「自律神経」がすべてのカギを握る!
生きていくうえでストレスはつきもの。とくに読者世代のビジネスマンにとっては、仕事にも家庭にもプレッシャーが多い。ストレスマネジメントというと、ストレスをなるべく軽くすることを想像するかもしれないが、自律神経の専門家である医師の小林弘幸氏は、「ストレスは悪いものばかりではない」と話す。詳しくうかがった。(取材・構成=林加愛、写真撮影=永井浩)
ストレスは放っておくと増幅する!?
「ストレスはなくすべきもの」と考える人は多いでしょう。しかし、ストレスをすべて悪者と決めつけるのは間違いです。
人が生きていく上で、適度なストレスはむしろ必要です。大事な職務を果たす緊張感、課題への挑戦や試行錯誤といったものは、言わば「良いストレス」。この種のストレスのおかげで、人は向上心や発想力や創造性を持つことができます。その課題を超えることができたとき、ストレス耐性もさらに高くなるでしょう。
しかし、実際のところ、本来対処できるはずのストレスを無駄に増幅させている人も、少なからずいます。
「わけもなくイライラする」「なんとなく落ち込む」など、原因がわからないままモヤモヤしている人は要注意。ストレスは、放置すると増大するという性質を持ちます。何にイライラしているのかを明確にせず抱え込むうち、気持ちはどんどんネガティブになり、集中力や仕事の精度も落ちるでしょう。
ですから、ストレスが発生したらすぐに原因を割り出し、対処すべきです。それも「消そうとする」のではなく、あくまで「上手につきあう」スタンスが大切。つまり、ストレスを「適度な刺激」程度にとどめる方法を知ることがコツと言えます。
イラッときたら、水をひと口
ストレスに素早く対処するにあたり、ヒントとなるのが「自律神経」です。自律神経は心臓の動きや血液循環や消化吸収など、自分の意思で動かせない身体の機能を司りますが、その反応が、ストレスの程度や自分の感じ方をつかむ指標になります。
自律神経のうち、交感神経が優位になると血管の収縮、血圧や心拍数の上昇などが起こり、緊張モードになります。対して、副交感神経が優位になると血管がゆるみ、心拍数は下がり、体はリラックスします。
この双方がバランスよく働くことが理想ですが、ストレスを受けると均衡が崩れます。
ストレスを受けた直後に見られる反応は交感神経の上昇。血管が収縮して血圧が上がるため、動悸がしたり、呼吸が浅くなったり、といった身体の変化が起こります。
そんなときは即、交感神経を鎮める対処を。水を一口飲むと、緊張をリセットできます。
「ハーッ」と深いため息をつくのも有効。息を吐き切ると、その後に吸う空気の量が上がり、自然と呼吸が深くなって副交感神経が活性化します。プレゼン直前にあがってしまったときなどに試してみましょう。
気分が落ち込んだときは、身体を動かすのが得策です。オフィスの階段を一、二階ぶん上り下りしたり、外に出て五分くらい歩き回ったりすると、血流がアップします。それにより副交感神経が高まり、冷静に事態を見る理性が回復します。
「ポジティブに考える」より身体を動かせ!
では、具体的にはどうやって思考力を鍛えればよいのか。
持続的なストレスで倦怠感や無気力感が強くなったときは、交感神経と副交感神経の両方が鈍くなっています。ここでは、交感神経を刺激するのが良い方法。身体を動かすために、あえて人と会う約束をしましょう。出かける、会話をする、といった行動によって交感神経が上がります。ただし、会うなら元気な人にしましょう。ネガティブな人が相手だと、ますます暗い気持ちになるので要注意です。
デスク周りを片づけるのもお勧めです。モノを整理整頓すると、心も整理されます。「1日20分」などと決めて毎日行なう習慣をつければ、身の回りは常時スッキリ。片づけるという作業と、それで得られる快適な環境、双方が自律神経のバランスを整えてくれます。
さて、以上の話はいずれも「身体」へのアプローチであることに気づかれたでしょうか。
「心」へのアプローチ、たとえば「ポジティブに考える」などの対処はあまりお勧めしません。人間の思考や感情は、実はコントロールが難しい領域です。性格上なかなかポジティブになれない人もいますし、そもそも自律神経が乱れてしまえば、思考も乱れてしまうものです。あれこれ考えを巡らせるより、身体を動かして自律神経を整えたほうが近道です。
「書き出す」ことで気持ちが軽くなる
その中で唯一、「考える」アプローチとして有効なのは、書き出すことです。
前述のとおり、多くの人はストレスの原因を明らかにしないまま苦痛を増大させています。次ページのワークは、このモヤモヤをひもといて、整理する作業です。心の中で真っ黒に膨らんでいた塊が、実は対処可能だったことに気付くでしょう。
ときには、対処の難しいストレスもあります。パワハラ上司や悪意に満ちた同僚など、人間関係にまつわるストレスはその典型。「他者」という自力で変えられない要素が絡むため、解決策も見つかりづらいのです。
あまりに深刻な場合は異動や転職をして「逃げる」のが一番ですが、それができないなら、ここも「書き出す」対処法を。
1日の最後に、
(1)今日、一番イヤだったこと
(2)今日一番嬉しかったこと
(3)明日の目標
の3点をそれぞれ1行でまとめる3行日記をつけましょう。
最初につらかったことを吐き出し、次に良い事を書いて気持ちを切り替え、最後に目標を書いて未来に目を向ける。シンプルですが、気持ちを整える効果は絶大です。
「5年日記」など、長いスパンでつけられる日記帳を使うとより効果が高まります。この形式の日記なら、1年前と状況が変わっている、といった気づきも得られます。どんなにつらいことも永遠には続かない、という認識によって、前向きな気持ちが芽生えてくるでしょう。
ストレス対策、やりがちなNG行動
ストレス対策によかれと思ってやっていることが、逆にストレスになっている場合もある。やってしまいがちなNG行動をご紹介。
×友達とおしゃべりしてうっぷんを晴らす
愚痴や不満で不快な気分になると交感神経が高まり、ストレスの原因になることも。
×とにかくたくさん寝る
寝ること時代は良いが、寝すぎはNG。体内リズムが狂うと自律神経にも影響あり。
×お皿を割ったり、ものに八つ当たりする
怒りは自律神経を乱し、逆にストレスがかかる。交感神経が急激に高まることも
×熱いお湯で長風呂をする
お風呂そのものは効果的だが、温度に注意。42℃以上のお風呂に長く入ると血流が悪くなる。
×買い物をする
ストレスからの買い物は脳から快感ホルモンのドーパミンが分泌され、依存傾向に陥る可能性あり。
×ネットやスマホのゲームに没頭
長時間、目を酷使することになり、疲れから自律神経の乱れにつながる。
小林弘幸(こばやし・ひろゆき)順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。92年、順天堂大学大学院医学研究科博士課程を修了後、ロンドン大学附属英国王立小児病院外科などの勤務を経て帰国。順天堂大学小児外科講師、助教授を歴任後、現職。自律神経研究の第一人者としてアスリートや芸能人のアドバイザーを務めるほか、TV出演などメディアでも活躍中。著書に、『なぜ、「これ」は健康にいいのか?』(サンマーク出版)、『一流の人をつくる整える習慣』(KADOKAWA)など多数。(『The 21 online』2018年3月号より)
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