世界経済で不透明感が強まっています。米国と中国などとの貿易摩擦問題が激しくなっていることに加え、資金流出で大きく下落する新興国通貨も増え、足元では「トルコ・ショック」が市場を襲いました。一方、国内では2018年4~6月期の決算発表が終り、3月決算企業の純利益は前年同期比28%増(東芝のメモリー事業売却を除くと14%増)となりました。2019年3月期は微増益となる見込みです。世界経済への不透明感から、業績予想の修正を据え置いている企業が多いようです。
こうした中、日経平均株価は波乱含みの動きとなっています。23,000円前後で「トリプルトップ」を形成した後、足元では22,000円を割り込む場面も出てきています。結果的に、決算発表開始直前の7/10(火)から8/15(水)まで、日経平均株価の騰落率はほぼ「横ばい」という形になりました。
もっとも相場が波乱含みになっているため、通常の相場であれば株価が上昇している可能性が大きい好業績株の上値が抑えられている可能性があります。そこで今回の「日本株投資戦略」では、決算発表シーズン中に株価が下がっているものの、業績を考慮すれば買い場になっている可能性が大きいとみられる銘柄を抽出すべく、スクリーニングを行ってみました。
「株価波乱」で逆張り投資を考えたい「好決算」銘柄はコレ!?
それではさっそく、決算発表シーズン中に株価が下落しているものの、業績を考慮すれば買い場になっている可能性が大きいとみられる銘柄を抽出すべく、以下のスクリーニングを行ってみました。(1)~(7)の全条件を満たす銘柄について、株価下落率の大きい順に並べたものが表1となります。
(1)東証1部上場の3月決算銘柄(広義の金融は除く)であること
(2)時価総額1千億円超の銘柄であること
(3)2018年4~6月期の営業利益が黒字で前年同期比増益であり、その増益率が通期会社予想営業増益率より高いこと
(4)今期の市場予想営業増益率が会社予想営業増益率より高く、下方修正されていないこと
(5)今期予想EPSが2名以上のアナリストにより予想され、黒字であり、過去4週間で上昇していること
(6)来期予想利益(市場予想)が10%超の増益予想であること
(7)決算発表シーズン(7/10~8/15)の株価下落率が5%超に達していること
このスクリーニングで重要とみられる条件は(3)です。抽出された銘柄がこの条件を満たしていることで、会社予想営業利益が近い将来、上方修正されるような「好決算」銘柄であると考えることができます。また、(4)~(6)の条件も満たしているので、アナリストの評価も高めであると考えることができます。
なお、通期や第2四半期累計(中間期)の業績予想では、会社予想数値がヒントになりますが、第1四半期の会社予想数値を公表している企業は少なくなっています。したがって、その分、第1四半期のアナリストによる業績予想もブレやすくなると考えられます。
第1四半期の決算発表後に株価が下落する銘柄が散見されますが、業績(実績)がアナリスト予想を下回ったことが理由にされることも多いようです。しかし、上記したように第1四半期のアナリストによる業績予想はブレやすくなる面があるので、それを下回った実績になったことを、悲観すべきではないこともあると考えられます。そのため、上記のスクーリーニングでは、第1四半期の営業利益と同四半期の市場予想を比較する項目は入れておりません。
表1:「株価波乱」で逆張り投資を考えたい「好決算」銘柄はコレ!?
コード / 銘柄名 / 株価(8/15) / 騰落率(7/10~) / Q1営業増益率 / 今期予想営業増益率
<6976> / 太陽誘電 / 2,907 / -16.0% / 75.3% / 21.2%
<4922> / コーセー / 19,610 / -12.8% / 37.3% / 15.7%
<6055> / ジャパンマテリアル / 1,417 / -12.4% / 59.8% / 8.8%
<7211> / 三菱自動車工業 / 798 / -9.3% / 36.3% / 12.0%
<6762> / TDK / 10,830 / -9.0% / 53.1% / 11.5%
<2222> / 寿スピリッツ / 4,950 / -5.9% / 55.1% / 15.7%
<7012> / 川崎重工業 / 3,055 / -5.1% / 44.6% / 34.1%
※Bloombergデータおよび会社公表データを用いてSBI証券が作成。「Q1営業増益率」は2018年4~6月期営業利益の前年同期比増減率。「今期予想営業増益率」は2019年3月期の通期会社予想営業増益率。
抽出された銘柄の投資ポイントは?
太陽誘電 <6976> については、電気を蓄える部材「積層セラミックコンデンサー(MLCC)」の需要拡大期待が続いています。最大手の村田製作所が価格是正(値上げ)を進めており、当社も追従する可能性が大きそうです。市場コンセンサスでは、営業利益が今期39%増、来期38%増と高い伸びが期待されています。
株価(図1)は本年3月1,660円を底値に約4ヵ月で2,000円超上昇し年初来高値3,695円(7/25)を示現、その後は、8/13(月)安値2,807円まで約24%下落しました。3分の1押しは達成した形になっています。
※図1は高値を付けた週の初日として「2018/7/23」が表示されています。当社の他の週足チャートも同様です。
TDK <6762> もコンデンサーの大手ですが、車載向けの市場シェアが約4割と高いのが特徴です。市場コンセンサスでは、営業利益が今期34%増、来期23%増と、こちらも高い伸びが期待されています。株価は年初来高値12,090円(8/1)から8/16(木)の安値10,560円まで12.7%の下落となりました。
ちなみに、太陽誘電やTDKの他に、「コンデンサー」の類似企業を探したいと考える投資家の方もいらっしゃるかもしれません。その場合、SBI証券WEBサイトで、銘柄検索ウィンドウに「コンデンサー」と入力すると、類似企業が表示されます。ぜひ、一度お試しください。
コーセー <4922> は化粧品専業で、インバウンド関連株の一角を占めています。上海の百貨店などで当社の高級化粧品の売上高が増えるなど海外事業も成長しつつあります。2019年3月期の予想営業利益について、会社側は520億円から560億円(前期比15.7%増)に上方修正するなど、業績は好調です。
8/15(水)に日本政府観光局(JNTO)から発表された訪日外国人の増加率(前年同月比)が6月の+15.3%から7月は+5.6%と鈍化し、8/16(木)の東京株式市場では、インバウンド関連株の多くが売り込まれました。当社の株価(図2)もこの日、17,040円の年初来安値を示現し、6/18(月)の年初来高値26,340円からの下落率は35.3%に達しました。
ただ、訪日外客数の伸び悩みについては、大阪北部を中心とする地震(6/18)の影響も指摘され「一時的」との見方もあるようです。
なお、SBI証券の銘柄検索ウィンドウで「インバウンド」と入力すると、かなり多くの銘柄が表示されます。
ジャパンマテリアル <6055> は半導体製造向けガス供給装置等を製造しており、東芝メモリ他が主要取引先とみられます。8/9(木)に発表された2018年4~6月期の営業利益は前年同期比で6割近い増益となりましたが、NAND型フラッシュメモリ市場の好調が要因としてあげられています。
株価(図3)は6/19(火)の年初来高値1,867円から8/16(木)の安値1,350円まで27.7%下落しました。ほぼ52週移動平均線に接触した形になっています。
三菱自動車工業 <7211> は2018年4~6月期の営業利益が前年同期比36.3%増で、今期予想営業利益も前期比12.0%増と好調持続の見通しです。ただ、自動車株全般に米トランプ大統領の自動車輸入関税が懸念材料となっており、当社株の投資判断にとっても、その見極めは重要と考えられます。
寿スピリッツ <2222> は2018年4~6月期に過去最高の売上高、経常利益を記録するなど、業績拡大が続いています。ただ、重点施策のひとつである「海外売上高」が減少しており、課題は残っているようです。株価(図4)はインバウンド関連銘柄全般の不振もあり、8/17(金)に年初来安値更新の動きになっています。2017年7月の高値近辺と104週(約2年)移動平均線近辺が下値支持線になってきそうです。
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部
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