサイル防衛装置を備えるものまであります。

米アップルの経営者だった故スティーブ・ジョブズ氏も、生前にデザインから携わり、全長約70~80m、総工費約1億ユーロ(約130億円)ともいわれるスーパーヨットの建造を進めていました。

また、ロンドンオリンピック・パラリンピックの期間中にはテムズ川に、米マイクロソフトの共同創業者ポール・アレン氏所有のオクトパス号(ちなみに同氏は2015年、同号に積み込んだ深海探査船によって、フィリピン・シブヤン海で沈没した戦艦「武蔵」を発見)をはじめ、幾隻ものスーパーヨットが停泊しました。

カリブ海の島々には、欧米の超富裕層が所有するスーパーヨットが毎年数千隻訪れています。

スーパーヨットは日本にも訪れていないわけではありません。

2015年に沖縄県の石垣港に停泊した全長約mのスーパーヨットからは、洋上パーティーを開くために、現地の食品卸会社に300万円以上の石垣牛のオーダーがあったといわれています。

しかし、スーパーヨットがカリブ海の島々を訪れるように日本を訪れるためにはハードルもあります。

たとえば、東京湾には100フィート(約30m)を超えるような船の専用の係留施設がほとんどありません。ハード面の課題も大きいですが、出入国管理のソフト面についても十分な環境が整っているとはいえません。

スーパーヨットの受け入れ実績は極めて限定的にならざるを得ないのです。

超富裕層が求める「アシ」についても、「ハコ」と同じようにまだまだこれからといった状況にあります。

●超富裕層が求める「サービス」

「サービス」には、ハコ・アシに関連するものと、それ以外の諸活動に関連するものがあります。

まず、ハコに関連するものとして示唆に富むのは、海外のラグジュアリーホテルのサービスです。

たとえば、ザ・リッツ・カールトンの従業員は、宿泊客のニーズを先回りして汲み取ることは当然のこととして、自らの判断で臨機応変に独自のサービスを提供することが許されています。

これはエンパワーメント(権限移譲)と呼ばれています。具体的には上司の判断を仰がずに1日2000ドルまでを使うことなどが認められているのです。

もちろん、基本原則となるマニュアルは存在します。しかし、すべての宿泊客がマニュアルどおりの画一的な対応で満足するわけではありません。

一般客でさえ難しそうですが、ターゲットが超富裕層となったら、なおさらでしょう。

彼らにとっては特別扱いがあたりまえなので、画一的な対応では彼らの満足を得るのは難しいのです。

日本では公平・横並びといった意識が強いですが、たとえ、一定の水準がクリアされていたとしても、画一的なサービスは超富裕層が求めるものではないのです。

同じことがアシに関連するサービスについてもいえます。

アマンリゾーツでは、従業員が自家用車で宿泊客を送迎することがあります。これは、アシに関連するというよりも、アシそのものがサービスになっている事例ですが、その車内で宿泊客は、住民でもある従業員から島の歴史や文化を聞くことができます。

そこでは、ホスピタリティ溢れる貴重な時間が提供されているのです。

さらに、超富裕層の日本国内における活動、飲食をはじめとして、買い物や観光その他の行動でも、個別のオーダーに臨機応変に対応することが重要です。

特別扱いを適正な対価で提供することが求められるのです。

たとえば、前出のアトキンソン氏は、世界中から多くの観光客が訪れるバチカンに入るためには、通常、長時間待つことになりますが、有料の予約サービスを利用すれば、よりスムーズに観光できると指摘しています。

一方、同氏は日本の「おもてなし」にも違和感を唱えています。

無償で提供される細やかな気遣いとして、ホスピタリティと同義のように使われることも多いこの言葉ですが、わが国の「おもてなし」は、日本人だけが共有している価値観の押し付けになっているきらいがあるというのです。

むしろ、超富裕層を念頭におけば、日本人の価値観でなく、彼らの価値観を踏まえた上で、有償であっても十分評価されるサービスは何かを考えるべきなのです。

このように、超富裕層が求める「サービス」についても、「ハコ」「アシ」同様にまだまだこれからといった状況にあります。

超富裕層が求めるサービスは、定型的・画一的なものでありません。むしろ対極にあります。

自分に合った、自分だけの「一品もの」を求めているのです。多様な個別オーダーにいつでも対応できるように、人的・物的ネットワークを確保しておくことが重要になるでしょう。

超富裕層を日本に惹き付けていくには、日本に滞在することでしか得られない価値を提供しなければなりません。

テーラーメイド型のサービスにも応え、快適なハコやアシとセットで、日本滞在をパッケージで支える環境や体制を早急に整えなければなりません。

秋元司(あきもと・つかさ)
KIWAMIプロジェクト研究会代表、衆議院議員。2004年参議院選挙に初当選。第1次安倍・福田内閣で防衛大臣政務官に就任。2012年衆議院議員1期目当選、現在3期目となる。第3次安倍内閣では、国土交通副大臣兼内閣府副大臣兼復興副大臣を務める。