(本記事は、秋元司氏の著書『日本の極みプロジェクト 世界から大富豪が訪れる国へ』CCCメディアハウス、2018年6月14日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

日本の極みプロジェクト
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

【『日本の極みプロジェクト 世界から大富豪が訪れる国へ』シリーズ】
(1)海外の超富裕層たちが日本でお金を使う3つのポイント
(2)特別扱いは当たり前 超富裕層がホテルに求める「一点もの」サービスとは
(3)希少価値を好む超富裕層が「不動産投資」に資産をそそぐ理由
(4)世界の超富裕層が「自分の住まい」に求める3つの条件
(5)超富裕層向けの空間を作りづらい日本の「5つの制約」

超富裕層(UHNWI)の実像を把握

日本の極みプロジェクト
(画像=ArtOfPhotos/Shutterstock.com)

ビジネスをする上で欠かせないのは、取引相手がどのような人間かを把握することです。

超富裕層を対象としてビジネスを行う際も、超富裕層とはどのような人々であるかを理解する必要があります。

まず、超富裕層とは、大手金融機関UBSの定義では、3000万ドル以上の純資産を有する者とされています。日本円にして約30億円以上の資産保有者が超富裕層に該当することになります。

超富裕層は、2016年のデータでは20万人程度と、世界の人口の約0.003%に過ぎません。特筆すべきは、人口では約0.003%ですが、保有資産の総額は世界全体のGDPの3割近くに達することです(Knight Frank“The Wealth Report 2017”)。

世界における超富裕層の分布を見てみると、2016年末では、北米地域が7.3万人、欧州が4.9万人、アジアが4.6万人となっています。

注目に値するのは、超富裕層の地理的所在です。

意外に思われるかもしれませんが、都市別では東京が第2位に位置しています。

すでに述べたように、日本では目立たないことを良しとする文化もあり、超富裕層の存在がこれまで注目されることはありませんでしたが、自然な結果かもしれません。

最近でこそ経済成長率が鈍化傾向にあるとはいえ、日本は依然、経済大国です。東京にはこれまで世界の経済をリードしてきた有数の企業が多く立地しています。

超富裕層に当てはまる所得水準の人々が多く存在しても全く不思議ではないのです。

国内で海外富裕層からの投資を想定してレジデンシャル不動産やリゾート物件を開発すると、想定以上に国内からの需要が多く、驚いたという声を聞くことがあります。

これは、これまで、国内に超富裕層向けの市場がなかったことを物語るエピソードかもしれません。

国内に投資に値する物件が存在しなかったために、海外資産に投資していた可能性を示しているといえるでしょう。

超富裕層の分布について、東京が第2位であることからもわかるように、現状では先進国がリードしています。

ただ、これから先はまったくわかりません。

不動産ビジネスを世界的に手がけるKnight Frank社が発行する“The Wealth Report 2017”によると、2026年の世界の超富裕層の分布推計では、北米の超富裕層の数が約3割増の9.5万人となる一方、アジアでは倍近くまで伸び、8.8万人になると予想されています。

北米とアジアがほぼ肩を並べることになるのです。

アジアの伸び率は高く、これまでの成長率を見ると、北米は年間30%程度伸びてきたのに対して、アジアは年間100%前後の伸び率、つまり2倍の成長率で推移しています。

原動力は若さです。

アジア各国では若年人口率が高く、今後も安定した人口増に伴う経済成長が見込まれます。国全体の成長に伴い、超富裕層も安定的に伸びていくのは確実でしょう。

たとえば、ベトナムでは今後10年で140%(2.4倍)の伸びが想定されます。

超富裕層について、いろいろ興味も湧いてくるのではないでしょうか。

次に、彼らの嗜好を見ていきましょう。

●超富裕層はどんな嗜好を持つか

超富裕層は資産が有り余っていることから、湯水のようにお金を使うと思っていませんか?実態はまったく違います。超富裕層の多くは資産管理会社を活用し、自分の資産の価値が損なわれないように、注意深く投資先を選んでいるのです。

とりわけ近年の国際情勢では、超富裕層は資産管理に以前よりも注意を払う必要性が増しています。

2001年の米国同時多発テロに代表される国際テロ組織の活動、2008年のリーマン・ブラザーズ破綻に伴う世界金融危機、EU内での格差拡大やシリア難民受け入れ等に伴う対立拡大、2016年の英国国民投票によるEU離脱決定......。

国際情勢は過去に比べるとその先行きの不透明感が高まっており、投資先を間違えると資産価値が急減することもあるのです。

国際情勢だけではありません。

グローバル化の中で富裕層と貧困層の格差が拡大している現状から、租税を回避する行動への社会的批判が高まっています。

2016年にリークされたパナマ文書は各国の政財界に衝撃を与えました。

政財界の要人が税金のかからないタックス・ヘイブンに資産を移し、課税を逃れていることが明るみになったからです。

タックス・ヘイブンにペーパーカンパニーを設立し、本来課税されるべき収益をそこへ不正に蓄財するような行為には厳しい目が向けられるようになりました。

余談ですが、日本でもベストセラーになった『21世紀の資本』を覚えていますか?

著者のトマ・ピケティ氏は、労働が収益を生む経済成長率よりも資本が資本を生む割合、資本収益率が高い状態が続いているため所得格差が拡大していることを指摘しています。

簡単にいうと、現代においては汗水垂らした労働が収益になり経済が拡大するよりも、資本が投資によって資本を生む方が早ければ貧富の差は拡大するということです。

彼はこうした現状を踏まえ、グローバル資産課税の強化などを提唱して、日本を含めて多くの国で反響を呼んだのです。

このように超富裕層を取り巻く環境も大きく変わる中で、彼らは投資先に何を求めるかといえば、第一に、資産価値が保全されることを優先課題としています。

資産が保全されるということは投資リスクの低い資産に投資するということです。

日本では一般的に「安全資産」と呼ばれます。代表的なのは預貯金でしょう。

日本ですと、とりあえずまとまったお金が手に入ると預金や貯金をする人が多いかもしれません。

しかし、世界的に見ると投資先として現預金・株式・債権などの占める割合は25%に過ぎません。これは、不動産(約40%)と比較するとかなり低い割合です。

超富裕層の投資対象資産としては、不動産(投資用)が最大の割合を占めています。

日本ではバブルの手痛い記憶もあり、不動産投資というと危ないものという認識が強いかもしれません。

なぜ、超富裕層は一見、リスクの高そうな不動産に資産を大きく振り分けているのでしょうか。この投資行動には、超富裕層の求める投資先のもう一つの側面と関係があります。

超富裕層が投資対象資産に求めるもう一つの特徴は、希少性です。

つまり、どれだけレアであるかです。モノの価値は需要と供給によって決まることから、希少性の高いものの価値は高くなります。

世の中には様々な商品、サービスが存在していますが、供給者は他の商品、サービスと差別化を図ることによって平均以上の利潤(超過利潤)を得ようとしていることは、経済学を学ばれた方はご存じだと思います。希少性の高いものは、差別化を図ることができるので、その価値を維持することができるのです。

それでは、希少価値の高いものとはどのようなものがあるでしょうか?

Knight Frank社の調査によると、取引がしやすい資産で超富裕層の投資対象として人気が高いものとして、ワイン、高級車、宝石、時計、絵画、陶磁器などがランクインしています。

これらはいずれもその生産量が極めて限られており、所有することによってステータス意識がもたらされるのが特徴です。その商品の機能的、美術的価値を超えて、希少価値の高いものを所有していることそれ自体に意味があるのです。

所有者に自分が特権的な地位にあるという意識を持たせることになるような品々です。ビンテージのロマネ・コンティであれば、それを飲むことにはあまり意味がありません。

年間数千本しか詰められないそれを入手することに時間と資金を費やし、入手後もその品質を落とさないよう、セキュリティも含めてきめ細やかな管理を行うことに価値があるのです。

このような商品は、サザビーズ、クリスティーズなど由緒のあるオークションで取引されることもありますが、公の場に出ず、相対で取引されることも少なくありません。

たとえ資金があったとしても、流通ルートにアクセスすること自体が困難なのです。

また、このような商品の特徴として、その所有者のコミュニティがあることが挙げられるでしょう。

有名なのは、高級車のオーナーイベントです。

フェラーリやランボルギーニのオーナーたちが一堂に会してツアーを行うイベントをテレビなどで見たことがある人もいるでしょう。参加者はドライブの爽快感を味わうことには重きを置いていません。

オーナー同士の交流を図るとともに、社会に対して自分が高級車のオーナであることをアピールし、存在感を高めることを目的としています。

それでは、不動産は、ワインや高級車、宝石、絵画に並ぶのでしょうか。

不動産はどこにでもありますし、多くの人が手に入れることのできる資産です。ワインや宝石などと不動産が異なる点とは何でしょうか。最大の特徴は同じものは二つとして存在しないことです。

似たような物件でも、同じ場所がこの世には存在しないことから、同一の物件は決してないのです。この特徴が、不動産をワインや宝石のように、超富裕層の投資の対象として成立させています。

秋元司(あきもと・つかさ)
KIWAMIプロジェクト研究会代表、衆議院議員。2004年参議院選挙に初当選。第1次安倍・福田内閣で防衛大臣政務官に就任。2012年衆議院議員1期目当選、現在3期目となる。第3次安倍内閣では、国土交通副大臣兼内閣府副大臣兼復興副大臣を務める。