組織コンサルによるビジネスマン8分類
組織コンサルタントとして、約30年にわたり大小の企業組織を見てきた秋山進氏。その中で、出世できる人・できない人、「仕事ができる」と言われる人・「パッとしない」と言われる人など、さまざまなビジネスパーソンを観察してきた。そして、働く人を8つのタイプに分類できることに気が付いた。その分類とタイプごとの得意不得意や相性をまとめたのが『職場の「やりづらい人」を動かす技術』(KADOKAWA)だが、そこには10年後に生き残れる人のヒントが隠されているという。
職場には8タイプのビジネスパーソンがいる
あなたの職場にこんな人はいないだろうか?
・自分の専門分野にはとても詳しく、頼もしいけれど、専門外となるといまひとつな人。
・目の前の課題を解決し、ゴールに向かってひた走るのは得意だけれど、大きなビジョンを語るような場では無口な人。
・「我々はこうあるべきだ」と、あるべき姿を描き語る力があるが、実務に落として実現するのは人任せな人。
自分自身があてはまる人もいれば、同僚の顔が浮かんだ人もいるだろう。
たくさんの人が集まり働く場には、必ずいろんなタイプがいる。
そして往々にして、人は自分と違うタイプ、合わないタイプの人を「アイツはデキない」と批判している。これは、どんな優良企業であっても見られる光景だ。
私は、組織コンサルタントとして多くの会社で経営陣から現場の社員まで観察する機会に恵まれてきたが、結論から言うと、基本的な人の能力自体にはそこまで大きな差はなく、人が人に下している評価もアテにならない、と考えている。なぜなら、「デキる・デキない論」の根底には、たいていどこかに「好き嫌い」が入り込んでいるからだ。
別の部署に移ったとたんダメになる人や、上司が替わっただけでものすごく伸びるチームがあるのもうなずける。
しかし、「好き・嫌い」「合う・合わない」を完全に排除して仕事をするのは、実質的に不可能だ。そこで、自分と違うタイプの人とでも「無駄に悩まずうまくやり、協働して成果を出す」ために、組織コンサルタントとしてできることはないかと考え、長年かけてまとめたのが「ビジネスパーソンの8分類」である。8つのタイプは下記のとおりだ。
1.想像力ゆたかな小説家
2.創意工夫の技能者
3.現実を見抜く観察者
4.頼りになる実務家
5.時代を感じる評論家
6.未来を創る革新者
7.正しさを求めるコンサルタント
8.実現を目指す政治家
冒頭の事例でいえば、「自分の専門分野にはとても詳しく頼もしいけれど、専門外となるといまひとつな人」は、「小説家」タイプや「実務家」タイプの可能性がある。
「目の前の課題を解決し、ゴールに向かってひた走るのは得意だけれど、大きなビジョンを語るような場では無口な人」は「技能者」タイプや「観察者」タイプかもしれない。
「『我々はこうあるべきだ』と、あるべき姿を描き語る力があるが、実務に落として実現するのは人任せな人」は、「コンサルタント」タイプや「評論家」タイプにありえる特徴だ。
自分と相手の「得意・不得意」を把握しているか?
8タイプの分類は、3つの軸からなっている。
視点のもち方(何を見るか)
・ミクロ視点=身の回りの小さな世界における、人・関係・プロセスなどに興味をもつ。
・マクロ視点=大きな世界における、仕組み・機能・バランスなどに興味をもつ。
思考のパターン(どう考えるか)
・直観意味的思考=物事を自分なりの世界観で認識して解釈する。そして、物事に独自に意味づけをしたり、理由を見つけようとする。
・事実論理的思考=事実と論理を重視し、理論的・定量的・統計的な視点から、物事の科学的な法則性を見つけようとする。
行動の重点(どう動くか)
・WHAT重点=「どうあるべきか、何を成すべきか、それはなぜかを明確にする」ことに重点的に取り組む。
・HOW重点=「どのように具体化するか、実際にどう現実化するか」に重点的に取り組む。
ある人は、①視点の持ち方 は「ミクロ視点」が強く、②思考のパターン は「事実論理的思考」が強く、 ③行動の重点 は「WHAT重点」が強いという結果になる。
その結果、3つの軸の結果の組み合わせ(2×2×2)によって分類したのが8タイプとなる。簡単に特徴を説明しておこう。
1.想像力ゆたかな小説家(ミクロ×直観意味×WHAT) 直観に優れ、ユニークなアイデアを出せる。ただし、実行が苦手。
2.創意工夫の技能者(ミクロ×直観意味×HOW) 課題解決はお任せ! でも、興味のないことは頑張れない。
3.現実を見抜く観察者 (ミクロ×事実論理×WHAT) アイデアや仮説を検証するプロ。しかし、感性的なことは理解が弱い……。
4.頼りになる実務家 (ミクロ×事実論理×HOW) PDCAサイクルの神。一方、未知なことや未来への挑戦は苦手。
5.時代を感じる評論家 (マクロ×直観意味×WHAT)視野が広く物知りだが、知見を実務に落とせない。
6.未来を創る革新者 (マクロ×直観意味×HOW) 変化に敏感で先駆者の素質あり。でも、裏付けが甘い。
7.正しさを求めるコンサルタント (マクロ×事実論理×WHAT)なんでもロジカルに分析・説明できるが、データがないと動けない。
8.実現を目指す政治家 (マクロ×事実論理×HOW) ビジネスの方向性をビシッと決める。ただ、実務に弱く的外れなデータに振り回されがち。
自分や苦手なあの人がどのタイプか、少しは見当がついただろうか。
どのタイプに当てはまるかの診断方法はここでは割愛するが、30の質問に答えると自分のタイプがわかる仕組みになっている(詳しくは拙著『職場の「やりづらい人」を動かす技術』参照)。
10年後も活躍できる人・危ない人
さて上記の8分類だが、そのうちの特定のタイプが将来有望で、あるタイプが10年後に厳しくなるといったものではない。どのタイプであっても十分に活躍できるともいえるし、没落する可能性があるともいえる。
実は、一番大事なのは、自分の特質を把握したうえで、別のタイプの人とも仕事を上手に進めていくことのできる「協働の能力」をもてるかどうかなのである。
10年後というと、ビジネス活動はさらにグローバル化し、職場も今まで以上に多国籍になって、ダイバーシティのレベルは各段に上がっているだろう。「ダイバーシティ&インクルージョン」などというとカッコよく聞こえるが、実際問題、バックグラウンドの違う人をまとめて組織的活動を実現するというのは大変なことである。
一方、爆発的なデータの蓄積とそこからの推論により、定型的な情報処理活動のかなりの部分はAIによって代行され、単機能で局所的な「専門家」と呼ばれる人の生き字引的な仕事はAIによる代替が進んでいることが想定される。あわせて多量の情報の解釈においては人間の直観的な洞察力の重要性も再認識されるだろう。実務家タイプやコンサルタントタイプは、通り一遍ないつものデータ解釈に陥っていないか特に気を付けておきたいところだ。
これらのことから予測されるのはまず、進む多様性によって人と人の協働の難易度が上がる+分野が限定されていて常に同じようなアウトプットが求められる業務は衰退するということ。かわりに、「高速で変化を続ける状況での創造的活動を、多様な人と組んで協働する能力」が重要視される、であろうということだ。
このように、可変性の高い環境のなかで創造的な協働活動を実現するには、さきほどの3軸を使うと、下記のような能力が必要になる。
視点のもち方:目の前の事象を個別具体的に見るだけではなく、世界や技術のトレンドから自分たちを見ていく視点が必要になる。逆に、目の前の事象のなかに、時代を変えるような兆候を見つけ、それを広げて考えるようなことも必要になろう。すなわち、ミクロからマクロへ、マクロからミクロへと自由自在に視点を移動させる力が重要になる。
思考のパターン:法則やデータをもとに演繹的に、または帰納的に考える事実論理的な思考を重視し、現象の解釈に普遍性や再現性を持たせるだけでなく、個々人のもつ直観や感覚などに由来して、そこに新しい意味を見つける直観意味的な思考の両方を自在に使える能力も必要となろう。
行動の重点:物事を創造するために、我々はここで何をすべきか(WHAT)を決めるとともに、どう実現するか(HOW)の両方をしっかりと進める事ことにおいて卓越した能力も求められるだろう。
すなわち、異なる視点、異なる思考、異なる行動を把握し、組み合わせて創造的活動を行っていくことが求められるのである(ここでハードルが高いと思われた方もいるかもしれないが、別の対応策もあるのでもう少しお付き合いいただきたい)。
さらには、組織全体としてはいろいろな要素(ユニークな人たち)を確保すること、そして、それらの要素を組み合わせて統合できるリーダーの存在も必要となる。
このとき、リーダーとなる存在は、上記のような多様な要素(人)を把握していること、具体的には、チームの誰がどのような要素を持っているかを知っていて、それらの組み合わせの妙を知っており、さらには利用方法(どうすると活躍するか)を熟知していることが必要である。そのためリーダーは、上記の要素のすべてを一定以上の高さで保有している「ハイブリッド」タイプであることが求められる。このようなリーダーが存在していれば、組織的な創造活動の実現可能性は飛躍的に上がる。
だから、「苦手な人」と組みなさい
したがって、10年後、どんな人が重宝されるかといえば、①ミクロ―マクロ、事実論理―直観意味、WHAT-HOWのどこかの領域において抜きんでて優秀であり、かつ他者と上手に協働できる人か、②ミクロ―マクロ、事実論理―直観意味、WHAT-HOWのすべてが「一定以上」で、人の特質を見抜いて組織的統合をリードできるハイブリッドタイプか、であると思う。
誰もが②になれると良いと思うが、実際人には得手不得手があるし、②を目指すことで、その人の持つユニークさがなくなる可能性もある。そこで①のほうに親和性がある人は、徹底的にミクロの事象だけにこだわったり、直観から意味を生み出すことを意識して鍛えたり、会社で一番のHOWの権化になる、などしながら、他のタイプの力を巧みに借りて協働しようとするのが良い。自分は得意なことに集中しつつ、自分の弱いものは人に助けを求めるのだ。
そしてそのときには、あなたがこれまで「アイツは使えない」「やることなすこと意味不明」と思っていた「あの人」こそ、あなたの欠点を補う救世主となりえるのである。救世主は大げさだとしても、苦手なあの人の視点や思考を借りることで、あなた1人では出せなかった成果を出せる可能性が上がる。時代の変化も軽々と乗り越えていける。
そのために、まずは苦手なタイプと仕事をする機会をあえて増やし、相手と自分の「視野」「思考」「行動」の癖を把握し、その良さを引き出す訓練を今からしておくとよい。自分と相手の強み弱みを知ることこそが、未来を生き抜く力となる。新著では、どうやって自分のタイプを知り、どうやって他のタイプと組めばよいかを記した。参考にしていただければ幸いである。
秋山 進(あきやま・すすむ)
プリンシプル・コンサルティング・グループ代表
1963 年奈良県生まれ。京都大学経済学部卒業後、リクルートに入社し事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして活躍。現在は、経営リスク診断をベースに、組織構造設計などのプロフェッショナルが集まるプリンシプル・コンサルティング・グループを主宰し、代表取締役を務める。著書に『社長が“将来”役員にしたい人』(日本能率協会マネジメントセンター)、『「一体感」が会社を潰す』(PHP 研究所)などがある。(『The 21 online』2018年04月03日 公開)
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