過呼吸に苦しんだエリートはどう立ち直ったのか?

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(画像=The 21 online)

ある日突然「過呼吸」の発作が起き、倒れてしまう……。そんなビジネスマンが増えているという。しかも、それは普段「エリート」と呼ばれる人に多い。その背景には、増え続けるメンタルの問題があった。自身もかつて過呼吸に苦しめられた中島輝氏が、誰もが直面する可能性のある過呼吸の症状とその対処法を説く。

日曜の夜、それは突然襲ってきた

Aさんは都内の大手企業に勤める30代の営業マン。社内の業績もよく、将来を嘱望されていました。ところが社内の人間関係に悩み、徐々に心身の不調を訴えるようになりました。私がカウンセリングを担当するようになってまもなく、日曜日の夜に突然、携帯電話が鳴り、助けを求めるAさんの声が聞こえてきたのです。

過呼吸の発作でした。私の家からAさんの自宅までは車で10分ほど。玄関のカギを開けておくよう伝えてすぐに駆け付けると、Aさんは白目をむいて全身を引きつらせ、床に倒れていました。

Aさんに呼びかけると、すぐに意識は取り戻したものの、発作はすぐには収まりません。持参した使い捨てカイロで冷えた体を温め、背中をさするなどして、1時間ほどでようやく落ち着きを取り戻すことができました。

しかし、Aさんの発作はこれ一度では治まりませんでした。1週間後にも再び発作を起こし、救急車で運ばれることになってしまったのです。

私自身も経験があるのですが、過呼吸はまた発作が起こるのではないかと不安になるほど、再発しがちなもの。しかも、発作が起きようとするときに我慢しようとすればするほど、症状が悪化しやすいものなのです。

過呼吸発作はメンタルが弱いから起こるのではない

過呼吸の発作を起こしてしまった人が最初に考えるのは、おそらく「自分はこんなにメンタルが弱いんだ」ということではないでしょうか。むしろ、メンタルが強いと自負してきた人も少なくないでしょう。それまではバリバリに仕事をしてきた人が多いのが、過呼吸を起こす人の特徴です。それなのにある日突然、ストレスが原因と見られる発作を起こしてしまった。Aさんもショックだったと思いますが、過呼吸を起こす人は多かれ少なかれ、そうした傾向が見受けられます。

ではAさんは、本当はメンタルの弱い人だったのでしょうか。実は、過呼吸に苦しむ人の多くは、むしろメンタルが強い人といっていいのです。責任感が強く、問題が起きても堂々と立ち向かっていこうとする、仕事でも勉強でも、物事をやり切るだけの力がある――そんな人ほど、ちょっとしたきっかけで陥ってしまいやすいのです。

こうした人たちのことを、私は「逆メンタルが強い人」と言っています。強すぎるがゆえに、無理をして限界を超えたところまで踏ん張ってしまう。そのことに気づかないでいると、身体が反応して過呼吸発作を引き起こしてしまうのです。むしろ、「自分はとても強いメンタルの持ち主なのだ」と視座を変え、そこに生存を見出していくことが必要になるのです。

いつもと違うことをやりはじめたら危険?

実はこうした過呼吸の発作が起こる以前に、何らかの前兆が現れていたはずです。たとえば、腰痛や動悸などの身体的な症状もあったに違いありません。でも、仕事ができる人ほど、ただの疲労だと判断してしまいやすく、本来は休むべきところで逆にアクセルを踏み込んでしまいやすいもの。Aさんもそうやって不安要素を心の底に押し込み、仕事に没頭してきたということでした。

さらにそうした体調の変化とは別に、日常生活にちょっとした前兆が見られることもあります。たとえば、なんだかやたらと甘いものが欲しくなるとか、お酒を飲む回数がいつの間にか増えているとか、通常のルーティンから外れた行動をとりたくなったとしたら、ちょっとした危険信号かもしれません。そうした些細な前兆に気づき、症状が進まないうちに身体と心を休めることが、過呼吸を予防する一番の方法だと思います。

発作が来たら「倒れてもいい」と考えよう

そうした心身が示す前兆を見落としていると、限界を超えたとたんに突如、症状が噴き出してしまいます。仕事が原因となる過呼吸の発作が起こるのは、Aさんのケースのような日曜日や、会社に出勤する前が多いと言われます。

私自身もかつては過呼吸に悩まされていましたが、もっとも頻繁に起きていたのは実家の借金を背負うことになった25~28歳のころ。とくに借金の取り立てが来る月末が近づくと、発作が激しく表れるようになっていました。

そうした経験をもとに、発作が起きそうなときに私がやっていたのは、「我慢するのをやめること」でした。息が苦しくなって倒れそうだと思うと、なんとか堪えようと頑張ってしまいがちなのですが、実はこれが逆効果。むしろ「いいや、もう倒れちゃえ」と思ったほうが、症状が軽くすむことが多いのです。

「飴やガム」を持ち歩くのもいい

そしてもう一つの方法が、来そうだなと思ったときに気を紛らわせることでした。私の場合、いつでもすぐに飴を取り出して舐められるようにしていました。そうすることでドーパミンが分泌されて気持ちを落ち着かせることができるのです。飴以外でも、ガムやメントスなどでもかまいません。また、裂きイカも意外と効果があります。簡単に噛み切れないので、一生懸命噛むことに集中していると、気持ちを紛らわせることができるのです。もしも過呼吸の発作に悩んでいる人がいたら、この方法は一度試してみるといいかもしれません。

また、いまならスマホも便利なツールです。自分の好みの画像や音楽を保存しておけるので、いざというときはそれを見たり聴いたりして気持ちを落ち着かせることができるのです。自分にとって「快」の感情を引き起こすもの、例えば愛する家族の写真をいつでも眺められるようにするだけでも、効果はあります。

回復のための4ステップとは?

それでも一度、発作を起こしてしまうと、なかなか回復しないこともあります。「こんなことでは社会復帰できなくなってしまう」と思い悩んでしまう方も、少なくはありません。でも、あまり心配する必要はありません。私自身も長く苦しんでいた状態から無事、回復することができました。その経験をもとに、過呼吸から回復するための4つのステップを説明しましょう。

まず最初のステップは、「自己認識」。自分自身のいまの状況をしっかりと可視化し、把握することが求められます。可視化とは、自分がいまさらされているストレスや不安を、10段階のうちどのレベルか数値化すること。そうすることで、過呼吸になってしまった事実を拒否するのではなく、肯定しやすくなります。

そして二番目のステップは「自己受容」。先ほど書いたように、過呼吸に陥ってしまう人というのは「やり遂げる力」がありすぎる人なのです。でも、発作を起こしたことで自分を否定してしまう人が少なくありません。だからこそ、「自分自身にはやり遂げる力がありすぎたためにこうなったんだ」と認め、「だからいまは休んでいてかまわない」という方向に思考を向けることが重要になってきます。そうやって割り切ることで、この二つ目のステップはうまくいくようになります。

子どものころに立ち返ってハッピーの素を探そう

次なる第三のステップが「自己成長」です。ここでの目的は、自分なりのリラックスする方法を手に入れること。子どものころや学生時代に好きだったスポーツや趣味、レジャーなど思い出して立ち返るのがいいでしょう。川遊びが好きなら川へ、海に行きたいなら海へ行くのもいいでしょう。すべてを自分に許してしまうことです。ぼーっと何もしなくてもかまいません。音楽を聴いてもいいし、お笑い番組やスポーツ中継などを見るのもいいでしょう。視覚や聴覚などの外部環境も上手に利用して、いったん心を無にすることが重要です。

仕事で無理をして心を病んでしまう人は、たいてい論理思考、つまりThinkの部分が強いのです。でもここでは自分の感情、Feelを表に出すことが肝心になってきます。この二つの側面をうまく使い分けることが心の状態を平穏に保つために必要なのですが、現代の多くの人が、ついついThinkの側面ばかりを使ってしまいがちなのです。

だから、何をしているときが一番ハッピーになれるか、何が自分にとって「快」の感情を呼び起こすのかを、自分自身に質問してみてください。そうした心のマネジメントこそが、自己成長を促すことになるのです。こうした「快」の感情探しこそが、メンタルマネジメントそのものなのです。

「人に身を任せる」ことも覚えよう

そうやってリラックスしてメンタルを整えることができるようになったら、最後のステップ=「貢献」に移ります。ここでは目標の再設定を行います。「目標」といってもあまり固く考える必要はありません。自分自身がワクワクできることを目指して、この先の展望を描いていけばいいのです。

ここで注意したいのは、描いた目標に対し、自分に足りないものがあったとしても、それを自力で埋めようとしないこと。自分に足りないものなら誰かに頼ってもいい、わからないことは人に聞いていいのです。そうやって、人に身を任せられるように意識を向けることが最後のステップです。それができるようになったとき、過呼吸発作の不安からも回復することができるはずです。

エリートだからこそ、回復も早い

私の経験から言って、ここまでのステップに通常は9~12カ月ほどを要します。ただし、Aさんは半年ほどで回復することができました。実はエリートの人ほど回復するまでの時間が短くて済むのです。それは、もともと「やり切る力」を持っているから。その使い方さえ身に付けてしまえば、回復する力も十分に備えているということなのでしょう。

何度も言いますが、心が不調をきたしたからといって自分を責める必要はありません。誰にでも限界はあるもの。なるべく早い段階で気づいてメンタルマネジメントができれば、それだけ早く回復することができるのです。

だから、自分自身の普段の行動にも注意を払い、前兆らしきものが現れたら、我慢なんかしないでしっかり心をフラットにするようにして、マネジメントを行ってください。我慢しないことを覚えるだけで、心はずっと楽になるはずですから。(『The 21 online』2018年03月04日 公開)

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