(本記事は、長尾義弘氏の著書『最新版 保険はこの5つから選びなさい』河出書房新社、2018年7月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

「がん保険」はどこまで必要か?

保険はこの5つから選びなさい
(画像=Thaiview/Shutterstock.com)

男性は2人に1人、女性は3人に1人の割合で「がん」になるといわれています。

でも、これは生涯での数字です。

現在、40歳の男性が60歳になるまでの20年間に、がんになる確率は7%です。

罹患率がグッと上昇してくるのは60歳以上から。若い人ががんになる確率は、ひじょうに低いのです。

とはいえ、0%ではありません。若いうちは亡くなったときのリスクも大きいですから、心配になるでしょう。

保険のなかには、がんに特化した「がん保険」という商品があります。がんになったときには、手厚い保障が受けられる内容になっています。

ほかの病気と比べて、がんは費用が高い(健康保険が適用されない)治療も存在します。

ただ、健康保険での診療であれば、がんだけ突出して医療費がかかるということはないのです。

まずは、がんとはどういう病気なのかを理解していただきたいと思います。

がんとひとくくりにしていますが、実際は「悪性新生物」と「上皮内新生物」の2種類にわけられます。

組織の基底膜を越えたがんを悪性新生物、越えていないがんを上皮(粘膜層)内新生物と呼びます。

おおまかにいうと、がんが奥深くまで浸潤しているか、比較的浅い場所にとどまっているかの違いです。

両者は、治療や保険の扱い方が大きく異なってきます。

まず、上皮内新生物はこの段階で治療すれば、基本的には完治します。いわゆる初期がんで、進行がんとは区別されます。

上皮内新生物をがんと呼ばない医者もいますが、保険の扱い方は各社によって違いがあります。

悪性新生物と同じ給付金が出る場合もあれば、減額される場合もあります。また、まったく給付金が出ない場合もあります。

がんと診断されたのに、給付金が出ないのか......とガックリしないでください。さしあたって命の危険がないうえに、治療費もそれほどかからないのですから。

いっぽう、命にかかわる悪性新生物は、抗がん剤など高額な治療になることがあります。では、どのくらい治療費がかかるかというと、通常の医療費と変わりません。

なぜなら、高額療養費制度があるからです。通常の所得ならば、月に9万円ぐらいになっています。

CMやパンフレットに「重粒子線治療や陽子線治療では300万円かかる」などと謳われているせいで、がんの医療費は高いというイメージがあるかもしれません。

ですが、これは公的健康保険がきかない先進医療。特別なケースだと考えてください。

また、入院が長いと思っている人が多いようですが、がんでの平均入院日数は18.7日なのです(平成26年のデータ)。

まったく入院しないで、抗がん剤治療だけというケースも増えてきました。医療の発達とともに、入院日数がどんどん短くなっています。

がんだけが特別に高い医療費を払うということはありません。通常の医療費と同じなのです。

がんの場合、治療のために仕事を休んだり、退職する場合があります。その際には、ある程度の生活費が必要になってきます。がん保険も、そういった状況を考えて変わってきています。

以前のがん保険は、入院・手術の給付金が中心だったのですが、いまでは、「がん診断一時金」を中心にした商品に人気があります。

がん診断一時金は、生活費の補助など何にでも使えるので安心です。

「先進医療特約」が格安なわけ

先進医療特約は、月々の保険料が100~200円ととても安いにもかかわらず、1000万~2000万円ぐらいの保障がついています。

重粒子線治療は約300万円、陽子線治療は約270万円の費用がかかりますから、かなりお得な特約ですね。

それも当然の話で、先進医療を受けられる機会はひじょうに少ないからです。

重粒子線治療を受けられる施設は全国で6ヵ所、年間の実施件数は1787件。

陽子線治療を受けられる施設は全国で14ヵ所、年間の実施件数2016件(いずれも平成28年のデータ)です。この治療は広範囲ではなく、動かない「がん」(限局性固形がん)に対して効果があるとされていますが、白血病のような血液のがんには使えません。

また、必ずしも先進医療機関を紹介してくれるわけではありません。多くのがんの場合、外科の医師が担当します。

重粒子線治療や陽子線治療は放射線科の担当で、分野がぜんぜん違うのです。

がんの「自由診療」に備える保険がある

先進医療以外にも健康保険(公的保険)が適用されない治療があります。それが自由診療です。

自由診療を選択した場合、健康保険との混合診療は認められていません。ですから、公的な健康保険も使えなくなって、すべて自費での診療になってしまいます。

いっぽう、先進医療に認定された91種類の技術(2018年現在)は、混合診療でも健康保険が使えるようになっています。

がんに有効な先進医療は、粒子線治療、S-1内服投与の併用療法などいくつもあります。しかし、本気でがんと闘おうと思ったときには、まだ選択肢がすくないのが実状です。

現在、健康保険が適用されている治療法以外にも有効だとされている治療法があります。たとえば、免疫療法や内視鏡手術支援ロボット(ダビンチ)などの治療法です。

また、国内では認められていなくても、欧米では認められている薬剤がありますし、また、国内でも認められているものの対象外の疾病の場合は、保険が適用されない薬剤などがあります。

ただ、そういった適用外の治療をおこなうと、健康保険の部分も自己負担になってしまいます。

そうすると、ひと月に100万円以上かかる可能性も否定できません。

あまりに負担が大きすぎて、治療を諦めてしまう人もいるでしょう。

でも、こういう自由診療をフォローしてくれる保険も存在するのです。

SBI損保の「がん保険自由診療タイプ」と、セコム損保の「自由診療保険メディコム」です。

積極的にがんに立ち向かいたい人に向いていると思います。

治療以外に使える「がん診断一時金」とは

がんの治療費はほかの病気と同程度ですが、治療に専念するために仕事を長期にわたり休むこともあるでしょう。

あるいは、精神的なケアが必要になるかもしれません。

すると、生活費や治療費が不安になってきますよね。そこで、がん保険には、「がん診断一時金」という保障があります。

がんと診断されると、一時金が出るのです。契約条件によりますが、100万円の場合が多いようです。

このお金は、治療以外にも使うことができます。お金のことを心配しなくてもよくなれば、安心して治療にも専念できるでしょう。

もっとも、それなりの蓄えがある人は、診断一時金は必要はありません。蓄えで、がんのリスクを保有することができると思います。

でも、自由診療分までの貯蓄は、かなり難しいのではないでしょうか。そのぶんは、自由診療に対応した保険でリスクの転換を考えてもいいと思います。

保険はこの5つから選びなさい
長尾義弘(NagaoYoshihiro)
ファイナンシャルプランナー、AFP。お金のしくみ、保険のカラクリについての得する情報を発信している辛口の保険評論家。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。いくつかの出版社の編集部を経て、1997年に「NEO企画」を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生みだす。著書には『かんたん!書き込み式保険払いすぎ見直しBOOK』『お金に困らなくなる黄金の法則』『コワ~い保険の話』『保険ぎらいは本当は正しい』が、監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』などがある。